大地震発生時に起こり得る道路交通障害およびその対策
- 交通リスク
2024/12/4
2024年は1月の能登半島地震や、8月の日向灘地震等、社会・国民生活に影響を及ぼす地震が複数発生しました。特に、日向灘地震発生直後には南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表され、その予想被害範囲や対策に注目が集まりました。本稿では、道路交通の観点から、大地震発生時に起こり得る道路交通障害およびその対策について説明します。
1. 過去の大地震で発生した道路交通障害
過去の大地震では、以下のような道路交通障害が発生しました。
■ 東日本大震災
・ 交通遮断[1]
地震発生直後から、青森、八戸、秋田、日本海東北、東北中央、東北、磐越、常磐の計8自動車道で全面的に通行止めが発生しました。また、東北地方にとどまらず、首都高速、北関東自動車道、東京外環自動車道等が全面通行止めとなりました。なお、一部道路では緊急交通路として交通規制が行われました[2]。
※ 「緊急交通路」では、災害応急対策に従事する車両(緊急自動車および災害対策基本法に基づく標章を掲示している車両)以外は通行できません [3] 。
・ 燃料(ガソリン)不足[4]
地震、津波により、東北の石油供給の拠点となる仙台製油所や塩釜油槽所を始め、太平洋側の石油基地が操業停止しました。また、全国27製油所のうち東北・関東の6製油所が操業停止し、石油精製能力は震災前の約7割まで低下しました。その影響もあり、東北地方の約4割のガソリンスタンドが営業できない状態に陥りました。
・ グリッドロック[5]
グリッドロックとは、交差点で渋滞の車列に妨げられて、どの方向にも進めなくなり、その結果さらに渋滞が伸びることで連鎖的な膠着状態が生じ、周辺一帯の道路が車で埋め尽くされて全く動けなくなる現象を指しています。地震発生後、宮城県中心市街での発生が確認されました。

■ 能登半島地震
・ 交通遮断[6]
能越自動車道、北陸自動車道、国道249号、国道8号等で通行止めが発生しました。
・ 燃料(ガソリン)不足[7]
地震発生から翌々日時点で製油所の被害はないものの、油槽所1か所の出荷目途が立たない状況が一定期間発生しました。また、67か所のガソリンスタンドが営業を停止しました。
2. 将来の大地震に備えた国の道路交通規制計画
以上で述べたような道路交通障害を防ぐべく、国として以下のような交通規制計画が策定されています。
■ 首都直下地震[8]
首都直下地震では、以下2種類の規制が計画されています。
種別 |
目的 |
第一次交通規制 |
人命救助、消火活動等に従事する緊急自動車等を円滑に通すこと。 |
第二次交通規制 |
復旧復興のための災害応急対策を円滑に行うこと。 |
具体的な規制内容は以下のとおりです。
種別 |
規制内容 |
第一次交通規制 |
・環状七号線内側方向へ流入する車両の通行は禁止。 |
第二次交通規制 |
・第一次交通規制の緊急自動車専用路がこの段階で、緊急交通路となる。 |

■ 南海トラフ地震[9]
被害範囲が広域であるため、一部抜粋して記載します。その他にも地震発生後に全線を点検する必要のある緊急点検箇所等も設定されています。
・ 一般車両の排除が比較的容易な高速道路を中心に、九州から関東にかけて緊急交通路指定予定路線136路線を選定。
・ 緊急交通路指定予定路線の交差点のうち、一般車両の通行止めを行うとともに、緊急通行車両等を選別して通行させるための交通検問所を4か所選定。
3. 運転中に地震に遭遇した場合に取るべき行動
運転中に地震に遭遇した場合、以下の行動を実施し、危険を回避する必要があります[10]。
・ 道路の左側に車両を停止する
地震に遭遇した場合、周囲の状況を確認しながら、ハザードランプを点滅させるなどして周囲に注意喚起をします。ゆっくりとスピードを落とし、ゆっくりとハンドルを切り、できるだけ安全な方法で道路の左側に車両を寄せ停止させます。
・ 安全のため揺れがおさまるまで車内で待機する
慌てて車外に飛び出すと後続車や地震での落下物等に接触し、危険な場合があります。車内でラジオやテレビ等をつけて、地震情報や道路交通情報を聞いて情報収集をします。
・ 路上に駐車する場合はキーを置いて避難する
緊急通行車両や救援車両の通行の妨げになった場合に、すみやかに移動させる必要があります。ドアはロックせずにキーは車内の目立つ場所(例:スピードメーター周辺)に置いて避難しましょう。
4. 企業が取るべき対策
従業員が社用車運転中に地震に遭遇することに備え、「防災用品の備え」「従業員の教育」が重要となります。
■ 防災用品の備え[11]
以下の防災備品を社用車内に常備しておくと安心です。
種別 |
具体例 |
