SBTiからMONITORING REPORT 2022が公表されました

  • 環境

2023/9/25

 2023年8月17日、SBTi(Science Based Targets Initiative)から2022年12月末時点までの認定企業数や各企業の目標進捗状況をまとめた、「SBTi MONITORING REPORT 2022」(※1)が公表されました。

 SBT(Science Based Targets)は、企業がパリ協定の目標に沿った排出量削減を行うための、「科学に基づいた温室効果ガス削減目標」のことです。企業はSBTiに目標を設定することを宣言し(コミットメント)、SBTi から認定をもらうことで、自社の排出量削減目標がパリ協定の求める水準であることを社外にアピールすることができます。昨今、自社やサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減に向けた動きが加速しており、認定取得による社外からのレピュテーション向上、サプライチェーン全体での排出量削減を目指す取引先からの認定要請等の理由から、SBT認定に取り組む企業が増加しています。

 本コラムでは、今回公表された“SBTi MONITORING REPORT 2022”の概要に加え、日本企業の認定状況、今後のSBTの動きについて、テーマごとに解説します。

【SBT認定企業数】
 2022年12月末時点で、科学的根拠に基づく目標を設定し、認定を受けた企業およびコミットメントをした企業の数は、世界で4,230社(そのうち認定企業数は2,079社)に達し、2022年1年間での認定企業数は、過去7年間の累積認定企業数を上回りました(図1)。また、2022年にSBT認定を取得した日本企業は201社となり、2022年1年間の認定企業数が世界トップとなりました。2023年8月時点では、世界全体の累積認定企業数は3,397社となり、そのうち日本の認定企業は588社で、EUと英国を抜いて第2位となっています。(※2)。

【削減水準】
 SBTには、削減水準に応じて、2℃目標や2℃を十分に下回る目標(Well-Below 2℃目標)、1.5℃目標があります。現在は、年率4.2%での総量削減を求める1.5℃目標のみが認定対象(Scope3はWell-Below 2℃目標の設定も可能)となっており、2022年12月末時点で認定企業の79%が1.5℃目標となっています。

【対象範囲(Scope)】
 SBTでは、GHGプロトコルに基づき算定されるScope1、Scope 2排出量に加え、Scope3排出量が総排出量の40%以上の場合は、Scope3を算定対象範囲とした排出量削減目標の設定が必須となります。2022年12月末時点で、認定企業のうちScope3を算定対象範囲としている企業(中小企業と金融機関を除く)は96%を占めており、認定企業の大部分がScope 3を含めた目標設定を行っています。

【ネットゼロ目標】
 SBTでは、通常の目標の他に、企業の温室効果ガス排出量ネットゼロを目指すための「ネットゼロ目標」の認定を2021年10月から導入しています。2022年1年間では、世界全体の目標設定企業の12%を占める約78社がネットゼロ目標の認定を受けています。また、2023年8月末時点では、19社の日本企業がネットゼロ目標の認定を受けており、世界4位の認定数となっています(※2)。

【中小企業SBT】
 SBTでは、従業員500名未満の子会社および独立系企業の中小企業に、通常のSBTより簡易的な中小企業向けSBTの認定を行っています。中小企業SBTの認定数は、2021年7月30日時点で142社でしたが、2022年12月31日時点には845社に増加しています。さらに2023年8月末時点には、中小企業SBT認定企業は1,700社を超え、日本では約420社が認定を受けており、世界1位の認定企業数となっています(※2)。中小企業SBTは、主に大企業におけるサプライチェーン全体での排出量削減の取り組みにおいて、取引先に対してSBT目標の認定を要請する動きが強まっていることを受け、認定を取得する企業が急増しています。

【測定、報告、検証への高まり】
 SBT認定企業数の増加に伴い、SBTiでは各企業の目標の信頼性を維持するため、年一回、目標に対する自社の進捗状況(温室効果ガス排出量や削減策)を測定、報告することを求めています。本レポートでは、SBTiが、過去のCDP回答や、各社のHPでの開示情報等から、認定企業の排出量削減活動に関する進捗情報を開示しているかどうかの調査を行い、その調査結果を報告しています。調査結果から、2021年12月末までにSBT認定を取得した1,186社の企業(中小企業と金融機関を除く)のうち、76% の企業が何らかの方法で進捗状況を開示していたことを明らかにしています(図2)。また、SBTiでは現在、目標の審査に加え、目標の測定、報告、検証(Measurement, reporting and verification : MRV)に関するフレームワークを開発しており、より質の高い開示が求められます。

 今後、カーボンニュートラルを目指す中でSBT認定に取り組む企業や、サプライチェーン上の取引企業からSBT認定を要請されるケースがさらに増加することが見込まれます。また、既にSBT認定を取得した企業においても、今後はその目標に沿った削減策を実施し、実際に削減できているかどうかを測定、報告、検証することが求められます。認定に取り組む企業、認定をすでに取得した企業のいずれにおいても、今後のSBTiの動向を把握しながら、対応していくことが求められます。

執筆コンサルタントプロフィール

内田 礼央
製品安全・環境本部 サステナビリティユニット 研究員

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