国際財務報告基準(IFRS)におけるサステナビリティ開示基準(IFRS S1・S2)公表の影響

  • 環境

2023/9/19

 2023年6月28日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がサステナビリティ情報開示に関する基準であるIFRS S1とS2の確定基準(以下、ISSB基準)を公表しました(※1)。これにともない、2024年1月以降に始まる年次報告期間から同基準が発効します。

 ISSB基準では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言において示された4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に基づいたフレームワークに沿った形での開示要求が示されています。S1はサステナビリティ開示全般について、S2は気候関連開示に特化した内容となっています。
 S2はTCFD開示やCDP報告といった取り組みがグローバルに進んでいることもあり、TCFD提言との違いが注目されています。基本的な骨子はTCFD提言に沿ったものであるとされているものの、S2においてはTCFD提言との比較が公表され(※2)、具体的に以下の点において、従来のTCFD開示に比べ、より一層踏み込んだ開示内容が求められるものと考えられます。

◆TCFD提言と比べ、より詳細な情報開示を求める例
・TCFD提言のガバナンスの開示推奨項目a)
気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督についての説明。

・IFRS S2の該当項目の開示要求事項
ガバナンス機関または個人の気候変動リスクと機会に対する責任が、当該組織または個人に対して適用される付託内容、職務権限、役割説明、その他関連する方針にどのように反映されているか、といったより詳細な情報の開示。

◆TCFD提言に含まれていない、S2において情報開示を求められる例
・TCFD提言のリスク管理の開示推奨項目 a)
気候関連リスクを特定および評価するための組織のプロセスの説明。

・IFRS S2の該当項目の開示要求事項(追加部分)
気候関連機会についての特定、評価、優先順位付けおよびモニタリングに利用するプロセスの追加的開示。

 TCFDは2015年に金融安定理事会(FSB)により設置された民間組織で、2017年6月に最終報告書(いわゆるTCFD提言)を公表しました。2021年10月には実施ガイダンスを更新し、産業横断的な指標が提示され、同時に指標・目標・移行計画に関するガイダンスを公表、開示の充実化に向けたグローバルな取り組みが進められました。現在、世界全体では金融機関をはじめとする4,711の企業・機関、日本では1,416の企業・機関が賛同の意を示しており(2023年7月25日時点(※3))、気候関連のサステナビリティ開示の事実上のグローバル・スタンダードとなっています。ISSB基準の公表はTCFDの取り組みの集大成である("the culmination of the work of the TCFD")として、FSBはIFRS財団に対して、企業の気候関連財務情報開示の進捗をモニタリングする役割を引き継ぐことを求めました。これを受けて2023年7月10日に、IFRS財団は、その役割を2024年以降TCFDから引き継ぐことを発表しました(※4)。

 日本における基準に関しては、サステナビリティ基準委員会(SBBJ)が国内企業に適用する基準の策定を行っています。SBBJによると、公開草案を遅くとも2024年3月31日まで、確定基準を遅くとも2025年3月31日までに公表することとしており、それ以後に開始する事業年度から早期適用が可能としています。早くて2026年6月に公開される2025年度の有価証券報告書から開示が求められる見込みです(※5)。ISSB基準がそのまま適用されるとは限りませんが、グローバルな動きを踏まえると、日本独自の基準が設けられる可能性は低いと考えるべきでしょう。

 

(※1)
IFRS「ISSB issues inaugural global sustainability disclosure standards」、26 June 2023,
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2023/06/issb-issues-ifrs-s1-ifrs-s2/(2023年8月30日閲覧)

(※2)
IFRS「Comparison IFRS S2 Climate-related Disclosures with the TCFD Recommendations」, July 2023,
https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/supporting-implementation/ifrs-s2/ifrs-s2-comparison-tcfd-july2023.pdf(2023年8月30日閲覧)

(※3)
TCFDコンソーシアムHP、
https://tcfd-consortium.jp/about(2023年8月30日閲覧)

(※4)
IFRS「IFRS Foundation welcomes culmination of TCFD work and transfer of TCFD monitoring responsibilities to ISSB from 2024」、10 July 2023, 
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2023/07/foundation-welcomes-tcfd-responsibilities-from-2024/(2023年8月30日閲覧)

(※5)
SBBJ「『現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画』の改訂」、2023年8月3日、https://www.asb.or.jp/jp/project/plan-ssbj.html (2023年8月30日閲覧)

 

 

 

 

執筆コンサルタントプロフィール

村上 俊男
製品安全・環境本部 主任研究員

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