企業に求められる化学物質管理-欧州のPFAS規制から考える―

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2023/6/1

 2023年現在、REACH規則に基づくPFAS規制案がEUにて議論されています(※1)。このまま可決された場合、PFASと呼ばれる幅広い化学物質群について、代替が難しく有用性が高いと判断される用途以外は使用が禁止となります。

 REACH規則とはEU域内で生産・流通する全ての化学物質について登録、評価、認可と規制を行う制度です(※2)。EU域内で事業を行う企業は、特定の用途を除きPFASを原則使用できず、EU域内に生産物を輸出する企業にも同様の対応が求められます。直接使用しない場合も、サプライチェーンでの混入を防ぐ管理が必要です。

 PFAS (per- and polyfluoroalkyl substances)とは人工的に合成された有機フッ素化合物の総称です。水も油もはじく、熱や薬品に強い、電気を通さないといった多様な特性から、半導体や自動車部品、消火剤や食品の容器包装など、幅広い用途で使用されてきました。
 その一方で、自然界や体内で分解されにくいため、土壌や河川などの環境中や生態系への蓄積が指摘されています。PFASのうち、PFOS(perfluoro octane sulfonic acid)、PFOA(perfluoro octanoic acid)は、毒性も指摘され (※3)、その塩類や関連物質とともに日本でも使用が原則禁止されています(※4)。

 今回のEUでのPFAS規制案は、毒性ではなく、環境や生態系への残留性を根拠とした非常に広範なグループ規制となっています。この規制は、2020年に採択された持続可能な化学物質戦略(CSS: Chemicals Strategy for Sustainability)に基づいており、EUでは、安全で持続可能な化学物質への移行を推進するため、化学物質の規制と管理を強化していく方針です(※5)。

 化学物質の規制や管理の強化は、一般的には対象物質の使用量削減や代替物質の検討、廃棄を含むサプライチェーン全体での管理負担の増加など、経営リスクの増大として捉えられがちです。
 企業にサステナビリティの考え方が求められる昨今、求められる化学物質管理は受動的なものではなく、より能動的な対応を進めていく必要性が高まっています。より安全で持続可能な代替物質の採用や開発への投資、適切な化学物質管理の状況を外部に開示する積極的な姿勢は、経営リスクではなく新たな機会になりうると考えます。

 

※1  欧州化学機関(ECHA)ホームページ参照。
https://echa.europa.eu/hot-topics/perfluoroalkyl-chemicals-pfas

※2  欧州化学機関(ECHA)ホームページ参照。
https://environment.ec.europa.eu/topics/chemicals/reach-regulation_en

※3  環境省ホームページ参照。
https://www.env.go.jp/content/900539503.pdf

※4  環境省ホームページ参照。2024年春以降、新たにPFHxS(perfluorohexane-1-sulphonicacid)及びその塩の使用が原則禁止される予定です。
https://www.env.go.jp/council/05hoken/page_00035.html

※5  欧州委員会(EC)が採択した文書参照。
https://chemical-net.env.go.jp/pdf/1_EUs_chemicals_strategy_for_sustainability.pdf

 

執筆コンサルタントプロフィール

中川 奈菜
製品安全・環境本部 主任研究員

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