新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策 ~業種別「新型コロナウイルス感染拡大予防ガイド ライン」の活用における留意すべきポイント~

Tokio dR-EYE

2020/6/29

目次

  1. 各業種の新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインの概要
  2. 業種別ガイドラインの活用方法
  3. 業種別ガイドラインにおける確認や留意すべき事項

新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策- TRC EYEPDF

執筆コンサルタント

平岡 孝雄
ビジネスリスク本部 リスクコンサルタント

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、今年に入り世界で蔓延、拡大し続けており、終息のめどは見えていない。こうした中、日本においても感染が拡大し、2020年4月7日には「緊急事態宣言」(対象地域:東京都等7都府県、期間:5月6日まで)が発出され、4月16日に対象地域を全国に拡大し、以後、5月4日には期間を5月31日までと延長したが、同14日、21日と徐々に対象地域が削減され、同25日には、感染がピークアウトしたとして、緊急事態宣言の全面解除がなされた。


緊急事態宣言解除後の政府発出の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」[1](新型コロナウイルス感染症対策本部決定、5月25日変更、以下「基本的対処方針」)においては、「二 新型コロナウイルス感染症の対処に関する全般的な方針」の項で、「②感染拡大を予防する『新しい生活様式』を社会全体に定着させていくとともに、事業者に対して業種ごとに策定される感染拡大予防ガイドライン等の実践を促していく」ことが方針として明確に示された。さらに、事業者の自主的な実践を期待した上で、他の箇所でも「業種ごとに策定される感染拡大予防ガイドライン等を実践するなど、自主的な感染防止のための取組を進める」等と強調し、「こうした取組を実施することにより、感染拡大の防止と社会経済活動の維持の両立を持続的に可能としていく」とされた。

「業種ごとに策定される感染拡大予防ガイドライン等」[2](以下、「業種別ガイドライン」)は、政府の「基本的対処方針」や「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の分析・提言」[3]などを踏まえ、個々の業界や職場の実態に応じた感染予防対策を行う際の基本的事項について、業種としての特性を考慮した一般的な指針をまとめた参考として整理されたものである。事業者は、所属する業界団体などが発出したガイドラインに示された「基本的な考え方」と「講じるべき具体的な対策」等を踏まえ、個々の職場の実態を考慮した創意工夫を図りながら、効果的な感染拡大防止対策を実現するように取り組むことが望まれている。したがって、感染状況の変化によっては、対処方針の変更等に応じて、適宜、必要な見直しも不可欠である。

各企業の具体的な対策については、これらを踏まえた上で、最終的には、各企業の判断に委ねられているが、事業者には、自社の職場(業態や規模等)に適応した対策を具体的に検討し、適切で有効な対策を講じていくことが期待されている。


緊急事態宣言の解除により、発出されていた休業要請の緩和/解除を受け、今後、各企業は、感染拡大の防止と社会経済活動の両立を図っていくこととなるが、現在は、従業員等の自粛疲れ等による気の緩みや、危機感への各人の心理的格差が生じていく中で、不安や欲望という人間心理面をどのように統制していくのかという、より困難な段階に入っている。

事業者にとっては、各都道府県が発出する地域ごとの感染状況等に関するリスク評価に応じた施策への対応や、自社の職場や勤務環境等の場面ごとのリスク評価に応じた具体的な感染拡大防止対策の検討を行い、実効性を確保するという難しい対応が要求されることとなる。


本稿は、「業種別ガイドライン」の概要(全業種に共通的な感染症対策の基本的事項の要点)を整理し、そのガイドライン活用において留意すべき事項を提示することにより、事業者における新型コロナウイルス感染拡大防止対策検討の一助となることを目的としている。


(参考)業種別ガイドラインは、23業種、148団体が策定している。(令和2年6月18日18時更新)

1.各業種の新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインの概要

業種別ガイドラインの多くは、各企業に求められる感染拡大防止対策を作成するために、自業種の特性を「はじめに」で確認した上で、当該業種として求められる対応を「基本的な考え方」と「具体的な対策」で確認するという構成で、整理されている。  

