政府の人権尊重ガイドラインの活用について

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2022/10/28

 2022年9月13日、日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」 (以下、本ガイドライン) ※1を策定、発表しました。

 本ガイドラインは、日本政府が2021年に実施した調査※2において、多くの企業から公的機関による人権尊重のための取組ガイドラインの整備を望む声があったことを背景に、策定が進められました。2022年3月以降、経済産業省における検討会の実施等を経て8月にガイドライン案が作成され、8月8日~29日のパブリックコメント募集を経て、翌月に策定となりました。なお、同省では、今後企業の実務担当者向けに、より具体的・実務的な取組内容を示す資料を作成・公表するとしています※3

 本ガイドラインは法的拘束力を持つものではありませんが、企業の規模や業種を問わず、日本で事業活動を行う全ての企業に対して人権尊重の取組を求めるものです。本ガイドラインの考え方の基礎となる国際基準として、主に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、国連指導原則)、「OECD(経済協力開発機構)多国籍企業行動指針」、およびILO(国際労働機関)「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」があります。これらを踏まえながら、企業による人権取組全体の概要や取組にあたっての考え方を提示した上で、企業が人権尊重責任を果たすために取り組むべき人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)、救済措置について各論を展開しています。

 ビジネスと人権に関する取組を進める日本企業は、本ガイドラインをどのように捉え、活用するべきでしょうか。

 本ガイドラインは、人権尊重についての日本企業の理解を助け取組を促進することを目指しており、企業としての対応例やQ&Aも掲載され、これから取組を進める企業にとって読みやすい構成になっています。一方で、本ガイドラインと国際基準で求められる取組が必ずしも重ならない場合もあるかもしれません。たとえば、「OECD多国籍企業行動指針」の実施のための実務的支援を提供する「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」では、企業の規模や事業状況、ビジネスモデル、サプライチェーン上の立ち位置等に応じた人権DDを行うことを求め、資源の制約がある企業への配慮がされていますが、本ガイドラインでは企業の規模に応じた配慮について詳細は述べられていないことから、日本企業が人権DDを進めるにあたって、中小企業の負担が相対的に大きくなる可能性もあります。

 特にグローバル展開を進める企業においては、国連指導原則等の国際基準についての理解を深めた上で対応することは重要です。欧米では人権対応の法制化※4が進んでいますが、それらも国連指導原則等に基づいており、国際基準との整合性を意識しながら社内の体制を整備し取組を進めておくことが、国内外の規制に対する自社のリスク低減にもつながります。本ガイドラインを活用する企業は、国際基準に立ち返ることも忘れないようにすべきでしょう。

 

※1:ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議(2022)「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」参考ウェブページ:https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003.html(2022/10/7アクセス)

※2:2021年に経済産業省、外務省が連名で実施した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」。日本政府は2020年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(NAP)を策定し、そのフォローアップの一環として、企業の取組状況を把握するために同調査が実施されました。

※3:本ガイドラインp.4

※4:本ガイドラインの末尾には、「海外法制の概要」が付されています。

執筆コンサルタントプロフィール

山田 真梨子
製品安全・環境本部 主任研究員

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