企業サステナビリティ報告指令(CSRD)および欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要

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リスクマネジメント最前線

2024/6/20

目次

  1. 企業サステナビリティ報告指令(CSRD)
  2. 欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)
  3. おわりに

企業サステナビリティ報告指令(CSRD)および欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要 - リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

三川 裕己
製品安全・環境本部 サステナビリティユニット 研究員
専門分野:気候変動、サステナビリティ情報開示

 

2023年1月5日に、企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)が発効した。CSRDはEU域内で事業活動を行う企業に対して、サステナビリティ報告を義務づけるもので、法的拘束力を有する。これに連動して、2023年7月31日には、CSRDの委任規則として、具体的なサステナビリティ報告の基準を定めた、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS:European Sustainability Reporting Standards)も採択された。CSRD、ESRSではEU域内の企業だけでなく、事業活動を行う多国籍企業も、条件を満たせばサステナビリティ報告の対象となるため、日本企業にも影響が及ぶ可能性がある。

本稿では、CSRDについて概説し、日本企業に求められる対応について説明する。また、ESRSを構成する各基準について説明するとともに、気候変動に関する報告を例に挙げて、具体的な開示基準について解説する。

1.企業サステナビリティ報告指令(CSRD)

(1) CSRDの概要

CSRDは非財務情報開示指令(NFRD:Non-financial Reporting Directive)や法定監査指令を含む、複数の制度を改正する形で発効した。NFRDとの違いは多岐にわたり、主にCSRDによって適用範囲に含まれる企業が約11,700社から約42,500社に拡大される[1]ことや、NFRDでは、開示項目を詳細に規定していなかったが、CSRDでは、詳細に規定されたESRSに基づく開示が義務づけられたことが挙げられる。

(2) 適用区分および適用開始時期

CSRDの適用区分は、総資産、純売上高、従業員数で決定される企業およびグループの規模によって分類される。当該分類ごとに適用開始時期も規定されている(表1)。なお、このCSRDの適用区分に関しては、EU域内での2021年と2022年の大幅なインフレが考慮され、分類基準の企業およびグループの要件である、総資産額および純売上高が変更されていることに注意されたい。

表1 CSRDが適用される企業およびグループの分類
適用区分 分類基準(貸借対照表日に3要件(総資産、純売上高、従業員数)
のうち、複数の要件を満たす企業およびグループ)
適用開始
事業年度
報告時期
NFRD適用企業
およびグループ
総資産2,500万ユーロ超、純売上高5,000万ユーロ超、従業員数250人超で定義される大規模企業およびグループのうち、PIE※1で、従業員数500人超 2024年 2025年
大規模企業およびグループ
上場・非上場問わず
上記を除いた、大規模企業※2およびグループ 2025年 2026年
中小規模企業
EU規制市場に上場
総資産2,500万ユーロ以下、純売上高5,000万ユーロ以下、従業員数250人以下※3 2026年 2027年
第三国企業 グループ・個社レベルで、2期連続でEUにおける純売上高が1憶5,000万ユーロを超え、以下のいずれかに該当するEU子会社またはEU支店を保有するEU域外企業
  • EU子会社:大規模企業またはEU規制市場で上場している中小規模企業
  • EU域内の支店:純売上高4,000万ユーロ超
2028年 2029年

出典:EUR-lex,Directive 2013/34/EU,Directive(EU)2022/2464,Commission delegated directive (EU) 2023/2775より弊社作成

※1 PIE:Public-Interest Entitiesとは、EU規制市場に上場する企業、および銀行・保険会社などの「社会的影響度の高い法人」のことを指す。
※2 大規模企業に分類されても、一部の機関(small and non-complex institution)とキャプティブ保険会社等については、2026年度からの適用となる。
※3 ただし、別途定義されている零細企業(micro undertaking)は適用の対象外となる。

(3) サステナビリティ報告開示に関する留意点

CSRDに基づくサステナビリティ報告を進める上で、特に留意するべき点は、以下の通りである。

□サステナビリティ報告書の規格統一

サステナビリティ報告にあたっては、開示情報のデジタル化を行う。また、マネジメントレポート[2]における特定の箇所で、開示を行うことが定められている。

□サステナビリティ報告に対する第三者保証の義務化

CSRD実施後3年以内に、開示内容全般に対する法定監査人などの、第三者による限定的保証が義務づけられる。なお、より保証水準の高い合理的保証については、CSRD実施後6年以内に義務づけられる予定である。

