自動車盗難の最新事情 ~盗難被害の多い地域・車種、盗難の手口から対策まで~

  • 交通リスク

リスクマネジメント最前線

2023/8/30

目次

  1. 自動車盗難の現状
  2. 窃盗犯の世情・手口など
  3. 盗難リスク低減のための対策
  4. おわりに

自動車盗難の最新事情 ~盗難被害の多い地域・車種、盗難の手口から対策まで~ - リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

塩入 英明
運輸・モビリティ本部 第一ユニット エキスパートリスクコンサルタント
専門分野:交通リスク
社用車を保有する企業向け交通リスク調査・分析・リスクアセスメント、レンタカー事業者向け事故削減コンサルティングなどに従事

 

支度を整え、車で出掛けるために駐車場に行ったら、あるはずの車がなかった。このような話を耳にしたことはないだろうか。中には、自分自身がこのような経験をしたことがあるという人がいるかもしれない。

販売用の車、会社の車、あるいは自分の愛車が盗難被害に遭うことなど考えたくないが、近年、国内における自動車盗難の被害は、年間5,000件以上発生しているのが現状である。車の持ち主にとっては決して他人事ではない。自分がいつ盗難被害に遭ってもおかしくない状況なのである。

本稿では、自動車盗難の最新事情と題して、盗難被害件数の多い地域、盗難被害に遭いやすい車種、近年主流となっている盗難の手口、盗難リスク低減のための対策などについて解説する。

1.自動車盗難の現状

(1)自動車盗難の認知件数

自動車盗難認知件数の推移[1](直近10年)を図1に示す。近年の自動車盗難の認知件数は、ピーク時(2003年 64,223件)に比べ 10分の1以下にまで減少している。毎年2桁の減少率で推移してきたが、2020~21年に下げ止まりの傾向がみられ、2022年に微増に転じている。

2020年、対前年比で大きく減少したのは、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う入国制限などにより、盗難車を海外に不正輸出する窃盗団が減少したことが理由の一つとして考えられる。逆に2022年に増加に転じたのは、入国制限の緩和が影響した可能性があり、今後の推移について注意深く観察する必要がある。

鍵の状態別では、「キーなし」の割合が高く、約75%が「キーなし」の状態で盗難被害に遭っている。「キーあり」の場合、場当たり的な犯行が考えられるが、「キーなし」の場合は、計画的な犯行とみてほぼ間違いない。約75%が「キーなし」の状態で盗難被害に遭っていることから、自動車盗難の多くは計画的に行なわれているということになる。

※鍵の状態別
▪キーあり:エンジンキーがイグニッションスイッチに差し込まれていたか、運転席又はその周辺に放置されていたもの。
▪キーなし:キーあり以外のもの。 

図1 自動車盗難認知件数の推移(直近10年)

自動車盗難認知件数の推移(直近10年)

(2)盗難被害件数の多い地域

近年、自動車盗難の認知件数は減少しているものの、特定の地域に被害が集中している傾向がある。自動車盗難認知件数の上位5府県の順位の推移[2]を図2に示す。2015年以降、上位5位に登場している府県は同じ顔ぶれである。直近2年において順位に変動はみられるが、2016~20年は順位も同一であった。このように、特定の地域に被害が集中する理由は、窃盗犯が自動車を盗難しやすい環境がいくつか整っているためと考えられる。したがって、これら特定の地域に被害が集中する傾向は今後も大きくは変わらないと思われる。

※窃盗犯が自動車を盗難しやすい環境(括弧内はその理由)
▪車の流通量、保有数が多い。(盗難のターゲットとなる車の数が多い)
▪道路網が整備されている。(盗難した車両を搬送しやすい)
▪広くて平らな土地がある。(作業場となるヤードを構築しやすい)
▪貿易拠点となる港湾に近い。(海外向け輸出ルートを確保しやすい) 

 図2 自動車盗難 認知件数(上位5府県)順位の推移

図2 自動車盗難 認知件数(上位5府県)順位の推移

2022年における自動車盗難認知件数上位5府県について、その認知件数、検挙件数、検挙率[3]を図3に示す。これらの府県の認知件数は全国平均に比べ極端に多く、自動車の盗難が特定の地域に集中していることを物語っている。また、検挙率については、年によっても変動があるため、2022年のみで良否を判断することはできないが、いずれの府県も全国の検挙率を下回っている。検挙率向上のため、自動車盗難に関する情報提供者に報奨金を出す制度を実施している県もあり(愛知県・茨城県)、警察としても、自動車盗難の犯罪抑止及び検挙率の向上に努めていることが窺える。安心して車を保有できる社会になるよう、更なる検挙率の向上に期待したい。

図3 自動車盗難 認知件数・検挙件数・検挙率(2022 年 認知件数上位5府県)の状況

自動車盗難 認知件数・検挙件数・検挙率(2022 年 認知件数上位5府県)の状況

(3)車種別の盗難状況

自動車盗難の認知件数でみたとおり、近年においては年間5,000件を超える盗難被害が出ている。その中でも特定の車種が被害に遭いやすい傾向にある。どのような車種が窃盗犯に狙われやすいのか、2020・2021年における車種別の盗難台数[4](上位10車種)を表1に示す。

