ドライブレコーダのデータを活用した交通事故未然防止取組みのポイント

  • 交通リスク

リスクマネジメント最前線

2024/7/25

目次

  1. 事故再発防止から事故未然防止への取組み変容
  2. ドライブレコーダのデータ活用における課題
  3. データ活用による事故未然防止対策の指針
  4. データを活用した高リスク運転者の特定および教育のポイント
  5. 従業員のプライバシー保護のための留意事項
  6. データ分析の委託における留意事項
  7. おわりに

ドライブレコーダのデータを活用した交通事故未然防止 取組みのポイント- リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

中條 恵理華
運輸・モビリティ本部 第一ユニット 主任研究員
専門分野:交通リスク

 

近年、通信型ドライブレコーダの普及により、走行中のデータから運転者の詳細な交通事故リスクを分析することが可能となっている。これにより社用車を使用する事業者は、従業員の交通事故防止の取組みを効率的に推進できるようになった。一方で、取得するデータが増えたことによる新たな課題も生じている。本稿では、ドライブレコーダ活用型安全運転支援サービスを利用、もしくは独自にドライブレコーダのデータを分析する事業者の管理部門責任者が理解すべき基本事項を解説する。

1.事故再発防止から事故未然防止への取組み変容

本章では、近年のドライブレコーダの進化に伴う交通事故防止の取組みの変容を説明する。

そもそも事故防止の観点において、ドライブレコーダとは、運転挙動を映像や数値として記録することで、運転状況を「見える化」するツールである。車両に同乗せずとも、運転者の日頃の運転状況を把握することができるため、管理者による安全運転指導の補助ツールとして、商用車を使用する事業者中心に活用されてきた。一方で、従来のドライブレコーダはデータの記録媒体にSDカードを使用することで、利用者側にとっては指導以前に、データを取得・管理する作業そのものに手間と時間がかかるという課題があった。そのためドライブレコーダのデータ活用は、特に運転を主業務としない一般事業者においては容易でなく、活用を行ったとしても、事故や急操作発生時の映像を基に指導するといった、再発防止観点での取組みに限られてきた。

この運用上の負荷という課題は、通信型ドライブレコーダの普及により大幅に改善された。通信型ドライブレコーダはテレマティクスサービスの一種で、ドライブレコーダの端末自体に通信機能を有し、取得・解析したデータを外部サーバへ、即時かつ自動で転送する。表1に、非通信型および通信型ドライブレコーダの比較を示す。通信化により、データ取得の手間、即時性、蓄積性がいずれも改善した。

表1 非通信型ドライブレコーダと通信型ドライブレコーダとの主な違い
  非通信型ドライブレコーダ 通信型ドライブレコーダ
データの取り出し方法 車両帰着時に逐一、ドライブレコーダからSDカードを取り出し、データをパソコン等の機器にダウンロードする 端末中のSIMにより、サーバに自動でアップロードされたデータを、Web上でダウンロードする
データの即時性 SDカード内のデータを取り出さない限り活用できない

即時で取得。これにより、
 ● リアルタイムの車両位置管理
 ● 事故発生時の自動発報
 ● 急操作等の危険挙動発生時の管理者への自動通知
等、即時のデータ活用が可能

データの蓄積性 SDカードの容量が記録の上限であり、超過分は上書きされる サービスの契約内容によるが、過去1年分等、ある程度長い期間蓄積可能

外部データとの

連携
手動でのみ可能 車載センサやレーダ、地図データ等の外部データと自動連携可能

表1の最終行に記載の通り、外部データとの連携が可能になったことで、検出できるリスクの情報量が増えたことも重要である。例えば、車両の詳細な位置情報を地図データと照合処理することで、速度超過や一時不停止、指定方向外進行禁止違反等の危険挙動を検出できる。またAI搭載の通信型ドライブレコーダでは、車内外の映像を画像解析にかけることで、前方車接近や車線逸脱等のヒヤリハット、わき見・居眠り運転といった運転者の状態もリアルタイムに検出できるようになってきた。これらは従来、膨大な常時記録映像を人の目で確認しない限り、見つけられない挙動であった。

表2に、近年普及しているドライブレコーダで検出できる危険挙動の例を示す。ここでのヒヤリハットとは「事故には至らなかったもののその一歩手前の危険な出来事」を示し、不安全行動・不安全状態とは、「実際の危険を伴ったか否かに関わらず、事故リスクを高めるような行動・状態」を示す。運転者の個人特定機能付きのドライブレコーダであれば、こうした危険挙動を運転者別に集計・把握できる。

