サステナビリティ開示と企業価値の接続の現状~その開示は、企業価値につながっているか?~

Tokio dR-EYE

2026/8/6

目次

  1. 制度が求める「つながり」と「資本配分」
  2. 開示から企業価値までの6段階
  3. 接続の状況の調査結果
  4. 自社開示の自己点検
  5. 企業価値への接続に向けて

サステナビリティ開示と企業価値の接続の現状 - Tokio-dR EYEPDF

執筆コンサルタント

身崎 成紀
ビジネスリスク本部サステナビリティユニット 上級主席研究員
専門分野:サステナビリティ情報開示、ESG評価、気候変動、自然資本

 

20273月期よりSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準の適用義務化がスタートし、有価証券報告書において同基準に沿ってサステナビリティ情報を開示することが求められるようになる。あわせて20267月には、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が5年ぶりに改訂され、20277月末までに改訂CGコードに基づくコーポレートガバナンス報告書を提出することが求められる。

これらの制度改正は、実務の現場では「開示の負担が増える」という文脈で受け止められることが多い。確かに対応の負担は小さくない。ただ、より本質的な変化は別のところにあると考えられる。開示が標準化されると、「開示しているかどうか」自体では企業間の差がつきにくくなる。各社が同じ枠組みで、同じ項目を開示するようになるためである。

とはいえ、制度改正によって企業間の競争がなくなるわけではない。むしろ制度の側が、次に問われる論点を示しているように見える。それは、開示した情報が企業価値にどのようにつながっているか、という点である。本レポートでは、この「つながり(接続)」を軸に、上場企業の開示情報を調査・分析した結果を報告する。

【要旨】

  • 開示の様式はSSBJで標準化される。開示していること自体は、差別化の要因になりにくくなる。
  • 制度(開示・ガバナンス)と投資家は、いずれも「サステナビリティと財務のつながり」「資本配分」「実装の証拠」を求めている。
  • 企業の開示状況を調べてみると、サステナビリティ課題の認識や戦略については開示されている一方、資本配分・役員報酬・財務への反映といった段階で、情報のつながりが断絶するケースが散見された。

1.制度が求める「つながり」と「資本配分」

(1) 開示の制度:SSBJが求める「結合性」

SSBJ基準は、国際的なISSB基準(IFRS S1S2)と整合する形で策定されている。段階適用は時価総額の大きい企業から始まり、対象は順次拡大していく見込みである。有価証券報告書という法定開示のなかで、財務情報と並べてサステナビリティ情報を開示する、という形式変化は、サステナビリティを従来の独立した領域から、経営情報として扱う位置づけへと移すものといえる。

基準の中心には、「結合性(connectivity)」という考え方が置かれている。これは、サステナビリティ関連のリスク・機会と財務諸表とのつながりや、開示項目どうしのつながりを示すことを求めるものである。制度の側が、情報の「つながり」を明示的に求め始めた点は、実務上押さえておきたい。

(2) ガバナンスの制度:CGコード改訂と取締役会の「資本配分」責務

CGコードの改訂は、原則の数を絞り込む「スリム化」の形をとっている。ただし、改訂の趣旨はあくまで対応の実質化にあり、コード自体の重要性が低下したわけではない。改訂CGコードは明示的に、スリム化を「対応コスト・開示負担の軽減のみを意図したものではない」と述べており、削除・移管された記載についても引き続き実質的な対応が期待されている[1]

むしろ、取締役会によるサステナビリティ監督の責務が明確化され、経営資源の配分(資本配分)に関する規律も改めて問われている。サステナビリティは、取締役会が監督し、資本配分の意思決定として扱うべき経営課題として位置づけられつつある。また、経営陣の報酬についても、中長期的な企業価値の向上につながるよう適切なインセンティブ付けを行うことが求められており、非財務指標の組み込みはその有力な手段の一つとして位置づけられる。ただし、改訂CGコードは非財務指標の組み込みを一律に義務づけるものではなく、各社の状況に応じた設計が前提となっている点には留意が必要である。