盗難台数の多い10車種は2020・2021年ともに同じ車となっている。特に、上位4車種の順位に変動はなく、5位以降についても多少の順位変動はあるものの、同じ車種が名を連ねている。これらのうち、上位の車種は高級車といわれる車で、海外でも人気の輸出需要の高い車[5]が多く、転売目的での盗難が頻発していることが分かる。

このような高級車が、なぜ頻繁に盗難被害に遭っているのか。その理由の一つとして、車の持ち主が「(高級車には高性能の)純正セキュリティが装備されているから大丈夫」と安易に考えがちで、メーカー純正ではなく自動車用品などを扱うサードパーティー製のセキュリティ装置(以下「他社製セキュリティ」という。)を付けないことが挙げられる。

確かに、「純正のセキュリティが付いているから安心」と思ってしまうのは当然である。しかし実際は、純正だからこそ危険なのである。なぜなら、純正セキュリティの場合、同一車種であれば、同じ仕様・同じ場所にセキュリティが装備されている。このため、窃盗犯はサンプルとなる車を一台入手すれば、セキュリティ装置の仕様や設置場所などを細かく調査、攻略方法を研究することができ、これによりセキュリティの解除方法が分かれば、後は、その方法を用いて盗みを繰り返せば良いからである。

したがって、車の持ち主が盗難防止対策を純正のセキュリティのみに頼る(期待する)のは、極めて危険である。盗難被害から車を守るためには、純正のセキュリティとは別の盗難防止対策を講じる必要がある。

一方で、被害に遭う車は高級車ばかりではない。普通の一般車も盗難被害に遭っているので注意が必要である。一般車は、犯罪者が犯罪に使用する車を調達するために狙われることが多いと考えられる。犯罪者の立場からすると、人目に付かないようにするためには「目立たない一般車の方が都合が良い」のである。このため、保有している車が一般車の場合でも、油断することなく、盗難防止の対策を講じておくことが大切である。 

表1 車種別の盗難台数の状況

表1 車種別の盗難台数の状況

(4)年式別の盗難状況

第 24 回自動車盗難事故実態調査結果[6]によると、2022年に盗難被害に遭った車両の年式は図4のとおりである。ここに示している支払件数とは、自動車盗難事故の発生に伴い、自動車保険(車両保険)の保険金支払いが行なわれた件数のことである。

これを見ると、盗難被害に遭う車両は、年式の新しい最新モデルが必ずしも多いわけではない。その理由として、

  • 最新モデルの場合、普及している台数自体が少ない。このため、単純に、被害に遭う台数も少ない。
  • 窃盗犯にとって、普及台数が少ない車を盗むということは、「目立つ」、「足が付きやすい」というリスクがある。このため、敬遠される傾向にある。
  • 窃盗犯が、メーカー純正のセキュリティ装置の解除・無効化の研究に一定程度の時間を要する。このため、最新モデルの場合、まだセキュリティ解除の攻略法が確立していない。
  • 海外においては、品質の良い日本製の自動車であれば、多少、年式が古い(又は走行距離が多い)ことは、まったく問題にならない。 などが挙げられる。

また、10 年以上経過した車(年式2012年以前)の件数が多い点も特徴的である。その理由として、

  • 日本では(税の制度上)10年以上経過というと古い印象だが、海外(南アジア、中東、アフリカ、旧ソ連諸国など)では 10年・20年は普通である。
  • 近年の車と異なり、セキュリティが未装備又は充実していないため、盗難が比較的容易である。
  • すでにメーカーからの部品供給がないため、解体して部品としても高額で取引される。 などが考えられる。

図4 被害車両の年式 車両本体盗難(2022年)

被害車両の年式 車両本体盗難(2022 年)

第22回の同調査結果[7]によると、盗難までの平均年月(過去4回の調査結果をもとに算出した平均年月)は、おおむね6年2カ月であった。

「我が家の車は5年落ちだから盗難されないだろう」などと楽観的なことを言っていられないのが現状である。年式の新旧にかかわらず、大切な車にはしっかりとした盗難防止対策を施す必要がある。 

(5)時間帯別・曜日別の盗難状況

自動車盗難の発生時間帯別及び曜日別の認知件数[8]を図5に示す。発生時間帯別においては、一般的に予想されるとおり、夜間における件数が多い。ピークは0~2時の81件(19.7%)、次に、2~4時の72件(17.5%)が突出しており、これら深夜から未明にかけての4時間が、もっとも危険な時間帯といえる。その前後の各2時間(22~24時及び4~6時)についても比較的多くなっており、注意を要する時間帯といってよい。

また、曜日別においては、日曜・月曜の認知件数が比較的少ない。時間帯別の認知件数で触れたとおり、もっとも危険な時間帯が、日付が変わった深夜から未明(0~4時)の4時間であったことを考慮すると、土曜深夜~日曜未明・日曜深夜~月曜未明の件数が少ない傾向にあると推測することができる。土曜・日曜には、車の持ち主が車を使用する頻度が高まる(それ故、窃盗犯が犯行を控える)ため、盗難被害が少なくなることが一因と考えられる。一方、火曜以降の平日の認知件数が比較的多くなっている。この理由としては、自動車販売店などでは、定休日が平日の場合が多いことや、個人所有の車では、仕事などにより平日に車の使用頻度が低くなることが一因として考えられる。このため、自動車販売店などで門扉がない場合、定休日には、少なくとも店舗の出入口に障害となるもの(例えば、ラバコーン+コーンバーのセット、チェーンポール+チェーンなど)の設置を検討すべきである。また、個人所有の車の場合、車を日々チェックする(後述する「盗難の下見とその前兆」に早期に気付き対処する)ことが盗難被害の防止に繋がると考える。

