グループ危機対応体制の具体化による危機対応力の向上

Tokio dR-EYE

2026/3/23

目次

  1. グループ総本部体制が求められる背景
  2. グループ総本部の役割
  3. グループ総本部体制の構築に向けた手順

執筆コンサルタント

グループ危機対応体制の具体化による危機対応力の向上 - Tokio-dR EYEPDF

小澤 浩司
ビジネスリスク本部 主席研究員
防災士、CPCU(米国認定損害保険士)
専門分野:リスクマネジメント・危機管理・海外展開・BCP

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企業の合従連衡が常態化し、企業グループを取り巻くリスク環境が複雑化する中、自然災害、サイバー攻撃、地政学関連などの幅広い危機事象に対して、グループ全体で迅速かつ的確な危機対応を行うことが求められている。複数のグループ会社や拠点を有する企業においては、各社・各拠点が個別に判断・対応するのではなく、グループ全体の危機対応を指揮・統制する組織(例:グループ総本部)と関連する各社・各拠点が有機的に対応できるようにしておく必要がある。

このような必要性は基本概念として理解されやすいものの、平時から各種危機対応に必要な体制・プロセス・ツールを具体化し、教育・訓練を重ねるなどして有事の際の実効性を検証するレベルにまで到達していない企業グループが少なからず存在する。本稿では、グループ総本部体制が求められる背景について触れたうえで、その役割及び体制構築に向けた手順について概説する。

1.グループ総本部体制が求められる背景

危機対応においてグループ総本部及び各現場組織が有機的に対応を行うことが望ましい点については異論が少ないと思われるが、どういった観点でこれが必要になるかを明確化していないことにより、具体的な体制・プロセス・ツールの整備に至っていないケースが見受けられる。本項では、主な観点として安全配慮義務の履行、サプライチェーンの維持及び適時開示対応の3つについてご紹介する。

(1)安全配慮義務の履行

労働契約法第5条において、使用者は労働者の生命及び身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負うとされている。この義務は、平時のみならず例えば自然災害発生時のような有事の際も同様である。現場の指揮監督実務は工場長や現場監督者などに委ねられているが、これらの役職者は履行補助者として重責を負っているものの、安全配慮義務の履行について主体的な責任を負っているのはあくまでも使用者(企業)である。使用者(企業)は、平時から各拠点における危険・脆弱性について把握するとともにこれらを除去・最小化するための措置を講じるよう指揮・統制し、また、有事においても各拠点の状況を把握した上で各拠点が適時・的確に対応できているかを確認し、必要に応じて指揮・支援を行う必要がある。

この安全配慮義務は、親会社が子会社の従業員に対して直接負うものではないが、企業グループ全体として従業員の安全を確保する体制を構築することは、グループ経営における重要な責務と考える。このため、危機発生時において、グループ総本部が各社・各拠点における従業員の安否確認状況を一元的に把握し、必要な支援を迅速に提供できる体制を整備することは、グループ全体の安全配慮義務を果たす上で極めて重要である。特に海外拠点を有する企業においては、現地の情報収集能力や対応リソースが限定的である場合もあり、グループ総本部による組織的な支援が必要となる。

また、出張者や駐在員の安全確保についても、グループ総本部が一元的に管理・対応することで、危機発生時の所在確認や退避支援などを効率的に実施することが可能となる。このように、グループ総本部体制は、グループ全体の役職員の生命と安全を守るための基盤となるものである。

(2)サプライチェーンの維持

企業グループにおいてはグループ内の各社・各拠点が相互に連関し、複雑なサプライチェーンを形成していることが珍しくない。特定の拠点が被災した場合、その影響はグループ内の他の拠点や取引先にも波及し、グループ全体の事業継続に重大な影響を及ぼす可能性がある(事業領域が全く異なる場合はこの限りではない。)。

グループ総本部(又は特定の事業領域全体を指揮・統制する組織。以降同様。)は、危機発生時において、グループ内のどの拠点がどの程度の被害を受けているか、生産・サービス機能にどのような影響が生じているかを迅速に把握し、サプライチェーン全体を維持するための意思決定を行う必要がある。例えば、被災した拠点の生産・サービス機能を他の拠点に振り替える、代替調達先を確保する、在庫の再配分を行うなど、グループ全体を俯瞰した対応策の立案・実行が求められる。

また、グループ内の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・外部リソース等)を最適配分し、優先度の高い拠点や事業に対して集中的に支援を行うことも、グループ総本部の重要な役割である。このような対応は、個別の拠点レベルでは判断・実施が困難であり、グループ全体を統括するグループ総本部による指揮・調整が不可欠となる。

