こども性暴力防止法施行に向けて求められる対応
2026/9/11
目次
- こども性暴力防止法の概要
- 事業者に求められる対応
- 対応に関連するリスク
- 取り組みを進める際のポイント
- 終わりに
こども性暴力防止法施行に向けて求められる対応 - Tokio-dR EYEPDF
執筆コンサルタント
野村 幸代
ビジネスリスク本部 主席研究員
専門分野:リスクマネジメント、危機管理、BCP
製造、エネルギー、運輸、サービス、病院・社会福祉施設等幅広い業界において、リスクマネジメント・危機管理、災害事故対応や事業継続分野でのコンサルティングを実施し、体制整備、マニュアル作成や教育訓練等のソリューションを提供。
こども[1]への性暴力防止を目的として、2024年6月に成立した「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(以降、こども性暴力防止法という)」が、2026年12月25日から施行される。これは英国の「Disclosure and Barring Service」という組織が行うこども等に関わる労働者の犯罪歴を確認する制度を参考としており、報道等では「日本版DBS」とも呼ばれている。学校等の公的施設では同法令に従った対応が義務化され、こどもに関わる民間の事業者は任意対応すれば行政から認定を受けることができるようになる。本稿では、主に任意事業者を対象に、同法施行前に求められる対応や留意点について解説する[2]。
1. こども性暴力防止法の概要
こども性暴力防止法は、「児童等に教育・保育等を提供する事業者に対し、従事者による児童対象性暴力等を防止する措置を講じること等を義務付ける」ものである。事業者が行う事業について、こどもとの関係に「支配性」「継続性」「閉鎖性」があるものを対象に、性暴力対策を求めることとしている。学校や児童福祉施設等は義務化され、スポーツクラブや塾等のこどもに関わる民間の事業者については、任意の取り組みを促し、認定を受ければ、こども家庭庁のウェブサイトで公表され、認定マークを使用することができる仕組みだ。
任意事業者については、「支配性」「継続性」「閉鎖性」の要件、具体的には「3人以上の業務従事者がこどもの自宅以外の場所において対面で何かを教えること、6カ月以上の期間中に2回以上同じこどもが参加できること」を満たせば、ダンスを指導している芸能事務所や学習支援を行っているこども食堂等も対象となる。幅広い事業者の認定取得を促進し、こども性暴力防止を推進したいという政府の意向が見て取れる[3]。
| 取り組みを義務化<法定事業者> | 任意で取り組み、認定を受ける<認定事業者> | |
| 事業者の種類 |
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| 使用できるマーク[4] | ![]() |
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2. 事業者に求められる対応
義務化された法定事業者及び認定を希望する任意事業者が求められる対応は大きく以下の通りである。
| ① こども性暴力防止の取り組み |
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| ➁ 事案発生時の取り組み |
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| ③ 再犯防止の取り組み |
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| ④ 全体を通じた取り組み |
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取り組みの中でも、「特定性犯罪歴確認」は特に慎重を要し、かつ負荷の高い対応が求められるものである。なお、性犯罪歴確認の対象者は「こどもと接する職種」とされている。教員等は一律対象となり、事務員、送迎バスの運転手、調理員等はこどもとの接触頻度等を踏まえ、現場で対象とするか否かを判断することになる。対象者に関しては、雇用形態は問わず、スポットワークを含む短期労働者やボランティアもすべて対象となる点に、留意が必要である[6]。
3. 対応に関連するリスク
任意事業者は、認定を受ければ、「こども性暴力に対する取り組みを積極的に推進している事業者」として、利用者からも評価されうる点は大きなメリットである。ただし、取り組みの推進が大きな負荷となる可能性も高く、性犯罪歴情報の漏洩等のリスクもある。こども性暴力防止への取り組みを進めること自体は、リスクマネジメント上大変有意義だが、以下のようなリスクを孕んでいることに留意した上で、適切に対応することが求められる。
(1)取り組み推進への負荷と認定を受けない場合のリスク
前章で示したように、認定を受けるためには様々な取り組みが必要となり、特に小規模事業者においては大きな負荷になるものと想定される。こども家庭庁が発行したこども性暴力防止法施行ガイドラインは300ページを超え、事業者に対し多岐にわたる取り組みを求めている。
こどもと相対する業種であれば、適切なこどもとの接し方についての何らかのルールは既に整備されていると考えられる。ただし、今回の法整備を機に「こども性暴力」に関して求められる内容は多岐にわたることとなる。また、ガイドラインや教育資料等は提示されているものの、全事業者に向けた内容となっているため、各事業者においては、「自らの事業における」方針や実施事項を整理し、各事業者で整備していた既存ルールとの整合性等を図ったうえで体制を再構築することが求められる。例えば「不適切な行為」の定義からして、事業内容によって異なってくる。乳児を抱きしめる等体に触れる行為は不適切とは言えないが、それが思春期のこどもであればどうか、介助が必要な障害児の体に触れることはどうか、体操等指導の目的で体に触れる必要がある場合はどうか等、「体に触れる」という行為自体を幅広い事業者を対象に一律で「不適切」と定義することが難しいのだ。そのため、こども家庭庁が示した資料をそのまま流用はできず、内容を十分理解した上で、各事業特性に応じた応用が求められるのである。
