工場の火災対策のためのリスクサーベイとは?

  • 火災・爆発

2023/4/5

工場における火災
 日本には約4000万戸の建物[1]があります。このうち約20万戸が工場であり全建物の0.5%を占めます。一方、下図は2021年に発生した建物火災の用途別の内訳です。工場・作業場の火災は全体の8%(1日あたり4.5件)[2]と、事務所、倉庫、飲食、販売店舗などを用途とする建物に比べ非常に火災リスクの高い建物と言えます。

 工場では、可燃物を大量に保管していたり、危険物、可燃性ガスなどを生産工程で取り扱っている場合もあるため、ひとたび火災が発生すると、規模が広がり易く、生産機能の停止、利益の逸失、お客様の信頼の失墜、従業員の負傷など、多岐に被害が出る可能性があります。火災予防対策は、工場の安定的な操業にとって土台となるものであり、多くの工場では、火災予防対策をリスクマネジメントの重要事項の一つとしています。しかし、工場の火災予防対策には、以下のような独特の難しさがあります。

1.火災は労災に比べ発生頻度が低いため、火災予防と対策のノウハウは工場内に蓄積されにくいです。さらに、工場火災の時系列情報・原因・設備情報・対策といった情報は守秘性が高い場合があります。技術流出の恐れもあり公開されにくいため、他工場の火災事例を参考にした対策も立てにくくなります。

2.平時に通常業務を行う作業員や防火担当にとって、工場現場のリスク環境は当たり前、見慣れた景色です。潜在的な火災リスクを事故前に発掘し、リスクを刈り取ることは、火災予防の意識を高くしていないとなかなかできません。

3.火災の原因は多岐にわたるため、根本原因を特定し、抜けもれのない対策を立てることは容易ではありません。

 こういった観点から、火災対策のノウハウ、見慣れた環境に対するリスクの発見、多岐にわたる火災原因の特定が工場の火災対策のネックとなっていると考えられます。
 東京海上ディーアール(以下「弊社」)では、東京海上日動火災保険と連携した保険契約者様向けのサービスの一つとして、弊社エンジニアが実際に工場を訪問、防災についてアドバイスする火災リスクサーベイを提供しています。
 弊社では、東京海上グループに蓄積された火災事故データ・災害データより、多岐にわたる火災の要素をMCOPE(防災管理/建屋・原動力/用途工程/消防火設備/類焼危険)[3]、さらに細分化された用途・製造工程別にリスクと主たる対策について整理し、各工場の火災対策のノウハウを蓄積しています。
 リスクサーベイでは、このノウハウを活用し、「第三者」の立場で火災リスクを評価、リスク低減策をご提案しています。本コラムでは、この火災リスクサーベイの概要を紹介していきます。

 

火災リスクサーベイとは?
・火災リスクがどこにあり、どう対策すればよいか。
・その工場の火災リスクはどの程度のレベルにあるのか。
・火災の最大損害額はいくらになるか。

 工場、事務所ビル、商業施設等を実際に調査し、これらを明らかにするのがリスクサーベイです。今回のコラムでは、架空の工場にて仮想リスクサーベイを実施し、どのような流れで評価・提案がされるかをごく一部ですが、簡単にご紹介します。

想定工場
 今回は以下の架空の工場を見ていきましょう。なお、事前準備として、いくつかデータを頂いています。

当日の流れ
AM:防災対策状況のヒアリング
 工場の安全部門や動力部門の方に防災上重要な要素に関連する取り組みについて、ヒアリングや書類確認をしていきます。確認項目の例としては以下のようなものです。
・防災訓練の内容や火気管理などの防災管理
・敷地のレイアウト
・工程の内容や危険物の使用状況
・電気設備や消火設備の点検状況

 ヒアリングの結果、この工場でも多くの好取組や改善点がありました。以下では、ほんの一部の確認項目例を紹介します。

◎工事業者に火災対策教育を実施し、記録を残しています。
 →周囲の可燃物に溶接火花が引火するなど、工事中の火災が多いです。安全教育は有効です。

×定期点検で避難誘導灯の故障が指摘されていますが、未対応です。
→火災時は煙で視界が悪くなり、数m先も見えなくなることがあります。昼間のみ稼働する工場でも誘導灯を頼りに避難することがあります。

PM:火災リスクの現場確認
危険物倉庫や加熱工程など火災のリスクが高い箇所を中心に敷地内を回りながら確認し、周囲の可燃物や装置点検の状況、危険物使用の状況などにより火災リスクを把握していきます。実際のサーベイでは様々な設備を確認しますが、当コラムでは、電気火災を引き起こす変電設備と油を大量に使う調理の工程を例にご紹介します。

①受変電設備
◎受電設備周囲は草が刈られ、扉に隙間はありません。
 →受電設備内の配線がショートして電気火災に至る事例は多くあります。中でも、受電設備内に入り込んだツタや、茂みに潜むヘビやネズミが回線をショートさせる事例も少なくありません。受電設備周りの草刈りは火災を防止するうえで非常に有効なのです。

②調理工程
×フライヤのダクトの定期清掃が実施されていません。
→ダクトの内側に油が堆積している可能性があります。ダクト内に長年堆積した植物油分は酸化の過程で蓄熱し自然発火する場合があります。また、万一の火災時に延焼媒体となるため、火災拡大のリスクを高めています。

PM:クロージング
 一日の最後に、工場内での気づき事項、地域の自然災害リスク等を共有します。災害対策の強化にお役立てください。

後日:報告書
 工場や施設の特性に合わせた着眼点から、調査した建物のリスクを評価し、報告書としてお送りします。

この工場の場合、他の食品加工工場71社の平均と比べ、
・パトロールなど防災管理が充実している
・消防火設備のリスクが高い
・他の項目は平均的である
工場となります。火災対策を強化する場合、消防火設備の面から強化していくのが有効と考えられ、消防火設備強化のための改善提案を併せてご案内します。また、弊社では、火災以外の自然災害(落雷、風災、雪災、水災、地震、津波)についても同様に評価とご提案が可能です。さらに、調査報告書では以上のリスク評価の結果に応じて算出される予想最大損害額についてもご案内します。この予想最大損害額は主に、事業継続計画等を策定する際の基礎資料や、火災保険プログラム構築のための指標としてご活用頂けます。

終わりに
 工場の火災予防対策には独特の難しさがありますが、弊社では、火災事故データに加えて、数千件の調査データを蓄積しています。このデータには、個別の火災事故や対策が再現性のあるフレームワークとして整理されており、工場のリスクマネジメントサイクルに落とし込むことが可能です。また、このデータを用いた「第三者」の立場での火災リスクの評価、リスク低減策は、再発防止や防災活動のPDCAサイクルにも役立つものと考えております。
 今回ご紹介したリスクサーベイを通して、工場の財産、従業員、そして安定した操業を守るべく、皆様の工場に最適の火災対策のお手伝いをさせて頂ければと思います。
 詳細は下記サービス紹介ページをご覧ください。

財物リスク評価(火災・爆発)|東京海上ディーアール株式会社 (tokio-dr.jp)

[1] 平成30年住宅・土地統計調査 総務省統計局

[2] 令和2年版 消防白書 総務省消防庁

[3] これだけは知っておきたい リスクマネジメントと危機管理ガイドブック | 書籍 | 東京海上ディーアール株式会社 (tokio-dr.jp)

執筆コンサルタントプロフィール

奥田 莞司
企業財産本部 企業財産リスクユニット 主任研究員

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