背景には、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」の要請がある。ここで問われているのは、掲げた目標に対して、実際にどれだけの資本を配分したのか、という点である。これは、後述するつながりの6つの段階の「③資本配分」に対応する。

(3) 投資家:宣言から実装の証拠へ

投資家の側の要求も変化している。アセットオーナー・プリンシプルの策定、スチュワードシップ・コードの改訂、議決権行使基準の厳格化などに共通するのは、宣言や体制図ではなく、実装の証拠を確認しようとする姿勢である。目標を掲げたかどうかではなく、その目標が資本配分や役員報酬、KPI・実績にどう反映されているか、あるいは、掲げた内容と実際の行動が一致しているか、といった点が、以前より重視されるようになっている。

投資家の周辺では、ESG評価機関の評価の視点にも変化が見られる。近年は、方針や体制を宣言しているか否かよりも、それが実効的に運用されているか、検証されたデータで裏づけられているかを問う傾向が強まっている。例えば、業種ごとに財務的な重要性の高い論点へ配点を厚くする、ガバナンスの実効性を問う設問を加える、GHG排出量の削減実績を重視する、といった動きである。これらは、宣言よりも実装の証拠を見るという投資家全体の傾向とも一致している。

開示の制度は情報の「つながり」の標準化を、ガバナンスの制度は「資本配分」の規律を、投資家は「実装の証拠」を求めている。それぞれ切り口は異なるが、突き詰めると同じ問いに行き着く。すなわち、その開示は企業価値につながっているか、という点である。

図1 制度・投資家の要求

図1 制度・投資家の要求

出典:弊社作成

2.開示から企業価値までの6段階

(1) 「企業価値」と「つながっている状態」の定義

本題に入る前に、二つの言葉を整理しておきたい。一つは「企業価値」である。ここでいう企業価値とは、株価そのものを指すのではなく、企業が事業を通じて将来生み出すと見込まれる価値の総体を指す。財務の分野では、将来のキャッシュフローの現在価値として推計・説明されることが多い。

もう一つは「つながっている(接続している)状態」である。本レポートでは、サステナビリティ課題への取組みが、次の三つを満たしている状態を、企業価値につながっている状態と呼ぶ。第一に、その取組みが事業の機会やリスク(売上の増加、コストの低減、リスクの回避など)に結びついていること。第二に、その実現に向けて、資本配分・役員報酬・KPIといった経営の仕組みに組み込まれていること。第三に、最終的に財務的な帰結として説明されていること。逆に、取組みは語られているものの、2つ目や3つ目が欠けている状態を、本レポートでは「断絶」と呼ぶ。

(2) 企業価値までの開示の流れ

サステナビリティ開示が企業価値に結びつくまでには、いくつかの段階がある。本レポートでは、これを6つの段階として整理する。①その課題を重要だと認識し、②具体的な戦略・取組に落とし込み、③そこに資本を配分し、④ガバナンスや役員報酬に組み込み、⑤KPIと実績で管理し、⑥最終的に財務・企業価値への影響として説明する、という流れである。これら6つは独立した項目ではなく、一続きの鎖と考えたほうがよい。どこか一つの段階で断絶すると、それより手前の段階がどれだけ充実していても、開示は企業価値の説明として完結しにくい。

図2 開示から企業価値までの6つの段階

図2 開示から企業価値までの6つの段階

出典:弊社作成

(3) 断絶の構造的把握

断絶を具体的にとらえるために、図3のような格子を用いて説明する。縦に、その企業が重要と位置づけるサステナビリティ課題(マテリアリティ)を並べ、横に、先ほどの6つの段階を並べる。すると「課題×段階」のます目ができる。それぞれのます目について、接続しているか、断絶しているかを確認していく。

