関東大震災から100年:巨大地震における火災対策について

  • 自然災害

2023/2/10

 1923年9月1日11時58分、大正関東地震が発生しました。マグニチュード7.9のプレート境界型の地震であり、神奈川県南部と千葉県南部を中心に広い範囲で強い揺れが観測されました。当時の震度階級は震度6までですが、被害状況から、現在の震度7相当の揺れであったとされます。死者は10万人を超え、近代化した首都圏を襲った唯一の巨大地震であり、振動だけでなく強風に伴う火災延焼による被害も甚大なものでした。

 この一連の地震災害は「関東大震災」と呼ばれ、今年2023年で100年の節目を迎えます。本コラムでは、関東大震災で大きな被害を出した巨大地震時の火災対策について考え、現代の地震火災対策として感震ブレーカーを紹介します。

関東大震災の被害
 地震は土曜日に発生しましたが、当時の日本は土曜午前勤務であり、大勢の人々が自宅へ帰る時間でした。多くの家庭では食事の準備をしていたことでしょう。内閣府の資料[1]では、地震当時の様子について、以下のように記載されています。
“はじめは緩慢な揺れが続いていたが、そのうちに段々と大きくなり、ついには立っていられないほどの激しい揺れに襲われた。首都圏とその周辺を直撃したこの巨大地震は、10万棟を超える家屋を一瞬のうちに倒潰させた。”
“台所の裸火などが火元となって多くの火災が発生し、東京や横浜では台風の余波による強風に煽られて数時間後には大規模な延焼火災に拡大した。”

 関東大震災では、地震による家屋の倒壊、土砂災害、津波などの被害が発生しましたが、死者10万人のうち、9万人は火災によるものでした。当時は木造の建物が多く、消防の体制も十分ではなかったため、火災が拡大したものと考えられます。

今と昔の地震被害
 では、現在の日本で関東大震災級の地震が起こった場合、どのような被害が想定されるでしょうか。

・1981年以降の建物は、新耐震基準により震度6~7程度の大規模地震においても倒壊しないよう定められている。
・木造の建物が少なくなっており、火災の延焼が起こりにくい。 
・裸火のリスクが小さくなっている(ガスの検針に使用するマイコンメーターには震度5以上の揺れでガスを遮断する機能あり)

といった理由から、地震・火災による被害は当時より抑えられると考えられます。しかし、当時と現在の日本では、地震時に想定される火災が大きく変わっています。

 関東大震災では調理火が主な出火原因でしたが、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災で発生した火災のうち、半分以上が電気関係による火災でした[2],[3]

 地震時の電気火災は、揺れでコードが断線し出火する事例、機器の破損による過負荷で出火する事例、白熱灯が落下し出火する事例などがあります。さらに巨大地震の場合、地震と同時に停電が発生することが多く、電気が復旧し再び電源が入ることで発生する通電火災のリスクも大きくなります。阪神・淡路大震災では285件の火災が発生しましたが、火災の半数は地震から一時間以上後に発生しました[5]。この時間帯の火災の多くは電気関連であり、通電火災が発生しているものと考えられます。現在の日本では、電気火災も視点に入れて地震対策を考える必要があります。

巨大地震時の地震火災について
 通常の地震では、電気ブレーカーを落としてからの避難や、揺れが収まってから火災の初期消火をする余裕があるかと考えられます。しかし、関東大震災のような巨大地震が発生した場合、以下の状況が想定されます。

・津波や建物の倒壊から身を守るため一刻も早い避難が必要となる
・火災が起きた場合、揺れが収まるまでに初期消火ができないほど火が大きくなる
 (初期消火は一般に3分以内とされていますが、関東大震災は5分以上揺れ続けました)
・地震で火災報知設備が故障し、火災に気づかない
・避難後無人のエリアで、通電火災や余震による火災が発生する

 本コラムでは、巨大地震時の地震火災を防ぐための対策として感震ブレーカーを紹介します。

感震ブレーカーによる地震火災対策
 ガスメーターと同様、電気についても感震遮断機能を持つ感震ブレーカーが販売されています。感震ブレーカーは、地震発生直後の火災はもとより、停電復旧後の通電火災にも有効であるため避難後の火災防止となります。
 都道府県・市区町村によっては感震ブレーカーに補助金も出ています。分電盤に内蔵されるタイプですと費用がかかりますが、安価なものだと数千円、さらに両面テープで設置可能な商品もありますので、設置を検討してみてはいかがでしょうか。

最後に
 1923年に発生した関東大震災では、地震火災により多くの命が失われました。それから100年がたった今、身の回りの地震火災対策を見直してみてはいかがでしょうか。

 

[1] 「1923 関東大震災報告書」 内閣府 2006
[2]「地震時における出火防止対策のあり方に関する調査検討報告書」消防庁 1998
[3]「東日本大震災 火災調査報告書」 日本火災学会 2016
[4] あらためて考える企業における地震火災対策 2017 No.17リスクマネジメント最前線 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社
pdf-riskmanagement-199.pdf (tokio-dr.jp)
[5]「大都市と直下の地震―阪神・淡路大震災の教訓と東京直下の地震―」 熊谷良雄・糸魚川栄一 都市研究叢書 1998
[6]「感震ブレーカー普及啓発チラシ」内閣府・消防庁・経済産業省2019更新

執筆コンサルタントプロフィール

奥田 莞司
企業財産本部 企業財産リスク第二ユニット 主任研究員

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