令和8年版交通安全白書(特集:第12次交通安全基本計画) から読み解く事故防止のポイント ~ICT・AIを活用した予防型安全マネジメントへの転換~
2026/9/8
目次
- 第12次交通安全基本計画の概要
- 近年の交通事故の状況
- 企業及び管理者等が取り組むべき予防型安全マネジメント
- 企業向け事故防止ロードマップ
令和8年版交通安全白書(特集:第12次交通安全基本計画) から読み解く事故防止のポイント ~ICT・AIを活用した予防型安全マネジメントへの転換~ - Tokio-dR EYEPDF
執筆コンサルタント
塩入英明
運輸・モビリティ本部 エキスパートリスクコンサルタント
専門分野:社用車の事故分析、ドラレコ活用事故削減
はじめに
令和8年6月に公表された「令和8年版交通安全白書」※1では、令和7年の交通事故発生状況とともに、「第12次交通安全基本計画(計画期間:令和8~12年度)」※2が特集として取り上げられた。交通事故死者数は長期的には減少傾向にあり、令和7年は2,547人と昭和45年の6分の1以下となったものの、第11次交通安全基本計画の目標は達成されなかった。特に、高齢者が関与する事故や歩行者・自転車利用者が被害者となる事故の割合が増加するなど、新たな課題が顕在化している。
企業活動において交通事故は、人命に関わるだけでなく、損害賠償や社会的信用の低下等を通じて事業継続にも影響を及ぼす経営リスクである。また、運転者の高齢化や人材不足が進む中、従来の教育や経験則に依存した安全管理には限界が生じつつある。一方で、ドライブレコーダーやAIを活用した運転行動分析等の普及により、事故リスクの可視化や予兆把握が可能となり、事故を未然に防止するための環境が整いつつある。今後は、人の注意力だけに依存するのではなく、ICT・AIを活用した「予防型安全マネジメント」への転換が重要となる。
本稿では、第12次交通安全基本計画の概要と近年の交通事故の特徴を整理するとともに、企業及び管理者等が取り組むべきICT・AI時代の事故防止対策を考察する。あわせて、3か年事故防止ロードマップを示し、組織的かつ持続的な交通安全活動の方向性を提言する。
1.第12次交通安全基本計画の概要
(1)計画策定の背景
交通安全基本計画(以下「基本計画」)は、交通安全対策基本法に基づき5年ごとに策定される我が国の交通安全施策の基本方針である。昭和46年度に第1次基本計画が策定されて以来、継続的に見直しが行われてきた結果、交通事故死者数は大幅に減少したものの、高齢化の進展や交通形態の多様化により、交通安全を取り巻く状況は大きく変化している。
第12次基本計画(計画期間:令和8~12年度)は、これまでの取組の成果を踏まえつつ、新たな時代に対応した交通安全対策の方向性を示すものとして、令和8年3月に策定された。
(2)基本理念
第12次基本計画の基本理念は以下の3点に整理できる。
- 交通事故のない社会を目指す
交通事故死者数は減少しているものの、依然として毎年多くの尊い命が失われている。基本計画では人命尊重の理念に基づき、究極的な目標として「交通事故のない社会の実現」を掲げている。
- 人優先の交通安全思想
歩行者、自転車利用者、高齢者、こども等、交通弱者の安全を最優先に考える理念である。特に、歩行者保護の重要性が強調されている。
- 少子高齢化社会に対応した安全な交通社会の構築
人口減少や高齢化が進展する中、誰もが安全に移動できる交通社会、さらに、年齢や障がいの有無等に関わりなく安全・安心に暮らせる共生社会を構築するとしている。
(3)数値目標
究極の目標は、「交通事故のない社会を実現すること」であるが、まずは死者数及び重傷者数をゼロに近づけることを目指し、第12次基本計画では、数値目標が設定されている(表1)。この目標は、第11次基本計画で達成できなかった反省を踏まえつつ、さらなる交通安全の推進を図るために設定されたものである。
| 項 目 | 第12次基本計画の目標 (令和12年までに) |
【参考】第11次基本計画の目標 (令和7年までに) |
【参考】令和7年 実数値 |
| 交通事故死者数 | 1,900人以下 | 2,000人以下 | 2,547人 |
| 同 重傷者数 | 20,000人以下 | 22,000人以下 | 27,563人 |
(4)重点的に取り組む視点
第12次基本計画では、今後の交通安全の推進において重視すべき視点として、次の事項を挙げている。
|
これらは従来の「交通事故防止」だけでなく、「交通弱者の保護」・「先進技術の活用」・「地域との連携」という新たな方向性を示している。
2.近年の交通事故の状況
(1)全体傾向
