リチウムイオン電池製造工程と工程別火災リスク

  • 火災・爆発

コラム

2026/6/17

リチウムイオン電池は高いエネルギー密度を有する一方で、製造工程においては可燃性溶剤、微粉体、可燃性ガス、通電・加熱工程が存在するため、工程ごとに特有の火災・爆発リスクを内包しています。本コラムでは、代表的なリチウムイオン電池の製造工程に沿って、それぞれの工程概要と火災リスクのポイントの一部を整理します。一般用途においても火災リスクの高いリチウムイオン電池ですが、エネルギーの高い電池ほど火災リスクは高くなるため、EV用など高エネルギーの電池は殊更に適切な管理をすることが重要となります。

➀材料混練(ミキシング)工程 火災リスク:中
【工程の説明】
材料混練工程では、正極・負極の活物質、導電材、バインダー、溶剤を計量してミキサーに投入し、均一なスラリーを作製します。正極ではNMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム)やLFP(リン酸鉄リチウム)に、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)などの有機溶剤、負極では水系溶媒が一般的に使用され、混練が行われます。
【火災リスクのポイント】
この工程では、有機溶剤の蒸気滞留や導電材のカーボンブラックなどの微粉体飛散が主な火災リスクとなります。換気が不十分な場合や静電気管理が適切に行われていない場合、放電を着火源として有機溶剤の蒸気に引火するおそれがあります。また、微粉体は工程内に飛散することも多く、電気盤内に導電性の微粉体が蓄積している場合、電気盤内のショートを引き起こすおそれがあります。
【チェックポイントの例】
・溶剤が第4類第1石油類や第2石油類の場合は混練装置や配管が接地されている
・電気盤内に導電性の微粉体の蓄積がない

➁塗工・乾燥、スリット工程 火災リスク:中
【工程の説明】
混練したスラリーを銅箔(負極)やアルミ箔(正極)に塗布し、その後、乾燥炉で加熱して溶剤を除去します。乾燥炉は複数の温度ゾーンで構成され、溶剤回収設備と組み合わせて運用されます。また、乾燥後の電極はスリット工程にて電池のサイズに切断されます。
【火災リスクのポイント】
高温環境下で溶剤蒸気が発生することが、本工程最大のリスクです。溶剤濃度検知器を設置・適切にメンテナンスすることで、爆発下限界を超えるリスクを低減することが有効です。また、乾燥炉ヒーターの過熱による火災にも注意が必要です。
【チェックポイントの例】
・乾燥炉の安全装置(溶剤濃度検知器、過昇温防止装置)のメンテナンスが適切にされている
・排気用のダクト内に溶剤が溜まっていない

➂組立工程 火災リスク:中
【工程の説明】
電極を所定形状に打ち抜き、セパレータと交互に積層してセル内部構造を形成します。円筒セルでは電極とセパレータを巻回して電極体を作製します。その後、セル容器やパウチ内部に電解液を注入し、減圧・加圧を繰り返すことで電極内部へ電解液を浸透させます。電解液は危険物を主成分としており、リチウムイオン電池が他の電池と比べ火災リスクが高いのはこの電解液が要因です。
【火災リスクのポイント】
電解液は引火性が高く、漏洩や飛散が発生した場合に周囲の配線を短絡させ引火するおそれ、静電気火花により引火するおそれがあります。また、この工程で電極内に異物が混入すると、以降の工程でセパレータを傷つけ内部短絡の原因となるため、異物管理が非常に重要な工程です。
また、組立工程では品質の確保のため厳格な露点管理がされています。電解液中のリチウム化合物は空気中の水分と反応し有害ガス(フッ化水素酸)を発生させるほか、ガスによる膨張で内部短絡火災が発生するリスクもあるため露点管理は火災リスクの観点でも重要です。
【チェックポイントの例】
・異物が発生しないよう、金属同士の接触点が無い
・電解液の漏液を適切に検知できる体制・仕組みになっている
・注液設備やタンクが適切に接地されている
・露点計の定期メンテナンスを実施している