表2 ドライブレコーダで検出される危険挙動の例 
分類 検出方法例 検出される危険挙動の例

ヒヤリハット

加速度センサ 急操作(急加速、急減速、急ハンドル)
画像解析 前方車接近、車間距離不足、車線逸脱

不安全行動・不安全状態

画像解析

わき見、居眠り運転、漫然運転、携帯電話保持、シートベルト未装着

GPSデータ 速度超過、一時不停止、指定方向外進行禁止違反

以上の通り、ドライブレコーダの通信化により、運転者一人一人の交通事故リスクを、手間をかけずに分析することが可能となった。特に不安全行動・不安全状態の検出は安全運転推進における大きな進歩であり、事故防止活動の目的を「再発防止」から「未然防止」へ引き上げた。すなわち、事故を起こしていない運転者に対しても、個々のリスクに応じた事故未然防止のための指導が可能となった。その一方で、運転する全従業員の様々な走行データが取得可能になったことによる新たな課題も生じた。この点について次章で解説する。

2.ドライブレコーダのデータ活用における課題

ドライブレコーダで入手できるデータが増えたことによる主な課題は二つある。一つは、日々蓄積される走行データをどのように有効活用するかという問題で、もう一つは、あらゆるデータを「取られる」側の運転者のプライバシー保護である。それぞれ解説する。

(1)事故未然防止のためのデータ活用方針の策定

従来のドライブレコーダでは、急操作発生に対する改善指導が事実上唯一の事故防止対策であったものが、表2のように取得できるデータ項目が増えたことにより、対策の自由度も高まることになった。一方、ドライブレコーダ活用型安全運転支援サービスを導入した事業者の、対策の自由度が高まったが故の悩み事として、表3が挙げられる。

表3 安全運転支援サービスの特長と対応する事業者の悩み事
 安全運転支援サービスの特長   対応する事業者の悩み事
様々なヒヤリハットや不安全行動・不安全状態を検出する
  • どの指標を用いて、どのような指導を行うべきか分からない
運転者の安全運転ランキングを作成し、運転者の相対的な事故リスクを明示する
  • 全運転者に対する指導は現実的でない
  • どのレベルの運転者までを指導対象とすべきか分からない
日々、走行データを蓄積する
  • どの程度の頻度で、走行データを確認すべきか分からない

これらの悩み事は、いずれもデータ活用の方針策定に関わるものである。効果的な事故未然防止対策のために、どのデータを活かしてどう対策すべきかの指針を理解することが重要であり、この点は第3章および第4章にて解説する。

(2)従業員のプライバシー保護

ドライブレコーダの活用により事故防止取組みを積極的に推進できる一方、データを取られる側の従業員が、運転中の映像や走行ルート、運転挙動が常に取得されることに対し、「会社から監視されている」とネガティブに捉えるリスクがある。

実際、走行データには、特定の個人を識別できる「個人情報」や「要配慮個人情報」が含まれる。「要配慮個人情報」とは、個人情報の保護に関する法律[1]第2条第3項において「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」と定められている。具体的には、運転者の顔が映った映像や、社用車で直行直帰する際に取得される自宅の位置情報等が、個人情報に該当する。また交通事故や違反を起こした際に取得される映像や、データとして蓄積される事故・違反歴は、要配慮個人情報に該当する場合がある。社内での安全運転推進が目的であっても、個人情報を扱う限り、事業者には従業員の権利・利益を保護するため、法の規定に基づく十分な配慮と対策が求められる。この対策については、第5章にて解説する。

3.データ活用による事故未然防止対策の指針

初めに、事業者における事故未然防止の取組みの理想的な進め方を表4に示す。ヒューマンエラーが原因の大半を占める交通事故を防止するには、PDCAサイクルを継続的に回すことで、取組みを常に改善していくことが理想である。

表 4 事故防止の PDCA サイクル
フェーズ 実施概要
Plan(計画)
  • 事故リスクを定量的に分析する
  • リスクの分析結果に基づき、目標とするKPIKey Performance Indicator: 重要業績評価指標。事故防止対策では、事故発生率や安全行動実践率等が設定される)を設定する
  • 目標に応じた対策を企画する。運転者教育や組織風土改善等、複数の切り口が考えられる
Do(対策実行)
  • Planで企画した対策を実行する
Check(進捗確認)
  • 対策の実践度および事故リスクを再度定量分析し、対策実施による改善度を検証する