令和7年の交通事故発生件数は287,023件、交通事故死者数は2,547人、重傷者数は27,563人であった(図1)。死者数は過去最悪であった昭和45年の16,765人と比較して大幅に減少しているものの、第11次基本計画で掲げた目標の達成には至らず、依然として高い水準で推移している。交通事故発生件数についても、減少しているとはいえ、「交通事故のない社会の実現」には大きな隔たりがある。

図1 道路交通事故による交通事故発生件数・死者数・負傷者数・重傷者数の推移※1
(2)高齢者の交通事故
近年最も注目されている課題の一つが高齢者事故である。令和7年の交通事故死者全体に占める65歳以上の割合は55.9%であり、半数を超えている。昭和46年の割合が16.3%であったことを考えると、高齢化の進展が交通事故の構造を大きく変えていることが分かる(図2)。
高齢運転者による事故では、ハンドル操作不適、ブレーキ・アクセルの踏み違いが主な要因として挙げられている。
企業においては、高齢運転者の雇用が進む中、教育に加え、運転適性の把握、健康管理、定期的な運転診断、先進運転支援システム(以下「ADAS」)の活用等、より実効性の高い対策が求められる。

図2 年齢層別交通事故死者割合の推移※1
(3)こどもの交通事故
第12次基本計画では、こどもの安全確保が重要な視点として位置づけられている。
歩行中の法令違反等別交通事故死者・重傷者割合(図3)を見ると、未就学児及び小学生の「飛び出し」が大きな割合を占めている。
企業の運転者は、通学路や住宅街を走行する際、特に、速度の抑制や飛び出しを予測した運転に努める必要がある。

図3 歩行中の法令違反等別交通事故死者・重傷者割合※1
(4)歩行者の交通事故
令和7年の交通事故死者のうち、歩行中の死者割合は全体の34.9%を占めており、最も高い(図4)。主な事故類型としては、横断歩道以外横断中及び横断歩道横断中が多い(図5)。
歩行者保護は、第12次基本計画の中核的な課題である。企業においては、横断歩道手前での減速、歩行者優先の徹底等について改めて教育し、歩行者優先の安全文化を定着させる必要がある。

図4 状態別交通事故死者割合の推移※1

図5 歩行者の事故類型別交通事故死者数・重傷者数※1
(5)自転車の交通事故
自転車乗用中の交通事故死者数の割合は、高齢者が高いほか、中学生においては、状態別死者・重傷者のうち、自転車乗用中が約7割を占める。
自転車の交通事故においては、自転車利用者側に法令違反が認められる事例も多く、法令違反別の事故要因として、安全運転義務違反、交差点安全進行義務違反、一時不停止が挙げられる(図6)。
企業の運転者は、自転車利用者の予測困難な行動を想定した防衛運転に努める必要がある。

図6 自転車乗用中の法令違反別交通死亡事故・重傷事故の件数※1
(6)高速道路の交通事故
高速道路の事故は、発生件数こそ一般道路より少ないものの、死亡事故率は2.2%であり、一般道路の約3倍となっている。高速道路の事故は、発生した場合の被害が大きく、死亡事故等の重大事故につながりやすい。
事故類型別では、追突が約7割と大半を占め、主な事故要因は、前方不注意、動静不注視、安全不確認である(図7)。これらの背景として、集中力低下、睡眠不足、疲労の蓄積が考えられる。
社用車を保有する企業においては、車間距離の確保や疲労運転の防止に加え、ADAS等の先進安全技術を活用しながら、高速道路における事故防止対策を推進することが求められる。

図7 高速道路における事故類型別・法令違反別交通事故件数※1
3.企業及び管理者等が取り組むべき予防型安全マネジメント
第2章で見たように、近年の交通事故は高齢者事故、歩行者・自転車事故、高速道路における重大事故等、多様な課題を抱えている。また、企業においては運転者の高齢化や人材不足が進んでいるほか、従来の教育や経験則に依存した安全管理だけでは、事故リスクを十分に把握し事故防止につなげることが難しくなっている。
特に、事故発生後の表層的な原因分析や一律的な教育だけでは、個々の運転者が抱える事故リスクや事故予兆を早期に把握することが難しいため、より効果的な事故防止対策が求められる。
一方で、ICTを活用したeラーニング、AIを活用したドライブレコーダーや運転診断、ADAS等の普及により、運転実態や事故リスクを客観的なデータとして把握し、安全対策に活用することが可能になっている。企業においては、従来実施してきた教育や安全管理・労務管理に加え、ICT・AI・ADAS等の先進技術を活用した予防型安全マネジメントを推進していくことが重要である。
(1)安全管理体制の構築・継続的改善
