改正旅館業法によるホテル・旅館業界への影響

  • 製品・サービス

2023/9/15

 日本のホテル・旅館業界では、「宿泊が必要な者は原則として旅館・ホテルを利用できる」という旅館業の有する公共性を背景として、旅館業法において、宿泊者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき以外は宿泊を拒んではならないとされてきました。
 この宿泊拒否制限のため、過度な要求を行う悪質な顧客への対応の取りづらさが課題視されてきましたが、2023年6月5日に成立した改正旅館業法は、この状況に大きな変化をもたらす可能性があります。

 厚生労働省HP(※1)に掲載される当該法律改正の概要説明では、
「宿泊しようとする者が営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したときは、営業者は宿泊を拒むことができることとする。」
と示されています。

 すなわち、宿泊拒否を原則禁止している現行旅館業法においても、その例外として、理不尽な要求を行う、いわゆる「カスタマーハラスメント(以下、“カスハラ”)」のようなケースにおいては宿泊を断ることが認められるようになりました。

 そして、当該法改正によって、以下のような期待が寄せられます。

  1. サービス提供拒否基準の明確化: 改正法において宿泊拒否に該当する行為や判断基準が行政等からより明確に示されることで、宿泊事業者がサービス提供拒否の判断を下しやすくなります。
  2. 宿泊事業者と利用者の良好なバランスの構築: これまでの「お客様は神様」といった考え方は、時に顧客側に有利で宿泊事業者にとって不利な状況を招くこともありました。新たな法改正により、宿泊事業者側の顧客対応の負担を減らし、企業としての生産性と顧客サービスの提供のバランスを取る新たなアプローチを模索することが期待されます。
  3.  顧客意識の向上: カスハラ行為に対する宿泊拒否が、法的に容認されるという認識が世の中に浸透すれば、顧客側でも行動を見直す動きに繋がり、お互いに尊重し合うバランスの良い関係性の構築に繋がる可能性があります。

 現時点では、どのような行為が宿泊拒否の対象になりうるのかは具体的に示されていないため、これまで行政から示された判断基準や該当事例に関する情報提供を参考に、企業としてあらかじめ該当行為や判断基準を整理しておくことが望ましいと考えられます。
 すでに厚労省では、カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(※2)でカスタマーハラスメントの定義や判断基準等が示されているため、これら情報を参考に各社の状況(顧客への対応方針、顧客との関係性)を踏まえ、対応方法を定めておくと良いでしょう。

 

※1 厚生労働省HP「生活衛生関係営業等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部改正について」
mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188046_00005.html

※2 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

執筆コンサルタントプロフィール

山元 雅信
製品安全・環境本部 上級主任研究員

コンサルタントの詳細

コンサルタント紹介を見る

メールマガジンを申し込む

コラムトップへ戻る