大阪市北区ビル火災の教訓

  • 不動産リスク

2024/3/26

1.    概要
 2021年12月17日に大阪市北区のビルで発生した放火事件では、唯一の避難経路の階段付近で出火し、逃げ遅れた26人が一酸化炭素中毒のため亡くなりました。このビルは6階以上に居室を有するため、現行建築基準法では、二つ以上の直通階段が必要となりますが、この規定ができた1974年より前に建てられた建物のため、規制対象とならない「既存不適格」の状態でした。


2.    緊急点検

 大阪市北区ビル火災を受けて、避難階段が一つしかない既存不適格ビルに対して、緊急立入検査(1)が実施され、消防庁の調査では、13.3%のビルで避難障害、5.0%で防火戸の閉鎖障害が報告され、国交省建設部局の調査では、竪穴区画の不備が19.7%、直通階段の不備が18.5%確認されました。

※1 避難施設の不備:階段等にダンボールやロッカー等が置かれている状況
※2 防火戸の不備:防火戸閉鎖障害となるダンボールやロッカー等が置かれている状況
① 建築基準法令違反:竪穴区画では、防火区画となる壁や防火戸がない状況、直通階段では、用途変更に伴い新たに要求される二つ以上の直通階段を設置していない状況
② 不十分な維持管理:避難障害となるダンボールやロッカー等が置かれている状況等


3.    是正強化
 直通階段が一つの建物において、二方向避難や一時退避区画の設置等の火災安全改修の指針(2)が国交省により示され、その一時退避区画を活用した避難方法等のガイドライン(3)が消防庁により策定されています。また、国は直通階段が一つの建物等を対象に、防火避難の安全性を高める改修を支援する事業を創設しました。


4.    点検対象拡大
 建築基準法改正(2024年4月施行)により、防火設備の点検対象の拡大が可能となり、大阪府では、全国に先駆けて2025年度より現在の対象ビル約40棟から約2,100棟に拡大する見込みとなっています。


5.    日頃の維持管理・準備
 直通階段が一つしかない建物において、唯一の避難経路である階段部分で火災が発生した場合、避難が困難となる可能性が高くなります。日頃より、階段内、出入口付近に避難障害となる物品を置かないように管理することが基本となります。また、消防庁作成のリーフレット(4)には、直通階段が一つしかない建物で、階段内に煙が充満して使えない場合の避難方法等が示されています。このリーフレットでは、避難方法に加え、日頃の管理、点検、初期消火、通報等のポイントが、分かりやすくまとめられています。平時より理解を深めておき、いざという時に適切な避難行動がとれるよう準備しておくことが望まれます。

 なお、事業者に求められる放火対策については本コラムと併せて以下のレポートもぜひご参照ください。
 リスクマネジメント最前線「事業者に求められる放火対策」

 


(1) 総務省消防庁・国土交通省住宅局、「大阪市北区ビル火災を受けた緊急立入検査の結果について」(2022年3月28日)
(2) 国土交通省住宅局、「直通階段が一つの建築物等向けの火災安全改修ガイドライン」(2022年12月16日)
(3) 総務省消防庁予防課、「直通階段が一つの建築物向けの避難行動に関するガイドライン」(2022年12月16日)
(4) 総務省消防庁・国土交通省、「階段が一つの建築物における火災発生時の適切な避難のために」(2022年12月16日)

 

執筆コンサルタントプロフィール

飯井 幸弘
不動産リスクソリューション本部 ユニットリーダー

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