第12次基本計画では、交通事故を減少させるためには関係者の参加・協働による取組が重要であるとしている。企業においては、この考え方を踏まえ、交通事故防止を運転者個人の責任に委ねるのではなく、組織的な安全管理の仕組みとして構築する必要がある。
そのためには、経営トップによる安全方針の表明、安全管理の責任者や担当部門の明確化、安全会議の開催、事故情報の共有等を通じて、PDCAサイクルによる継続的な改善を実施することが重要である。また、企業においては、近年のデジタル技術の進展を踏まえ、安全活動の実施状況や事故情報を効率的に管理するとともに、ICTを活用した安全マネジメントを推進することが求められる。
取組例としては、安全会議を定期的に開催し、事故情報・ヒヤリ・ハット情報を共有するとともに、事故原因の分析や再発防止策の検討を行うことが挙げられる。また、事故情報・ヒヤリ・ハット情報、安全会議・安全教育の実施状況をシステム上で記録・集計し、安全目標の達成状況や事故発生傾向を定期的に確認することで、PDCAサイクルによる継続的な改善につなげることができる。
(2)運転者教育と安全文化の醸成
交通安全教育は事故防止の基本であり、企業には運転者に対する継続的な教育と指導が求められる。特に、高齢運転者や事故惹起者に対する重点的な教育・指導、ヒヤリ・ハット事例を活用した危険予測訓練(KYT)等は有効である。
また、近年は外国人運転者の増加も見込まれていることから、多言語教材や映像教材を活用した教育を充実させ、日本の交通ルールや運転マナーへの理解を促進することも重要である。
企業においては、ICTを活用したeラーニングや運転診断システム等を導入することで、教育の実施状況や理解度を把握し、継続的な安全意識の向上を図ることができる。安全文化を醸成するためには、こうした教育を単発で終わらせるのではなく、継続的な啓発活動として定着させることが重要である。
取組例としては、ドライブレコーダー映像を活用した安全教育が挙げられる。実際に自社で発生したヒヤリ・ハット映像や危険場面を教材として共有することで、一般的な交通安全教育よりも当事者意識を高めることができ、危険予測能力の向上につなげることができる。
(3)健康起因事故・過労運転の防止
疲労の蓄積や健康状態の悪化が関係する交通事故は少なくない。このため企業は、「交通労働災害防止のためのガイドライン」※3を踏まえ、適切な労務管理を実施する必要がある。
具体的には、労働時間の管理、休憩時間の確保、適切な睡眠時間の確保、健康診断・保健指導の実施等を通じて、過労運転を防止しなければならない。
また近年は、健康管理システムやクラウド型の記録管理ツール等を活用することで、健康診断結果の管理や再検査受診状況の把握が容易になっている。健康起因事故を防止するためには、ICTを活用しながら健康リスクを継続的に把握・管理することが重要である。
取組例としては、健康診断結果、労働時間、運転時間、点呼時の体調等をシステム上で一元管理し、健康リスクの高い運転者を早期に把握する仕組みの構築が挙げられる。これにより、運転者の健康状態を継続的に把握し、産業医面談や勤務計画の見直しにつなげることで、健康起因事故や過労運転の防止を図ることができる。
(4)運転前後の確認と健康管理の高度化
運転前後の体調確認や酒気帯びの有無の確認は、安全な運転を確保するための重要な取組である。企業は、これら運転前後の確認や適切な健康管理を通じて、事故リスクの低減を図る必要がある。
特に運輸事業者においては、遠隔点呼や自動点呼等の活用により、運行管理者の負担軽減を図りつつ、点呼品質の向上を図ることが重要である。これらのICTを活用した点呼は、単なる業務効率化ではなく、安全管理レベルを向上させるための有効な手段となり得る。
運輸事業者における取組例として、複数の事業所や拠点を有する企業においては、遠隔点呼を活用することで、夜間や早朝の点呼業務の効率化に加え、事業所間における点呼品質のばらつきを抑制し、点呼内容の標準化や安全管理レベルの向上につなげることができる。また、自動点呼は、遠隔点呼と同様に点呼品質の確保に有効であるほか、点呼業務の一部を自動化することにより、運行管理者の業務負担をさらに軽減できる点に特徴がある。
(5)データ活用による事故リスクの可視化
第12次基本計画では、データの利活用に基づく事故防止対策の重要性が示されている。企業においても、事故発生後の対応にとどまらず、事故リスクを把握し事故の未然防止につなげる取組が求められる。