□バリューチェーンに関する情報

上流および下流のバリューチェーンに関する情報の報告について、3年間の猶予期間がある。ただし、当該情報を取得するために実施した取組や入手できない理由、および今後の情報の入手計画についてサステナビリティ報告に記述する必要がある。

□国内法制化

EU加盟国に対する指令(Directive)であるCSRDは、2024年7月6日までに、各EU加盟国で国内法制化(Transposition)される。実際の企業への適用は、加盟国での国内法制化を待つことになる。そのため、EU子会社・支店がある現地の当該法令を確認する必要がある。

(4) 日本企業に求められる対応

日本企業は表1の適用区分および分類基準を参照し、EU域内に拠点を置く子会社・グループがどの規模に該当するか、および第三国企業に該当するか否かについて、確認が必要である。

CSRDの対象となる、EU域内で事業を展開する子会社について、①分類基準に基づき、EU子会社・グループのみで報告する場合と、②域外適用制度を利用して、親会社が第三国企業として報告する場合が存在する。適用区分に該当した場合、日本企業の対応として想定される2つのケースについて、以下に整理する。

①EU子会社・グループのみでサステナビリティ報告を行う場合

EU子会社・グループの適用区分に基づき、サステナビリティ報告を実施する。ここで、大規模企業およびグループと比べ、中小規模企業の報告範囲が狭くなる[3]ことが規定されている。また、中小規模企業に該当する場合、2028年1月1日よりも前に開始する会計年度については、マネジメントレポートへのサステナビリティ情報を掲載しなくてもよいが、その場合は報告しない理由を掲載する必要がある。

②域外適用制度を利用して、第三国企業として報告を行う場合

日本の親会社が、第三国企業の適用区分に該当する場合、連結でのサステナビリティ報告をもってEU子会社単体の開示が免除される。こちらに該当する場合、連結でのサステナビリティ報告はCSRDまたはそれと同等の基準を踏まえて作成する必要がある。また、連結で報告する際も、サステナビリティ報告に関する第三者保証を受ける必要がある。報告にあたり、入手できない情報がある場合や第三者保証を受けることができない場合は、その旨をサステナビリティ報告に記載し、第三者保証がない旨の声明を添付しなければならない。

また、2030年1月6日までの経過措置として、過去5会計年度のうち、少なくとも単年度で、全てのEU子会社のうち、最大の売上高があった子会社が、当該親会社の全てのEU子会社を含む、いわゆる“連結”でのサステナビリティ報告[4]を行う場合、その他子会社のサステナビリティ報告は免除となる規定がある。

2.欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)

(1) ESRSの概要

2023年7月31日、欧州委員会はCSRDの委任規則である、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を採択した。ESRSは、CSRDの対象となる企業が従うべき、サステナビリティ報告をする上での具体的な報告基準を定めたものである。ESRSでは、ダブルマテリアリティをサステナビリティ開示の原則としており、企業に財務影響をもたらすリスクおよび機会のうち、サステナビリティ項目に関連するもの(Financial materiality)と、企業が人々や環境に与えるインパクトのうち、サステナビリティ項目に関連するもの(Impact materiality)の両面から開示項目を検討することを求めている。

適用対象および適用時期については、2024年1月から、NFRDによる非財務情報の報告義務を課されている企業を皮切りに、以降、CSRDの規定に従った適用区分により順次適用される。2023年7月に採択されている横断的基準とトピック別基準の他に、2026年6月までに、後述するセクター別基準、上場中小規模の企業(LSME:Listed SMEs)向け基準および域外企業向け基準が、採択される予定である。また、非上場の中小規模企業については、任意の報告(VSME:Voluntary reporting standard for non-listed SMEs)としてガイドラインが策定される予定である。

(2) ESRSを構成する3つのカテゴリ(Category)