ここでは、「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」(2020年5月14日 一般社団法人 日本経済団体連合会)を例として、構成・内容をみてみたい。

(1)「はじめに」

ここでは、業種別ガイドラインが、政府の「基本的対処方針」や「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の分析・提言」などを踏まえ、個々の業種や職場の実態に応じた新型コロナウイルス感染予防対策を行う際の基本的事項について、参考として整理したもの」であることの趣旨・内容を十分に理解した上で、所属団体の業種別ガイドラインの「基本的な考え方」や「具体的な対策」を参考に、自社の事業特性や職場の態様などを考慮して対策を検討することが要求されている。

その上で、取引先企業や他の事業者への情報の提供・共有などを通じ、感染拡大防止対策の支援に積極的に貢献していくことが要望されている。

(2)「感染防止のための基本的な考え方」

ここでは、「職場における感染防止策の取り組みが、社会全体の感染拡大防止に繋がる」とした上で、業種や自社の職場の特性に応じた「対策に係る体制の整備」と「個々の職場の特性に応じた感染リスクの評価を行い、それに応じた対策を講ずること」が示されている。

その際、社内の職場環境の充実のみならず、通勤形態などへの配慮や個々人の感染予防策の徹底に関わる事項も考慮することとされている。

(3)「講じるべき具体的な対策」

個々の業界や事業場の実態に応じた具体的な対策の検討に参考となるものを、「感染予防対策の体制」「健康確保」「通勤」「勤務」「施設関連」「従業員に対する感染防止策の啓発等」「感染者が確認された場合の対応」等の項目に区分し、整理している。

その他、不特定多数の人と接することが見込まれる小売業や銀行等の業種においては、従業員の対策のみならず、店舗や顧客対応等の項目も整理されている。


次に、「講じるべき具体的な対策」としての共通的事項の要点を、他ガイドラインも参照して、事象対応別に整理したものを次に示す。

    <事象対応別の共通的な対策事項>
  • 体制の構築:経営トップが率先する、対策検討の体制の整備
  • 従業員に対する感染防止策の啓発:自社の対策事項の周知と徹底(通達や具体的な表示(掲示物)による注意喚起)
  • 従業員に対する健康管理の促進:体調の確認、マスクの着用・手洗いの励行等の感染防止策の基本的事項の徹底
  • 人との接触を避けるための対策:在宅勤務や時差出勤、ローテーション勤務
  • 人の対面時の対策:対人距離の確保(2メートルの目安)対策として、人員配置や座席の対角配置等や遮蔽カーテンの設置等、マスクの着用
  • 共用区画等での対策:施設内の換気、出入口やPC等共用器材設置箇所に消毒設備の設置
  • 共用設備・機材の取扱い等:3密(密閉・密集・密接)防止の徹底、定期的・使用後の消毒
  • 外勤、出張、会議:メールや電話、TV会議等による代替手段の活用
  • 多人数の出入り等がある場所:出入口の一方通行の規制、入場者の制限や分散化
  • 在宅勤務等が適さない職場:対人距離の確保(2メートルの目安)対策として、作業空間と人員配置の見直し、従業員等のシフトやゾーンでの管理(点呼等の小グループ化、移動等の誘導制限等による、人の過集中の低減)、共同作業場でのマスク着用の徹底、建物内の換気、勤務体制の工夫
  • 交代制の職場:従業員の交代時の定期的な消毒、消毒できないもの(設備等)での作業は個人別の 専用手袋着用等の上で実施

2.業種別ガイドラインの活用方法

各事業者は、自社の職場に応じた感染症対策を実践していく必要がある。しかしながら、自社用の「新型コロナウイルス感染拡大予防マニュアル」等(以下、「マニュアル等」)を既に作成している企業、あるいはマニュアル等を作成していない企業であっても、現在実施している対策が妥当か、他に良い対策がないかなど、様々なレベル感の不安を抱いていると推察される。

具体的な対策の実施は、最終的に各企業の判断に委ねられているものの、業種別ガイドラインを活用して、自社用のマニュアル等を作成する、あるいは、各対策を見直していくことが、有効であると考える。