そのためには、次のような記録やデータ等(括弧内は主な活用事例)を活用し、事故傾向や危険運転の特徴を分析することが重要である。これらを活用することで、危険地点の把握、重点的な教育・指導が必要な運転者の抽出、事故原因の分析等が可能となり、より効果的な事故防止対策につなげることができる。
|
取組例としては、事故情報やドライブレコーダー映像等の分析結果を活用し、事故や危険挙動が発生しやすい地点や時間帯を抽出する取組が挙げられる。その結果を基に危険地点マップを作成し、注意喚起に加えて重点的な教育・指導を実施することで、同様な事故の再発防止や事故リスクの低減につなげることができる。
(6)ICT・AI・ADASを活用した予防型安全マネジメント
事故防止対策においては、事故発生後の原因分析による再発防止策だけでなく、事故リスクを事前に把握し、未然に防止する取組が重要である。ドライブレコーダーの普及により、危険場面や個々の運転挙動を把握し、安全教育や指導に活用することが可能となった。しかし、事故につながる危険挙動の予兆や、その背景にある運転者の行動特性を把握するという点では必ずしも十分ではなかった。
こうした課題を解決し、予防型安全マネジメントを実現する手段として、近年ではICT・AI・ADASを活用した次のような取組が広がっている。
|
ICTの活用により、安全運転教育の実施方法は大きく変化しつつある。例えば、クラウド型ドライブレコーダーを活用することで、管理者は複数の運転者の運転状況を一元的に把握することが可能となった。また、eラーニングの普及により、安全運転教育を容易に全運転者に展開し、継続的かつ効率的に実施できる環境も整ってきている。
加えて、AIの活用により、ドライブレコーダーや運転支援システムは進化し、急加速や急減速、急ハンドル等の危険挙動の自動抽出に加え、車内カメラ映像を活用した居眠りの兆候や脇見運転、運転者ごとの行動傾向分析等も可能となってきている。
取組例としては、ドライブレコーダーの映像解析及び急加速、急減速、一時停止不履行等の危険挙動抽出により、運転者ごとの傾向分析を行うことが挙げられる。これにより、事故が発生する前の段階で重点的な教育・指導が必要な運転者を把握できるようになり、事故後対応型から予防型の安全管理への転換につなげることができる。
また、VRを活用した安全運転教育では、運転者目線の映像を用いて安全確認行動を評価し、「どのタイミングで、どこを確認したか」を可視化することが可能である。従来の座学や映像視聴だけでは把握が難しかった運転者の安全確認の癖や見落とし傾向を客観的に評価できるため、より実践的な教育や指導につなげることができる。さらに、教育結果を数値化・評価することで、教育効果の確認にも活用することが可能である。
一方、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報装置、ドライバー異常時対応システム等のADASといわれる先進安全技術は、ICT・AIによるリスクの分析・予測とは役割が異なる。これらは運転者の見落としや判断ミスを補完し、事故の回避や被害軽減を図るための技術であり、ヒューマンエラーによる事故の防止に有効である。
このような取組は、「事業用自動車総合安全プラン2030」※4においても示されている。同プランでは、運転者の不足・高齢化等の環境変化を踏まえ、ICT・AIや先進安全技術を活用した事故防止対策の推進、安全管理の高度化、データ活用の強化が重要な施策として掲げられている。企業においても、これらの技術を積極的に活用し、事故発生後の対応から事故の未然防止へと安全管理を発展させていくことが求められる。
このように、ICT・AIを活用したAI搭載ドライブレコーダーや運転行動分析システムの普及により、従来は管理者が把握できなかった危険挙動、事故予兆、安全確認行動等を客観的に把握できるようになってきている。また、ADASの活用により、ヒューマンエラーが事故につながるリスクを低減することも可能である。今後の企業の安全管理においては、ICT・AIによる「分析・予測・可視化」とADASによる「事故回避・被害軽減」を組み合わせた取組が重要になると考えられる。
ここでもっとも重要なことは、ICT・AIの技術によって得られた情報を活用し、運転者一人ひとりの特性や課題に応じた教育・指導を実施することである。ICT・AIは管理者による教育や指導に置き換えられるものではない。より効果的な教育・指導を実現するための手段として活用することで、その効果を発揮するのである。
【参考】 ICT・AIの普及により実現可能となった安全管理の例
従来は、管理者が運転状況を十分に把握することは難しく、事故発生後の対応となることも少なくなかった。
しかし、ICT・AIが普及したことにより、これまで困難であった次のような安全管理が可能となってきている。