Act(見直し)

  • Checkの改善度に応じて、目標および対策を見直す

現在普及しているドライブレコーダ活用型安全運転支援サービスでは、多くの場合、表4のうちPlanとCheckを以下の通り効率化する。

  • 運転者の危険挙動を集計し、事故リスクを評価する(Plan
  • 上記評価結果を踏まえ、「わき見のスコアを改善」等の、具体的な運転行動に落とし込んだ目標の設定を支援する(Plan
  • 運転診断を自動化することで、運転改善度の定期的かつ定量的な振り返りを支援する(Check

一方で、目標を達成するための対策自体は、サービスを利用する事業者に委ねられるケースが多く、十分な事故防止効果を発揮するためには、ドライブレコーダのリスク診断結果に基づく対策を、社内で別途講じる必要がある。対策のアプローチとしては、運転者の個人教育および社内の管理強化の二つが存在する。

(1)運転者の個人教育

運転者教育においては、ドライブレコーダで運転者個人別のリスク診断ができるならば、個々のリスクに応じた対策を講じることが望ましい。ここで、運転者のヒヤリハットと不安全行動・不安全状態のどちらに着目するかにより、対策の方針は大きく異なる。根本的な対策を講じるには、まず不安全行動・不安全状態の対策を最優先で進め、これらのデータが取得できない等の理由がある場合は、ヒヤリハットの対策を進めると良い。関連する概念として、労働災害分野で知られる「ハインリッヒの法則」を取り上げる。

図1 ハインリッヒの法則

図1 ハインリッヒの法則

「ハインリッヒの法則」の考え方は、事故の裏に多数のヒヤリハットが発生しており、その裏には、運転者が気づかないほどの、さらに多くの不安全行動・不安全状態が存在する、というものである。つまり、運転者の不安全行動・不安全状態の削減により、結果としてヒヤリハットと事故を減らすことができる。

ヒヤリハットを基に教育する場合、運転者に対し、急ブレーキや前方車接近といった危険事象の発生回数を事実として示すことはできるが、例えば同じ急ブレーキであっても、原因は認知ミスや車間距離不足、居眠り運転等様々である。したがって、ヒヤリハットに至った原因を運転者各人に考えさせる指導がまず必要となる。一方、不安全行動・不安全状態を元に教育する場合は、わき見や速度超過といった、原因側になる危険挙動が分かっているため、運転者に対し「わき見をしない」「速度を遵守する」といった、一歩踏み込んだ教育が可能である。

(2)社内の管理強化

より根本的な対策が、社内の管理強化である。例えば全社的にわき見が常習化しているならば、交通安全を軽視し、業務を優先する風土が疑われる。このような場合、従業員に対し安全第一の意識を強く喚起すると共に、運転中の携帯電話使用禁止を遵守させるため、携帯電話の電源を切るなど具体的なルールを策定・周知徹底する必要がある。また特定事業部において、漫然運転が多い傾向にある場合は、運転者が過労になっていないか、労務管理が適切に行われているかを確認する必要がある。特に、駆けつけ業務等を行う繁忙度の高い業種や、夜勤での運転が発生する業種は要注意であり、現場管理者と連携した対策を講じる必要がある。

このような管理強化が必要か否かを判断するためには、ドライブレコーダのリスク診断結果について、全社傾向や組織別の傾向を定期的にモニタリングすることが望ましい。また運転者に対する交通安全教育の効果が見られない場合も、こうした管理強化に踏み込むことを検討されたい。

4.データを活用した高リスク運転者の特定および教育のポイント

前章において運転者個人教育の指針を説明したが、事業者によっては運転をする従業員が数百人、数千人に及び、全運転者に対する教育が現実的でないケースがある。一方、走行データが蓄積されてくると、ある特定の運転者が急停止やわき見運転を多発させたり、大幅な速度超過を起こしていたりする、といった状況が可視化される。こうした危険運転を繰り返す運転者は、そうでない運転者に比べ、将来的に交通事故を起こすリスクが高い。したがって、このような高リスク運転者を特定し教育を施すことが、事故未然防止の費用対効果の観点では最適である。

