取扱説明書の電子化に伴うPLリスクと対応

  • 製品・サービス

2023/11/1

 昨今、製品の取扱説明書をウェブサイト等で電子的に提供する例が増えています。本稿では、取扱説明書の電子化に伴うPLリスクとその対応について記載します。

1.取扱説明書の電子化(※)の動き
 昨今、紙資源使用量の削減等の理由から、製造業者等が、製品の取扱説明書をウェブサイト等で電子的に提供する例が増えています。規制面でも、2021年8月から、医薬品や医療機器の添付文書は電子的な方法で閲覧することが基本となったほか、本年6月に発行されたEU機械規則(2023/1230/EU)でも、取扱説明書をデジタル形式で提供してもよい旨の規定が新たに追加されました。
※デジタル化、ペーパーレス化、Web化などさまざまな呼び方がされますが、本稿では「電子化」で統一します。

2.取扱説明書の電子化に伴うPLリスク
 取扱説明書の電子化には製造業者・ユーザー双方にとってメリットもありますが、取扱説明書を電子版のみで提供して紙の取扱説明書の添付を廃止する場合、PLリスク(製品の使用等に伴う事故の損害について製造業者が賠償責任を負うリスク)が増大するおそれがあります。
 例えば、取扱説明書の冒頭には、通常「使用前に取扱説明書をよく読むこと」と記載されますが、紙の取扱説明書の同梱廃止の結果、製品開封時などに当該メッセージがユーザーの目に入らず、取扱説明書が使用前に読まれない可能性が高まるおそれがあります。また、取扱説明書は、事故防止のためにも、必要なときにすぐ参照できることが必要ですが、電子化の結果、閲覧する端末がないといった理由により必要時に参照されず、安全上の注意事項が守られずに、事故の発生可能性を増大させるおそれがあります。
 さらに、PL訴訟において原告から、「製造業者は事故を防止するために必要な使用上の注意等の情報を提供する努力を怠った」との主張を受ける可能性があります。

3.企業に求められる対応
 製造業者としては、PLリスクの観点から取扱説明書の電子化および紙の同梱廃止が、①実質的に事故の発生可能性を増大させることはないか、②PL訴訟が提起された場合に防御可能(なドキュメント・エビデンスがある)か、という点を個別に検討する必要があります。
 まず前提として、取扱説明書を紙媒体で提供するか電子媒体で提供するかにかかわらず、安全上特に重要な注意事項は、警告ラベル等の形式で、可能な限り製品本体に表示・貼付することが必要です。
 その上で、PLリスク低減のため、例えば以下などの対策を講じることが考えられます。

  • 製品販売時に、紙媒体の取扱説明書が必要かどうかを確認し、要求があれば製品に添付する
  • 取扱説明書を電子化した後も、電子版の取扱説明書(含む安全上の注意事項)をユーザーが使用前に読む必要がある旨を記載した文書や、安全上の注意事項のみをまとめた文書を紙媒体で添付する。特に、取扱いを誤ると死亡や重傷に至るおそれのある製品で、一般消費者(専門的な知識や資格のない者)が使用する可能性のある製品については、安全上の注意事項を必ず紙媒体で提供する
  • ユーザーが取扱説明書を必要なときにすぐ参照できるよう、電子版の取扱説明書にアクセスするための二次元コードを製品に表示するなどして、端末があればすぐに確認できるようにする

 取扱説明書の電子化は今後ますます進んでいくと考えられますが、製造業者としては、取扱説明書の電子化、紙の取扱説明書の同梱廃止によってPLリスクが増大することがないかを慎重に検討し、必要な対策を講じることが求められます。

執筆コンサルタントプロフィール

栁瀨 慶朗
製品安全・環境本部 マネージャー・主席研究員

コンサルタントの詳細

コンサルタント紹介を見る

メールマガジンを申し込む

コラムトップへ戻る