図5 自動車盗難の発生時間帯別及び曜日別の認知件数(2021 年)

図5 自動車盗難の発生時間帯別及び曜日別の認知件数(2021 年)

(6)発生場所別の盗難状況

自動車盗難の発生場所別認知件数[9]を図6に示す。2022年の発生場所でもっとも多かったのは「一般住宅(一戸建て及び集合住宅)」であり、次いで「その他」、「駐車(輪)場」の順となっている。「その他」とは、主に会社・事務所、資材置場、商店などである。

発生場所の「一般住宅」と「駐車(輪)場」の全体に占める割合は、ここ5年で対照的な推移を見せている。2018年においては駐車(輪)場での盗難が 40%以上を占めていたが、この5年で急減、逆に一般住宅の割合は約40%を占めるまでに急増している。犯行の現場の主役が住宅の敷地内に移りつつある傾向は注目に値する。「目の届く範囲にあるから大丈夫」と油断していると、ある日、「車が盗まれた」ということになりかねないのである。

図6 自動車盗難の発生場所別認知件数(直近5年)

図6 自動車盗難の発生場所別認知件数(直近5年)

(7)その他

車の塗装色の観点では、白、黒、シルバー系の色が比較的盗難被害に遭いやすいと考えられる。その理由は、これら一般的な色の車は、市場に多く出回っていることから、市街地を走行していても目立たないためである。一方、赤や黄など目立つ色の車は、比較的盗難に遭いにくいと考えられる。

スタイルの観点では、目立ちやすいスタイルのスポーツカー、例えば、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなどは、特別な目的がある場合を除き、比較的盗難に遭いにくいとされる。その理由は、窃盗犯にとって目撃情報が多く寄せられるリスクがあり、足が付きやすいためと考えられる。

その他、一部のハイブリット車のマフラーにはパラジウムというレアメタルが含まれている。パラジウムの価格は、マフラー向けの需要がプラチナからパラジウムへシフトしたことにより世界的に高騰しているため、これを転売する目的で車が盗難される場合もある。

2. 窃盗犯の世情・手口など

(1)組織化が進む犯行

自動車盗難には、犯罪グループが組織的に関与し犯行に及んでいるものがある。近年の自動車窃盗犯は、犯行全体を、調査・実行・解体・売却などの任務に役割分担するなど組織化が進んでいる(以下、組織化された窃盗犯を窃盗団という。図7に一例を示す)。また、窃盗の現場においては、専門の知識を必要とし、特殊な機器を駆使するなど、その手口は高度化・巧妙化している。このように窃盗犯が窃盗団へと進化してきた理由は、車の進化(装備の電子化、セキュリティシステムの強化)に伴い、窃盗のための専門知識が必要であることや、盗んだ車を現金化するためのノウハウが必要であることが考えられる。

これらを裏付けるように、近年における自動車盗難事案(表2参照)によると、窃盗団には主犯格がおり、その指示の下、車を盗みヤードなどに運搬、そこを車両の保管・解体などの作業場所として利用し、そこからコンテナに積んで海外へ運搬するという事例が報じられている。
なお、組織化が進む背景の一つに、暴力団対策法の改正(1992年)があげられる。この法改正により、従来得ていた暴力団の資金源が減少、代わって盗難車売買の利益が、新たな資金源の一部になっていると考えられる。

図7 窃盗団の構成例

表2 近年における自動車盗難事案(各種報道・公開情報をもとに弊社作成)
時期 概要
2018年11月 国産高級車を盗み不正に輸出したとして、大阪府警などは窃盗や関税法違反容疑で12人を逮捕した。盗難車は、正規の輸出許可を受けた中古車と入れ替えてコンテナに積み、パキスタンなどに輸出していた。被害は約100台、総額8億円相当に上る。オークションで格安の中古車を購入、通関手続きを受けた後、盗難車と入れ替えて輸出していたという。
2022年11月 群馬や岐阜など5府県の合共同捜査班は、中古車販売店から車を盗んだとして、男5人を窃盗容疑で逮捕した。捜査班によると、5人は神戸市内の中古車販売店から乗用車3台(計860万円相当)を盗んだ疑い。岐阜県内を拠点とする窃盗団のメンバーで、8月頃から約20か所で計60台以上の車を盗んだとみられる。
2023年4月 連続自動車窃盗事件を巡り、岐阜県警など17府県警の合同捜査本部は、窃盗容疑で男3人を逮捕、再逮捕し、群馬県に住む男4人を同容疑で書類送検した。7人は、昨年愛知県内の駐車場で海運物流会社の乗用車7台(計900万円相当)を盗んだ疑い。
2023年6月 大阪を中心に高級車の窃盗を繰り返したとして、今年4月、窃盗グループ20人が摘発された事件で、警察は主犯格とみられる暴力団組長の男を逮捕した。このグループは関東、東海、近畿など9府県で高級車64台、約4億3千万円相当を盗んだ疑いが持たれている。「CANインベーダー」と呼ばれる手口で車を盗み、茨城県の解体施設「ヤード」に運び込んで売却目的で解体していた。

