スマートシティが解決しようとしている交通・モビリティ分野の課題と対策について

  • 交通リスク

コラム

2024/9/30

はじめに.
 都市や地域の課題を解決する手段として、スマートシティの構築が国家プロジェクトとなり、各地で様々な取り組みが進められています。本稿では、そもそも「スマートシティとは何か」に触れつつ、特に「交通・モビリティ」分野における都市・地域の課題と、その解決に向けてどのようなサービスが展開されているかを概観します。

 

1.スマートシティの概要
(1)スマートシティとは
 スマートシティという言葉は広く使われ、各地で様々な取り組みが進められていますが、政府の施策におけるスマートシティは以下のように定義されています。

グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT 等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域

引用:内閣府HP(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/

(2)スマートシティによって解決を目指す、都市や地域の抱える諸問題とは
 政府が公表した「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」(以下、事例集という)i によれば、頻出の地域課題は、下表に示す通り、11のカテゴリーに分類されます。事例集では、さらに36の小分類に分けられています。本稿では、交通・モビリティ分野とその関連する課題について取り上げます。

出所:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」4頁を参考に弊社作成

2.交通・モビリティに関する都市・地域の課題と、課題解決のためのサービス
(1)交通・モビリティに関する課題
事例集では、以下が交通・モビリティに関する課題として挙げられています。

出所:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」を参考に弊社作成

(2)交通・モビリティに関する課題を解決するサービス
 以上の課題を解決するために、様々なサービスが事例集に挙げられていますが、整理すると、以下の3つのカテゴリーに分類することができます。それぞれどのような課題に対する対策として展開されているサービスなのか、ご紹介します。

①人々の移動を支える新たなモビリティサービス
②物流を支える新たなモビリティサービス
③より快適な移動を実現するデータ解析や情報配信

① 人々の移動を支える新たなモビリティサービス
 人々の移動においては、過疎やドライバー不足による公共交通機関の維持困難や、観光地での交通事情改善といった課題があります。これらを解決するためのサービスとして、オンデマンド交通やパーソナル・シェアリングモビリティサービスといった新たなモビリティサービスの活用が進められています。また、既存・新規のあらゆるモビリティサービスをつなげ、人々に最適な移動を提供するサービスとして、MaaSアプリの活用も進められています。

出所:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」を参考に、弊社作成
   
(サービス事例)前橋市のWebサービス「MaeMaaS」
課題 公共交通機関が都市全体をカバーしきれず、交通空白地帯が存在することで、住民が便利な生活を享受できない。
サービス内容

✓    Webサービス「MaeMaaS」を導入。市内の多様な交通モードをシームレスに案内。

✓    鉄道・路線バス・デマンドバス・シェアサイクルに対応したリアルタイム経路検索を提供。

✓    市内3エリアを運行しているデマンド交通3路線の予約を一括して可能に。

✓   「MaeMaaS」内で、対象となる市内公共交通が1日乗り放題となるデジタルフリーパスを購入可能。

✓   新型コロナウイルス対策として、地点別/時間帯別の混雑状況を確認できる機能も搭載。

 引用:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」 29

② 物流を支える新たなモビリティサービス
 物流においては、「効率化」と「高度化」が求められています。その背景には、人口減少と少子高齢化に伴って交通空白地が出現し、日用品の買物困難者が増加しているという問題があります。つまり、交通空白地の買物困難者に日用品などを届ける高度な物流が求められています。また、2024年から施行された運送ドライバーの「時間外労働時間の上限」により、ドライバー一人当たりの輸送量が減少したことから、ドライバー不足がより深刻化しています ii。つまり、ドライバーの増加に頼らずに輸送量を拡大する効率的な物流が求められています。
 このような状況に対し、自動配送ロボットやドローンを活用した無人物流サービスの開発などが進められています。

出所:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」を参考に、弊社作成
   
(サービス事例)伊那市におけるドローン配送サービスの実現
課題

人口減少や少子高齢化の進行に伴い、物流や交通機能が低下している地域が発生。特に中山間地域の高齢者を中心に、日用品の買物困難者が増加。

サービス内容

✓   利用者がケーブルテレビの画面や電話で商品を注文。配送元となるスーパーでは、連絡を受け次第、商品をピッキング。

✓   サービス担当者がスーパーへ赴き、商品を引き取り。

✓   サービス担当者が、道の駅のドローンポートに到着。搬入作業を行い、ドローンによる商品の配送を開始。

✓   着陸地点に到着次第、各地区のボランティアがドローンから商品を受け取り、利用者宅へ配達。

 引用:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」 38

③ より快適な移動を実現するデータ解析や情報配信
 より快適な移動を実現するためには、市街地の混雑状況や駐車場の空き状況などを把握することが重要です。特に車椅子やグリーンスローモビリティを利用する人々にとって、混雑状況の情報は特に重要です。また、災害などの有事の際には、被災地へのスムーズな救助活動、物資輸送を実現するためにも、周辺道路の通行可否や混雑状況をリアルタイムで把握する必要があります。このような情報ニーズを満たすために、ビッグデータ解析やIoTといったテクノロジーを活用した情報発信サービスがあります。

出所:「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」を参考に、弊社作成
   
(サービス事例)商業施設「SMARK伊勢崎」におけるAIカメラを活用した駐車場満空把握
課題 渋滞が施設外にも発生し、利用者の不満や周辺住民からの苦情が入っている。
サービス概要

✓   エッジAIカメラを設置、画像を取得・解析し、駐車場の満空状況を常時、自動でデータ化。

✓    設定したエリアごとの駐車台数、混雑率を計測し、満空判定。

✓   案内板・満空表示灯やWebサイトへ表示し、来場者のスムーズな駐車や混雑分散化を実現。

 出所:一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアムHPを参考に、弊社作成 iii

 


3.まとめ
 都市や地域の課題を解決する手段として進められているスマートシティについて、本稿では特に「交通・モビリティ」に焦点を当て、具体的にどのような課題があり、その解決手段としてどのようなサービスが展開されているのかを概観しました。すでにサービスとして本格展開されているものもあれば、まだ実証段階というサービスも少なくありません。今後の技術発展とともに、より多くのサービスが本格展開され、人々がより暮らしやすい社会となっていくことを期待したいと思います。

以上

  i 総務省 「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」 2022年4月
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000874625.pdf
  ii 株式会社クニエ 「宅配便の配送能力に関するレポート ー2030年までのトラック不足に関する試算と代替手段の予測ー」 7頁 2022年11月
  iii 一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアムHP 満空把握ソリューション「デジパーク(Digi Park)」
 https://www.sc-consortium.org/catalog/service-list/239/

執筆コンサルタントプロフィール

川上 啓一
運輸・モビリティ本部 ユニットリーダー・主席研究員

コンサルタントの詳細

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