ESRSは、横断的基準(Cross-cutting standards)とトピック別基準(Topical standards)、そしてセクター別基準(Sector-specific standards)の3つのカテゴリで構成されている(表2)。

表2 ESRSを構成する3つのカテゴリとその内訳
     
3つのカテゴリ(Category)
横断的基準
(Cross-cutting standards)
トピック別基準
(Topical standards)
セクター別基準
(Sector-specific standards)
ESRS 1 全般的要求事項
ESRS 2 全般的開示事項
ESRS E1 気候変動

ESRS E2 汚染
ESRS E3 水と海洋資源
ESRS E4 生物多様性と生態系
ESRS E5 資源利用とサーキュラーエコノミー
ESRS S1 自社の従業員
ESRS S2 バリューチェーンの従業員
ESRS S3 影響を受けるコミュニティ
ESRS S4 消費者とエンドユーザー
ESRS G1 企業行動

石炭・ガス
石炭・採石場・鉱業
道路輸送
農業・畜産・漁業
自動車
エネルギー生産と公益事業
食品と飲料
繊維・アクセサリー・靴・宝飾品

出典:EUR-lex, Commission delegated regulation (EU) 2023/2772、EFRAG,ESRS sector specific standards, https://www.efrag.org/lab5より弊社作成

横断的基準については、全般的要求事項であるESRS 1 と、全般的開示事項であるESRS 2で構成される。トピック別基準については、大きく分けると環境(E:Environment)、社会(S:Social)、ガバナンス(G:Governance)の3つの柱があり、合計10のトピック別基準が存在する。最後のセクター別基準については、当初、2024年6月の採択を予定していたが、採択期限が2026年6月へ延期された。なお、ESRSの起案を担う、EFRAG(欧州報告諮問グループ)のサイトによれば、現時点で8つのセクター別の開示基準の起案が予定されている[5]。本稿では、横断的基準とトピック別基準について、それぞれ説明する。

□横断的基準(Cross-cutting standards)

横断的基準は、全般的要求事項と、全般的開示事項の2つで構成され、サステナビリティ報告に関する全体的な原則と基準が規定されている。

a. ESRS 1 全般的要求事項(General requirements)は、企業がCSRDに基づくサステナビリティ報告を行う際に適用される一般原則など、ESRS全体の構成を規定している(表3)。開示における4つの報告分野である「ガバナンス」、「戦略」、「インパクト、リスクと機会の管理」、「指標と目標」を定めたことや、前述したダブルマテリアリティの考え方などが記載されている。

表3 ESRS 1 全般的要求事項の内容
   
ESRS 1:全般的要求事項
1. ESRS基準のカテゴリ、報告分野、起草ルール 6. 対象期間
2. 情報の質的特性 7. サステナビリティ情報の策定と公表
3. サステナビリティ開示の基本となるダブルマテリアリティ 8. サステナビリティ報告書の構成
4. デューデリジェンス 9. 他の企業報告および関連情報とのリンク
5. バリューチェーン 10. 経過措置

出典:EUR-lex, Commission delegated regulation (EU) 2023/2772より弊社作成

b. ESRS 2 全般的開示事項(General disclosures)は、全てのサステナビリティ項目について、企業が開示すべき情報を規定している。ESRS 1で定められた4つの報告分野に、サステナビリティ報告の範囲や対象期間の定義などを定めた、「開示策定準備」を加えた5つの報告分野で構成されている。企業に開示を義務づけている情報は、各報告分野で整理され、後述する開示要件(DR:Disclosure Requirement)として定められている(表4)。

