大分市佐賀関の大規模市街地火災について
- 火災・爆発
2025/11/21
2025年11月18日から11月20日にかけて大分市佐賀関で大規模火災が発生し、住宅等約170棟が被災、約48,900m2が焼失しました。焼損棟数約170棟という被害規模は、2016年に新潟県糸魚川市で発生した大規模火災を上回り、この数十年では最大規模の市街地火災になりました。
本コラムでは、この大規模火災の被害状況と特徴について、11月20日17時時点の情報をもとに解説します。
1.被害状況
火災は2025年11月18日の17時40分頃に発生、11月20日14時からの大分市災害対策本部会議において、大分市消防局から「住家のある半島部分は鎮圧状態」と発表されました。火災原因は調査中です。ⅰ

火災による被害状況は以下の通りです。

2.火災の特徴
(1)気象・地形的特徴
大分県では、11月に入って降水量が少ない状況が続いており、大気が乾燥した状態でした。佐賀関から近い大分地方気象台の観測ⅳでは、火災が発生した18日17時頃の風速は5.8メートルでした。佐賀関付近は豊予海峡に面しており、強い北西の風が吹き、延焼が拡大した可能性が考えられます。
また、現場は南東に向かって斜面勾配が厳しくなっています。北西の風による延焼の方向と、斜面勾配の方向が合った結果、斜面を登る方向に延焼速度が上がった可能性があります。
このように、火災が発生しやすい気象条件や地形条件が重なっていたことが分かります。
さらに、今回の火災では、火の粉が約1.4km離れた離島まで飛んで延焼する極めて珍しい現象が発生しました。これは日本国内でも稀な事例として注目されています。

(2)火災の拡大要因
今回の火災がこれほどまでに広域にわたって燃え広がった要因として、地域の特性も一因として考えられます。
佐賀関は歴史ある漁港町として発展してきた経緯があり、限られた土地に木造建築物が密集して建ち並んでいます。建物間の距離が十分に確保されていないため、火災が延焼しやすい構造であったと考えられます。道幅も狭小であるため、消火活動に支障をきたした可能性があります。
佐賀関地区は人口減少が進んでおり、空き家の増加により防災上のリスクが高い地域でした。大分市の2020年度の調査ⅴによると、佐賀関の空き家は561件で市内全体の約16%を占めています。空き家による火災の危険性として最も深刻なのは、火災の早期発見が極めて困難になることです。住人がいない建物では、出火から発見まで相当の時間を要するケースが多く、気づいたときには既に手の付けられない状態まで燃え広がっていることも珍しくありません。
また、管理が行き届いていない空き家では、電気設備の劣化や不法投棄されたゴミの堆積、さらには放火の標的になりやすいという複合的なリスクを抱えています。老朽化による倒壊リスクも加わり、効果的な消火活動を阻害する要因となっているのが現実です。
3.まとめ
本コラムでは、2025年11月18日に大分市佐賀関で発生した大規模火災の被害状況と、火災の特徴についてまとめました。
今回の大規模火災は、いくつかの条件が重なって起こった天災とも考えられます。つまり、「空き家が多い木造密集市街地」、「強風」、「乾燥」、「アクセス困難」という条件が揃えば、 大規模火災が発生し得るということを示唆しています。特に、漁港町・半島部の集落など、地形的に強風が吹き抜けやすく、道路拡幅が困難な地域は、今回のケースと類似したリスクを抱えている可能性があります。
こうした大規模火災に対処するためには、まず大規模火災の発生可能性、発生した場合の被害について延焼シミュレーション等により詳細に評価して、リスクを事前に把握することが必要です。 シミュレーションの結果、大規模火災のリスクが見込まれる場合には、行政、企業、個人それぞれにおいてリスク低減の取り組み強化が望まれます。
行政の取り組みとしては、改めて防災の観点からのまちづくりの推進が求められます。耐火建築物への建替え支援、空き家・空き地の利活用(空地を計画的に配置したまちづくり)、狭あい道路の解消を中長期の都市計画・まちづくりに組み込む必要があります。 また、離島・山林への飛び火を前提としたより詳細な消防計画の策定や、消火設備と消防水利の整備も重要です。
企業や個人においても、日頃からの火災予防対策が重要です。火災を発生させない取り組みや延焼防止のために例えば下記のような対応や配慮が挙げられます。

今回の火災は、2016年に新潟県糸魚川市で発生した大規模火災と同様に、木造密集地と強風を背景に延焼が急速に拡大したもので、都市計画上の防災上の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。この教訓を風化させることなく、私たち一人ひとりができる対策から始め、災害に強い社会の構築を目指していくことが重要です。
ⅰ総務省消防庁、「大分県大分市において発生した火災による被害及び消防機関等の対応状況(第5報)」、https://www.fdma.go.jp/disaster/info/items/20251118ooitakasai5.pdf
ⅱ 大分県庁、「令和7年11月18日大分市佐賀関の大規模火災 災害情報について (第1報~第8報)」、https://www.pref.oita.jp/site/bosaiportal/1118-kasai.html
ⅲ九州電力送配電HP、https://www.kyuden.co.jp/td.html
ⅳ気象庁、「大分(大分県) 2025年11月18日 (1時間ごとの値)」、https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/hourly_s1.php?prec_no=83&block_no=47815&year=2025&month=11&day=18&view=a1
https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php?prec_no=83&block_no=47815&year=2025&month=11&day=18&view=a1
ⅴ大分市、「大分市の空き家等の現状と課題」、https://www.city.oita.oita.jp/o168/kurashi/sumaijoho/documents/2_dai2syou.pdf
ⅵ東京消防庁、「住宅防火10の心得」https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kasai/10_kokoroe/index.html
執筆コンサルタントプロフィール
- 小野 祐輝 研究員、豊田 漠 研究員
- 企業財産本部
