首都圏の企業における富士山噴火降灰対策計画の策定に向けて
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2026/3/30
1.富士山噴火降灰対策の難しさ
富士山が大規模噴火し、都心にも10cmほどの火山灰が降り積もる恐れが指摘されています。
国は1707年に発生した富士山宝永噴火での噴出量をもとにシミュレーションを実施するなど検討を進め、2025年に「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を策定し、東京都においても2025年に「東京都地域防災計画火山編」を修正して富士山噴火降灰対策を定めました。
2026年3月25日には国と東京都が共同で、インフラ企業も参加する「首都圏における広域降灰対策具体化協議会」の第1回を開催し、今後数年をかけて協議を進め関係各者の各種対策計画を改定する方針が示されました。
首都圏の企業においては、インフラに関わる企業を中心に、富士山噴火降灰対策を検討することが求められます。しかし、噴火現象の極めて高い不確実性と宝永噴火級の降灰によりもたらされる甚大な被害を前に検討が深まらず、降灰対策計画の策定に至らないことが懸念されます。
そこで本稿では、自社の降灰への脆弱性を踏まえ、火山灰量1 (降り積もる火山灰の厚さ)に応じて、人命安全の確保に全力を尽くす方針から、人命安全の確保を前提に事業継続にも注力する方針まで、対応パターンを段階的に設定することを提案します。
2.自社の降灰脆弱性を踏まえた対応パターンの設定
現代の大都市が宝永噴火級の降灰に見舞われた例が無いことから、自社の降灰脆弱性を評価し被害を想定することそのものも単純ではありません。過去事例から判明した断片的な事実と実験やシミュレーション結果の積み重ねをもとに、火山灰量を軸とした被害想定を作成します。火山灰量は国のシミュレーション結果を最大と見て、それより少ない場合も想定します。なお、火山灰量は風向き等により大きく変わりますので、自社周辺に火山灰量がより厚く積もると想定された地域があるならば、その値を採用することも考えられます。被害想定等の包括的な内容については、国の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」のほか、筆者作成の「富士山大規模噴火に対し首都圏企業に求められる対応~内閣府『首都圏における広域降灰対策ガイドライン』の策定を受けて」2 もご参照ください。
自社の降灰脆弱性の検討にあたっては、時間軸上の推移についても検討する必要があります。噴火後降灰開始までの対応や、従業員等が自社内で待機できる時間的限界、除灰による状況改善の見通しも降灰対応を大きく左右するためです。
火山灰量と時間の2軸で、被害の深刻さや対応方針が質的に変わるような火山灰量の閾値を設定し、対応パターンを作成します。例えば、下図のとおり、①被害甚大・避難優先パターン、②被害中程度・早期再開パターン、③被害軽微・業務継続パターンの3パターンを設定することが考えられます。
対応パターンを整理することにより、噴火現象の不確実性がある中で対応方針について一定の見通しを持つことができ、また、被害の深刻さを3段階程度に場合分けすることで、人命安全確保に全力を尽くすべき場合と事業継続対応にも注力する場合を分けて検討できます。このように全体を俯瞰することで、議論を深め、降灰対策計画の策定に至ることができるでしょう。
■ 図:閾値・対応パターン設定のイメージ

出典:筆者作成
3.都市全体の降灰耐性向上
ここまで1社の降灰対策について検討しましたが、都市機能は行政機関や企業等の相互依存関係の上に維持されています。行政機関やインフラ企業等の他組織の降灰対応の成否が、自社の降灰対応の成否に大きく影響します。
降灰対策においては、ハード対策のほか、除灰や空調フィルター交換といった降灰後の人的対応も重要ですから、他組織の降灰対応水準を外形的に評価することができません。また、大量降灰への対応実績もありませんので、他組織の対応水準を実際よりも低く評価する可能性があります。結果、他組織との相互依存関係を考慮して自組織の降灰対応水準も下げる、という連鎖が発生しかねません。
各自の人命安全確保が最重要であり、また、他組織への過度な期待は禁物ですが、しかし、可能な限り高い水準で都市機能を維持・回復するには、各組織が実態に即した降灰対応計画を策定し情報共有を進める必要があります。自組織の降灰脆弱性を踏まえた対応パターンの設定により、各組織の降灰対応水準が明らかになることで、都市全体の降灰耐性向上を目的とした議論も可能となるでしょう。
本稿が富士山噴火降灰対策計画策定の一助となれば幸いです。
1 「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」では「降灰量」と記載されていますが、その後公表された気象庁の「広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会」における検討結果に基づき、本稿では「火山灰量」と表記します。
2 佐藤太一・高田悠輝 「富士山大規模噴火に対し首都圏企業に求められる対応~内閣府『首都圏における広域降灰対策ガイドライン』の策定を受けて」『リスクマネジメント最前線』(2025年5月29日)
https://www.tokio-dr.jp/publication/report/riskmanagement/riskmanagement-402.html
執筆コンサルタントプロフィール
- 佐藤 太一
- ビジネスリスク本部 主任研究員
