雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症対策特例措置

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2020/5/25

 新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、企業の事業継続を支援する制度の一つである雇用調整助成金[i]が注目されています。

 雇用調整助成金は、売上の減少等で事業主が事業活動を縮小せざるを得ない場合に、労働者を解雇せず一時的に休業させることで、労働者の雇用を守る制度です。労働基準法では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、平均賃金の 6割以上の休業手当を支払うことが定められていますが、雇用調整助成金には、この休業手当を補填する役割があります。そのため、助成金の支給を受けるためには、労働者に休業をさせ、法定以上の休業手当を支払うことが前提となります 。また、休業の事実や休業手当の支払いを確認する書類を支給申請時に求められるため、労働者への休業手当の支払いから事業主が助成金を受け取るまでにはタイムラグが生じます。

 今般の新型コロナウイルス感染症への緊急対応として、下表の通り、助成内容の拡充や支給要件の緩和措置が設けられています。
 助成金額の基となる助成率の拡大のほか、多くの事業主が助成を受けられるようにするため、生産指標(事業活動の縮小を示す売上高等)の減少率要件の緩和や、直近で雇用調整助成金を利用した事業主も助成が受けられるようクーリング期間の撤廃がされています。また、短時間休業については、部門や勤務シフトごとに実施される短時間休業も助成対象となったため、小売店や飲食店等のサービス業においても活用しやすくなっています。
 そのほか、対象となる労働者について、一週間の所定労働時間が週20時間未満のパートタイム労働者やアルバイト等、雇用保険被保険者でない労働者も助成対象となりました。こちらは、雇用調整助成金ではなく緊急雇用安定助成金[ii]の対象となります。緊急雇用安定助成金は、雇用調整助成金と趣旨を同じくしていますが、助成率の計算等が異なるため、別々に申請を行う必要があります。

 

  • 生産指標要件:売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1か月間(計画届を提出する月の前月)の値が、比較可能と定められた1か月間[iv]と比べて5%以上減少していること。
  • クーリング期間:通常は1つの対象期間の満了後、引き続き雇用調整助成金を受給する場合、その満了の日の翌日から起算して1年間以上空けないと、新たな対象期間を設定することができない 。
  • 休業規模要件:休業の実績を判定する1か月間(判定基礎期間)における対象労働者に係る休業の実施日の延日数が、対象労働者に係る所定労働延日数の 40分の 1(大企業の場合は 30分の 1)以上となるものであること。

 雇用調整助成金は、手続きの煩雑さがネックになり、利用が進まない実態があるようです。しかし申請に必要な書類は、通常の事業活動で整備が求められている、いわゆる法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)等を活用して作成することができます。また、さまざまな手続きの簡素化が図られています。書類作成の難しさから支給申請を断念し、そのことが労働者の解雇や、経営破綻につながることのないよう、制度活用が進むことが望まれます。

(本コラムは、2020年5月25日時点の情報をもとに作成しています。)

 

[i] 厚生労働省「雇用調整助成金」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

[ii] 厚生労働省「緊急雇用安定助成金支給要領(令和2年5月19日現在版)」

https://www.mhlw.go.jp/content/000632681.pdf

[iii] 厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)」(令和2年5月22日時点情報参考)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

[iv] 厚生労働省「雇用調整助成金の特例拡充のお知らせ(生産指標の比較月関係)」

https://www.mhlw.go.jp/content/000628285.pdf

 

執筆コンサルタントプロフィール

柳川 美保
製品安全・環境本部 主任研究員

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