こうした仕組みはドライブレコーダの進化によって初めて取りうるようになったものであり、特に運転を主業としない事業者においては、高リスク運転者を特定し、教育するノウハウが確立されていないケースが多い。本章ではこれらのポイントを解説する。

(1)高リスク運転者特定の流れ

高リスク運転者を特定する実務上の留意点としては、こうした取組みは運転者の本来の業務に上乗せされるため、なぜその運転者が高リスクと判断されたかを、運転者本人や現場管理者に対してスムーズに説明し、納得感を持たせることが重要である。高リスク運転者を特定するための基本手順を図 2 に示す。

図 2 高リスク運転者特定の基本手順

図 2 高リスク運転者特定の基本手順

①走行データを取得

まずはドライブレコーダを利用して、全運転者の走行データを取得する。運転挙動は天候や走行ルート等の外部要因および体調の影響を受けやすいため、複数日分のデータを蓄積することが望ましい。東京海上ディーアール株式会社のドライブレコーダ活用コンサルティングでは、運転診断の精度を保証するために、運転者1人あたり20時間以上の運転データの取得を推奨している。全運転者の20時間以上のデータ取得を目安に、データ取得期間を定めると良い。

②運転者別に危険挙動発生頻度を集計

前提条件として、危険挙動の発生回数が多い運転者ほど、交通事故のリスクは高い。そこで、集計対象期間中の危険挙動発生頻度を、運転者別に集計する。ここでの注意点として、出力された発生回数そのもので比較をするのではなく、「単位走行距離あたり(例えば100km走行あたり)」の発生回数で比較する。これは走行距離の長い運転者ほど危険挙動の発生リスクは大きくなるため、発生「率」に換算することで、集計対象期間中の走行距離の大小による不公平感をなくす目的である。

ドライブレコーダによっては付随のWebサービスにて、週間や月間の運転者別集計回数を出力できるものや、走行時間・走行距離を加味した運転スコアを出力できるものもあるため、それらの出力を利用すると良い。

③リスク判定基準を設定

②の集計結果を元に高リスク運転者の抽出を行うため、「この回数を超えたら高リスク運転者」という判定基準を設定する。導入している安全運転支援サービス内で、危険挙動別の基準点や合格点が示されている場合は、その値を使用するのが容易な方法である。自社の独自基準で選定したい場合は、自社の平均値や中央値、75パーセンタイル値等を使用しても良い。また現実的には、高リスク運転者として抽出した後の教育に割くことのできる費用や時間を踏まえ、対象者数から逆算し「下位50名」等と選定するケースも多い。

いずれの場合も、運転者に対し「この基準で選定した」と明示できる基準を定めることが重要である。

④高リスク運転者を抽出

③で設定した判定基準を超えた者を高リスク運転者と認定する。例えば、速度超過という危険挙動の判定基準を「100km走行あたり0.5回」と設定した場合、挙動検出回数が0.5回を超える運転者は、速度超過という特性を有する高リスク運転者といえる。

このように不安全行動・不安全状態ごとに高リスク運転者を抽出すると、その運転者が弱点とする行動ないしは状態に応じた具体的な教育を施すことができ、高い教育効果が見込まれる。

(2)高リスク運転者教育の流れ

続いて、抽出した高リスク運転者に対する教育の進め方を示す。要点としては、運転者の個別教育においても、事故防止のPDCAサイクルを回すことを意識する。

図3 高リスク運転者教育の基本手順

図3 高リスク運転者教育の基本手順

①リスクの原因を考え、KPI を設定する(Plan)

なぜヒヤリハットや不安全行動・不安全状態を繰り返すに至ったのかの根本原因を運転者本人に考えさせる。例えば、同じ「漫然運転」が多い運転者であっても、その原因が業務多忙によるものか、プライベートの悩みに起因するものか等により、事業者側が講じるべき対策は異なる。

その上で、取組みの目標として、危険挙動発生回数や運転スコア等をKPIとして設定する。ここで高リスク運転者判定基準に用いた値を採用すると、取組み全体の整合性を取ることができる。

②原因に応じた教育を施す(Do)

①で特定した原因に対する教育を施す。自社に安全運転教育のノウハウがない場合は、インターネット上に掲載されている公開資料を用いるほか、専門機関の安全運転教育サービスを活用するのも手である。