さらに、顧客企業からは、サプライチェーン全体の状況・見通しに関する説明責任が求められることも想定され、グループ総本部が一元的に情報を集約・分析し、対外的な説明を行う体制が必要である。

(3)適時開示対応

上場会社においては、例えば東京証券取引所の有価証券上場規程第402条第2号a及び施行規則第402条第1項第1号に基づき、災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害が発生した場合、当該損害額が軽微基準(例:連結純資産の3%)以上になるときは、速やかに適時開示を行う義務がある。つまり、グループ会社で発生した被害についても、連結ベースでの影響が基準額以上となる場合には開示義務が生じるため、グループ総本部においてグループ全体の被害状況を迅速かつ正確に把握し、開示の要否を判断する体制が必要となる。「影響の見込み額が最大の場合でも軽微基準に該当すると見込まれる場合には、適時開示は不要」(東京証券取引所のWebsiteに掲載のFAQ)とされているため、各社・各拠点は被害箇所及び最大見込み損害額をグループ総本部に報告し、グループ総本部においては自社グループにおける軽微基準額がいくらになるのか、各社・各拠点の最大見込み損害額の総額が当該軽微基準額を超えるか否かを判断する体制・プロセス・ツールを整備しておく必要がある。

また、開示基準に該当しない場合でも、株主・取引先・行政・従業員などのマルチステークホルダーに対して、危機事象への対応状況やグループ全体の事業継続見通しについて適切な情報提供を行うことが、企業価値の維持・向上の観点から重要である。同業他社又は同被災地域企業と比較して対応が劣後した場合、信用低下に繋がるリスクがあるため、グループ総本部は、各社・各拠点からの情報を集約した上で、広報部門と連携して適切なタイミングで情報提供を行う必要がある。

2.グループ総本部の役割

前項でグループ総本部体制が求められる背景について触れたが、本項では改めて危機発生時において、グループ全体の司令塔としてグループ総本部が果たすべき主な役割を3つ紹介する。具体的には、グループ全体の指揮・統制、各社・各拠点の支援及び社外向け発信である。なお、グループ全体で危機対応を行う際、グループ会社が傘下各拠点の指揮・統制を行い、その状況に関してグループ総本部に報告・連絡・相談し、必要に応じてグループ総本部から指示を仰ぐというプロセスが考えられる。この場合、図表1に示すようなグループ総本部(グループ本社機能)、各社対策本部(グループ各社それぞれの本社機能)及び現地対策本部(主要拠点の統括機能)の3階層になることがある。

図表1 グループ全体の危機対応体制例

出典:筆者作成

(1)グループ全体の指揮・統制

グループ総本部は、グループ全体の司令塔としての役割を果たす。司令塔としての主な機能について3つ紹介する。

① グループ全体の被害状況の把握と分析

グループ総本部は、各社対策本部や現地対策本部からの報告を集約し、グループ全体の被害状況を一元的に把握する。従業員の安否、建屋・設備の損傷状況、業務の稼働状況、サプライチェーンへの影響など、多岐にわたる情報を迅速に収集・整理・分析し、経営トップに報告する。

② グループ全体の対応方針の決定

収集・整理・分析した情報を基に、グループ全体としての対応方針や優先順位を決定する。業務中断であればどの業務を優先的に復旧させるか、経営資源をどのように配分するか、といった重要な意思決定を行う。この際、グループ全体の事業戦略や顧客への影響、法務・コンプライアンス・財務などへの影響を総合的に勘案する必要がある。

③ 各社・各拠点への指示・調整並びに対応状況のモニタリング及び方針の見直し

決定した方針に基づき、各社対策本部や現地対策本部に対して具体的な指示を発出する。また、グループ内の複数拠点にまたがる調整事項(業務の振替え、応援要員の派遣、資機材の融通など)については、グループ総本部が主導して調整を行う。各社・各拠点の対応状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて対応方針の見直しや追加指示を行う。危機の状況は刻々と変化するため、柔軟かつ機動的な意思決定が求められる。

(2)各社・各拠点の支援

グループ総本部は、被災した各社・各拠点に対して、多面的な支援を提供することが期待される。支援が期待される主な項目について3つ紹介する。

① 情報提供・意思決定支援

例えば自然災害が発生した際、人的・物的被害が生じ、電力・通信等の各種インフラも被災しているような場合は、被災地域よりも非被災地域の方が情報を収集・整理・分析しやすいことが考えられる。また、建屋・設備の危険度判定、二次被害防止措置(環境汚染防止措置を含む。)などに必要な専門知識や危機対応の知見は現場よりも本社部門の方が優れていることも考えられる。平時から各社・各拠点がどのようなリスクを抱えているのか、事前対策を講じつつも災害が発生した際にどの建屋・設備又はどのような状況に留意し、どのような対応を行うのかについてグループ総本部要員及び各社・各拠点要員間で認識を共有しておくことが望ましい。危機発生時、各社・各拠点のキーパーソンの不在などにより各社・各拠点が適切な判断を下せないような状況にある場合は、必要な情報を提供し、意思決定を支援することが求められる。

