太陽光発電施設の盗難リスクと防犯対策
- 再生可能エネルギー・インフラ施設
2025/11/28
銅や鉄等の金属製設備の一部が盗まれる被害が全国各地で相次いでおり、特に太陽光発電施設の被害が目立っています。本稿ではその背景から防犯対策までをまとめています。
1.銅線ケーブルの盗難被害の急増
金属盗難事件の認知件数が年々増加し1)、なかでも銅線を主とした金属ケーブルの被害が最も大きくなっています。盗難発生施設における1施設あたりの総被害額は低圧(50kW以下)の規模で百万円程度ですが、高圧(50kW~2MW未満)・特高(2MW以上)の規模では数千万円~億単位になるとも言われ、復旧期間も2~3ヶ月に及ぶなど影響は甚大なものになります。

金属盗難の認知件数の推移(公表データ1)より弊社作成)

銅価格の推移(公表データ2)より弊社作成。2025年は1~9月までの平均価格)
盗難被害急増の背景には金属価格の高騰があります。銅の価格は、現在では2020年と比較してほぼ倍以上に上昇しています2)。生成AI普及によるデータセンターでの需要増、半導体等のデジタル関連や電気自動車の需要増、再生可能エネルギーの普及拡大等が要因とされます。
太陽光発電施設が狙われる理由は、その盗みやすさです。山間部等人目につかない場所に立地していることが多いため、発見されるリスクが低く、犯罪グループにとって格好の標的となっています。被害が急増する一方で、多くの施設では防犯対策が追い付いていないのが現状です。
2.ケーブル盗難防止に向けた法規制の動向
2025年6月、特定金属くず買受業に係る措置等を内容とする「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」3)4)が成立・公布されました。本年9月1日より、以下②犯行用具規制と③盗難防止情報の周知について法律が施行され、千葉県等で制定されている金属取扱業を規制する(金属くず)条例5)と併せて、盗難防止への抑止力となることが期待されています。なお、千葉県以外の16道府県で制定されている金属くず条例の内容も概ね同様の内容となっています6) 。
◆盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(令和7年法律第75号)
①特定金属くず買受業に係る措置
・特定金属くず買受業を営む場合、業務届出義務化
・買受け時の相手方の本人確認義務、本人確認事項の記録作成・保存の義務化
・(特定金属くずの買受を行った)取引に関する記録の作成・保存の義務化
・買受した特定金属くずについて、盗品由来の疑いがある場合、警察官への申告義務化
・特定金属くず買受業を営む者に対する指示、営業停止命令、報告徴収、立入検査等
②犯行用具規制
・ケーブルカッター等のうち犯行への使用のおそれが大きい工具の正当な理由なき隠匿携帯禁止
③盗難の防止に関する情報の周知
・金属盗被害遭遇のおそれが大きい事業者への(警察等からの)盗難防止に資する情報の周知徹底
3.防犯対策
防犯対策は、発電施設の規模、立地、付帯設備の状況、警備との連携状況等を踏まえ、侵入の早期発見と設備防護対策の強化が重要と考えられます。以下に特に有効であった対策を一部紹介します。
- 敷地出入口・外周
・ フェンス強化:人の背丈以上の忍び返し付き鉄格子または有刺鉄線付き金網フェンスの設置
・ 補強対策:金網切断防止のため、切断が困難な金属等による補強の実施
・ 監視システム強化:侵入リスクの高い箇所への360°監視カメラ設置、大規模施設では完全無人化ドローンの導入検討7)
- 主要配線配管部
・ 配線配管部の対策強化:転がし配線部をモルタルやコンクリート、砂利や砕石での埋設、こじ開けが困難なケーブルラックの敷設、さらに銅線に対し位置特定デバイスの取り付け
・ 埋設配線配管部の対策強化:ハンドホール自体を砂利や砕石等で埋設、ハンドホールオープンセンサを設置し開放時に警報が発報する仕組み化、さらには引き抜き防止の対策の実施
・ 配線仕様の変更:銅線ケーブルからアルミケーブルに変更8)し、アルミ配線敷設を周知するための(多言語対応の)看板を出入口付近等に設置
- キュービクル(中間・特高変電所等)
・ 扉のこじ開け対策強化:扉の内側にマグネットセンサを設置、さらに扉前にバリカーを設置
・ 銅線配線配管の対策強化:キュービクル下部(下駄基礎付近)の鉄板敷設部について隙間がなくなるようコーキングおよびボルト自体の溶接の実施
終わりに
発電施設の規模、立地や付帯設備の状況等によって、必要な防犯対策が異なります。現地の状況を把握した上で、投資効果(費用対効果)を考慮した適切な防犯対策を講じることが重要です。弊社では、日本全国の施設を対象に盗難リスクの現地評価と最適な防犯対策のご提案をさせていただくことが可能です。実際に予想最大損害額の評価結果をもとに、弊社のレポートを予備資金積み増しの交渉等の場面でご活用いただいているケースが多くございます。
弊社サービスについて詳細をお知りになりたい方はお気軽にご連絡ください。
・出典
1) 警察庁, 令和6年の犯罪情勢
https://npa.go.jp/publications/statistics/kikakubunseki/r6_jyosei.pdf
2) World Bank Group, Commodity Markets Report, 2014-2025
https://www.worldbank.org/en/research/commodity-markets
3) 警察庁, 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(令和7年法律第75号), 2025/06/20,
金属盗対策|警察庁Webサイト https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/scrap/scrap.html
4) JPEA(太陽光発電協会), 「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」のうち「犯行用具規制、盗難防止情報の周知」の規定が本年9月1日から施行されます , 2025/09/01
https://www.jpea.gr.jp/news/23606/
5) 千葉県特定金属類取扱業の規制に関する条例
https://www.police.pref.chiba.jp/content/common/000062329.pdf
6) 一般財団法人 地方自治研究機構, 金属取扱業を規制する条例(金属くず条例)2025/07/22更新
https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/158_kinzoku.htm
7) 日経BP, ドローンが太陽光発電所を自動巡視、ケーブル窃盗犯を抑止、2025/03/20
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/04878/?ST=msb
8) 日経BP, 郡山のミドルソーラー、盗難を機にアルミ電線で復旧、2025/09/11
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00007/00160/?ST=msb&P=1
執筆コンサルタントプロフィール
- 若林 久人
- 企業財産本部 上級主任研究員
