数理モデルが示す感染症の拡大 ~何故、我々は、出歩いてはいけないのか?~

  • アナリティクス・リスク分析
  • 感染症

2020/4/30

 昨今の新型コロナウィルス感染拡大問題については、感染症の専門医による医学的知見に基づいた解説がほとんどで、感染拡大の数理の専門家の意見が聞こえてくることは、極めてまれである。というのも、感染拡大の数値計算は、ひとえにおよそ100年前に提案されたSIRモデルによっているからである。人間を感染者、感染予備軍、回復者と3分類して、この3分類の人口がどのように変動するかを常微分方程式から計算する方法である。

 このSIRモデルの汎用性の高さは、都市間ネットワークのノード(リンクの繋ぎ目)を「都市」、リンクを「インフラ」と見なすことで、都市ノード内での感染者、感染予備軍、回復者のシミュレーションを行うことが出来るにとどまらず、ノード内の人口が、他の都市とのインフラ的連結により移動する部分も考慮できることで、感染の空間伝播を再現できる点である。当然、この移動人流中には、感染者、感染予備軍、回復者が無造作に含まれていると考えてよい。このSIRモデルが示唆することは、人と接触しない限り、感染は拡大しないことである。どれくらい歩くとどれくらいの人と濃密接触者となるかの基準はなく、「人と合う頻度を8割減少」という試算は、SIRモデルからの試算結果と推測するが、何もヒト‐ヒト接触だけが感染の起源と限定できず、エアロゾルによる遠距離感染などは、もはやヒト‐ヒトの接触外で起こる感染であり、究極的には外出自粛を呼びかけるくらいしか、我々のなす術はないのである。

 このような、歩けば誰もが感染拡大に大きく“寄与”してしまうということを理解するために、簡単な数理モデルで話をする。

 感染予備軍=S, 感染者=I, 回復者=Rとして、その人数をηで表すと、次の式で書かれる。

 Ka→bは反応率で、KS→I(予備軍が感染者になる確率)、KI→R(感染者が回復者になる確率)は接触頻度とウイルスの性質で決まる。Dは拡散係数で、人の移動の距離と考えて問題ない。上の3つの連立上微分方程式は、Fisher-Kolmogolov-Piscounov-Petrovsky (FKPP)方程式、あるいは反応拡散方程式と呼ばれている。

 この式から、以下のように感染の空間伝播速度の最小値(c)を計算することが出来る。

 この式によると、感染拡大の速度は、D(拡散係数)とK01(=KSI :感染予備軍が感染するレート)に依存することになる。図2に示すように、感染の波は上の式の速度2で空間を伝播していく。

 

 つまり、K01はソーシャルディスタンスを大きくとる、いわゆる“三密”を避けるなどでしか変更できないから、感染の空間伝播を抑え込むには、Dを小さくするしかないということになる。また、Dを小さくすることは、同時にK01(接触回数に比例するので)を小さくすることにも寄与する。

 感染を拡大させないためには、簡単なことで、
“むやみに外を歩き回らない”
という1 点に尽きる。このように、数式で表せば合点がいくのではないか。

執筆コンサルタントプロフィール

矢野 良輔
上級主任研究員

コンサルタントの詳細

コンサルタント紹介を見る

メールマガジンを申し込む

コラムトップへ戻る