② 人的支援

危機発生時のいわゆる初動対応フェーズ(例:地震であれば、救命救急活動のタイムリミットとされる72時間程度まで)において被災した各社・各拠点に人的リソースが足りない場合、本社又は近隣の拠点から応急対応要員を派遣することが想定される。地震の場合は後発地震に注意し、二次被害を発生させないために該当地域の危険情報を収集・整理・分析した上で要員を供出可能な拠点と調整を行うなどの対応が必要となる。

いわゆる事業継続対応フェーズ(被災状況を把握後、重要業務の復旧に着手する段階)においては、事業継続・復旧対応に必要な専門資格・知識を有する者を派遣することを検討することになるが、この場合においても本社やグループ内の他拠点から動員するための各種調整が必要となる。受援拠点及び応援拠点の双方において重要業務を継続・復旧する際に代替要員が参照する業務マニュアルを整備しておくことや通常よりも少ない人数で業務を継続するための優先順位付け、体制・プロセスの検討を平時からしておくことも重要である。

③ 物的支援

被災拠点において物資が不足する場合、本社やグループ内の他拠点から融通することを検討する必要がある。消火、救出、救命救護などの対応において直ぐに公的支援を受けられず、また、被災拠点に必要な資機材(例:自家用消防車、救助用具、救命救護用具)がない場合は、人的支援同様、二次被害防止措置を講じた上でグループ内での物資融通に向けてグループ総本部が調整を行うことが期待される。なお、備蓄品については、各社・各拠点で個別に検討・調達するのではなく、グループとして標準的な品目・数量を示しておき、危機発生時に必要なものが不足する状態を回避することが安全確保の観点でも重要である。例えば自然災害の場合には、移動そのものが二次被害の危険を伴うからである。

事業継続対応フェーズにおいても、設備やOA機器を本社やグループ内の他拠点から融通したり、又はグループ全体で一括調達したりする際にグループ総本部が指揮を執ることが想定される。

(3)社外向け発信

グループ総本部は、危機発生時におけるグループ全体の窓口として、マルチステークホルダーに対する情報発信を指揮・統制する必要がある。社外向け発信においては、情報の一貫性、透明性、適時性に留意する必要がある。グループ総本部が情報発信を統括することで、グループ全体として統一されたメッセージを発信し、ステークホルダーからの信頼を維持することができる。主な発信先・内容について3つ紹介する。

① 顧客・取引先向け

納品の受入状況、製品・サービスの供給への影響、納期の見通し、代替策の有無などについて、正確な情報を提供する。各社・各拠点でなければ対応不能な個別具体的な内容を除き、グループとしての方針・対応状況についてはグループ総本部が一元的に対応することで、情報の一貫性(ワンボイス)を確保する。

② 行政機関・地域社会・報道機関向け

被災地の自治体、所管官庁などと被災状況等について連絡し、災害協定を締結している場合や余力がある場合は、地域社会への貢献に関する各種調整を行う。

各社・各拠点における地域住民への支援内容や地域の復興支援への貢献などについては、会社ホームページなどを通じて発信する。

危機管理広報対応方針を定めた上でメディアからの取材に対して、グループを代表して対応する。情報の正確性を確保し、風評被害を防止するため、広報窓口を一本化することが重要である。

③ 株主・投資家向け

前述の適時開示に加え、決算説明会やIRミーティングなどを通じて、危機への対応状況や業績への影響見通しについて説明する。投資家の懸念に真摯に対応し、企業価値の維持・向上に努める。

なお、本稿では割愛したが、グループ一丸となって危機を乗り越えるためのトップメッセージ発信などの社内向け発信も重要である。

3.グループ総本部体制の構築に向けた手順

前項でグループ総本部に期待される役割について触れたが、本項ではグループ全体での危機対応体制を構築する手順例として、コンセプトの策定、体制(規程)・プロセスの整備及びツールの整備の3つに分けて紹介する。組織や事業の構成が複雑な場合、一筋縄ではいかないことも考えられるが、そのような場合は最初から完璧を目指さず、優先順位及びスケジュールを定めて中期的に取り組むことを推奨する。避けなければならないのは、やるべきことと認識していながら何もしないことである。

