リスクコミュニケーションとは?- いろいろな定義を概観 -

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コラム

2024/6/28

2024年6月、国土交通省が、「平時からあらゆる関係者が自らの水災害リスク情報を理解し、リスクを減少・分散・回避するための行動を促すための取組」として「水災害リスクコミュニケーションポータルサイト」の運用を開始しました*1。このように、昨今リスクコミュニケーションという言葉が使われることが増えています。
このリスクコミュニケーションとは何でしょうか。

リスクコミュニケーションはそもそも、アメリカで化学工場の新設において地元自治体や住民などとの合意を取り付ける過程で発展してきた*2と言及されています。
しかし、インターネット上に公開される情報では、各官公庁や各機関で使用される「リスクコミュニケーション」という言葉の定義には少しずつ違いがあるように見られます。本コラムでは、リスクコミュニケーションが使われるケースを概観しながら、それぞれの共通項について考えてみます。

 目次
 各機関におけるリスクコミュニケーションの定義
  ① 文部科学省
  ② 経済産業省
  ③ 環境省
  ④ 厚生労働省
  ⑤ 一般社団法人リスクコミュニケーション協会(RCIJ)
 まとめ

    

各機関におけるリスクコミュニケーションの定義

①    文部科学省*3
文部科学省は「安全・安心科学技術及び社会連携委員会」においてリスクコミュニケーションを「リスクのより適切なマネジメントのために、社会の各層が対話・共考・協働を通じて、多様な情報及び見方の共有を図る活動」と定義しています。
情報の交換に留まらず、共に考え、共に行動することについて言及している点が特徴的です。


②    経済産業省*4
経済産業省では「化学物質排出把握管理促進法」の説明においてリスクコミュニケーションを使用しています。化学物質による環境リスクを管理するために、「多種多様な化学物質を扱っている事業者は、そうした化学物質の環境リスクを踏まえて適正な管理を行うことが重要です。そのためには事業者が地域の行政や住民と情報を共有し、リスクに関するコミュニケーションを行うこと」としてリスクコミュニケーションを定義しています。


③    環境省*5
環境省では「平成12年度リスクコミュニケーション事例等調査報告書」の中で、米国国家調査諮問機関による報告書(1989年)の定義を引用しています。その報告書によれば、リスクコミュニケーションとは、「個人、集団、組織間でのリスクに関する情報および意見の相互交換プロセスである。(リスクに関する情報および意見には)リスクの特性に関するメッセージおよびリスクマネジメントのための法規制に対する反応やリスクメッセージに対する反応などリスクに関連する他のメッセージも含む」と定義しています。


④    厚生労働省*6
厚生労働省は食品の安全に関してリスクコミュニケーションを用いており、その中では「リスク分析の全過程において、リスク評価者、リスク管理者、消費者、事業者、研究者、その他の関係者の間で、情報および意見を相互に交換すること」、「リスク評価の結果およびリスク管理の決定事項の説明を含(む)」と定義しています。ステークホルダーとして「消費者」が明示されている点が特徴的です。


⑤    一般社団法人リスクコミュニケーション協会(RCIJ)*7
官公庁以外の機関としてRCIJのリスクコミュニケーションの定義を紹介します。RCIJでは、「リスクコミュニケーションという言葉の国内での統一した基準がない」としています。その上で、リスクコミュニケーションを「有事の際に、内外のステークホルダーと適切なコミュニケーションを図ること。これを迅速に進めるため、平時より準備を進めること。」と定義しています。
リスクコミュニケーションは「有事」と「平時」の双方で使用し、その中でも「平時」における行動について明示している点が特徴的です。

まとめ

以上、リスクコミュニケーションについて各官公庁や機関が公表している定義を紹介しました。その他、米国National Research Councilや日本リスク学会でもそれぞれリスクコミュニケーションを定義しています。

このように、使用する機関や目的によって定義は異なるものの、共通項は「関係者間で相互にリスクに関連する情報を交換する」という点になります。共通項を分解して、より具体的な言葉の意味を考えると、「関係者」とは、想定する目的やリスクによって異なり、多くの場合、事業者、住民、行政、研究者、消費者などが該当します。また、「相互に~情報を交換する」とは、リスクマネジメントの国際規格であるISO31000:2018 *8のコミュニケーションに関する説明を引用すると、"適切に収集され、照合され、統合され、共有されること、及びフィードバックが提供され、改善がなされることを確実にする"こととなります。単に互いの持っている情報を交換するだけでなく、その後のアクションにつなげるという点が肝心です。

実効性の高いリスクマネジメントのために、今後不可欠となると思われるリスクコミュニケーションを、どのように定義するのかにあたり、本記事がご参考になれば幸いです。

なお、リスクコミュニケーションの共通項となる「関係者間で相互にリスクに関連する情報を交換する」ために、まずは関係者を洗い出し、関係者全員がリスクについて情報を双方向で交換できる仕組みが必要です。弊社では関係者のつながりを構造化し、関係者間のリスクコミュニケーションを円滑にするサービスを提供しています。詳しくは以下のサービスサイトをご覧ください。

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参考文献およびURL
*1国土交通省「水災害リスクコミュニケーションポータルサイト」閲覧日:2024年6月12日
https://www.mlit.go.jp/river/risk_communication/index.html

*2 東京海上ディーアール株式会社「これだけは知っておきたい リスクマネジメントと危機管理ガイドブック」

*3文部科学省「リスクコミュニケーションの推進方策」閲覧日:2024年6月12日
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/064/houkoku/1347292.htm

*4経済産業省「リスクコミュニケーションってなに?」閲覧日:2024年6月12日
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/risk-com/r_what.html

*5環境省「平成12年度リスクコミュニケーション事例等調査報告書」2001年3月 閲覧日:2024年6月12日
https://www.env.go.jp/chemi/communication/h12jirei/index.html

*6厚生労働省「リスクコミュニケーションとは」閲覧日:2024年6月12日
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01_00001.html

*7一般社団法人リスクコミュニケーション協会「リスクコミュニケーションとは」閲覧日:2024年6月12日
https://www.rcij.org/magzine/%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%81%AF"

*8 ISO31000:2018/JISQ31000:2019

執筆コンサルタントプロフィール

松本 虎衛門
企業財産本部 データビジネス創発ユニット

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