食品衛生法改正に伴う食品用器具・容器包装へのポジティブリスト制度の導入

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コラム

2025/6/2

2025年61日より、食品用器具・容器包装へのポジティブリスト制度の適用が開始されました。本制度は、2018年の食品衛生法改正に伴い導入され、202061日の施行から経過措置期間の5年を経て開始されたものです(※1)。

 食品衛生法の改正は15年ぶりで、国内外の情勢変化を踏まえ、①広域的な食中毒事案への対策強化、②HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化、③特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の届出の義務化、④国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備(ポジティブリスト制度の導入等)、⑤営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設、⑥食品のリコール情報の報告義務化、⑦輸入食品の安全性確保と輸出関係事務の法定化等が行われました(※2,3)
 今回の適用により、2018年の改正に伴う経過措置期間は全て終了したこととなります。

●ポジティブリスト制度とは
 使用を制限する物質をリスト化し、それ以外の物質の使用を認める「ネガティブリスト制度」に対し、使用が許可された物質をリスト化し、それ以外の物質の使用を禁止する制度を「ポジティブリスト制度」といいます。ポジティブリスト制度は、安全性が認められた物質のみを使用することになるため、ネガティブリスト制度よりも厳しい規制です。新規物質の探索や開発が盛んな分野では、化学物質の予防原則の観点から、ポジティブリスト制度を導入する動きが広まっています。

 今回の改正に伴うポジティブリスト制度の適用対象は、食品用器具・容器包装に使用される合成樹脂です。食品に関わる事業者は、ポジティブリストに掲載されていない原材料について原則使用することができません(食品衛生法第18条)。規定に違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(食品衛生法第83条)。
 容器等の製造・販売事業者には、適正製造管理規範(GMP)の遵守(食品衛生法第50条および施行規則第66条)、器具・容器包装製造事業者の届出(食品衛生法第57条)、食品に関わる事業者には、事業者間の情報伝達が求められます(食品衛生法第53条)。
 事業者間の情報伝達において、容器等の製造・販売事業者は、ポジティブリスト制度への適合を確認できる情報を提供することが義務となります。また、原材料製造事業者は、求めに応じて制度への適合を確認できる情報を提供することが努力義務となります。情報提供は、適合有無のみであり成分等の開示までは必要ありません。また、情報提供には、形式は問わないものの、事後的に確認できる手段が求められています (※4) 。

 日本では、既に人の健康に害を及ぼす可能性のある残留農薬(食品中に残留する農薬)に対してポジティブリスト制度が導入されていましたが、今回、欧米をはじめとした世界的な動きに伴い、食品用器具・容器包装に対してもポジティブリスト制度が新たに導入されました。

 国際的には、米国食品安全強化法(FSMA)の食品トレーサビリティー規則改正に代表されるように、食品に関するさらなる規制強化の動きがみられます(※5)。食品に対する規制はこうした国外の規制にあわせる形でも定期的な見直しが行われているため、今後も注意が必要です。

  

※1 消費者庁HP「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年6月1日以降)」
  https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new#Q&A
※2 厚生労働省HP「食品衛生法の改正について」
  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html
※3 厚生労働省「改正の概要」
  https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000481107.pdf
※4 厚生労働省「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について」
  https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000635338.pdf
※5 アメリカ食品医薬品局 (Food and Drug Administration) ”FSMA Final Rule on Requirements for Additional Traceability Records for Certain Foods”
  https://www.fda.gov/food/food-safety-modernization-act-fsma/fsma-final-rule-requirements-additional-traceability-records-certain-foods

執筆コンサルタントプロフィール

中川 奈菜
製品安全・環境本部 主任研究員

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