このような見方をすると、断絶には二種類あることが分かる。一つは「点」で、格子のなかの個々のます目の断絶である。もう一つは「面」で、ある一つの段階(格子の縦の列)において、多くの課題がまとまって断絶している状態である。例えば図3のように、「段階③資本配分」の列がほとんどの課題で断絶していれば、その企業は資本配分の段階に系統的な弱さを抱えていることになる。面は複数の段階にまたがるものではなく、一つの段階が課題を超えて広く断絶している状態を指す。この列単位の断絶が、その企業に特徴的な傾向、いわば「型」として表れる。

図3 企業における「点」と「面」での断絶のイメージ

段階
課題
①認識・特定 ②戦略・取組 ③資本配分 ④ガバナンス・報酬 ⑤KPI・実績 ⑥財務・企業
価値への反映
気候変動 ×
自然資本 × ×
人的資本

面で断絶

点で断絶

出典:弊社作成

(4) 制度の要求と6段階の対応

ここまでの6つの段階は、独自に考案した特別な物差しではない。制度・投資家が求め始めていることを、開示から企業価値までの流れに沿って整理し直したものである。表1のとおり、それぞれの要求は、この流れの各段階に対応している。この意味で本調査は、制度・投資家が問い始めている「つながり」を物差しとして、企業の開示のどこに断絶があるかを可視化する試みである。

1 外部からの要求と、6つの段階の対応

制度・投資家の要求 出所 対応する段階
つながり(結合性) SSBJ/IFRS 全段階(①→⑥)
経営資源配分(資本配分) 改訂CGコード 段階③資本配分
取締役会の責務・報酬への統合 改訂CGコード 段階④ガバナンス・報酬
実装の証拠(KPI・実績・言行一致) スチュワードシップ/議決権 段階⑤KPI・実績
段階⑥財務・企業価値への反映

出典:弊社作成

(5) 断絶の3類型

面として表れる断絶は、大きく三つの型に整理できる。一つ目は「定量化断絶型」で、KPIなどで測ってはいるものの、それが売上・利益・コストといった財務の言葉に翻訳されていない状態である(主に⑥)。二つ目は「配分断絶型」で、掲げた目標に対して、資本配分や役員報酬が伴っていない状態である(主に③④)。三つ目は「検証断絶型」で、目標と実績が食い違ったまま説明がない、あるいは目標の撤回・引き下げ・範囲変更が理由の説明なく行われている状態である(主に⑤)。なお、目標を変更すること自体が問題なのではなく、その変更が説明されていないことが問題である。

(6) 断絶の問題と接続の意義

では、接続が断絶していると、経営にとって何が問題なのだろうか。裏を返せば、つなげることにどのような意味があるのだろうか。それらは大きく二つの観点から整理できる。

一つは、外部からの評価の観点である。取組みが財務的な帰結として説明されていないと、投資家はそのサステナビリティ投資を企業価値の見立てに反映しにくい。結果として、企業がコストをかけて開示しても、それが資本コストの低下や、投資家との建設的な対話につながりにくい。前章で触れたとおり、議決権行使やエンゲージメント、ESG評価の基準も、宣言だけでは評価されにくい方向に動いている。逆に、接続を示せれば、同じ取組みであっても、企業価値の説明材料として受け取られやすくなる。実際、統合報告書の質を評価する取組み(運用機関による選定など)でも、戦略・ガバナンス・実績・見通しのつながり(いわゆる価値創造ストーリー)が、中核的な評価軸になっている。

もう一つは、内部の経営管理の観点である。接続を示すという取組みは、外部への説明であると同時に、社内で資源配分の優先順位をつけ、進捗を管理するための規律にもなる。目標の達成に必要な投資額を金額で示す、役員報酬に非財務指標を組み込む、といった取組みは、経営として何にどれだけ資源を割くのかを決めることそのものだからである。この意味で、接続を示すことは、開示上の要点であると同時に、経営を実質的に機能させることでもある。