➃充放電工程 火災リスク:大
【工程の説明】
初回の充放電を行います。多数のセルを同時に通電し、精密な電流・電圧制御が行われます。
【火災リスクのポイント】
この工程から電池内にエネルギーが蓄積された状態になるため、内部短絡による火災リスクが大幅に高まります。世界各地のニュースで確認されるリチウムイオン電池工場の出火原因は充放電工程以降の工程が多くを占めています。電池の異常が発煙や発火に繋がるケースも多く、異常セルの早期検知、速やかな消火・隔離処理が火災拡大防止の鍵となります。また、以降の工程では電池の落下やコンベアへの噛みこみによる発火リスクがあります。
【チェックポイントの例】
・工程は常時監視されている
・ラック毎に火災感知器(超高感度式、熱+煙の同時検知など)が設置されている
・発火した際の処理マニュアルが決められており、訓練などで習熟している
・輸送中の電池落下対策や、コンベアでの電池噛みこみ対策をしている

➄エージング工程 火災リスク:大
【工程の説明】
常温または高温で一定期間セルを保管・監視し、自己放電や電圧変化を確認した後、最終検査を行います。合格した製品は出荷されます。
【火災リスクのポイント】
充電状態で保管されるため、内部欠陥を有するセルが時間遅れで発熱・発火するおそれがあります。充放電工程と同様、火災検知体制、速やかな消火・隔離処理が重要となります。
【チェックポイントの例】
・ラック毎に火災感知器(煙感知器、超高感度煙感知器など)を設置している
・発火した際の処理マニュアルが決められており、訓練などで習熟している
・自動消火設備を採用している場合、適切にメンテナンスされている

➅安全性試験 火災リスク:大
【工程の説明】
安全基準に則り、新規開発した電池や、工程から抜き取った電池に対して過充電試験や釘刺し試験、落下試験などを行います。
【火災リスクのポイント】
安全性試験は発火確認のための試験も多く火災リスクと隣り合わせです。発火する前提で考え、周囲の可燃物を撤去することが重要です。また、発火した場合に備え、金属容器などの延焼防止用具を設置することも火災リスク低減策の一つです。
【チェックポイントの例】
・試験装置の周囲に可燃物がない
・試験装置付近に延焼防止用具を設置している

➆電池倉庫と廃棄電池 火災リスク:大
【火災リスクのポイント】
電池倉庫は火源こそ少ないものの、多量の電池が集積している状況ですので、一度発火した場合に非常に大きな被害になりやすい場所です。
また、廃棄電池も同様に集積しやすい点や、セパレータが損傷している場合内部短絡が起こりやすい点、電解液が漏液している場合周囲の電池を短絡させる点で火災リスクが高い状態です。放電によるエネルギー除去や、塩水での失活処理も火災リスク低減につながります。
【チェックポイントの例】
・製造建屋と倉庫を隔離している
・廃棄時には適切にエネルギーを除去している
・危険性に応じ、塩水での廃棄処理をおこなっている

おわりに

リチウムイオン電池の製造工程では、「可燃性物質」「粉塵」「高温」「異物」「衝撃」といった火災要因が工程ごとに段階的に重なっていきます。そのため、個々の工程対策だけでなく、工程間を含めた製造ライン全体としての火災リスク評価と管理が不可欠です。

東京海上ディーアール株式会社では、電池工場をはじめ様々な業種の工場に対して火災・自然災害のリスク調査をはじめとした防火防災サービスを提供しています。本コラムではリチウムイオン電池工場における火災対策の一部を紹介しましたが、実際には年間500件を超える調査実績から得られたデータを基に、防災管理の方法、ユーティリティ設備、本コラムに書ききれなかった工程内の火災対策、水害や地震などの自然災害対策など、防火・防災に関するリスク低減策を総合的にご提案させていただきます。

ご興味のあるかたは是非問い合わせ画面よりお問い合わせください。

関連サービスページ

執筆コンサルタントプロフィール

奥田 莞司
企業財産本部 主任研究員

コラムトップへ戻る