令和6年版交通安全白書(特集:高齢者の交通事故防止)が公表されました
- 交通リスク
2024/8/5
令和6年版の交通安全白書※1が公表されました。今般の白書では、高齢者の交通死亡事故増加を背景に、「高齢者の交通事故防止」が特集に組まれており、高齢歩行者と高齢運転者が関係する交通死亡事故等の状況及びその特徴の分析のほか、高齢者に係る交通事故防止策として、国・地方公共団体・関係機関等が取り組んでいる状況等が紹介されています。
同白書によると、交通事故死者数に占める65歳以上の割合は、54.7%と半数を超え、高い水準で推移しています(図1)。また、その状態別死者数をみると「歩行中」が最も多く、次いで「自動車乗車中」が多い状況となっています(図2)。


1 高齢歩行者の交通死亡事故
高齢歩行者の交通死亡事故は、「横断中」に占める割合が高く、年齢層が高くなるにつれ増加する傾向があります。また、「横断中」のうち「横断歩道以外横断中」に占める割合についても、年齢層が高くなるにつれ増加しています(図3)。特に、夜間、左から進行する車両に衝突するケース(図4)の死亡事故が多いということです。


理由として、次の可能性が考えられます。
・ 道路を横断する際に、左右から進行してくる車両に対する安全確認が十分に行えていない。
・ 安全に横断できると判断して横断を始めても、身体機能の変化等により、横断し終わる前に進行してくる車両に衝突してしまう。
・ 周辺に横断歩道が設置されていても、当該横断歩道まで歩くことの負担が大きく、横断歩道が設置されていない道路を横断している。
・ 夜間、高齢者は、進行してくる車両をはっきり確認できないことが多く、当該車両との距離を適切に判断できていない。
2 高齢運転者による交通死亡事故
65歳以上の運転者による死亡事故については、年齢層が高くなるにつれ「車両単独」による割合が高くなる傾向があります(図5)。具体的には、「工作物衝突(走行中に車線を逸脱し電柱や家屋等に衝突)」及び「路外逸脱(車線を逸脱し崖下に転落など)」の割合が高いです。
また、「車両相互」による「出会い頭」、「正面衝突」による死亡事故の割合も高く、この傾向は、75~79歳、80~84歳及び85歳以上の運転者において顕著です。
加齢による身体機能・認知機能の低下が運転行動に影響を及ぼし、以上のような死亡事故の割合を高くしている可能性が考えられます。

人的要因では、65歳未満に比べ、65歳以上の運転者による死亡事故は、年齢層が高くなるにつれ「操作不適」の割合が高くなっています。また、「操作不適」の内訳では「ハンドル操作不適」及び「ブレーキとアクセルの踏み間違い」による死亡事故の割合が高くなっています(図6)。特に、「ブレーキとアクセルの踏み間違い」による死亡事故については、80~84歳及び85歳以上の運転者による死亡事故件数の割合は、65歳未満の場合と比較して約18~20倍に上ります。運転操作自体の要因による死亡事故の割合が高くなっている可能性が考えられます。

3 高齢者に係る交通事故防止の取り組み
本コラムで述べている、高齢者の歩行中及び自動車乗車中の事故防止対策として、次のような取り組みが行われています。
・ 最高速度30キロの区域規制「ゾーン30」として、警察による交通規制、道路管理者による物理的デバイス(ボラード・ハンプ等)の設置等、警察と道路管理者が連携した安全な通行空間の整備
・ 衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い急発進抑制装置等を備えた先進安全技術搭載車両(ASV)の普及促進
・ 薄暮時から夜間における交通事故防止策として、前照灯の早めの点灯、ハイビーム(対向車・先行車がいない場合)の使用の促進
・ 運転免許証の自主返納制度等の周知及び自主返納しやすい環境の整備
高齢者が関係する交通死亡事故の状況や特徴、交通事故防止対策の取り組みについて、特に、歩行中及び自動車乗車中の事故に焦点を当てて紹介しました。白書でも述べられているとおり、高齢化が今後一層進むことを考えれば、高齢者の交通事故防止は喫緊の課題であるといえます。
高齢者が関係する交通事故防止のため、対策の強化や教育の充実、先進安全技術の開発や普及、交通環境の整備、自ら運転せずに安心して移動できる手段の確保等、将来に向けた取り組みが進展することを期待したいです。
※1 令和6年版交通安全白書PDF版(内閣府 2024年6月)
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r06kou_haku/index_zenbun_pdf.html
※2 令和5年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況 令和6年度交通安全施策に関する計画(令和6年版交通安全白書)<概要>より弊社作成
割合は小数点以下第2 位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100とならない。
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r06kou_haku/pdf/gaiyo.pdf
※3 令和5年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況 令和6年度交通安全施策に関する計画(令和6年版交通安全白書)<概要>
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r06kou_haku/pdf/gaiyo.pdf
割合は小数点以下第2 位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100とならない。
執筆コンサルタントプロフィール
- 塩入 英明
- 運輸・モビリティ本部 第一ユニット エキスパートリスクコンサルタント