(1)簡易対応のアプローチ

現状、多くの事業者では基本的な対策を一通り実施していると思われるので、まずは、自社の実施事項と業種別ガイドラインの内容を比較し、確認することを推奨したい。これは自社の取組の妥当性検証にもつながり、取組の改善、充実を図ることができる。

ここでは、速やかに実施できる「簡易対応アプローチ」の実施手順を示すこととする。 

<「簡易対応アプローチ」の実施手順>

①まずは、自社で実施している対策を文書として整理していない場合は、現在実施している対策をリスト化して、「対策リスト文書(仮称)」を作成する(実施している対策が整理されていれば問題ない)。
②自業種の業種別ガイドラインの取組事項に対し、自社の対策として抜け漏れ等がないか、「対策リスト文書」の文書上で確認し、引き続き、現場を見て対策の有効性等について再確認を行う(特に、現場を見て回ることは意外に新たな発見があり、有効である)。
③他業種(特に、類似業種)のガイドラインや他社等の取組等を参照し、自社に役立つ新たな対策があれば導入を検討する。
④自社への適用が適当であれば対策を追加する。

(2)リスク対応のアプローチ

「具体的な対策」を実施している職場においては、今一度、原点に立ち戻り、業種別ガイドラインの「基本的な考え方」において示されている「個々の職場の特性に応じた感染リスクの評価を行い、それに応じた対策を講ずる」という、リスク対応のアプローチをお勧めしたい。

当該アプローチは、職場の感染に対する、リスク特定、分析、評価に基づく本格的な対応であり、時間は要するものの、対策の構築として体系的に整理でき、充実したものとすることができる。

ここでは、本格的な「リスク対応アプローチ」の実施手順を示す。

<「リスク対応アプローチ」の実施手順>

①業種別ガイドラインの基本的な考え方、具体的な対策を参考として読み込み、確認する。
②自社の特性を再確認した上で、職場ごとの(特に、特有の)感染リスクを洗い出して特定し、重要度/優先度を評価し、整理する。
③その特定した感染リスクに対する、具体的な対策案を列挙し、そのリスクを低減する方法を、自社の実施可能性や有効性の面から評価した上で、効果的な対策を選定する。
④選定した対策の予算的措置を取り、対策を実行する。
⑤実行した対策について、従業員への周知や指示を行う。
⑥実行した対策の有効性をウォッチし、問題点があれば、改善を図る。

なお、「リスク評価とリスクに応じた対応」の留意点については、次章3(2)項を参照されたい。

3.業種別ガイドラインにおける確認や留意すべき事項

(1)全般

業種別ガイドラインは、業種別の必要な考え方や対策事項が記載されているが、各企業の具体的な対策の実施については、事業者(各企業)に委ねられている。つまり、事業者は、感染拡大防止対策の検討・実施に当たっては、業種別ガイドラインをベースにして、地域的特性や自社職場の特性を踏まえた、効果的で具体的な感染拡大防止対策としていくことが重要である。

今後の趨勢を鑑みると、各都道府県の地域の置かれた状況において、段階的移行等の要請内容の相違が想定され、適宜、その時期、地域の状況に沿った、自社対策の適切な対応の見直しが必要となることにも注意を払う必要がある。

策定した感染拡大防止対策も、実践されなければ意味がない。特に、現時点では、緊急事態宣言が解除され、社会活動の再開により感染の第二波襲来のおそれが懸念されているため、従業員等に対して継続的に、感染防止の基本的事項の啓発も含めて、自社の感染拡大防止対策の周知徹底を図ることが必要である。

(2)「基本的な考え方」

本項では、業種別ガイドラインに示された2つの「対策に係る体制の整備」と「個々の職場の特性に応じた感染リスクの評価を行い、それに応じた対策を講ずること」について、留意すべき事項を整理する。

  1. 「対策に係る体制の整備」に関する留意事項

業種別ガイドラインの「基本的な考え方」では、「対策に係る体制を整備し」とのみ記述され、「具体的な対策」では、感染予防対策の体制として、「経営トップが率先し、……対策の策定・変更について検討する体制を整える」としか、説明されていない。

