化学物質の自律的管理のすすめ

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2022/7/1

 化学物質は、危険性・有害性とそれらに起因して想定されうる災害の大きさを考慮して、リスク管理・対策を行う必要があるとされていますが、国内では不十分な対策による労働災害が後を絶ちません。このような背景から、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年、厚生労働省令第91号)が公布され、化学物質の管理方法とその規制が大きく変わろうとしています。

 新たな管理方法をご紹介する前に、法に基づく管理と分類の現状について見てみましょう。現在、化学物質の分類と、事業者における各分類での管理に際しての義務は以下の通りとなっています。

 国内では、労働災害防止を目指し上記の取り決めが長らく用いられてきました。しかしながら、実際には規制対象の物質を使用する際、労働安全上の義務として求められる対応が面倒であるとして、規制対象外の新規物質に代替することで規制を潜脱するケースもあり、管理が適切ではない状態で使用された例も多くみられます。実際に近年の調査では、化学物質による休業4日以上の労働災害の8割は具体的な措置義務が無い物質に起因するとされています※5。また、国内で輸入、製造、使用されている化学物質には上図に分類されない危険性や有害性が不明な新規物質も多数存在しており、これら規制対象外の新規物質が引き起こす労働災害が頻発していることも問題視されていました。

 これまでは、このような事故が生じるたびに都度、規制対象の物質や管理内容の改正が繰り返されてきましたが、今回の改正省令により、従来の「国による物質ごとの管理方法の指定」方式から、事業者による「自律的管理」方式の導入へ方向性が変わろうとしています。

 事業者による「自律的管理」においては、基本的な枠組み(危険性・有害性、ばく露濃度等の管理基準や情報の伝達)と達成すべき指標を国が示し、事業者はその情報に基づいて具体的な管理手法(リスクアセスメントやそれに基づきばく露防止のために講ずべき措置)を自ら選択して実行することとされています(諸外国の取り組みをもとに構築)。従来、事業者は法令で指定された物質に対し指定された対応を行ってきましたが、今後は物質が使用される場面に応じて柔軟かつ適切な対策を講じることとなります。これは一見、管理責任を事業者に押し付ける改正と思われがちですが、化学物質管理に限らず、災害・事故防止を志向して事業者が自ら災害発生のリスクを評価・判断し合理的な対策を積極的に講じていくことは企業の社会的責任と言えるでしょう。

 改正内容は複数あり2023年より順次施行されますが、何処から始めたらよいでしょうか。まずは取り扱いのある化学物質の製造・輸送・貯蔵、その作業環境に関するリスクアセスメントや、危険予知活動を通して現状の把握から始めてみることをお勧めします。日常的な労働災害防止の観点から「Know-Why」という考え方も有効です。これらを活用し、取り扱う物質の危険性・有害性等を把握して労働災害発生の可能性について検討し、小さなことでも対策を講ずる流れを事業所内、さらには企業内で定着させていきましょう。

 また、化学物質の取扱いや製造に関しては企業によりその事業規模、取扱物質もケースバイケースであるためデータベースや書籍等で適切な処置が漏れなく講じられているかの判断が難しい場合があります。事業所内でこれらの指揮を執る専門的な知識・経験を有する人材の教育を進めつつ、外部機関の活用も選択肢の一つとして検討し、ゼロ災を目指しましょう。

 

※1:以下URL(厚生労働省HP)の図に弊社で追記しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html

※2:特化則特定化学物質障害予防規則

※3:有機溶剤中毒予防規則

※4:「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)において、化学品の危険有害性を世界的に統一された一定の基準に従い、絵表示等を用いて分かりやすく表示し、その結果をラベルやSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)に反映させ、災害防止及び人の健康や環境の保護に役立てようとするもので2003年7月に国連勧告として採択されました。

※5:化学物質規制の見直しについて(令和3年7月14日 厚生労働省化学物質対策課)

※6:作業の動機付けをして実行することにより、既定の手順が形骸化し安全が損なわれることを予防する取り組み、考え方です。危険物の保安管理(令和3年4月1日 全国危険物安全協会)

 

執筆コンサルタントプロフィール

藤原 実希
製品安全・環境本部 主任研究員

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