なお、統合報告や開示の質と、株主資本コストや企業価値評価との関連については、数多くの実証・分析が試みられている。サステナビリティ開示と財務価値の因果関係は断定できるものではないが、接続を示すことには、外部評価と内部管理の両面で意味があると考えられる。

3.接続の状況の調査結果

(1) 調査対象と全体傾向

弊社は、企業の20266月末時点の公表情報(有価証券報告書、統合報告書等)を用いて、上場企業42社を対象に、企業の開示における接続の状況を調査した。対象企業の選定にあたっては、製造業・非製造業をバランスよく組み入れることを意識した。また、統合報告書を発行している企業を対象としたため、結果として取組み・開示の水準が相対的に高い企業が含まれやすく、全上場企業の実態と比べて接続度がやや上振れている可能性がある点は留意されたい。対象企業の業種と規模の内訳は、表2-A・表2-Bのとおりである。なお、業種×規模のクロス表は、セルの社数が少数になり対象企業が推定されうるため作成していない。

2-A(左)業種(東証17業種区分)、 表2-B(右)規模(TOPIX規模別)

業種 社数
食品 6
建設・資材 6
鉄鋼・非鉄 6
機械 6
運輸・物流 6
商社・卸売 6
小売 6
42
規模区分 社数
大型株(TOPIX 100) 14
中型株(TOPIX Mid400) 14
小型株(TOPIX Small) 14
42

出典:弊社作成

42社に共通して見られたのは、次の傾向である。認識・特定と戦略・取組は、ほとんどの企業で開示され、接続している。一方で、資本配分、ガバナンス・報酬、財務・企業価値への反映といった段階になると、情報が断絶しているケースが多い。段階ごとの接続度を集計すると、その差ははっきりと表れる(図4)。

規模による違いも確認した。規模帯別に見ると、大型と中型の平均はほぼ同水準で、小型がやや低いものの、各帯の分布は大きく重なっていた。規模の大きい企業が接続度で明確に優れているとはいえず、接続の度合いは、規模よりも各社の経営への組み込み方に左右されると考えられる。

4 段階ごとの接続度42社の集計・計1,612判定セル※※

■	図4 段階ごとの接続度(42社の集計・計1,612判定セル)

接続度=Σ(接続 × 1.0+部分接続 × 0.5)÷ 判定セル
※※ 判定セル=企業数 × 段階数 × 各社のマテリアリティ数
出典:弊社作成

(2) 段階別接続度の構造

4の段階別の接続度をもう少し細かく見ると、断絶の構造がはっきりする。課題を認識する段階①(88%)と、戦略・取組を語る段階②(86%)は高い。指標を設定して測定する段階⑤も56%あり、半数程度の企業はここまで到達している。つまり多くの企業は、「認識し、戦略を語り、測定する」ところまではできている。大きく落ち込むのは、その取組みを経営の仕組みと財務に結びつける三つの段階、すなわち段階③資本配分(21%)、段階④ガバナンス・報酬(35%)、段階⑥財務・企業価値への反映(17%)である。開示の努力が、資本配分・役員報酬・財務の説明に結びつく手前で断絶している、といえる。

(3) 業種別の断絶傾向

次に、業種による違いを確認する。ただし、これはどの業種が優れていて、どの業種が劣っている、という話ではない。事業構造が異なれば、断絶しやすい段階も異なる、ということである。業種ごとの傾向を整理したものが表3である。なお、優劣や順位を示すものではないため、接続度のスコアは記載していない。