1~2日間の車内での一時的な避難を余儀なくされた場合の備品 |
飲料、食料、防寒具、携帯トイレ等 |
車を置いて徒歩での避難を余儀なくされた場合の備品 |
ポケットサイズのラジオ、懐中電灯、飲料(500ml×1本)、軍手等 |
■ 従業員の教育
運転時に地震が発生した際にドライバーが取るべき行動や、通行止めが計画されている道路について、あらかじめ従業員に教育する必要があります。また、緊急時に教育した内容をいつでも確認できるように、これらの事項を記載した緊急時マニュアル等を車内に常備することを推奨します。特に首都直下地震に関しては、警察庁のホームページに「首都直下地震発生時等の車両使用自粛のお願い」[12]が掲載されています(以下に一部抜粋)。首都圏を運転するドライバーを対象に、本内容についても指導しておく必要があります。
1. 都心部において渋滞が発生するおそれがあり、各種応急活動に支障を生じさせるおそれがあります。 2. このため、都心部方面への車両移動、都心部での車両使用の自粛をお願いします。 3. ただし、津波が迫っている場合などは、命を守る行動を優先してください。 |
最後に
多くの企業では、社員の勤務時間に地震が発生した場合に備え、自社施設内にて避難訓練や備蓄等の対策が取られています。しかし、大地震はいつ発生するか分かりません。社員が社用車やマイカーの運転中に大地震に遭遇することも想定し、必要な対策を講じておくことが望まれます。本稿がその対策の一助になれば幸いです。
【参考資料】
[1] 日本経済新聞「高速道の通行止め相次ぐ 東北・関東、路面陥没も」
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1102H_R10C11A3000000/
[2] 警察庁「東日本大震災に伴う交通規制」
https://www.npa.go.jp/archive/keibi/biki/traffic/koutu_kisei/koutsukisei.pdf
[3] 警視庁「大震災(震度6弱以上)が発生したら ~警視庁からのお願い~」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/saigai/shinsai_kisei/kisei/index.files/tirashi_2.pdf
[4] 資源エネルギー庁「東日本大震災における石油供給について」
https://www.bousai.go.jp/oukyu/higashinihon/5/pdf/sigen.pdf
[5] ウェザーニュース「どうにも動けない…グリッドロック現象とは」
https://weathernews.jp/s/topics/201703/090065/
[6] 国土交通省「令和6年能登半島地震における被害と対応」
https://www.mlit.go.jp/common/001751574.pdf
[7] 経済産業省「令和6年能登半島地震に伴う被害について(1月3日(水曜日)7:00時点)」
https://www.meti.go.jp/press/2023/01/20240103001/20240103001.html
[8] 警視庁「大震災(震度6弱以上)発生時における交通規制」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/saigai/shinsai_kisei/kisei/index.files/1.pdf
[9] 警察庁「南海トラフ地震発生時の交通規制計画」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/saigaiji/nannkaitorahu/kiseikeikaku.pdf
[10] 一般社団法人 日本自動車連盟 「[Q]クルマを運転中、大きな地震の発生や緊急地震速報があったらどうすべき?」
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-natural/subcategory-another/faq232
[11] 一般社団法人 日本自動車連盟「[Q]車内に用意しておきたい防災用品とは?」
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-natural/subcategory-measures/faq235
[12] 警察庁「首都直下地震発生時等の車両使用自粛のお願い」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/saigaiji/syaryoujisyuku/earthquake.html
執筆コンサルタントプロフィール
- 森山 淳司
- 運輸・モビリティ本部 主任研究員