(2)盗難の下見とその前兆

車の盗難被害の前には前兆がある場合が多い。なぜなら、窃盗犯は多くの場合、ターゲットにする車を物色するため下見に来ているからである。その前兆に気付けるか気付けないかによって、盗難被害に遭うか遭わないかが決まる場合もある。このため、次のようなことがあれば、それを盗難の前兆ととらえ、速やかに対処することが大切である。

タイヤ前後に空き缶

タイヤの前後に空き缶が置かれていると、「子供のいたずらか?」と軽く考えてしまうが、窃盗犯が下見をした目印として空き缶を置く場合があるので注意が必要である。もし、空き缶が置かれていたら、その車は窃盗犯に目を付けられているかもしれないと考えるべきである。

ドアノブにコイン

車に乗ろうとしてドアノブを引いたら百円玉が落ちてきたら、「ラッキー」などと思ってはいけない。これも盗難の前兆の場合がある。コインを挟むのは、その車を持ち主が頻繁に動かしているか否かを確認するためである。コインがいつまでも挟まっていれば、「頻繁に動かしていない」と窃盗犯に思われることになる。 

車への貼り紙

車に「高価買取します」という貼り紙がされている場合にも注意が必要である。窃盗犯は貼り紙をして、持ち主がその車をどれくらい使用しているのか探っている可能性がある。このような場合、直ちに貼り紙を取り除き、車を頻繁に使用していることを窃盗犯にアピールすることが大切である。

ここで述べたように、盗難犯はターゲットとなる車を下見に来ている。その目的は、事前に車の使用頻度など車自体の状態のほか、駐車位置、周囲の交通量、人通りの状況などの立地を把握するためである。

空き缶、コイン、貼り紙を一例として示したが、それ以外でも、車の近くに何か違和感を覚えるようなことがあれば、それは盗難の前兆の可能性がある。盗難の被害に遭わないためにも、早期に対策を講じることが重要となる。

(3)近年流行している手口

かつて、自動車の盗難といえば、針金をドアの隙間に挿し入れドアロックを解錠、キーシリンダーを外して直接配線をつなぎ、エンジン始動する。というのが一般的な手口であった。しかし、車側のセキュリティ向上に伴い、盗難の手口も、時代とともに変化・進化している。ここでは、近年における代表的な三つの手口について紹介する。

CAN インベーダー

紹介する三つの手口の中でも、比較的多く使われているのが、CANインベーダーというもので、数年前から自動車盗難の手口として主流になってきている。CANとは Controller Area Networkの略で、車の動きを制御する車載ネットワークのことを指す。

近年、車の進化には目を見張るものがあり、電子化・電子制御は当たり前になってきている。この車の進化を逆手にとり、CAN通信に侵入(invade)して、車のセキュリティを解除、ドアロックを解錠、エンジンを始動させて盗難するのが CANインベーダーの手口である。車のフェンダー部分の外板を剥いで、そこから専用の機器(本来、車の修理業者のために開発されたものであるが、これを悪用したもの)を接続、車側の電子制御ユニットを操作することによって、ドアロックの解錠・施錠、エンジン始動などを行なうことが可能となる。

CANインベーダーの特徴は、車の脇に人がひとり立てる程度のスペースがあれば窃盗の作業が可能であることや、単独(一人)での犯行が可能であること、解錠からエンジン始動に要する時間は、5~10分程度と短時間であることなどがあげられる。このため、窃盗犯に一度狙われると、被害に遭う可能性は高いといえる。

コードグラバー

近年の車には、スマートキーという鍵が導入されている。スマートキーとは、キーをポケットやバックに入れたままであっても、車側のボタンを押す(又はドアノブにタッチする)ことによりドアロックの解錠・施錠ができ、また、キーが車内にあれば、スタートボタンを押すだけでエンジンの始動・停止を行えるキーのことである。車の近傍では、このスマートキーから微弱な電波が発信されており、車側と相互に通信をしている。

コードグラバーとは、信号(code)を捕らえる(grabbing)という意味から付けられた名称である。スマートキーが発信する微弱な電波から信号(識別コード)を読み取り、同じ信号を持つキーを複製するというもので、スマートキーのスペアを作成する際に使われる機器を悪用した手口がコードグラバーである。

窃盗犯は、車の持ち主がドアをロックした際にスマートキーから発信される信号を専用機器で受信、ドア施錠の際に作られる固有の ID コードを複製し、その車を盗難するのである。

コードグラバーの特徴は、スペアキーを使って自分の車を扱うかのようにドアロックの開閉やエンジン始動ができ、それ故、周囲に人がいたとしても怪しまれることがないことなどがあげられ、近年、主流の手口になっている。 

リレーアタック

リレーアタックもスマートキーの特性を悪用して車を盗難する手口である。前述のとおり、スマートキーは微弱な電波を発信している。もう少し詳しくいうと、スマートキー仕様の車両は、微弱な電波(リクエスト信号)を発信している。スマートキーがその電波を受信すると、それに合致したレスポンス信号を返すようになっており、車側がこのレスポンス信号を受信することで、ドアロックを解錠するしくみになっている。この微弱な電波(リクエスト信号及びレスポンス信号)を専用機器で受信・増幅・中継(リレー)することにより、キーから離れた場所にある車に電波を受信させ、ドアロックの解錠やエンジン始動を可能にするのがリレーアタックである。

