次世代モビリティによる配送の社会実装に向けた取組みについて

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2021/9/29

 EC市場の規模拡大に加えて昨今の新型コロナウイルス感染症による影響により、いわゆる「巣ごもり消費」が増え、宅配便の取扱個数が年々増加しています。このような宅配需要増加に伴い、物流事業者等によるラストワンマイル配送における人手不足が加速することが想定されます。また、宅配荷物やフードデリバリーの受け取りで「置き配」を指定するユーザが増加しており、非対面・非接触の配送ニーズが高まっていると考えられます。こうした中で、自動配送ロボットやドローンを活用した配送サービスの実用化に向けた取組みが注目されており、複数の事業者や自治体が連携して実証実験を進めています。

 

1.国内における実証実験の状況

<自動配送ロボット>
 これまでの自動配送ロボットの実証実験は、空港や大型商業施設等の公共建物内などで行われてきましたが、2020年から公道での配送ロボットの実証実験が盛んに行われています。経済産業省は、物流業界において人手がかかるラストワンマイルでの自動配送ロボットの社会実装の実現を目指して、物流やロボットメーカ、情報通信といった事業者をはじめ、有識者や自治体、関係省庁等からなる官民協議会(※1)を設置しています。この協議会の中では、公道走行における交通への影響の確認や交通環境(歩行者とのすれ違い、追い越し等)におけるオペレーションの検討、実証実験の実施にあたっての担当者(近接監視者(※2)や遠隔監視者(※3)、保安要員(※4))の役割の確認といった様々な検証が行われ、知見が積まれています。

<ドローン>
 ドローン配送の実証実験は、配送に手間がかかるためドローン配送の需要が高いと思われる過疎地域や島しょ地域で行われてきています。国土交通省は、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer2.0」(※5)を公表し、ドローン配送の実現に向けた体制や基準の整備を進めています。また、単体のドローンだけではなく複数のドローンを利用した配送においても安全かつ効率的な飛行ができるようUTM(※6)システムを取り入れた実証実験も行われています。

 

2.配送サービス実用化に関わるリスクについて

 自動配送ロボットやドローンによる配送サービスの実用化に際しては、様々なリスクが挙げられます。

<自動配送ロボット>
 配送サービスに使用する自動配送ロボットの仕様(走行能力や安全機能等)をはじめ、自動配送ロボットの通行場所(道路のどこを通行するか)、サービス地域の状況(路面環境、交通量、通信環境等)については個別の検討が必要です。前述の検討を十分に行わないと自動配送ロボットの予期せぬ動き(急発進、急停止)などにより、周囲の歩行者や自動車に衝突して交通事故を引き起こす恐れがあります。さらに、実験が進められている現段階では自動配送ロボットに対する社会の受容性が高まっておらず、自動配送ロボットの物珍しさゆえに多くの人が集まってしまい、人同士が接触してけがをする、近くを走行する車両の運転手が自動配送ロボットに気を取られて交通事故を引き起こす等、思わぬ事故が発生する恐れがあります。さらに実証実験で配置される保安要員の交通事故リスクも想定されます。

<ドローン>
 ドローンにおいては、ドローン自体が人の近くを飛ぶことは基本的にはないので、飛行中に人に危害を加える等のリスクは小さいと考えられますが、離着陸時に関しては人が近くにいることが想定されるため、ドローンと人との衝突のリスクが考えられます。また、飛行中のドローンが通信不良・製品不具合等により故障したり、鳥に衝突したりするなど、予期せぬ事態で落下した場合は地上にいる人に重大危害を加える恐れがあります。今のところ、実証実験中に人との衝突は確認されていないものの、ドローンの落下は発生しています。落下した場所によっては、人が負傷するだけでなく、建物等の損傷や交通事故の誘発、配送していた物品の損傷などのリスクも想定しておく必要があります。

 

3.今後の展望

<自動配送ロボット>
 官民協議会においては、遠隔で多数台の低速・小型の自動配送ロボットを用いたサービスが可能となるよう、来春を目途に制度の基本方針を決定し、来年度のできるだけ早期に、関連法案の提出を行う旨が閣議決定され、サービス実用化に向けての法整備の検討が大きく進められると想定されます。

<ドローン>
 2021年3月9日にドローンなどの無人航空機の「有人地帯上空での補助者なし目視外飛行」(レベル4飛行)を実現するための制度整備等を主な内容とする「航空法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国は2022年度にレベル4飛行の実現に向けてドローンの利活用の推進を図っています。

 

 上記のような政府の後押しもあり、今後は自動配送ロボットやドローン等のモビリティの利活用が加速していくことが予想されますが、安全で効率的な配送サービスの実現のためには、モビリティの利活用に関するリスクについても整理しておくことが重要です。

 

(※1)経済産業省HP 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/index.html

(※2)近接監視者:自動走行ロボットを近接監視・操作型として運用する場合の操作・監視の担当者。有線のコントローラー等をロボットに接続して操作を行う。

(※3)遠隔監視者:自動走行ロボットを遠隔監視・操作型として運用する場合の操作・監視の担当者。ロボットのカメラ映像等を遠隔地でリアルタイムに確認しながら専用のコントローラー等で操作を行う。

(※4)保安要員:路上やロボットの近辺に配置され周囲の安全確認・安全確保を行う。場合によってはロボットの緊急停止ボタン等でロボットの走行を停止させる

(※5)国土交通省HP 「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.2.0」
https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000563.html

(※6)Unmanned Aerial System Traffic Managementの略。ドローンなどの無人航空機の運航者が複数いる空域でも、それぞれの機体を安全かつ効率的に運航できるようにする管理システムのこと。

 

執筆コンサルタントプロフィール

千田 遵
製品安全・環境本部 シニアコンサルタント

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