(1)コンセプトの策定

最初に着手すべきことは、危機事象に対してグループ全体としてどのような対応を行うことを目指すのか、対象範囲をどのように設定するかといったコンセプトを策定することである。体制(規程)・プロセス・ツールの整備は、本ステップで策定したコンセプト内容を反映させる後工程と認識いただくとよい。

① 危機対応基本方針の明確化

危機発生の可能性を踏まえ企業グループ全体としてどのような対応を目指すのか、平時からどのような対策を講じるのか、又は、危機発生時に何を優先するのか(人命の安全、顧客への供給責任、地域社会への貢献など)、といったグループ全体の基本的な価値観や優先順位を明文化する。合従連衡を経ている場合、各社・各拠点でバラバラに規定したまま見直しがなされていないケースも見受けられる。各社・各拠点の既存規定を比較参照し、また、主要会社と意見交換するなどしてグループ全体に適用する基本方針を定める必要がある。

② 危機事象の想定及び危機対応レベルの設定

自然災害、サイバー攻撃、地政学関連事象、新興感染症、品質問題、重大事故など、想定する危機事象の範囲及び危機対応レベルを明確にする。なお、ISO223002025ではCrisis(危機)を「abnormal or extraordinary event or situation that poses an existential threat and requires a strategic and timely response(存続にかかわる脅威をもたらし、戦略的かつタイムリーな対応を必要とする異常又は非日常的な事象又は状況)」と定義している。企業によって、このような事象に該当するもののみを危機と呼びこれに至らないものをインシデントと呼ぶか、いわゆるインシデントレベルのものも含めて危機と呼んだ上で危機対応レベルとして区分するか、若干の差異がみられる。企業グループの持続的な成長と中長期的な価値向上という観点から、グループ全体として最適な階層で情報の収集・整理・分析、意思決定及び対応を適時・的確に実施することができればどちらでもよい。

③ グループ全体の体制の検討及び役割分担の整理

グループ全体の状況をグループ総本部が一元的に指揮・統制する際、傘下の階層をP.3の図表1で例示したような2階層(各社対策本部及び現地対策本部)にするか、1階層(現地対策本部のみ)にするかなどについて検討する。検討ポイントのひとつは、グループ総本部要員をどの程度潤沢に確保できるかである。1階層の方が各種連絡・調整等をしやすいというメリットがあるものの、相対する現地対策本部の数が多い場合は潤沢な要員を確保できなければグループ総本部としての各種タスクをこなすことができなくなってしまう可能性がある。平時のマネジメントラインに近いのは2階層であるが、情報連携の迅速性等に懸念がある場合は、例えば人命安全にかかわり緊急対応が必要な事象について最下層から最上層及び中層双方にダイレクトに報告・連絡するなどのルールを定めておくことで解消できることがある。

おおまかな体制の検討が完了したら各階層それぞれの役割、プロセス及び対応期限の目安などを定義化する。特に、どのレベルでどのような意思決定を行うのか、情報の報告・共有ルート及びツールはどうするのか、といった点を具体的に検討する。

策定したコンセプトについて、グループ各社の経営層や関係部門と協議し、理解と合意を得る。特に、グループ総本部による指揮・統制の範囲や、グループ各社の自律性とのバランスについては、十分な議論が必要である。

(2)体制(規程)・プロセスの整備

コンセプト策定後、それを具体的な体制として実装するため、規程類を整備する。具体的な文書としては、グループ危機管理規程(グループ全体としての危機対応基本方針等について規定)及び各種対応マニュアル(想定する危機事象別の対応手順について規定)が考えられる。

① グループ危機管理規程の制定

グループ全体の危機管理に関する最上位規程として、「グループ危機管理規程」を制定する。この規程には、基本方針、適用範囲、組織体制、危機対応レベル、役割と責任などを包括的に定める。発生事象及び対応手順について平時からある程度想定できるものは、後述の各種対応マニュアルに規定していくが、事前の想定が困難でかつグループの存続にかかわる脅威をもたらす事象への対応については、本規程に規定する体制・フローに従い情報の収集・整理・分析及び意思決定を行う。

② 各階層における各種対応マニュアルの制定

様々な危機事象が想定される中で、例えば自然災害という括りでみた場合でも大規模地震と風水害とでは発生の予測可能性や意思決定項目、対応項目が異なるため、事象別の対応マニュアルを各階層に分けて準備しておく必要がある。グループ全体で3階層構成とする場合は、グループ総本部用、各社対策本部用及び現地対策本部用といった形で整備していく。グループ総本部マニュアルは1つであるが、各社対策本部用及び現地対策本部用はそれぞれのグループ会社、拠点毎に作成することになる。グループ全体で統一的な対応を実施するため雛形を準備することで、対応方針を明確にするとともに、組織構成及びプロセス(対応項目、対応手順及び対応期限)を標準化する。各社対策本部からグループ総本部への報告事項、報告タイミング、報告様式やグループ総本部から各社対策本部への指示・伝達事項、タイミング、伝達様式などが標準化されるため、各階層における5W2Hが明確になる。