リレーアタックの特徴は、犯行に要する時間が、わずか数十秒と極めて短時間であることや、その犯行は「中継役」や「窃盗役」など複数人のグループによって行なわれる場合が多いこと、国内のみでなく、世界中で流行している自動車盗難の手口となっていることなどがあげられる。

車は高性能化し、鍵はスマートキーへと進化したことで、カーライフは便利で快適なものとなった。しかし一方で、それらの特性を理解し適切に対応しないと、紹介した手口によって、簡単に盗難の被害に遭ってしまうということである。保有する車の特性に無関心ということであれば、今からでも、その利点、欠点、しくみなどを理解しておくべきである。 

(4)盗難車両のゆくえ

盗難車の一部は国内において売買されるが、その多くは海外に輸出される。なぜなら、窃盗犯にとっては、盗難車を国内で流通させることの方が摘発のリスクが高いためである。車には一台一台に車台番号(車の製造番号)が付与(刻印)され管理されている。この車台番号は国内で登録済みであっても海外では未登録である。このため輸出してしまえば、それが盗難車か否か見分けることはできない。輸出するにあたっては、窃盗団の一味である整備会社や解体会社などが、車台番号の刻印偽装、コーションプレート(製造元、車台番号、車体色番号などが書かれた金属板)の付け替え及び車検証などの書類の偽造を担当する。

これら盗難車両の解体や不正輸出のための作業はヤードと呼ばれる施設で行われる。ここにコンテナを運び込み、車のまま又は解体後、部品としてコンテナに詰め込む。それをコンテナ船に搭載して海外へ不正輸出するのである(図8参照)[10]。解体され部品として輸出される場合、元の車両を特定することは、ほぼ不可能である。このため、窃盗団にとっては、足が付きにくく、摘発されるリスクも低いのである。

輸出先としては、東南アジア、中東、アフリカ、旧ソ連諸国などが挙げられる。これらはともに、車の需要が高い地域である。特に、車種別の盗難台数において上位であった「ランドクルーザー」は、悪路走行性能に優れていて信頼性が高い。また、「ハイエース」は、人員や荷物を多く搭載でき、耐久性にも優れている。このような理由で、未舗装道路の多いこれらの地域での人気・需要が高くなっている。 

図8 盗難車両が不正輸出されるまでの流れ

図8 盗難車両が不正輸出されるまでの流れ

(5)盗難に遭った車は戻ってくるのか

被害車両はどれくらいの割合で持ち主の手元に戻ってくるのか。茨城県の例ではあるが、2021年の自動車盗難の認知件数581件のうち、被害車両が返還された件数は 22件、3.7%であった[11]。これは極端な例かもしれないが、全国的にみても被害車両が戻る割合はそれほど高くない。図9に「キーなし」の場合の被害車両の還付状況[12]を示す。折れ線グラフに示すとおり、「キーなし」の場合の還付率は20%前後で推移している。なお、グラフにはないが、 同時期の「キーあり」の還付率は 40.9~55.4%であり、「キーなし」に比べて約2倍高くなっている。「キーあり」の場合、場当たり的な犯行が多く、現場周辺に車が乗り捨てられやすいことがその理由と考えられる。しかしながら、「自動車盗難の認知件数(図1)」に示したとおり、盗難被害の約 75%は「キーなし」の状態、すなわち、計画的な犯行であり、車が海外に不正輸出されてしまうと、戻ってくることはまず期待できない。地域及び年によって差はあるものの、盗まれたら戻ってこない確率が高いと思って間違いなさそうである。

図9 盗難被害車両の還付状況(キーなし) 

図9 盗難被害車両の還付状況(キーなし)

3.盗難リスク低減のための対策

車の盗難対策に関しては、「車種別の盗難状況」で述べたとおり、盗難台数上位に該当する車の持ち主の多くは「メーカー純正のセキュリティが充実しているから大丈夫」と考えている。しかし、メーカー純正のセキュリティに対しては、窃盗犯もこれを解除するための研究・攻略法の開発を繰り返しており、新しいセキュリティが出現しても、突破されるのは時間の問題となっている。まさに、メーカーと窃盗犯との「イタチごっこ」が続いており、車の持ち主は、純正のセキュリティに加え、別の盗難防止装置を併用するなど、二重三重の対策を施すことによって盗まれにくい環境をつくり、盗難被害のリスクを低減させることを考えなければならない。

(1)盗難防止の基本

次の二点は、盗難防止の「対策」に言及する以前の「基本」であり、実践すべき必須事項である。 

車から離れる際は施錠する

「自動車盗難の認知件数(図1)」に示したとおり、多くの場合「キーなし」で盗難被害に遭っているが、一方で、「キーあり」での被害も約 25%に上っている。すなわち、4台に1台は「キーあり」の状態で盗難被害に遭っているということである。「直ぐに戻るから」、「面倒だから」という、ちょっとした気の緩みから施錠を怠ったために、車を盗まれてしまうことがある。短時間であってもドアの施錠を怠ってはいけない。

車内にカバン、貴重品などを置いたまま車から離れない

外から見える状態で、車内にカバンや貴重品などを置いておくと、無用な犯行を誘発させる場合がある。「ドアを施錠しているから大丈夫」ということではない。ドアを施錠していたとしても、車を離れる際は、貴重品を携行することである。「貴重品のみでなく、車ごとなくなっていた」ということにもなりかねない。