|
|||||||||||
企業の安全管理は、「経験と勘に頼る管理」から、ICT・AIを活用した「データに基づく予防型マネジメント」へと進化しつつある。
(7)交通弱者保護と多様な運転者への対応
第12次基本計画では、高齢者、こども、歩行者、自転車利用者等の交通弱者を保護することが重要な課題として位置付けられている。企業においては、歩行者優先意識の徹底、自転車利用者への配慮、安全確認の励行等を通じて、交通弱者を守る運転を実践する必要がある。
また近年は、運転者の高齢化及び運転者不足への対応として、外国人運転者の採用が進んでおり、多様な運転者に対応した安全管理の重要性が高まっている。特に外国人運転者については、運転技能そのものだけでなく、日本特有の交通ルールや交通慣行への理解を深めることが事故防止の観点から重要である。例えば、日本では住宅街や生活道路において歩行者や自転車利用者が車道付近を通行する場面も多く、横断歩道における歩行者優先も法令上強く求められている。このような交通環境や交通文化は国によって異なるため、外国人運転者に対しては、歩行者や自転車利用者への配慮、安全確認の方法等について、母国との違いを踏まえた教育を実施することが求められる。
そのため企業には、多言語教材や映像教材を活用した教育、採用時や経験の浅い運転者に対する重点的な指導、日本の交通ルールや危険箇所に関する実践的な教育等を継続的に実施することが求められる。また、ドライブレコーダー映像やAIを活用した運転行動分析の結果を活用することで、言語による説明だけでは伝わりにくい危険場面を視覚的かつ客観的に共有することが可能となる。ICT・AIの活用は、運転特性の把握や個別指導の高度化にも有効であり、多様な人材が安全に運転できる環境づくりにつながる。
取組例としては、歩行者や自転車との接触事故が発生しやすい住宅街や通学路を危険地点として選定し、ドライブレコーダー映像を活用した教育や危険地点マップの作成・活用を行うことが挙げられる。また、外国人運転者に対しては、多言語教材を活用し、日本の交通ルールや運転マナー、事故が発生しやすい場面での対応方法について理解促進を図ることも有効である。こうした取組は、交通弱者保護と多様な運転者の安全確保の両面に寄与する。
本章で示した対策は、それぞれが独立したものではなく相互に連携して機能するものである。企業が交通事故を継続的に減少させるためには、教育・管理に加え、ICT・AI・ADASの活用を組み合わせながら、安全マネジメントとして体系的に運用することが重要である。次章では、その実践的な指針として、3か年事故防止ロードマップを示す。
4.企業向け事故防止ロードマップ
企業が目指すべき姿は、「事故が発生してから対応する組織」ではなく、「事故が発生する前にリスクを把握し、未然に防止する組織」である。そのためには、安全管理の体制整備、人材教育、健康管理、データの収集・活用、ICT・AI・ADASの活用を段階的に推進し、安全管理レベルを高めていく必要がある。
そこで本章では、「3か年事故防止ロードマップ」を提言する。企業が目指すべき方向性は、教育・管理中心の安全活動から、ICT・AI・ADASを活用した予防型安全マネジメントへ進化することである。
(1)3か年事故防止ロードマップ
| 目 標 | 組織的な安全管理の基盤を構築し、事故防止に必要なデータを収集できる体制を整備する。 |
| 主な取組 |
|
| 到達目標 |
|
| 目 標 | 蓄積した事故情報や運転データを活用し、客観的な安全管理を実現する。 |
| 主な取組 |
※:事故件数、交通違反件数、危険挙動件数、教育受講率、健康診断受診率等 |
| 到達目標 |
|
| 目 標 | 事故発生後対応型から、事故予兆を管理する予防型組織へ転換する。 |
| 主な取組 |
|
| 到達目標 |
|
(2)企業規模別の適用イメージ
企業規模によって導入速度や投資規模は異なるものの、ICT・AIを活用した予防型安全マネジメントは企業規模を問わず有効である。以下は企業規模(目安)に応じた取組例であり、企業が目指す方向性は共通である。
| 目 標 | 基本的な安全管理の定着とICT活用による管理効率化(管理の省力化) |
| 重点施策 |
|
| 期待される効果 |
|
| 目 標 | データを活用した客観的な安全管理の実現(分析の高度化) |
| 重点施策 |
|
| 期待される効果 |
|
| 目 標 | AI・データを活用した全社的な予防型安全マネジメントの実現(全社最適化) |
| 重点施策 |
|
| 期待される効果 |
|
(3)考 察