表3 業種別 接続が断絶しやすい段階

業種 事業構造上の特徴 断絶しやすい段階 業種内の傾向
食品 事業ポートフォリオの多様性が大きい 環境分野の課題は接続しやすく、社会分野の課題や資本配分で断絶しやすい。
建設・資材 労働安全のKPIは整備されている ④⑥ 労働安全KPIの先の財務・企業価値への反映や、役員報酬への反映で断絶しやすい。
鉄鋼・非鉄 装置産業で、技術と目標の記述が厚い 財務・企業価値への反映で断絶しやすい。取組みは測定されているが、その成果が財務に結びつけにくい。
機械 設備投資が生産能力の増強に直結 資本配分で断絶しやすい。サステナビリティ関連の投資が、設備投資の内訳に埋もれやすい。
運輸・物流 安全が経営の根幹で、資本まで接続 安全は資本配分まで接続しやすい。一方で、環境・社会分野の課題は財務・企業価値への反映が手薄になりやすい。
商社・卸売 トレーディング中心で、有形資産の切り出しが難しい ③④ 資本配分と役員報酬で断絶しやすい。資本配分の裏付けを数字で示しにくい。
小売 設備投資が店舗網に直結 資本配分で断絶しやすい。サステナビリティ関連の投資が、店舗網への投資に埋もれやすい。
段階①認識・特定、②戦略・取組、③資本配分、④ガバナンス・報酬、⑤KPI・実績、⑥財務・企業価値への反映

出典:弊社作成

(4) 資本配分・役員報酬における断絶の集中

42社を通じて最も多く見られた断絶は、資本配分とガバナンス・報酬に集中していた。具体的には、次のような断絶が業種を超えて繰り返し見られた。第一に、役員報酬に非財務指標が組み込まれていない、あるいは組み込まれていても指標名やウェイトが開示されず検証できない、というもので、これは多くの業種で共通して見られた。第二に、設備投資の内訳が事業区分(店舗、生産設備など)にとどまり、サステナビリティ関連の投資額が切り出されていない、というもので、店舗網や生産能力への投資が大きい業態で目立った。第三に、気候変動などのシナリオ分析を「実施した」と述べながら、その財務影響を金額で示していない、というもので、業種を超えて散見された。

これらは、いずれも制度が求める方向と重なっている。はじめの二つ(資本配分と役員報酬)は、改訂CGコードが取締役会に求める「資本配分」と「報酬・監督責務」に対応する。第三(シナリオ分析の財務影響を金額で示していないこと)は、財務・企業価値への反映の段階、すなわちSSBJが求める「サステナビリティ情報と財務情報の結合性(つながり)」に直接かかわる。シナリオ分析を実施しても、その財務影響を金額で示さなければ、財務情報との結合性は示せないからである。42社で多く見られた断絶の場所は、制度がこれから企業に求めていく論点と大きく重なっている。制度対応として取り組むべき課題がどこにあるのかを、42社の実態がある程度示しているといえる。

(5) 断絶の型と質的傾向

断絶を型で分類すると、資本配分・役員報酬で断絶している「配分断絶型」が最も多く、次いで財務・企業価値への反映で断絶している「定量化断絶型」が続いた。目標と実績が食い違う「検証断絶型」は、面(系統的な断絶)としては多くないが、個別の「点」としては業種を超えて散見された。KPIを設定して測定する段階()まではおおむね整備されているため、そこが系統的な断絶になることは少ない一方で、実績値を用いた説明に関する個別の問題は残る、という構造である。

今回の調査では、断絶の構造に加えて、二つの傾向も確認された。第一に、収益の柱となっている事業ほど、かえってサステナビリティ面の管理(資本配分・報酬・KPI)が手薄になっている場合があることである。第二に、目標に対する実績の悪化や、目標の引き下げ・撤回が、理由の説明なく行われている場合があることである。後者については、変更そのものではなく、説明がないことが、投資家との信頼関係を損ないやすい。いずれも、開示の分量からは見えにくく、段階ごとに接続を追って初めて見えてくる論点である。

4.自社開示の自己点検

ここまでの内容を自社にあてはめて確認できるよう、10問の自己点検を作成した。実際に試みると、例えば「Q1は該当するものの、Q2で止まる」といった気づきがあるのではないかと思われる。どの問いで止まるかが、自社の接続を強化すべき箇所を示している。