ここでは、感染症対策が有効に機能する「体制の整備」について、「対策本部の体制」と「情報収集や情報共有の体制」の両面から、具体的な留意点を以下に整理する。

(a) 事業者は、企業として、従業員を新型コロナウイルスから守るために、感染の拡大防止や低減を図るための必要な対策を施す必要があり、有益な情報入手や、迅速な意思決定が可能な体制を確立する必要がある。
(b) 体制の整備に当たっては、危機対応としての対策本部の設置により、社内のリスク評価を行い、対策を決定し、その対策等を従業員に周知徹底するとともに、従業員の健康状況の確認や発症報告、地域情報等を収集し、モニタリングできる機能を有する必要がある。また、情勢変化に応じた、「新しい日常」の定着を目指した活動の推進や、感染リスクの評価に応じた適切な対策(第二波に備えた先行的な対策を含む)が検討され、見直しがなされる等、速やかに対応変更の処置や指示を可能とする体制であることが望ましい。
(c) この際、感染症の対応期間は長期となることが想定されるため、対応組織としては、本部長や事務局要員が感染したとしても機能不全とならないように、代替要員の確保や交代制等にも配慮することが望まれる。
(d) 体制の長たる本部長等は、定期的に、また必要時は適宜、本部会議を開催して、最新の現状把握に努め、情勢の変化に迅速に対応することが肝要であり、適時、対処方針や対策事項の見直し等の指示をする必要がある。
(e) (a)~(d)に対応可能な「体制」の姿について、次に例を示す。
    <対策本部等の体制構築>
  • 企業として、迅速な意思決定が可能な体制とすること
    (意思決定方法の確立として)
    -情勢変化等必要な情報を入手するとともに、その入手情報の分析を行い、方針や対策事項の先行的な対応(見直し等)を上申し決定・指示できる仕組みの構築
    -意思決定者の発症等に備え、代替意思決定体制の確立
    -他地域に別事業所等がある場合は、当該地域での判断が求められる場合もあり、必要な場合は、本社の対策本部と連携可能な下部組織の設置

  • 従業員に対する感染防止策の周知徹底が図られること 

  • 自社の職場ごとのリスク評価と具体的な対策の検討、実施が可能であること 

  • 日々のモニタリング(兆候の感知、状況変化の推移の把握)と、異常の検知が報告される仕組みがあること 

  • 感染防止策に必要な専門的な知識を有する産業医等の助言を仰ぐこと

    <情報収集や情報共有の体制構築>
  • 次の機能を有する体制を整備すること
    -感染(特に拡大)の状況等、政府等公的機関の発信情報の収集
    -従業員への対策状況等の周知・徹底(従業員への情報提供と普及啓発)
    -従業員の日々の健康状態の確認と発症した場合の報告要求(従業員情報の集約等)
    -正確な情報の収集とともに、関連情報の継続入手
    -事業者団体や関係企業等との密接な情報交換

  1. 「個々の職場の特性に応じた感染リスクの評価を行い、それに応じた対策を講ずること」に関する留意事項

業種別ガイドラインの「基本的な考え方」では、「個々の職場の特性に応じた感染リスクの評価を行い、それに応じた対策を講ずる」とのみ記述され、「具体的な対策」では、感染リスクの評価方法等が具体的に明記されていない。

「リスク対応のアプローチ」の考え方については、前章2(2)項で示したので、ここでは、その「リスク評価とリスクに応じた対策」のための具体的な留意点を以下に整理する(「リスク対応のアプローチ」の考え方については、前章2(2)項参照)。