(2)近年流行している手口への対策

CANインベーダー対策

残念ながら、CANインベーダー自体を完全に防ぐ方法はないと考えられ、対策は困難である。直接的な対策ではないが、CANインベーダーによる盗難被害を避ける方法として、他社製セキュリティの装備が挙げられる。CAN インベーダーで無効化できるのはCANのネットワーク内にあるメーカー純正の盗難防止装置に限られる。このため、CAN とは独立した(メーカー純正でない)他社製セキリティを導入することが対策の一つとなり得る。他社製セキュリティであれば、これがCANインベーダーによって無効化されることはなく効果的と考えられる。更に、後述する汎用的な対策を併用することで、盗難の防止・抑止の効果が高まることが期待できる。

コードグラバー対策

スマートキーを複製してしまうコードグラバーも、残念ながら、これ自体を完全に防ぐ方法はないと考えられる。このため、CANインベーダーと同様、他社製セキュリティを装備することが対策方法となり得る。他社製セキュリティでは、例えば、専用の電子キーを用いて解錠操作をしなければドアロックの解錠やエンジン始動ができない製品もあり、間接的ではあるが、コードグラバー対策として効果的である。その他、後述する汎用的な対策を併用することで盗難の防止・抑止の効果が高まることが期待できる。

リレーアタック対策

リレーアタック対策として「電波遮断キーケース」を使用する方法がある。このキーケースにスマートキーを収納すれば、スマートキーから発信される微弱な電波が外に漏れることはない。ほかにも、密閉可能な金属製の容器に格納して、スマートキーからの電波の漏えいを遮断する方法もある。このようにすることで、窃盗犯はリレーアタックの手口(電波の受信・増幅・中継)を使うことができなくなり、盗難被害を防ぐことができるのである。

スマートキーが「節電モード」を装備している場合、同モードに設定することによって、同様の効果を得ることができる。「節電モード(スマートキーのボタン操作による)」に設定すると、キーからの電波の発信が停止される。このため、リレーアタックに有効な対策となるのである。節電モードの解除は、キーのいずれかのボタンを押すだけなので簡単である。その都度、設定・解除の操作が必要となるが、節電モードに設定すると、盗難のリスクを下げると同時に、キーの電池を長持ちさせることもできるため、一石二鳥といえる。

(3)汎用的な対策

車両への対策(物理的対策)

a. タイヤロック(図10参照) 

タイヤロックとは、タイヤにリング状の用具を装着することにより、タイヤを固定又はタイヤが自由に回転しないようにする盗難防止用具である。これが装着されていると窃盗犯が盗むことを断念し、盗難の被害から車を守ることができる。車両本体のみでなく、タイヤ・アルミホイールの盗難を防ぐこともできる。

タイヤロックの装着については、「毎回の取り付け・取り外しが面倒」、「手間と時間が掛かりそう」という印象を持つ人も多い。ただし、窃盗犯も同様に考えると思われ、その車を盗むことをあきらめて別の車に狙いを変えるなど、一定程度の盗難防止効果が期待できる。
一方で、タイヤロックを装着すれば盗難被害に遭わないというわけではない。タイヤロックを装着したまま、これを踏み潰すように前後に小刻みにタイヤを回転させるだけで簡単に外れてしまうものもある。一つのタイヤのみでなく複数のタイヤに装着することや、別の対策を併用することが大切である。

b. ハンドルロック(図 10 参照)

ハンドルロックとは、ハンドル部分に取り付ける棒状の盗難防止用具であり、ハンドルを物理的に固定して操作できないようにするものである。これが装着されていると、仮に窃盗犯がドアロックを解錠しエンジンを始動できたとしても、ハンドル操作をすることができない。このため、窃盗犯は犯行を断念せざるを得ず、盗難の被害から車を守ることができる。

ハンドルロックを装着することで、一定程度の効果は期待できるが、タイヤロックと同様、これで盗難被害に遭わないというわけではない。製品によっては、油圧カッターで簡単に切断、取り外せるものもある。ハンドルロック以外に別の対策も併せて講じておくことが大切である。 

図 10 車両への対策(物理的対策の例[13]

図 10 車両への対策(物理的対策の例)

ここで述べたタイヤロックやハンドルロックのような物理的な対策には次の効果がある。
▪視覚的効果:盗難対策を講じていることが一目瞭然である。
▪心理的効果:窃盗犯に「他にも何か対策をしているかもしれない」と思わせる。

これら二つの相乗効果によって犯罪抑止力が高まることが期待できるため、それぞれ弱点はあるものの、有効な盗難防止対策の一つと考えられる。

車両への対策(電子的対策)

a. 他社製のイモビライザー

メーカー純正イモビライザーの装備の有無にかかわらず、後付けの他社製イモビライザーを装備するという対策である。これにより、仮に、純正イモビライザーが無効化された場合でも、他社製イモビライザーは有効に機能しているため、エンジンの始動はできない。エンジン始動のためには、ハンドルなどにある各種スイッチの押下回数やその順序による認証などが必要で、これが正しく行なわれない場合、エンジン始動を不能とするため、盗難を防ぐことができる。