4 自己点検シート

問い 対応段階
Q1 最大利益セグメントの最重要課題を、その事業の言葉で語れているか ①②
Q2 競合に置き換えたら成立しない固有の記述が、どれだけあるか ①②
Q3 中計の重点施策とサステナビリティ開示が、同一のKPI・ストーリーで結ばれているか
Q4 SSBJ等への対応が基準準拠で止まらず、価値創造の説明まで踏み込めているか 全体
Q5 サステナビリティ目標の達成に必要な投資額が、中計・資本配分方針に金額で示されているか
Q6 ROE等の目標が資本コストを上回り、サステナビリティ投資もその物差しで説明されているか ③⑥
Q7 課題解決型の製品・サービスの売上規模や削減貢献量を、数字で示せているか
Q8 役員報酬に非財務(ESG)指標が、指標名やウェイトまで含めて組み込まれているか
Q9 主要KPIの実績・進捗を、未達や逆行も含めて開示しているか
Q10 目標の変更(撤回・引き下げ・範囲変更)を、理由と新たな達成経路つきで説明しているか
段階①認識・特定、②戦略・取組、③資本配分、④ガバナンス・報酬、⑤KPI・実績、⑥財務・企業価値への反映

出典:弊社作成

この自己点検は、断絶している箇所の見当をつけるところまでを目的としている。その先、断絶の原因を特定し解消に向けて取り組むことが、各社に求められる実践的な対応となる。

5.企業価値への接続に向けて

サステナビリティ開示をめぐる制度改正は、実務の現場では負担として受け止められることが多い。それは事実である。ただ、同じ枠組みで同じ項目を開示することが当たり前になれば、開示しているかどうかだけでは差がつかなくなる。そのときに残るのは、開示した内容が企業価値とどのようにつながっているかを説明できるかどうか、という点である。

具体的には、次の三点から取り組むことをおすすめしたい。

  • 自社の開示を、本レポートの6つの段階に沿って確認する。第4章の自己点検は、そのための出発点となる。
  • 「認識・戦略」は語れていても、「資本配分」「ガバナンス・報酬」「財務・企業価値への反映」で断絶していないかを、段階ごとに確かめる。多くの企業で断絶が集中していたのは、これらの段階であった。
  • 断絶している段階への対応を、SSBJCGコード改訂への対応と切り離して考えない。サステナビリティ目標に必要な投資額を金額で示す、役員報酬に非財務指標を組み込む、シナリオ分析の財務影響を金額で示す。これらは制度対応として求められていることであり、同時に接続を強化することにも直結する。

断絶の型によって、対応の優先順位は異なる。財務・企業価値への反映が弱ければ、機会やリスクを金額で示すことから着手する。資本配分や報酬とのつながりが弱ければ、資本配分方針や報酬設計の見直しに取り組む。目標と実績の説明が弱ければ、未達や変更の理由を開示する体制を整備する。いずれの場合も、まず自社の開示がどの段階で断絶しているかを確認することが出発点となる。

これからの実務の重心は、開示の量を増やすことから、開示と企業価値のつながりを示すことへと移っていくと考えられる。つながりを示すことは、投資家への説明責任を果たすだけでなく、社内の経営管理を実質的に機能させることにも直結する。その意味で、開示と経営をつなぐ取組みは、サステナビリティ担当部門だけでなく、経営企画・財務・人事といった部門を横断した課題として位置づけて取り組むことが肝要である。

参考情報

執筆コンサルタント

身崎 成紀
ビジネスリスク本部サステナビリティユニット 上級主席研究員
専門分野:サステナビリティ情報開示、ESG評価、気候変動、自然資本

脚注

[1] 詳細は、別レポート「コーポレートガバナンス・コード改訂とサステナビリティ開示の再設計」をご参照。

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