(a) リスク対応においては、まずは、リスクを特定し評価することが必要となるが、感染リスクの特定において、事業者は、自社の事業の内容、職場の施設(特に、共用部分・区画等)や勤務環境といった職場の特性を確認した上で、職場区画の機材等の配置(レイアウト)や従業員・顧客等の動線における接触感染と飛沫感染のリスクを洗い出し、特定、評価することが重要である。 この際、施設のレイアウト図面確認とともに、現場の見回り等による現況の再確認が肝要である。この実際の確認により、新たな発見に繋がる可能性もある。
(b) 特定した感染リスクの評価に当たっては、その事象(人と設備・物品等)における接触感染や飛沫感染の「機会」と「頻度」に注目することが重要であり、これを評価基準に含めることが適当である。各感染における具体的な着眼例を次に示す。
*接触感染に関しては、共同使用場所や他者と共有する機材・物品、手が接触する場所、特に高頻度となる接触場所
*飛沫感染に関しては、従業員間の距離、施設内での位置(レイアウトや在席位置)、換気(空気の流れ)の状況
(c) 対応策としては、特定の単一事象のみにこだわらず、同事象区画のゾーン管理等、職場環境や勤務形態を踏まえ、リスク低減対策案を列挙した上で、有効かつ効果的な対策を検討し、選定することが望まれる(一つに絞る必要はない)。
(d) 対策の検討に当たっては、一般従業員の意見やTVニュース等の情報も取り入れることで、問題点や改善点、有効な対策の気付きを得るなど、自社の対策を充実させることができる。 (例:ドアノブを触らないために、腕を使用して開ける。水道の蛇口栓を手で触らないですむように、ノック/レバー式に変更した。)
(e) 関係事業者等との接触に係わる機会・場所についても、リスクの特定・評価を行い、そのリスクに応じた対策を検討することが、職場としてのリスク低減に繋がる。 (例:製造業であれば、トラックによる入出荷、搬送場所等)
(f) 対策事項の見直しでは、他業種のガイドラインを参照することや、PDCAサイクルを回すことで、新たな気付きを得ることができ、有効である。

(3)「具体的な取り組み」

本項では、感染症対策が有効に機能するような「具体的な取り組み」について、まずは、「感染予防対策の基本的事項」を確認した上で、具体的な対策を検討していくための留意すべき事項について整理する。

事業者としての「感染予防対策の基本的事項」の整理

    <「感染予防対策の基本的事項」の整理>
  • 従業員の感染防止管理
    -基本的な感染防止対策(手洗い等)等の健康管理の周知・徹底
    -健康状態のモニタリング

  • 職場における感染拡大防止対策
    -飛沫感染と接触感染を想定した、人と人との物理的距離(約2メートル)を保つこと
    -集団感染の防止対策として、「3つの密」にならないような環境整備・行動制限の実施 
    -他人との接触機会を減らすための「在宅勤務」等の実施

  • 高感染リスク環境(不特定多数の人と接する業務(店舗)等)の業務職域の感染予防対策
    -前記「職場における感染拡大防止対策」を強化した、非対面対応や待機位置表示等の複合的対策の実施

  1. 自社の対策取組の見直し改善(ガイドラインの活用) 
(a) 事業者は、今一度、自社の実施している感染拡大防止対策事項の現況をリスト化等して整理し、業種別ガイドラインと比較検討し、抜け漏れ等の見落とし事項、実施できないと思われていた事項、実施の指示はしているものの実践されていない事項に整理することが望まれる。
(b) この整理により、現状の取組を可視化でき、現状の取組状況と改善点のチェックができる。
(c) 追加で実施すべき対策、あるいは対策の改善に当たっては、自社としての実施の可能性、有効性を確認することが望ましい。
(d) 同一業種の他社・組合や自社周辺の企業等が実践している対策の情報を収集、あるいは他社との意見交換等を通じて、自社の対策の改善に取り組んでいくことが有用である。
  1. 業種別ガイドラインに示された対策で、自社として困難な対策等への対応 

業種別ガイドラインの「具体的な対策」に掲げられている対策のうち、自社としての対応が、物理的、金銭的、人的問題等で困難であり、実施できないとしていた対策への対応について、以下に記載する。

●基本的な考え方

単に物理的なハード対策の一面だけで捉えるのではなく、運用というソフト面の対策を組合せた総合的な対策として考え直すことにより、その趣旨に沿った対策となるか、検討してみる。

