業界共通シナリオを適用した金融庁・日本銀行のパイロットエクササイズ

  • 環境

2022/10/25

 8月26日に金融庁と日本銀行が「気候変動関連リスクに係る共通シナリオに基づくシナリオ分析の試行的取組について」を公表しました。本レポートは、金融庁および日本銀行が3メガバンク(※1)と大手損保3社(※2)と連携してNGFS(The Network for Greening the Financial System:気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(※3))が公表するシナリオ(※4)を共通シナリオとしたシナリオ分析の試行的取組(パイロットエクササイズ)の分析結果、主な論点・課題についての取りまとめ内容が報告されています。

 今回のパイロットエクササイズは、分析結果が定量的に示されているものではなく、あくまでもシナリオ分析におけるデータの制約や分析の仮定・手法の妥当性など、共通シナリオを使用したシナリオ分析の際の今後の改善・開発に向けた論点・課題の把握を行うことに主眼が置かれています。

 本エクササイズにおいて、3メガバンクに対しては気候変動が信用リスクに与える影響を移行・物理両面で分析を行い、大手損保3社に対しては物理リスクの影響のみの分析を行っています。概要は下表のとおりです。

 シナリオ分析においては、経済・社会・環境をめぐるメガトレンドやビジネスモデル、事業環境やサプライチェーンなどの自社に関連性の高い要素(自社の事業、ひいては財務に影響を与えうる、いわゆるパラメータ)を抽出し、それぞれの要素の将来見通しを立てる必要があります。今回のパイロットエクササイズでは、国ごとに異なる事業特性を反映したパラメータの設定や、金融業界共通のパラメータ設定の難しさが浮き彫りになったようです。

 業界によっては、将来見通しを立てるためのデータがそもそも存在しないこともシナリオ分析のハードルを上げています。シナリオに沿った少しでも確からしいパラメータの設定を行うためには、自社だけで対応することは難しいこともあり、その場合には外部の専門家の知見を活用することも一案です。

 

(※1)3メガバンクは、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ。

(※2)大手損保3社は、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス、東京海上ホールディングス。

(※3)NGFS(The Network for Greening the Financial System:気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク):https://www.ngfs.net/en

(※4)NGFSは2020年に最初のシナリオを公表し、2021年6月に更新して第二版を公表した。今回のパイロットエクササイズではこの第二版を使用している。なお、2022年9月にCOP26での成果や最新のGDP、人口動態を反映させた第三版を公表している(ただし、ウクライナにおける戦争の影響は反映されていない)。

(※5)保険会社の課題に対し、「今後、全社が同じリスクモデルを使用し、シナリオの発生確率も考慮した確率論的な分析を行うことが考えられる」という指摘がなされているが、NGFSシナリオの第三版で急性物理的リスクについて確率論的な評価が可能なモデルが開発されており、シナリオ分析の一層の進展が期待される。

参照資料:
・金融庁、日本銀行(2022年8月)「気候関連リスクに係る共通シナリオに基づくシナリオ分析の試行的取組について」
(2022年8月、https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20220826-2/01.pdf 2022年10月13日閲覧)

・金融庁(2022年9月)「今後のサステナブルファイナンスの取組みについて」
https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20220920/02.pdf 2022年10月13日閲覧)

弊社気候変動に関するサービスのご紹介:https://www.tokio-dr.jp/service/climate_change/

執筆コンサルタントプロフィール

村上 俊男
製品安全・環境本部 シニアコンサルタント

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