③KPI の達成状況から改善効果を確認する(Check)

教育実施後に一定期間が経過したら、再度走行データを取得し、KPIの達成状況を確認する。安全教育においては運転者の安全意識を高めることが重要であるため、KPIの確認および振り返りの頻度は最低でも年に1回以上、可能な限り四半期に一度は実施することが望ましい。 KPIを達成している場合は高リスク運転者卒業となるが、達成していない場合はさらなる対策の実施が必要となる。

④改善が見られない場合、さらなる対策を講じる(Act) 

KPIを達成していない運転者に対しては、対策の追加や見直しが必要となる。KPI未達成者が少数の場合は、該当者と振り返り面談を行い、運転を改善できない理由を検討し、改善するための支援を行う。一方、KPI未達成者が多数に上る場合は、運転者個人よりも組織としての改善が必要であり、第3章(2)で触れたように、社内の風土改善や管理強化に切り込むことになる。

5.従業員のプライバシー保護のための留意事項

第2章において二つ目の課題として挙げた通り、ドライブレコーダのデータ活用においては、従業員のプライバシー保護が大原則となる。ドライブレコーダ活用型安全運転支援サービスの導入および、取得したデータの自社内での活用にあたり、事業者が法的に注意・対策すべきポイントを、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」[2]を参考にチェックリスト方式で表5に整理した。自社の状況と照らし合わせて、チェックのつかなかった項目については、従業員とのトラブル回避のためにも、迅速に対策を講じる必要がある。

なお本稿では言及しないが、チェックリストの項目の他、個人データの漏洩・改ざん等防止のための安全管理措置に関する留意点もあることに注意されたい。詳細は、個人情報保護委員会が公表している個人データ取扱要領等を参照のこと。

表 5 個人情報保護の観点での自社走行データ活用時の対応チェックリスト
分類 チェック項目 
サービス導入 □ 対象の運転者に対し、どのような個人情報が取得される、もしくは取得されうるか公表しているか
□ 対象の運転者に対し、取得した個人情報を、自社内の事故防止取組みや安全運転教育の目的で活用することを公表しているか
□ 対象の運転者に対し、取得した個人情報を、誰がどのような方法で取り扱うか公表しているか
□ 上記目的・方法でのデータ取得・活用につき、対象運転者の同意を取得したか
データ取得 □ 社用車のプライベート使用を認めている場合、業務時間外のデータ取得につき、ルールを策定・周知しているか
安全運転教育  □ 個人の運転映像や危険挙動データを当人以外の教育に活用する場合、予め、個人を特定できないようデータを加工しているか
 □ 映像の音声データは削除しているか
 □ 車内映像の場合、運転者の姿にぼかしを入れているか
 □ 走行位置(緯度・経度の表示)や運転日時は削除しているか
□ その他、運転者を特定できる情報が含まれていないか
データの管理 □ データの保存期間を定めているか
□ 保存期間を経過したデータや、退職者のデータ等、既定の目的で利用する必要がなくなったデータは遅滞なく削除しているか

6.データ分析の委託における留意事項

ドライブレコーダで取得したデータの詳細分析や、データを活用した安全運転教育業務を、専門業者やデータ分析会社等の外部事業者に委託する場合も想定される。安全運転教育のノウハウやリソースがない事業者にとっては、専門業者の活用は重要な手段であり、積極的に活用すると良い。参考までに、東京海上ディーアール株式会社にて支援可能な業務の例を表6に示す。

表 6 東京海上ディーアール株式会社におけるデータ分析業務の支援例

※事業者が設置しているドライブレコーダのデータをご提供いただく、もしくは、東京海上ディーアール株式会社が管理するドライブレコーダを事業者へ一定期間お貸出しし、取得したデータを活用することで提供可能な業務例データを活用することで提供可能な業務例

業務 概要

安全運転講習会資料作成

  • 提供いただいた走行データを用いて、会社全体の教育に活用できるオリジナルの交通安全教育テキストを作成する
  • テキストに実際の運転映像を使用することで、従業員の関心を高められる

個人運転レポート作成

  • 重点的な指導が必要な従業員の走行データを分析し、個人指導に特化した運転レポート兼教育テキストを作成する
  • 事故・違反歴のある運転者や、高リスクと判定された運転者の詳細なリスク分析・指導ツールとして推奨