●具体的な検討例

(a) 事務区画の「勤務」で示されている、「目安としての2メートルの離隔」「座席配置などは広々と設置」も、建物の事務区画のスペースやシステム等の配線上等、物理的に即対応することが難しい面がある。しかし、この場合、席の配置(島)は、概ね同一/関連業務者が隣接していると想定され、在宅勤務の交代制を活用し、まずは、在席者が非対面配置等(対角面配置、次に横並びの配置等)となるように、在宅者の出勤態様を調整することは、可能と思われる。
(b) 限られた会議室区画等の使用に対しては、会議室の時間差をつけた使用と、会議後の什器の消毒や部屋の換気等の実施、更にはWeb会議の活用による代替手段の活用も考えられる。
(c) 在宅勤務(テレワーク等)が困難な職場では、勤務体制/態様の変更(時間差勤務、フレックスタイム制、交代制勤務)等をすることで、ガイドラインの趣旨にある程度近づけることが可能と思われる。
  1. 関係事業者等との連携・協力 

自社での感染防止対策を実施するのみならず、以下のような関係事業者(取引先企業や施設内の隣接企業等)との対策の均一化(同等程度の対応)を図るべく、相互に連携・協力することが望まれる。

(a) 自社施設に出入りする委託先等の関係企業(例:製造業における輸送業者)
(b) 同一施設(場所)内での業務委託先や協力企業(例:食堂、委託売店)
(c) 同居ビル内の施設管理企業と施設内企業(例:共同区画(受付、エレベーター、トイレ、階段、入居小売店))
  1. 地震等との複合災害への備え

感染症対策を実施している中で、地震や風水害、様々な災害が発生した場合の被害を想定した対策の備えとして、防災担当者と避難所(宿泊等の場所)における具体的な感染予防・拡大防止対策を事前に検討しておくことが重要である。

(a) 避難所における「3密」対策:生活空間としての区画配置要領、備蓄品等の配布要領、換気、対人距離の確保
(b) 避難者個々の生活対策:マスク・手洗いの励行等
(c) 感染者発生時の分離対策:感染者の隔離区画を設けて、生活空間(トイレ等を含む)を分離等
  1. 対策の推進、取組の徹底

立案した対策の推進、取組を徹底させるために、対策の具体的な内容がわかる掲示物により視覚的に訴えること、トップから対策や取組の重要性に関するメッセージを発信することは、効果的である。

    <事例>
  • 当該場所に、ポスター等の掲示物による視覚的な訴え
    -事務区画、会議室、休憩室等の出入口に、消毒液の設置と使用方法や注意書き等の 表示
    -洗面所やトイレの手洗い場に、手洗いの仕方等の図示
    -エレベータ内の壁に、「距離を取りましょう」等の標語や、人物間距離の図示

  • 当該場所に、物的対応(障害物、動線)や対応の表示
    -会議室や店舗等における区画における非対面座席の実践のために、離隔するための椅子の削減や、使用制限の座席に×印表示や人形の設置(座れないようにする)等

  • メール配信や、構内放送等による指示
    -トップからのメッセージの配信(従業員等の不安の解消等)
    -日々の業務開始時の構内放送等による、手洗い等実践事項の指示

おわりに

様々な留意点を提示してきたが、今後は、「新しい生活様式」に適応した社会経済活動に転換していくことが必要になる。事業者には、感染の第二波の到来、感染の再拡大の可能性を考慮し、感染対策を引き続き実践していくことが望まれている。このためには、無理なく継続できるよう、工夫した「対策」を施す取組とすることに留意して頂きたい。

特に、緊急事態宣言解除後、自粛要請が解かれ、人の動き(移動)が徐々に戻る中で、人々の行動変容や社会の仕組みの変化等により注意して、対応を変えていく必要があろう。

さらに、事業者は、社会経済活動と感染拡大防止の両立という難しい舵取りが要求されている。

各事業者の新型コロナウイルス感染症対策の実践に当たり、本稿が一助となれば、幸いである。

参考情報

執筆コンサルタント

平岡 孝雄
ビジネスリスク本部 リスクコンサルタント


<参考文献等資料>

脚注

[1] 新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2年5月25日変更) https://corona.go.jp/news/news_20200411_53.html
[2]

業種ごとの感染拡大予防ガイドライン一覧「業種別ガイドライン」https://corona.go.jp/prevention/pdf/guideline.pdf

[3] 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月14日)等 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html

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