第12次基本計画の特徴は、従来の「人」・「道路環境」・「車」の三要素に加え、データや先進技術の活用を通じた事故防止対策を重視している点にある。
近年の事故防止対策は、ドライブレコーダー、ICT・AI・ADAS等の普及により、事故発生後の対応のみでなく、事故リスクを事前に把握し、未然防止につなげる取組が広がりつつある。
企業では、「教育を実施しても効果測定が難しい」、「ヒヤリ・ハットが報告されない」、「管理者が運転実態を客観的に把握できない」等の課題を抱えている。これまでも教育やドライブレコーダー映像を活用した安全活動を実施してきたものの、人材不足や高齢化が進む中では、より効率的かつ効果的な安全管理手法が求められている。
そこで重要となるのが、ドライブレコーダー、各種データ分析システム、AIを活用した運転行動分析ツール等による安全管理である。ICT・AIを活用することで、危険運転の自動抽出、事故リスクの予兆把握、個々の運転特性に応じた安全教育、運転前後の確認(体調・酒気帯びの有無)の実施状況の管理、管理者負担の軽減が可能となる。
また、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報装置等のADASは、運転者の見落としや判断ミスを補完し、事故の回避や被害軽減に寄与する。今後は、ICT・AIによる分析・予測とADASによる事故回避・被害軽減を組み合わせることで、より実効性の高い事故防止対策を実現することができる。
事故防止対策は、「できることをやる時代」から「今までできなかったことを技術によって実現できる時代」へと移行しつつある。今後は、ICT・AIによるデータ利活用やADASを取り入れながら、安全管理の高度化と安全文化の定着を図ることが重要であり、このことが事故防止のみならず企業競争力の維持・向上にもつながると考えられる。
おわりに
令和8年版交通安全白書及び第12次交通安全基本計画から読み取れる企業・管理者の役割は、「組織として事故を防ぐ」、「人の行動を変える」、「技術とデータで補う」の3点に集約される。
企業は安全管理体制を構築し、運行管理や労務管理を適切に行うとともに、教育・指導や健康管理を通じて運転者の安全意識と安全行動の定着を図ることが重要である。
一方、近年はICT・AI・ADASの進展により、これまで把握が難しかった危険運転や事故の予兆を可視化し、安全管理に活用することが可能となってきた。これらの技術を活用することで、人材不足や高齢化が進展する中にあっても、管理者の負担軽減と事故防止対策の高度化を両立できる可能性がある。
今後企業には、人による教育・管理とICT・AIによる分析・予測、さらにはADASによる事故回避・被害軽減を組み合わせた予防型安全マネジメントへの転換が求められる。交通安全は単なる法令遵守ではなく、企業の持続的成長を支える重要な経営基盤である。
本稿で示した事故防止対策及び3か年事故防止ロードマップが企業における交通安全活動推進の一助となれば幸いである。
参考情報
執筆コンサルタント
塩入英明
運輸・モビリティ本部 エキスパートリスクコンサルタント
専門分野:社用車の事故分析、ドラレコ活用事故削減
脚注
| ※1 | 内閣府「令和8年版交通安全白書(特集:道路交通の安全確保に向けた新たな挑戦 ー第12次交通安全基本計画の策定ー)」(令和8年6月) https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r08kou_haku/index_zenbun_pdf.html |
| ※2 | 中央交通安全対策会議「第12次交通安全基本計画」(令和8年3月27日) https://www8.cao.go.jp/koutu/kihon/keikaku12/pdf/kihon_keikaku.pdf |
| ※3 | 厚生労働省「交通労働災害防止のためのガイドライン」(平成30年6月1日) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/koutsuu-guideline_h30.pdf |
| ※4 | 国土交通省「事業用自動車総合安全プラン2030」(令和8年3月31日) https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/news/data/anzenplan2030/2030.pdf |
PDFファイルダウンロード
令和8年版交通安全白書(特集:第12次交通安全基本計画) から読み解く事故防止のポイント ~ICT・AIを活用した予防型安全マネジメントへの転換~PDF