ドライバー安全度評価サービス

  • 提供いただいた事故データを用いて、事故を起こした運転者と無事故運転者の走行データを比較し、事故リスクの高い運転者を抽出するための基準を作成する
  • 事故情報以外にも、適性診断結果や指導履歴等の外部データを組合せることで、より高度なリスク診断が可能

高リスクドライバー教育支援

  • 提供いただいた走行データを分析し、東京海上ディーアール株式会社作成のロジックに基づき、事故リスクの高い運転者を抽出。対象者に、その人の運転の危険性に応じた交通安全 e ラーニングを配信することで、効果的・効率的な運転改善を目指す

交通リスクマップ作成

  • ドライブレコーダで取得した急減速発生地点の情報や、事故地点の公開情報を用いて、事故リスクの高い地点を地図上に展開する
  • 安全な運行ルートの選定や、危険地点の情報提供に使用可能
車両利用状況分析
  • 社用車の定期的な位置情報を分析することで、車両稼働状況や、従業員の労働状況を可視化する
  • 車両稼働状況の結果を踏まえ、事業所間の車両移動等の見直しが可能

なお、データ分析業務を外部委託する際は、プロジェクトを円滑に進めるために、発注者側で一定の準備をした上での依頼が望ましい。表7に、走行データ分析を効率的・効果的に外部委託するにあたっての基本的な進め方を整理した。
特に準備の序盤である No.1「データ分析の目的の明確化」および No.2「データ分析における課題の整理」は、内容によって委託費用の見積が大きく変動する場合もあるため、自社内で十分に協議しておく必要があることに留意されたい。

表7 走行データ分析業務を外部委託する場合の基本的な進め方
No 項目 概要
1 データ分析の目的の明確化

まずは自社内で、データを分析することで「誰に対して」「どのくらいの頻度で」「何を実施したいか」を明確化する。例を以下に記載する。
【目的例】
● 事故防止取組みの計画策定のため年に1回、自社の運転リスク傾向を把握したい
● 全運転者に対して、年に1回、自社のリスクに応じた安全運転教育を施したい
● 四半期に1回、運転リスクの高い運転者の抽出および教育を実施したい

2 データ分析における課題の整理

上記目的を実現するにあたり、自社にどのような課題があるのか整理する。課題に応じて、外部委託先による支援方法も異なる。
【課題例】
● 目的のために、どのようなデータを使えば良いか分からない
● データの分析方法が分からない
● データを分析する人手が足りず、外部委託したい

3 サンプルデータの準備

外部委託先へ提供するサンプルデータを準備する。NDA(秘密保持契約書)締結前であれば、個人が特定できないよう加工する。サンプルは「どのようなデータ項目」が、「どの程度の頻度」で取得され、「どのようなファイル形式(csv, pdf等)」で保存されているかが分かるものにする。

またデータ定義書があれば、それも併せて準備する。
4 取得済データ量の確認 既に取得しているデータ量を確認する。具体的には、「何人分のデータ」が「何運行分程度」あるかの概算が分かれば良い。
5 データの追加取得 No.4の確認の結果、データが不足している場合は追加取得期間を設ける。例えば、高リスク運転者抽出が目的の場合、全運転者のデータを取得できていることが前提となるが、これには一定程度時間を要する。
6 事前の情報提供 用意したサンプルデータを、データ活用の目的および概算のデータ取得量情報と併せて、外部委託先へ提供する。この事前準備により、業務仕様案や見積を高精度に、効率的に取得できる。
7 業務仕様のすり合わせ サンプルデータを踏まえた外部委託先の提案を受け、自社の目的達成に必要な仕様であるかを確認する。
8 契約締結 業務仕様が合意できた場合、契約手続きを進める。個人情報である走行データの委託にあたっては、業務委託契約書に加え、NDAを締結する。

7.おわりに

ドライブレコーダは、今や安全運転管理業務を効率化する有効な手段であり、社用車を使用する事業者にとっては欠かせない安全運転支援ツールとなってきている。本稿が、社用車を使用する事業者の、交通事故防止取組み推進の一助となれば幸いである。

[2024年7月25日発行] 

参考情報

執筆コンサルタント

中條 恵理華
運輸・モビリティ本部 第一ユニット 主任研究員
専門分野:交通リスク

関連サービス

ドライブレコーダを活用した組織全体支援型交通事故防止コンサルティング

脚注

[1]

e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000057

[2]

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/

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