一方で、認定を受けない場合、当然のことながらこども家庭庁から事業者名の公表はされず、認定マークも使用できない。業種や立地によっては、利用者から、認定を受けた同業者と比較され、マーケットで不利な立場に立たされる可能性もある。認定を受けた場合・受けない場合のそれぞれのメリット・デメリットを考慮して、認定取得要否を判断する必要がある。なお、こども性暴力への取り組みは、一旦体制を構築したら終わるものではなく、継続的な取り組みが必要である。当初の負荷だけでなく、長期的な取り組み負荷を認識したうえで、判断することが重要である。
(2)情報漏洩のリスク
性犯罪歴確認では、非常に機微な情報を取り扱うことになる。そのため、ガイドラインでも、目的外利用や性犯罪歴情報を取り扱う人間を制限することを含め、情報の取り扱いに関して十分な体制を整備することを求めている。
万が一、性犯罪歴情報を第三者に漏洩する等の違法行為が発生した場合、法人や漏洩した人に対し、刑事罰が科されるほか、民事上の損害賠償義務を負うこともありうる。漏洩が発生すれば、こども家庭庁への報告義務が発生し、是正命令を受ける場合もある。
性犯罪歴確認において取り扱う情報の一部は、個人情報保護法も適用されるため、漏洩等があった場合には、こども家庭庁と並行して、個人情報保護委員会への報告義務も負うことになる。
性犯罪歴確認以外にも、万が一事業所内でこども性暴力の疑いがあった場合の調査情報等にも機微な情報が含まれる可能性があり、これらの情報の管理も合わせて厳格に行う必要がある。
こども性暴力への体制整備と同時に、情報漏洩が発生しないよう、十分な情報管理体制を整備することが必要である。
(3)内定取り消し・配置転換に関連するトラブル
性犯罪歴確認は内定前に行うことができない。新規従業員の採用時、内定を出した後に万が一性犯罪歴が確認された場合、予め適切な手順を踏んでいなければ、内定取り消し時にトラブルに陥る可能性がある。具体的には、「『重要な経歴の詐称』を内定取り消し事由として説明しておく」「募集要項に『特定性犯罪前科がないこと』を明示する」「明示的に『特定性犯罪前科の有無』を履歴書等の書面で確認する」こと等が必要となる。
内定を出せば、労働契約が成立したとみなされ、労働契約法に準拠した対応が必要となる。内定取り消しを法令に準拠して円滑に行うためには、上記対応を採用活動時から徹底し、「重要な経歴詐称があった」ことを事由として対応できるようにしておくことが必要である。
また、現職の業務従事者に性犯罪歴が確認された場合には、採用時に「特定性犯罪前科の有無」を明示的に確認することはできていない場合が多いだろう。その場合は、こどもに接しないよう業務内容を見直す、配置転換を行う等が選択肢となりえるが、それが労働条件の変更になる場合には、従業員本人の同意を取ることが求められる。いずれの方法も取ることができない場合には普通解雇せざるを得ないものの、場合によっては裁判になる可能性もある。まずは、法施行前や任意事業者が認定を受けようとする前から、特定性犯罪前科のある従業員にはこどもに接する業務に従事させられない旨を周知したり、就業規則を改訂したりしておくことが重要である。
(4)認定事業者において性暴力が発生した場合のレピュテーションリスク
仮にこども性暴力防止の体制を構築していたとしても、性暴力が発生する可能性は当然ゼロにはできない。特に任意事業者については、こども性暴力への積極的な取り組みをアピールするために認定を受けていたにもかかわらず、性暴力が発生してしまった場合のレピュテーションリスクが極めて大きい。先述した通り、業務従事者への教育等含め継続的な取り組みが不可欠であり、性暴力に至る前の小さな予兆や不適切な行為の段階でリスクを察知し、適切な対策を取ることができるかどうかも鍵となる。また、万が一性暴力に至ってしまった場合には、情報の隠蔽等をせず、各事業者内の規則等に則った厳格な対応・適切な情報の開示・報告を行うことが重要である。
4. 取り組みを進める際のポイント
これまで、こども性暴力防止法に求められる取り組みや伴うリスク等を解説してきた。ここでは、取り組みを進めるうえでの総合的なポイントを述べる。
(1)関連法令等も踏まえた総合的な枠組みとする
こどもへの性暴力や虐待防止に関しては、これまでも取り組みが進められてきている。教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(教員性暴力等防止法)、同法に基づく「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」によって、2023年4月から、文部科学省はこどもへの性暴力等によって教職員免許が失効した者の情報を「特定免許状失効者等に関するデータベース」として整備し、学校や幼稚園等において教職員を雇用する際に活用できることとなった。