(3)ツールの整備

各階層において対応を実施する際に必要となるツールを整備する。使用するツールは、上述の各種対応マニュアル(本文又はその別紙)に規定するが、単年度で整備できないものについてはマニュアル上に残課題として明記しておき、対応期限を定めモニタリング・レビューを行うなどしてPDCA管理していく。本項では、整備が必要な主なツールを3つに分けて紹介する。

① 災害系の標準ツール

事故、災害又は理由の如何によらずインフラが途絶したことによって所属組織が被災する可能性を踏まえ、人命安全の確保等に必要なツールを準備する。必要なツールは、各社・各拠点の抱えるリスク状況により多少異なることも想定されるが、例えば同一事象、同種拠点において用意している備品が異なることはあまり好ましくない。各社・各拠点の判断でグループ標準以上のものを手配することは問題がないが、標準未満にならないよう、また、使用期限を過ぎたものがそのまま保管されることがないよう、グループ本社機能による複層的な点検なども交えてPDCA管理することが望ましい。建屋・設備・什器の構造や業務工程等から起こり得る事象を想定し、救命救急に必要な資機材、安否確認基盤、非常用の電源・通信手段・照明、帰宅困難者対応に必要な備蓄品、災害対応組織の運営や重要業務の継続・復旧に必要な資機材を整備する必要がある。

② 情報共有ツール

各階層の危機対応組織で使用される情報共有ツールは、情報共有基盤と各種様式の2つに大別される。

特に複数の会社・拠点に広範囲に影響が及ぶ事象への対応においては、情報を一元的に管理・共有するための情報共有基盤(例:危機管理ポータルサイト)や危機対応要員がWeb上で参集するための基盤(例:Microsoft Teams内に平時から設定しておくチーム)などを整備しておくことが望ましい。危機対応要員がいつでもアクセスでき、最新の状況や指示事項を確認できる環境を整備しておくとよい。

各種様式については、速報報告(第一報報告)、安否確認報告書、被災状況報告書、対応状況報告書など、各種報告様式を標準化し、グループ全体で統一的に運用することが望ましい。これにより、確認や報告項目の抜け漏れを防止するとともに、情報の収集・整理・分析を効率化し、適時・的確な意思決定を支援することができるようになる。なお、一般通信やシステムの障害の可能性を踏まえ、各種様式はデジタル版のみならず、アナログ版(電子様式をハードコピー化したもの)も用意しておくことが重要である。

③ 発信用テンプレート

危機発生時は、広報も重要な業務となる。フェーズ別のプレスリリース、顧客・取引先向け通知文などの社外広報用のほか、グループ社員向けのトップメッセージなどの社内広報用の標準テンプレートを事前に作成しておくとよい。危機発生時には、これらをベースに迅速に情報発信を行うことができる。なお、一般消費者向けの製品・サービスを提供している企業グループに限らず、あらゆる企業グループが事故・災害・不祥事などによって社会の関心を集める可能性があるため、危機管理広報対応マニュアルを整備し、かつ、教育・訓練を積み重ねておく必要がある。危機対応そのものは何とか切り抜けられたとしても危機管理広報対応を誤れば、企業グループに対する信頼が失われ、企業価値を棄損する危険性があるためである。

おわりに

企業グループを取り巻くリスク環境は今後も厳しさを増していくことが予想される。グループ総本部や各社対策本部、現地対策本部などのグループ全体での有機的な体制を構築しておくことは、こうした環境変化に対応し、グループ全体の危機対応力を高める上で非常に重要である。

本レポートで示したコンセプト策定、体制・プロセス整備及びツール整備の3ステップを着実に実行することで、危機発生時においても、グループ全体が一体となって迅速かつ効果的に対応できる組織能力を構築することが可能となる。

構築した体制を真に実効性あるものとするためには、経営トップの強いコミットメント、グループ各社・各拠点の協力、そして継続的な訓練と改善が不可欠である。グループ総本部体制の構築は、単なる規程や手順書の整備ではなく、グループ全体の危機対応文化を醸成していく取り組みとして位置づけられるべきである。

本レポートが、グループ企業における危機対応力の向上に踏み出す一助となれば幸いである。

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