不平等と社会課題に関する財務情報開示タスクフォース(TISFD)が正式ローンチしました

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コラム

2024/10/21

 2024年9月27日に、不平等と社会課題に関する財務情報開示タスクフォース(TISFD: Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures)が正式に設立されました(※1)。TISFDは、不平等と社会課題がもたらす「人々(people)」にとっての影響、依存関係、リスクおよび機会について、企業および金融機関が把握し、報告するための勧告および指針を策定するためのグローバル・イニシアティブです。企業と金融機関に公平で強靭な社会と経済を作るインセンティブを与えることを目的としています(※2)。世界銀行やWBCSD、UNESCO等の関係者が運営委員会の共同議長を務め、不平等やサステナビリティの専門家が事務局に名を連ねています。設立パートナーには国際機関や国際イニシアティブ、年金基金や機関投資家、事業会社など、様々なステークホルダーが参画しています(※3)。

 現時点では開示フレームワークについての情報は公表されていませんが、TCFDとTNFDがそれぞれ「気候変動」と「自然および生物多様性」に関する開示フレームワークを提供しているように、TISFDは「不平等と社会課題」に関するフレームワークを提供するものとイメージすると分かりやすいでしょう。

 TISFDは、企業と金融機関が「人」に関する依存、影響、リスクと機会に効果的に対応する経済および金融システムを通じて、より公正で強靭な社会経済が実現することを目指し、以下のような取組みを計画しています。
●短期的(1-2年)目的:開示フレームワークを通じて、企業と金融機関がリスクや機会の原因となる不平等や社会関連の課題を認識し、それらの特定・評価・報告の強化、活動を通じての金融リスクの緩和や機会の実現をしていくこと
●中期的(2-3年)目的:TISFDの開示推奨項目が国や地域の開示基準に組み込まれることで、企業と金融機関による開示内容のグローバルな調和と開示促進がなされること
●長期的(5-10年)目的:企業と金融機関が本フレームワークを採用し、開示推奨項目に沿って情報開示ができるようになること
 そして、長期的な取組みにより、
 ①    市民社会組織(civil society organizations)が情報にアクセスできる
 ②    ベンチマーク企業やESG・信用格付会社およびデータ提供会社がデータや評価の正確性や関連性を改善できる
 ③    政府や金融監督および金融システム政策を担う官庁がより効果的な政策を立案できる
 ④    最終的に企業と金融機関がリスクの低減に向けた集団的な行動ができる
 といったことを挙げています(※4)。

 TISFDが公表した取組計画によると、当面はステークホルダーや賛同メンバーに対する働きかけを通じて基礎的な知識を普及する活動を行うとしています。2025年には開示フレームワークの概念的基礎を固め、金融リスクやシステムレベルのリスク(※5)に関する多数のエビデンスを収集するとしています。その後、2025年後半には開示フレームワークのβ版の開発を始め、2026年末には開示フレームワークの初版を公表する意向を示しています。そのうえで、開示基準設定主体や国、企業、金融機関とともにTISFDの開示推奨項目に沿った開示を支援していくとしています。

 先般、ISSBにおけるサステナビリティ開示基準に関する2024-2026年の優先調査項目に、社会に関連する「人的資本」が指定されましたが、候補に挙がっていた「人権」については見送られました(※6)。検討過程においてISSBに寄せられたフィードバックでは、「人権」に関する開示情報の比較可能性に大きな欠陥が見られるケースがある、バリューチェーンにおける人権関連のリスクと機会の情報開示が不十分といった指摘があり、TISFDにおけるプロジェクトがこのような開示上の課題をクリアするのに役立つことが期待されます。

(※1)Launch Webinar for the Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures
https://www.youtube.com/watch?v=q5Ma1JHV6dc

(※2)TISFDのHP
https://www.tisfd.org/

(※3)OECD(経済協力開発機構)やUNDP(国連開発計画)といった国際機関、PRI(責任投資原則)やWBA(世界ベンチマーク連合)といった国際的イニシアティブ、CalPERS(カリフォルニア公務員退職年金基金)やマニュライフ・インベストメント・マネジメント、シュナイダーエレクトリックといった年金基金・機関投資家・企業など。

(※4)TISFD, “An overview of the proposed scope, approach, governance structure, and work plan of the Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures”
    https://cdn.prod.website-files.com/66bacef629e48ef3ce532329/66feb954910f50034d8cf103_TISFD%20People%20in%20Scope%20-%20Oct%202024.pdf

(※5)システムレベルのリスクは以下の2つから構成されます。

(ⅰ)システマティック・リスク
人と社会に依存する市場に由来する分散が効かないリスクのこと。
(ⅱ)システミック・リスク
経済や金融システムに影響を及ぼすような、社会システムにおける大きな混乱が生じるリスクのこと。金融機関や金融システム監督機関にとって特に重要なもの。

(※6)IFRS Sustainability, “Feedback Statement, Consultation on Agenda Priorities”, June 2024.
https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/project/issb-consultation-on-agenda-priorities/agenda-consultation-feedback-statement-june-2024.pdf

執筆コンサルタントプロフィール

村上 俊男
製品安全・環境本部 主任研究員

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