表4 ESRS 2 全般的開示事項の構成
       
報告分野 開示要件 開示内容
開示策定準備 BP-1 サステナビリティ報告書策定の全般的基準
BP-2 特定の状況に関する開示
ガバナンス GOV-1 経営、マネジメント、監査機関の役割
GOV-2 企業の経営、マネジメント、監査機関に提供された情報、および取り組まれたサステナビリティ事項
GOV-3 インセンティブ制度におけるサステナビリティ関連の実績のインテグレーション
GOV-4 デューデリジェンスに関する報告
GOV-5 サステナビリティ報告に関するリスク管理および内部統制
戦略 SBM-1 戦略、ビジネスモデル、およびバリューチェーン
SBM-2 ステークホルダーの関心事および意見
SBM-3 マテリアルな影響、リスクと機会、およびその戦略とビジネスモデルとの相互作用
インパクト、
リスクと機会の管理
マテリアリティ評価プロセスの開示 IRO-1 マテリアルな気候関連影響、リスクと機会を特定・評価するためのプロセスの説明
IRO-2 事業者のサステナビリティに関する報告の対象となる、ESRSにおける開示要求事項
方針および施策の
最低開示要件
MDR-P マテリアルなサステナビリティ事項を管理するために導入された方針
MDR-A マテリアルなサステナビリティ事項に関する施策およびリソース
指標と目標 MDR-M マテリアルなサステナビリティ事項に関する基準
MDR-T 目標を通じた方針および施策の有効性追跡

出典:EUR-lex, Commission delegated regulation (EU) 2023/2772より弊社作成

□トピック別基準(Topical standards)

トピック別基準は、ESGの3つの柱に紐づく、合計10項目のトピックで構成されている。また、それぞれのトピックには、より細分化したトピックとして、サブトピック、サブサブトピックが設定されている。これらのトピックは、企業のマテリアリティ評価にも使用され、条件に照らし合わせてマテリアルと判断した場合、後述する当該トピックの開示要件(DR)に従って、サステナビリティ報告を行う必要がある。一例として、ESRS S1に規定されている、トピック、サブトピック、サブサブトピックを示す(表5)。

表5 ESRS S1 (自社の従業員)のトピック別基準
         
ピラー ESRS トピック サブトピック サブサブトピック
社会 ESRS S1 自社の従業員 •労働条件 •安定雇用
•労働時間
•適正賃金
•社会的対話
•結社の自由、労使協議会の存在、労働者の情報、協議および参加権
•団体交渉権(団体協約の対象となる労働者割合など)
•ワーク・ライフ・バランス
•安全衛生
 •均等な待遇
および機会
•ジェンダー平等および同一労働同一賃金
•研修および能力開発
•障がい者雇用およびインクルージョン
•職場における暴力およびハラスメント対策
•ダイバーシティ
•その他労働
関連の権利
•児童労働
•強制労働
•適切な住居
•プライバシー

出典:EUR-lex, Commission delegated regulation (EU) 2023/2772より弊社作成

(3) 開⽰要件(DR:Disclosure Requirement)

開示要件とは、ESRS 2とトピック別基準に定められている、企業が開示するべき情報を示している(例 E1-4 気候変動緩和および適応に関する目標)。
それぞれのDRは、前述した5つの報告分野と紐づいており、DRの開示に含める、より具体的な情報や、DRを説明する要素である、データポイント(Data point)で構成されている。ESRSでは、企業に対して開示する情報のレベルにより、異なる用語を使用しており、”shall disclose”はDRまたはデータポイントで規定された条項を示し、”may disclose”は優れた開示を奨励するための、任意的な開示を示す。 

また、DRとデータポイントの他に、DRの適用をサポートする、適用要件(AR:Application Requirement)が定められている。ARは、DRの規定内容を開示する際のいわば手引きとして位置づけられ、DRが含まれるESRS 2(全般的開示事項)およびトピック別基準のAppendix部分に記述されているが、各ESRSを構成する一要素であり、ESRS本体と同様の効力を有するとされている。

□開示要件(DR)の例 ESRS E1 気候変動

DRおよびデータポイント、ならびにそれらをサポートするARについて、ESRS E1(気候変動)のトピック別基準を具体例として紹介する。

表6に示すのが、ESRS E1 気候変動におけるDRおよびその内容の一覧である。ESRS E1では、横断的基準の3つと、トピック別基準9つの計12のDRが定められている。

