TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.3が公表されました

  • 環境
  • 経営・マネジメント

2022/12/19

 2022年11月4日、自然関連財務情報開示タスクフォース(以下、TNFD)は「TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.3」 (以下、TNFDベータ版v0.3) ※1を公開しました。

 TNFDは、企業等の組織が自然関連リスクと機会を報告し行動を起こすためのリスク管理と情報開示に関するフレームワークを開発することを目的に、2021年にグローバル・キャノピー、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)、WWFの主導により設立されました。TNFDではフレームワークの開発に向けて、2023年9月に公表予定の完全な提言(以下、v1.0)までに、市場参加者等から意見を募るためにベータ版を順次公開しており、今回はその第3回目として、TNFDベータ版v0.3が公開されました。

 TNFDベータ版v0.3において前回のベータ版v0.2から更新のあった主な内容の一つとして、開示推奨項目が挙げられます。今回更新のあった主要な箇所5つ(下表中に赤字で表記)について、ポイントおよび考察を整理します。また、TCFDとの相違点を明らかにするため、下表ではTCFDにおける開示推奨項目を比較対象として併記しています。

①「リスク管理」から「リスクと影響の管理」への変更

 TNFDベータ版v0.3では、リスクと機会のマテリアリティ評価において、これまでTCFD及び一般的なリスクマネジメントで用いられてきた「規模」や「可能性」といった企業にとってのリスクの評価尺度だけでなく、「自然への影響の大きさ、重大性」や「社会への影響」を評価尺度として追加し、優先順位付けすることを推奨していることから、企業において、より自然への影響の管理体制の強化が求められていると考えられます。

②「リスクと影響の管理」のd)の追加

 これは、トレーサビリティに関連する開示推奨項目であることが示されており、TCFD以上に原料調達国や販売した製品の使用、廃棄される地域等のバリューチェーン全体の管理が求められていると考えられます。理由としては、例えば、TCFDにおける主な指標であるGHG排出量については、それがどの国で排出されたとしても、その量の重大性に差異は無いと仮定できますが、TNFDでは、影響が「どこで」発生したかの観点が重要であり、同じインパクトを持つ事業活動であったとしても、それが重要性の高い生態系を有する地域で行われたかどうかで重大性が異なることが想定されます。

③「リスクと影響の管理」のe)の追加

 この開示推奨項目が追加された理由としては、自然への影響は、企業が単独で評価、管理が完結するわけではないことが考えられます。例えば、生態学的には重要ではない自然であったとしても、地域住民や先住民族にとっては、生計や信仰等の観点から重要である場合もあり、企業においては、ステークホルダーとの対話等が求められていると考えられます。

④「指標と目標」のb)の明確化

 これは、TCFDではScope1、2、3のGHG排出量であった項目を、自然への依存と影響に関連する指標へ置き換えたものです。TNFDベータ版v0.3によると、自然の変化の5つの推進要因(1:陸/海/淡水の利用変化、2:気候変動、3:資源利用/補充、4:汚染/汚染除去、5:侵略的外来種の導入/除去)と4つの自然領域(海、淡水、陸、大気)に関連する指標をv1.0までに附属書として整備することが予定されています。

⑤「指標と目標」のd)の追加

 この開示推奨項目が追加された理由としては、気候目標を達成するために設定した目標の全てが、単体では必ずしも自然にとって良い結果となるわけではないことが考えられます。例えば、気候変動の緩和の観点から、太陽光や風力発電設備の拡大が想定されますが、その立地によっては、自然の利用変化につながり、トレードオフとなる可能性もあります。また、植林等は気候の面からはCO2の吸収源となるだけでなく、自然の面からは樹種構成によっては生物多様性の増進につながり、互いに貢献する可能性もあります。このように気候目標と自然目標の整合性について、検証が求められていると考えられます。

 以上のように、TNFDの開示推奨項目はTCFD以上に複雑化する可能性があることから、企業においては、まずは現時点で自社において取得可能な情報等を基に、一度リスク、機会の評価、管理プロセスを試験的に回して、段階的に自社の活動と自然との関係性について理解を深めることも一案です。

 

※1:TNFD(2022)The TNFD Nature-related Risk and Opportunity and Disclosure Framework beta v0.3
参考ページ:https://framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/11/TNFD_Management_and_Disclosure_Framework_v0-3_B.pdf(2022/11/11アクセス)

※2:環境省(2022)TCFDを活用した経営戦略立案のススメ ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド 2021年度版~
参考ページ:https://www.env.go.jp/content/900440892.pdf(2022/11/11アクセス)

執筆コンサルタントプロフィール

福地 大輔
製品安全・環境本部 主任研究員

コンサルタント紹介を見る

メールマガジンを申し込む

コラムトップへ戻る