雇用の流動化とリスクマネジメント教育の重要性

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コラム

2024/7/1

転職や中途採用が近年増えており、「雇用が流動化している」と指摘されます。本コラムではこうした雇用流動化の状況下で求められるスキルについて解説します。

近年日本国内では、転職や中途採用が増え、「雇用が流動化している」と指摘されています。総務省の統計「労働力調査年報」1によると、転職希望者数が2023年には初めて1,000万人を超えて年々増加、雇用者全体に占める転職希望者の割合も18%と増加しています。実際に転職情報・仲介サイトの広告を目にする機会も増えたと多くの人が感じており、徐々に「転職」に対する考え方も変化しています。

元々、米国・欧州の先進国と比較すると、日本は雇用の流動性が相対的に低く、これが低い労働生産性の原因ではないかとたびたび指摘されてきました2。しかしながら転職が増加することで、転職に対する意識は確実に変化しています。ある国際意識調査(2023年3~4月調査)3によると、米国・英国等、日本以外の国では転職理由に「自分のプラスになる可能性」を挙げる人が最も多い一方、日本では「職場に不満や嫌なことがある」を挙げる人が最多でした。一方、国内の調査(2023年12月調査)4では日本でも「転職は前向きな行動」と考える人は6割を超えており、「転職は簡単」「転職は必要」と考える人の割合が年々増加していることが示されています。


労働政策研究・研修機構の報告書5によると、ミドルエイジ層6の転職においては、職業上の資格・免許の保有が、賃金上昇や役職レベルの向上と結びつくこと、過去3年間でスキルや能力向上の取り組みを行うことが、転職者の評価と結びつくこと等がわかります。これが示しているのは、雇用が流動化するほど、被雇用者は、スキル開発(リスキリング7を含む)に取り組むことで、賃金や役職レベルの向上を実現する機会が増えるということです。同時に、実際に転職を行わなくても、市場価値のあるスキル・経験を保有する被雇用者は、昇給や昇進の実現可能性が高まることも意味しています。

では、被雇用者の立場でどのようなスキルを身に着けるのが有用なのでしょうか?一般的には「ポータブルスキル」(リーダーシップ、戦略的思考、プロジェクト管理等のあらゆる業種・職種で汎用的に求められるスキル)や、価値の高い資格(業種・職種によるが例えばMBA、公認会計士、中小企業診断士、ファイナンシャルプランナー、応用情報技術者、社会福祉士等)を取得すべきと言われていますが、筆者が個人的にお勧めしたいのは、リスクマネジメント、危機管理、事業継続計画、サイバーセキュリティ等のリスク対策に関するスキルです。

たとえばリスクマネジメントは、企業のガバナンス改革の流れで、ますます企業において重要視されていますが、企業によって取組実態に大きなばらつきがあり、企業ごとに知見・ノウハウが偏在しています。危機管理、事業継続計画(BCP)、サイバーセキュリティ等も同様です。これらについて、企業内部で、弊社のようなコンサルティング会社等の支援を受けながら、実際に体制構築・高度化や訓練企画、改善に携わった経験を持つ人材は大変貴重であり、今後は転職市場において高く評価される可能性があります。

もし、読者の皆様がこうしたリスク対策を担当されているのであれば、ぜひ、ご自身の担当業務の中で知識・知見の拡充にお取り組みいただくことを強くお勧めします。さらにはリスク対策について独学で知識を拡充し、体系的なスキルとしていくことも大変有用です。もちろん弊社も、各社におけるリスクマネジメントやリスク対策の取り組みの高度化のみならず、各従業員様の知識・知見の拡充を、これまで以上に積極的にご支援させていただく点を、改めて強調いたします。

 

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1  総務省統計局「労働力調査年報」令和5年(2023年)「年齢階級別転職等希望者数及び転職等非希望者数」(2024年3月29日)https://www.stat.go.jp/data/roudou/report/index.htm
2  例えば、山本勲,黒田祥子 (2016) 「雇用の流動性は企業業績を高めるのか:企業パネルデータを用いた検証」,RIETIディスカッションペーパー(独立行政法人経済産業研究所),16-J-062
3  Indeed Japan 株式会社「「転職」に関する5ヵ国比較調査」(2023年6月27日)(2024年6月24日取得,https://jp.indeed.com/press/releases/20230627
4  株式会社マイナビ「転職動向調査2024年版(2023年実績)」(2024年3月12日)(2024年6月24日取得,https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240312_71344/
5  独立行政法人労働政策研究・研修機構「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成」(2022年3月31日)(2024年6月24日取得,https://www.jil.go.jp/institute/reports/2022/0215.html
6  同調査では「ミドルエイジ層」を35~54歳と設定し、若年層・シニア層に比較して転職が活発に行われないとされてきた同年齢層で転職が増加していることを示している。
7  リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」とされている。(内閣府「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて-」令和4年2月)

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執筆コンサルタントプロフィール

深津 嘉成
ビジネスリスク本部 上級主席研究員

コンサルタントの詳細

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