※イモビライザー
車の鍵にトランスポンダ(固有の電波発信機)が内蔵されていて、車側の受信器がその信号を受信、ID コードが一致したときだけエンジンを始動させるしくみ。2010 年頃から、高級車のみでなく一般車へも普及が広まった。 

b. セキュリティアラーム

セキュリティアラームとは、車に何らかの異常が生じた場合にセンサーがこれを感知し、警告音を発する盗難防止装置である。衝撃、動き、傾きを感知するセンサーのほか、ドア、ボンネット、トランクなどを監視するものや、警告音のみでなくエンジン始動を不能にするものもある。また、セキュリティ装置の電源を車のバッテリーからではなく、独立した電池からとるものもあり、バッテリーからの給電が遮断されても作動するようになっている。強風、地震などの揺れによって誤作動(まれに、異常がないにもかかわらず警告音を発している車があるが、これが誤作動によるもの)を起こすことがあるが、最新のセキュリティアラームは、誤作動を起さないようにセンサーなどが改良されているので比較的安心といえる。

前項で述べた「物理的な対策」に「電子的な対策」を追加、すなわち、タイプの異なる対策を組み合わせることで、防犯効果の高まりが期待できる。ただし、どの対策を採るにしても相応の費用を要するため、対策にも限度がある。状況が許す範囲において、可能であれば、異なるタイプを組み合わせた複数の対策を講じることが望ましい。  

車両への対策(その他の対策)

a. 車体カバー

車体カバーをすることによって、窃盗犯が車種を特定することが困難になる。カバーを取り外す際に、車両の周囲を動き回る必要があり、不審者として発見されるリスクが高まる。カバー取り外し時に音がする、取り外すのに時間がかかるなどの理由で、窃盗犯に犯行を断念させる効果が期待できる。

難点は、車の使用・終了時に、都度、カバーで覆ったり、外したりする手間と時間がかかることである。ただし、風雨や砂ほこりから車を保護することができるため(これが本来の目的ではあるが)、一石二鳥の対策といえる。 

b. ステッカー

「盗難警報装着車」のようなステッカーを貼る手軽な対策もある。窃盗犯の目に付きやすくするため、車の目立つ所に、目立つ色のステッカーを貼ると良い。これだけで、防犯意識の高さをアピールでき、犯罪抑止の効果を期待できる。手軽さのみでなく、低コストという特徴もある。

実際には装置が付いていなくても良い。窃盗犯には、それがステッカーだけなのか、本当に装置が付いているのか分からない。このため、警戒せざるを得ない心理となり、抑止につながるのである。ダミーの盗難防止装置(LED ライトが点滅するだけの製品)もあるので、これとセットで装着すると、一層の効果が期待できると考えられる。

車の保管場所への対策

a. センサーライト

センサーライトは、夜間、人の存在や動きを感知して照明が点灯するものである。窃盗犯が犯行に及ぼうと車に近づくとライトが点灯、発見されるのを恐れた窃盗犯に犯行を断念させ、車を盗難の被害から守るというものである。

照明タイプではなく、発光・点滅タイプのものもあれば、同時に、アラーム音を発するものもある。また、センサーライトを単独で設置するのではなく、次に紹介する「防犯カメラ」とセットで取り付けると効果が高まると考えられる。

b. 防犯カメラ

防犯カメラは、車の保管場所付近に設置して状況を監視するものである。カメラを設置するだけでも犯罪抑止につながるが、万一に備え、異常を感知した際に、映像を保存する機能を有しているものが安心である。併せて「防犯カメラ作動中」などのステッカーを貼付すると効果が高まると考える。会社・店舗などであれば、遠隔監視機能付きの防犯カメラも有用である。このタイプならば、インターネットを活用し、拠点が多い場合でも遠隔地から映像を確認することができる。

仮に盗難の被害に遭ったとしても、防犯カメラの映像が証拠となって、窃盗犯が検挙されたり、車の所在が判明したりする場合がある。また、自動車保険(車両保険)に加入していて、保険金請求する場合、その映像が盗難であることを示す証拠にもなる。

c. バリケードなどの障害物

もっとも盗難被害に遭いにくい保管場所はどこかといえばシャッター付ガレージであろう。ただし、シャッター付ガレージを設置するのは容易ではなく、対策として現実的とは言い難い。大切なことは、保管場所(敷地)と外部(道路)の境界を明確に区分することであり、リーズナブルな対策としては、会社・店舗などにおいて、門扉がない場合、この境界に移動可能なバリケード、障害物を設置することである。バリケードと聞くと大そうなものを想像するが、工事現場などで使用されている移動可能なものであれば、比較的簡単に設置、必要に応じて移動もできる。また、一般住宅においては、チェーンポールを設置するなど、環境に合わせて選択するのが良い。

窃盗犯に対し、障害物があるという視覚的効果、一手間かかるという心理的効果によって、犯行を断念させることが、これらを設置する最大の目的である。夜間、目立たずに短時間で作業を済ませたい窃盗犯にとっては脅威となり得る。

d. その他(自動車の左側面を壁際にして駐車)

CANインベーダーの手口では、車の左前のフェンダー部分(タイヤ付近)の外板を剥ぎ、そこから専用の機器を接続することが多い。このため、簡単にできる対策の一つに、駐車スペースなどの環境が許す範囲で、車の左側面を壁際に駐車するという方法がある。車の左前方に人(窃盗犯)が入れない環境をつくることで、CANインベーダーによる盗難被害に遭いにくくするというものである。費用もかからない対策であり、試す価値はあると思われる。

