フィットネスジムは建築基準法上どの用途に該当するか
- 不動産リスク
2024/5/28
建物に求められる機能が年々多様化していることを背景に、建築基準法上の用途の取り扱いも年々複雑化しています。
ここでは、数多くのテナントの中でも、用途の判断が難しいフィットネスジムについて取り上げます。
1. フィットネスジムの施設形態について
フィットネスジムといっても、施設の規模や設置されている設備は多岐にわたります。まずは施設の規模・利用者の特性・営業時間によって下記のように分類します。規模が大きくなるにつれ、集客性やレジャー的な要素が加わってきます。
① 「施設の規模による分類」
小規模…マシンやトレーニング機器を設置、その他トイレやシャワールームが設けられたもの(50㎡~400㎡程度)
中規模…トレーニング機器だけではなく、スタジオ等の集客性のある施設を有するもの(400㎡~2000㎡程度)
大規模…トレーニング機器、スタジオだけではなく、プールやボルダリングおよび大規模浴場等を兼ねるもの(2000㎡程度以上)
② 「利用者の特性による分類」
会員制か、近隣住民を対象とするものか、または不特定多数を対象とするスポーツジムか
③ 「営業時間による分類」
24時間営業の施設か、または休館日があり、夜間帯は営業をしていない施設か
施設形態、規模、利用実態は、ここで挙げた以外にも多岐にわたります。次にこれらの要素を踏まえつつ、建築基準法上の用途を整理します。
2. 建築基準法上の用途について
フィットネスジムは、以下2つのどちらかで用途判断がされますが、それぞれに特徴があります。
① 「スポーツの練習場」
・運動技能の習得や、肉体鍛錬の要素も含む身体運動の練習を行う施設であり、多数の人の使用に供する建築物※
・例としてボーリング場、テニス練習場、サッカー練習場、等が挙げられる
<スポーツの練習場と判断する場合の特徴>
→建築基準法別表第1(い)(3)項に記載された、特殊建築物に該当する
→スポーツの練習場に該当する場合、建築基準法施行令第126条の2第1項第2号に規定する「学校等」の取り扱いにより、排煙設備・非常用照明の設置、内装制限の一部が緩和される※
② 「学習塾、華道教室、囲碁教室その他これらに類する施設」
・建築基準法施行令第130条の5の2に記載された、近隣住民のための社会教育的な教室、文化施設である※
・住居系用途地域に建築できるため、住宅地の平穏を害する恐れのないものに限る
・例として料理教室、カルチャーセンター、バレエ教室、ヨガ教室、等が挙げられる
<学習塾等と判断する場合の特徴>
→建築基準法別表第1に記載されていない用途のため、非特殊建築物に該当する
→規模によるが、住居系用途地域内に建築することが可能。兼用住宅であれば第1種低層住居専用地域内にも建築できる(詳細は建築基準法別表第2を参照)
スポーツの練習場か学習塾等か、この2つの用途のどちらかで判断を行いますが、上記1で整理したように施設形態は多岐にわたります。規模面積、スタジオ等の施設が設置されているか、対象とする利用者は近隣住民のみか等、まずは施設形態の整理が必要です。
一般的な判断としては、以下となります。
・フィットネスクラブは、「スポーツの練習場」に該当。ただし、200㎡程度以下で近隣住民のみを対象とするフィットネスジムは、「学習塾等」
・スタジオやプール等集客性・レジャー性のある施設を有するフィットネスジムの場合は、「スポーツの練習場」
・24時間営業のフィットネスジムは、「スポーツの練習場」
基本的にはスポーツの練習場と取り扱い、小規模かつ近隣住民のみの利用の場合は、学習塾等と扱うことも可能です。ただし用途変更の申請手続きが不要、住居系用途地域に建築可能であることから、学習塾等と扱う場合は行政との慎重な確認が必要です。
3. 用途によって建築基準法の適合性はどう変わるのか
フィットネスジムの用途について整理しましたが、どちらの用途で判断するかによって建築基準法の適合性は大きく異なります。
以下は学習塾等ではなくスポーツの練習場と扱われる形態のフィットネスジムを設けたことにより、建築基準法で違反となった事例です。
事例①
床面積の200㎡以上をスポーツの練習場と判断されるフィットネスジムに用途変更したが、確認申請手続きを行っていなかった。
事例②
事務所ビルの1フロア(3階以上)をスポーツの練習場に用途変更したため、耐火建築物とする必要があるが、耐火建築物の基準を満たさない建築物であった。
事例③
テナントビルの一角をスポーツの練習場と扱われるフィットネスとしたが、異種用途区画の検討がされておらず、防火区画が不適合であった。
事例④
スポーツの練習場をテナントビルの一部に設けたが、第1種中高層住居専用地域の用途地域内のため、建築基準法第48条による用途地域の違反の恐れがあった。
4. 最後に
用途の判断は、建築基準法上の適合性を判断するうえで大きな要素を占めます。用途の判断が変わるだけで、適合から不適合に変わる可能性が十分あります。
東京海上ディーアールでは、エンジニアリングレポートの作成だけではなく、用途変更の遵法性の調査業務等も対応することができます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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参考文献
※ 日本建築行政会議、「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例 2022年度版」
執筆コンサルタントプロフィール
- 代谷 直也
- 不動産リスクソリューション第三ユニット 主任研究員