これに倣う形で、児童福祉法等に基づく「保育士による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」等においても、こども性暴力の防止の取り組みを求めている。2024年4月からは、こども家庭庁が管理する「保育士特定登録取消者管理システム」に、性暴力等を行い保育士の登録を取り消された者の情報が登録され、保育士の雇用時等に活用することが義務付けられた。教員性暴力等防止法に基づく特定免許状失効者等に関するデータベースの対象となるのは、こども性暴力防止法でいう法定事業者のみだが、児童福祉法に基づく保育士特定登録取消者管理システムについては、認可外保育施設等の任意事業者も含まれている。
また、2025年10月1日には、保育所等の職員が虐待を発見した場合、自治体に通報し、通報を受けた自治体が事実確認やこどもの安全確保を行うことが定められた。この際、児童福祉法改正に伴い、「保育所や幼稚園等における虐待の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」が更新されているが、この中にも、こども性暴力防止法と重複する対応が含まれており、認可外保育施設や放課後児童クラブ等の任意事業者も対象とされている。
このように、こども性暴力を含む虐待に関しては、既に事業者に多くの取り組みが求められるようになっているため、今回のこども性暴力防止法への取り組みに関して、重複する部分もあれば、新たに個別対応しなければならない部分も存在している。定義として最も広い「虐待」を対象としている法令もある一方で、今回のこども性暴力防止法はそのうち「性暴力」に絞った取り組みを求めているためだ。こども性暴力防止法の取り組みを進める前に、今一度、各法令・ガイドライン等で求められる事業者としての取り組みの全体像を把握したうえで、事業所内の規程類や体制の効率的な整備を進めることが重要である。
(2)規程等のひな型は各事業者で必ずカスタマイズする
今回のこども性暴力防止法施行に伴い、こども家庭庁では「児童対象性暴力等対処規程」や「情報管理規程」のひな型等を参考として掲載している。ただし、これらはあくまで、こども性暴力防止法において求められる限定された内容である。これらをそのまま活用してしまうと、各事業者で保有する既存の規程との重複を整理しないまま規程の乱立を招く恐れがある。また、これら単体で使用してしまうと、その他法令等に従って必要な取り組みが抜け落ちてしまう可能性があることが大きな問題である。
「行政等から求められる都度、必要になる都度に規程を作っていたら、社内規程が乱立してしまった」という悩みは、実際に弊社でもよく受ける相談の一つである。個別の法律、個別の要請に一つ一つ従っていくのではなく、「関連する法令や社会的な要請等を総合的に見てどういった取り組みが必要か」を整理した上で、規程を体系的に整備することが重要だ。
例えば情報管理についても、こどもに関連する業務を行う事業者であれば、既に個人情報保護法に基づく規程等を策定している場合もあるだろう。その場合、こども家庭庁が提示する情報管理規程のひな型をそのまま使用するのではなく、こども性暴力防止法に基づいて必要な対応を、既存規程に書き加えて改訂することが望ましい。
5. 終わりに
少子化が急速に進み、地域によっては保育所の定員割れが起こったり、民間教育事業者においても減っていく顧客の取り合いが激化する等、こどもを取り巻く事業者は「選ばれる」ための努力が不可欠になっている。こども性暴力は当然あってはならないことであり、事業者としてもこれまでもそれぞれ努力をしてきたものの、それが行政からのお墨付きを得られる制度となったのがこのこども性暴力防止法である。
これまで述べてきた通り、ガイドラインで求められる取り組みは幅広く、相当な負荷がかかるものではあるが、こども性暴力に対して前向きに取り組む事業者として認められることは大きなメリットでもある。本稿が、認定取得に向けた一助となれば幸いである。
参考情報
執筆コンサルタント
野村 幸代
ビジネスリスク本部 主席研究員
専門分野:リスクマネジメント、危機管理、BCP
製造、エネルギー、運輸、サービス、病院・社会福祉施設等幅広い業界において、リスクマネジメント・危機管理、災害事故対応や事業継続分野でのコンサルティングを実施し、体制整備、マニュアル作成や教育訓練等のソリューションを提供。
脚注
| [1] | こども性暴力防止法においては、「児童等」という言葉が使用されているが、本稿ではわかりやすいよう「こども」と記載する。なお、「児童等」は同法上、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(令和三年法律第五十七号)第二条第二項に規定する児童生徒等」「学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第百十五条に規定する高等専門学校の第一学年から第三学年まで又は第三項第一号ロに規定する専修学校に在学する者」と定義されている。 |
| [2] | 本稿は、2026年8月14日時点でこども家庭庁のホームページに掲載されている情報を踏まえている。 こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)|こども家庭庁 |
| [3] | ただし、ボランティアベースで運営されている団体等では機微な情報管理等が難しいと想定されることから、一定規模の組織であることが必要とされている。 |
| [4] | こども家庭庁ホームページより |
| [5] | 成人に対するものを含む、不同意わいせつ、不同意性交、盗撮、未成年淫行、児童買春、児童ポルノ所持、痴漢等の性犯罪歴が対象となる。 |
| [6] | 急な欠員等でやむを得ず間に合わない場合については、「いとま特例」が認められ、業務従事開始から3カ月以内(一部事情については6カ月以内)に性犯罪歴確認を行えばよいとされている。ただし、その期間も児童と1対1で対応させない等の対応を行う必要がある。 |