ここでは一例を述べたが、盗難防止対策には、これ以外にも様々なものがある。防犯対策それぞれに、価格の差があり、長所・短所があり、対策の対象・目的・方法も異なっている。
盗難防止対策において、「これ一つやっておけば大丈夫」という万能薬は、ほぼ存在しない。大切なことは、「複数の対策を組み合わせることによって、盗難防止の効果を高める」ということに尽きるのである。

(4)盗難被害に遭った場合の処置

どんなに盗難防止対策をしていても、絶対に被害に遭わないということはない。万一、盗難被害に遭った場合、表3に示す処置をとることが必要となる。その前に、今できることとして、「車検証」、「自動車保険証」のコピー(又はスマホなどで写真)をとっておくことを推奨する。なぜなら、これらは、車に搭載したままの場合が多く、盗難被害に遭った後では、すでに手元にないということが考えられるためである。 

表3 窃盗被害に遭った場合の処置
番号 連絡・通報先 処置内容
1 警察 110 番通報、警察署又は派出所 「盗難届」を提出し「受理番号」を受領する。
受理番号は、後の手続きなどに必要となるので控えておく。
2 クレジットカード会社 ETC カードが盗難された場合、利用停止の措置を取る。
(リスク回避のため、ETC カードは挿したままにしない)
3 保険会社 加入している保険会社に連絡する。
その際、警察から受領した受理番号を併せて連絡する。
4 税関 自動車が盗難されたことを連絡する。
(不正輸出防止のため)
5 税事務所 都道府県の自動車税窓口に「申立書」を提出する。
(課税の保留が可能となる)
6 運輸支局 「一時抹消登録(一時的な廃車)」の手続きを行う。
車が見つかり使用する場合、「中古新規登録」が必要
※税関相談官の問合せ先
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/sonota/9301_jr.htm

盗難された車が犯罪に使われたり、悪用されたりすることもある。このため、まずは警察に届けることが第一である。ETCカードが車に残されていた(又は、クレジットカードも車と一緒に盗難された)という場合、クレジットカード会社へも遅滞なく連絡・通報し、悪用されないよう利用停止の措置をとってもらう必要がある。

なお、運輸支局での「一時抹消登録」の手続き(表3の6番)は、盗難後、直ぐにする必要はないと考えられる。なぜなら、税事務所へ「申立書」を提出することにより課税は保留されること(表3の5番)のほか、一時抹消登録の後に車が見つかり、再度使用する場合、「中古新規登録(再度車の使用を開始する検査)」を受ける必要があり、費用も発生するためである。一定期間経過観察し、車が発見されない場合に手続きを行っても遅くはない。 

 4.おわりに

本稿では、自動車盗難の状況について、その背景などを含め、体系的に解説してきた。

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」孫子の兵法の一節である。これは、敵の情勢と味方の情勢をよく把握していれば、幾度戦っても敗れることはない、ということを説いている。これを本テーマに当てはめれば、敵(窃盗団)の情勢をよく知り、同時に、己(車や鍵の特性、駐車場の状況)をよく理解する。その上で、戦い(対策)をすれば、敗れる(被害に遭う)ことはない、ということになる。

ただ、「百戦殆からず」とは言うものの、現実問題として盗難被害を完全に防ぐことは困難である。しかし、盗難のリスクを下げる努力は誰にでもできる。盗難被害に遭ってから嘆くよりも、被害に遭う前に、普段から環境(情勢)に応じた適切な対策をしておくことが重要である。

「彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆うし」とならないよう、本稿が、皆さまの大切な車を盗難の被害から守る一助になれば幸いである。 

参考情報

塩入 英明
運輸・モビリティ本部 第一ユニット エキスパートリスクコンサルタント
専門分野:交通リスク
社用車を保有する企業向け交通リスク調査・分析・リスクアセスメント、レンタカー事業者向け事故削減コンサルティングなどに従事

脚注

[1] 自動車盗難等の発生状況等について(令和5年6月 警察庁生活安全企画課)
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/bouhan/car/202306jidousyatou.pdf
[2] 犯罪統計資料 平成 27 年~令和4年1~12 月分【確定値】(警察庁)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/statistics.html
[3] 犯罪統計資料 令和4年1~12 月分【確定値】(警察庁)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/statistics.html
[4] 前掲注1
[5] 日本の中古車は海外で大人気!輸出でも高く売れる買取車の『4つの特徴』(VOITURE)
https://voiture.jp/car-sale/japan-used-car-overseas/
[6] 第 24 回 自動車盗難事故実態調査結果(一般社団法人日本損害保険協会)
https://www.sonpo.or.jp/about/useful/jidoshatounan/pdf/news_22-21.pdf
[7] 第 22 回 自動車盗難事故実態調査結果(一般社団法人日本損害保険協会)
https://www.sonpo.or.jp/about/useful/jidoshatounan/pdf/news_20-32.pdf
[8] 犯罪統計書 令和3年の犯罪(令和4年 10 月 警察庁)
https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/R03/pdf/R03_ALL.pdf
[9] 前掲注1
[10] 輸出貨物の運送業務に関する協力依頼について(神奈川県警組織犯罪対策本部平成 30 年 12 月 17 日)
https://www.kta.or.jp/pub/upload/20181217180442.pdf
[11] 総合ニュースサイト ENCOUN https://encount.press/archives/377185/ 
[12] 令和3年の刑法犯に関する統計資料(令和4年 8 月警察庁)
https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/R03/r3keihouhantoukeisiryou.pdf
[13] 大阪府警察ホームページ
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/bohan/9/6882.html

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