(リスクマネジメント担当部署の方へ) リスクマネジメントとエンゲージメントのいい関係 ~前向きなリスクマネジメントのために意識するといいこと~

  • 経営・マネジメント

2023/3/31

 ここのところ、「当社のリスクマネジメントが形骸化している」「過去にリスクマネジメントの文書を作ったまま現在に至っている」「各部門で個別にリスクマネジメントに取り組んでいる内容を取りまとめているだけになっている」等のご相談が増えています。

 また、「新たにリスクマネジメント担当となったがどうすればいいのか」「リスクマネジメントの取り組み自体がマンネリ化してしまっている」「各部門も色々忙しいのに、リスクマネジメントの取り組みに巻き込むのも気が引けるところがある」というお声もお聞きします。
 そのような課題に対する一つの切り口として、近年キーワードとしてあがりつつある「エンゲージメント」という観点を意識して、リスクマネジメントに取り組んでみてはいかがでしょうか。

 近年の働き方の形として、会社ベースからプロジェクトベースへという流れがあります。また、各個人の目線からすると、同じ会社で働き続けるということも減りつつあります。会社に尽くすということが個人に必ずしも響かない時代になっています。
 このような働き方の変化の流れの中で、「エンゲージメント」という言葉もよく聞くようになりました。エンゲージメント(engagement)という言葉を辞書で調べると、「婚約」「約束」「取り決め」「関与」等の意味が出てきますが、最近は、組織の取り組みについて個人としてもメリットがあり組織と個人がともに成長していくことという意味で使われるようになっています。
 そのような流れの中で、これまでと同じようなスタンスでリスクマネジメントに取り組んでも、どこかかみ合わない、空回りする場面が出てくるように思われます。その空回りが、上述のようなご相談につながっているところもあるのではないでしょうか。やはり、少し意識を変えて、取り組むことが必要です。

 エンゲージメントという切り口からリスクマネジメントの取り組みを考える際、以下のようなことをまず意識して考えることをお勧めします。

「何のためにリスクマネジメントをするのですか?」(Risk Management for what?)
 今取り組んでいる/取り組もうとしていることについて、「〇〇のためのリスクマネジメント」という場合に、○○のところをパッと言えるでしょうか?
 リスクは単体では存在しません。何らかの目的なり、目指すところがあって、それを阻害する要素としてリスクをとらえた場合、〇〇のところが必ずあるはずです。逆に言えば、〇〇抜きのリスクマネジメントはありえません。まず、〇〇のところをしっかり考え、会社と個人双方に意味を感じることができるかどうかが実効性あるリスクマネジメント、そして、各個人にとっても納得度の高いリスクマネジメント(=エンゲージメントを高めるリスクマネジメント)に繋がります。

「そのリスク、ピンと来ていますか?」
 「地震」と言われて、それが大変なことであることはすぐにわかりますが、その後、それがどのようなことに繋がるのか、各部門の皆さんもピンときているでしょうか?
上述の「〇〇のためのリスクマネジメント」の話で言えば、あと一歩踏み込んで、地震に代表されるハザードがどのように〇〇を阻害するのか明確にしてみましょう。「〇〇のために」をひっくり返して、「●●になると嫌だ」という状況がリスクと言えます。その●●という状況にしない/影響を最小限にする取り組みがリスクマネジメントととらえましょう。ハザードが各拠点やオペレーションにどのように影響するのか、阻害するのか、より身近にしていくことで、リスク自体が各個人により近いものとなり、リスクマネジメントへのエンゲージメントを高めることに繋がります。

「リスクマネジメントに取り組む同志はいますか?」
 リスクマネジメントの取り組みは皆でやるものであって、リスクマネジメントの部署はその推進役にすぎません。リスクマネジメントの一部である危機対応もその場で初対面の方と進めるのも困難なところがあります。かといって、皆さんがいきなりリスクマネジメント推進に共感してもらえる訳でもありません。
 まずは、各部門に取り組みのキーパーソンを見つけ出すこと、そしてさらにキーパーソン同士を繋げていくことで、同志を増やしていく取り組みを意識的に行っていきましょう。
 その第一歩は、普段からのコミュニケーションです。いわゆるリスクマネジメントに直結しなくても、困っていることや悩んでいることがあれば、一緒に悩み考えることです。その中で、各部門の課題を把握、時には解決していく取り組みの延長線上に、いわゆるリスクマネジメントの取り組みを位置づけると、各部門、各個人もスムーズに入りやすくなります。リードしすぎると、そっぽを向かれるおそれがありますので、一人芝居にならないよう歩調を合わせることが重要です。身近な話題から同志を見つけ、同志を繋げていくことでリスクマネジメントのエンゲージメントの輪を広げていくことになります。

「そのリスクマネジメント、前向きですか?」
 リスクマネジメントの部署の方自身が取り組みの推進を各部門に依頼することに対して申し訳なく思っていませんか?
もしそう思っているなら、まずはご自身のエンゲージメントを向上させて、前向きなリスクマネジメントにしていきましょう。
 リスクマネジメントの取り組みは様々なところに応用可能ですし、今後さらに増えると思われるプロジェクトベースの仕事でのマネジメント上不可欠と言えます。会社としての業務を通じて、個人のスキルアップにも繋がります。上述の同志についても同様です。
 また、リスクというとどうしても「対策していないと●●になる」いうような脅し文句のようになる向きがありますが、上述のように「Risk Management for what?」のwhatの明るい姿を見せることで、取り組みが前向きになると思います。
 このように前向きなリスクマネジメントを意識することで、「お願いベースのリスクマネジメント」から、皆で一緒に取り組む「エンゲージメントの高いリスクマネジメント」に少しでも近づいていけると考えます。

 元々、リスクマネジメント自体が全組織に横串を刺していく取り組みなので、それにより、会社と個人の一体感を高める、エンゲージメントを高めるという観点から効果があるはずです。リスクマネジメントとエンゲージメントの相互作用を意識して、前向きなリスクマネジメントにしていきましょう。

執筆コンサルタントプロフィール

濱﨑 健一
ビジネスリスク本部 上級主任研究員

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