表6 ESRS E1 気候変動で規定された開示要件(DR)とその開示内容
     
報告分野 開示要件 開示内容
ガバナンス ESRS-2 GOV-3 インセンティブ制度におけるサステナビリティ関連の実績のインテグレーション
戦略 E1-1 気候変動緩和のための移行計画
ESRS-2 SBM-3 マテリアルな影響、リスクと機会、およびその戦略とビジネスモデルとの相互作用
影響、
リスクと機会の管理
ESRS-2 IRO-1 マテリアルな気候関連影響、リスクと機会を特定・評価するためのプロセスの説明
E1-2 気候変動の緩和および適応に関する方針
E1-3 気候変動方針に関する施策およびリソース
指標と目標 E1-4 気候変動緩和および適応に関する目標
E1-5 エネルギー消費およびエネルギーミックス
E1-6 Scope 1,2,3の総量およびGHG総排出量
E1-7 カーボンクレジットを通じて資金提供をうけるGHG除去・低減プロジェクト
E1-8 社内カーボンプライシング
E1-9 期待されるマテリアルな物理・移行リスク、および潜在的気候関連機会からの財務影響

出典:EUR-lex, Commission delegated regulation (EU) 2023/2772より弊社作成

表7は、E1-4における、GHG排出削減目標のDRおよびARを示したものである。DRでは、企業がGHG排出削減目標を設定する場合、総量目標で開示を行うか、該当する場合は、原単位目標での開示が必要という規定がある。一方、ARでは、原単位目標での開示を行う場合、原単位の定義や、物理的活動または経済生産の単位(活動量)を、採択予定のセクター別基準で参照するように記載されている。DRに規定された情報について開示を行う場合、これらARについても参照することで、ESRSで規定されている開示すべき情報への理解が進むように思われる。

表7 ESRS E1‐4のDRおよびAR
   
開示要件(DR) 適用要件(AR)
DR E1-4 : 気候変動緩和および適応に関する目標 DR E1-4 : 気候変動緩和および適応に関する目標
(中略)
34. 事業者がGHG排出削減目標を設定した場合、ESRS 2 MDR-Tと以下の要求事項が適用される:

(a) GHG排出削減目標は、総量(CO2 eqトンまたは基準年の排出量に対する割合)、および、該当する場合は原単位で開示しなければならない;
(以下略)

AR23. 第34項(a)では、事業者はGHG排出削減目標を原単位で開示することができる。原単位目標は、GHG排出量の物理的活動または経済生産の単位に対する比率として設定される。関連する物理活動または経済生産の単位は、ESRSのセクター別基準で参照される。事業者がGHG原単位削減目標のみを設定した場合であっても、目標年度と中間目標年度の関連する総量を開示しなければならない。この結果、事業者は、例えば事業の成り行きの成長を見込んでいるため、目標年度と中間目標年度のGHG排出量の総量の増加を開示しなければならない場合がある。
(以下略)

出典:EUR-lex, Commission delegated regulation (EU) 2023/2772より弊社作成

おわりに

CSRDが2023年1月5日に発効となったことを受け、EU加盟国は18カ月以内(2024年7月6日まで)に、国内法制化を進めなければならない。国内法制化により、適用対象企業が開示義務を果たさない、あるいは虚偽の記載を行った場合、規制当局から罰則が課される可能性がある。さらにサプライヤー、消費者、株主らステークホルダーからの信頼が損なわれるリスクも存在し、看過できない問題となり得る。

EU加盟国に子会社・支店を展開する日本企業は、国内法制化を待たずして、子会社とコミュニケーションを取りつつ、具体的なサステナビリティ報告への準備を進めることが肝要である。本稿がCSRD、ESRS対応の検討の一助になれば幸いである。 

参考情報

執筆コンサルタント

三川 裕己
製品安全・環境本部 サステナビリティユニット 研究員
専門分野:気候変動、サステナビリティ情報開示

脚注

[1] Global reporting Initiative, CSRD Essentials, https://www.globalreporting.org/media/nchpzct5/gri-csrd-essentials.pdf
[2] マネジメントレポートは、年次報告書の構成要素であり、財務情報と非財務情報が含まれる。
[3] 中小規模企業はサステナビリティ報告において、企業のビジネスモデルの簡潔な説明などに限定することができる。
[4] この経過措置における“連結”とは、日本の親会社を除いた、最大の売上高のあるEU子会社を中心とする連結単位のことを指す。
[5] EFRAG,ESRS sector specific standards: https://www.efrag.org/lab5 2024年5月現在、石油・ガスセクターと石炭・採石・鉱業セクターの初期ドラフトが承認されている。

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