保育所に求められる業務継続のポイント - リスクマネジメント最前線

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2023/7/19

目次

  1. 保育所を取り巻く現状とリスクマネジメントの必要性
  2. 保育所における災害BCPの特徴
  3. 保育所における災害BCPの策定
  4. 事業継続マネジメントに向けて
  5. おわりに

保育所に求められる業務継続のポイント - リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

野村 幸代
ビジネスリスク本部 第1ユニット 主席研究員
専門分野:リスクマネジメント・危機管理、災害・事故対応、事業継続、コンプライアンス

 

2023年4月1日に施行された省令改正により、保育所を含む児童福祉施設等において、業務継続計画(Business Continuity Plan、以下BCP)の策定、研修・訓練の実施、定期的なBCPの見直しが努力義務化された。

行政はBCPの策定を推奨しており、2017年に災害拠点病院、2021年に介護サービス事業者に対し、BCP策定の義務化方針が出された。また、災害拠点病院以外の一般の病院に対しても、努力義務として BCP策定が望ましいとしてきた。そして今次、保育所に対しても、BCP策定が努力義務化されることとなった。

少子化の進行や保育士の待遇問題等、保育業界を取り巻く環境はこれまでになく厳しい状況にあるが、そのような中でも、いつ起こるかわからない地震をはじめとする自然災害への対応体制を構築することは、園児や職員の生命を守るために不可欠である。

本稿では、自然災害発生時に、保育所に求められるBCP及び事業継続マネジメントのポイントについて解説する。

1.保育所を取り巻く現状とリスクマネジメントの必要性

女性の就業率が上がり共働き家庭が増加したことで、保育所のニーズは大きく高まってきた。待機児童の増加が問題視され、2000年には民間企業の保育サービス業界参入の認可、2006年には認定こども園の創設等、国・自治体は保育の受け皿を増やし続けてきた。その結果、依然として地域差は認められるものの、全国の待機児童数は2017年をピークに年々減少し、2022年4月時点での待機児童数は2,944人(前年比2,690人の減少)となった。同時に、保育所等利用定員はこれまでで最大の304万人(前年比2.7万人増加)となっている。またその結果、保育所等の定員充足率は年々減少している[1]

図表1 保育所等の数と定員充足率の推移

図表 1 保育所等の数と定員充足率の推移

出典:厚生労働省「「保育所等関連状況取りまとめ(令和4年4月1日)」を公表します[2]」を元に弊社作成

これは保育所の拡充が進んだポジティブな結果でもあるが、並行して少子化が大きく進んだことも関係している。2022年の出生数は前年比5.1%減の79万9728人となり、1899年の統計開始以降、初めて80万人を下回った。新型コロナウイルス感染症の影響等もあり、予想より11年も早く少子化が進んだとして、大きく報道された。このまま少子化が進み、保育所の定員が埋まらない状況が続けば、補助金の減少に直結する等、今後保育所の経営に大きな影響を及ぼすものと考えられる。

また、保育所等においては、昨今事故や不適切保育の問題が多々取り沙汰されている。園児をバスに置き去りにして死亡させた事件や、肉体的・精神的な虐待等の問題、園庭での遊具による事故、散歩先の公園に園児を置き去りにする事故等が報道され、保育の受け皿を増やすだけではなく、保育の質の維持・向上の必要性が認識され始めている。そのために保育士配置基準の改善を求める声が上がるものの、厳しい労働環境に置かれる保育士のなり手不足により、人材確保そのものが困難であるなど、保育業界の置かれる環境は非常に厳しいものがある。ただし、そのような状況だからこそ、園児の安全や生命を守り、施設を適切に運営・経営していくために、リスクマネジメントや危機管理の必要性は高まっている。自身の保育所を取り巻くリスクにはどのようなものがあるのか、必要な対策は十分とられているのか等、総合的にリスクを洗い出し、優先順位をつけて対策を整備していくことが望ましい。

保育所を取り巻くリスクの中で優先順位の高いものの一つが、地震や風水害等の自然災害に対する対策である。2019年の厚生労働省調査によれば、保育所における耐震化率は90.4%である[3]。自治体による耐震化支援等により大きく向上しているものの、未だ全国に2,437棟の旧耐震の保育所が残されており、防災対策は急務である。また、昨今日本全国で頻発する地震の状況を踏まえても、災害発生時に自身の身を守ることができない乳幼児を預かり、保護者への引き渡しまで保育を継続しなければならない保育所において、BCPの重要性はより高まっていると言える。

2.保育所における災害BCPの特徴

厚生労働省から児童福祉施設の設備運営基準等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第92号)が公布され、令和5年4月1日より施行された。厚生労働省から発出された事務連絡によれば、児童福祉施設においては、「業務継続計画を策定し、職員に対し周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施すること。定期的に業務継続計画の見直しを行うこと」が努力義務と定められている。ここではまず、今次努力義務となった保育所におけるBCPの特徴を記載する。なお、本稿では地震をはじめとする自然災害を対象としたBCPを想定する。 

(1) 保育所における BCP の重要性

保育所は、子供を持つ共働き家庭にとってはもはや不可欠な社会インフラの一つである。保育所は災害時であっても、保護者が迎えに来るまでの間は園児を守る責任があるが、インフラが停止する中、多数の園児を保育し続けるのは容易ではない。特に乳児は自身の身を守ることもできず、ミルク提供やおむつ交換等を継続する必要がある。そのため、設備の転倒対策や備蓄等、基本的な防災対策の重要性が非常に高いと言える。

また、社会機能維持のために必要な職業に従事する保護者は、災害時であっても勤務しなければならず、保育所の事業継続が必要になる。認可保育所であれば、災害時の業務継続や再開には自治体との調整が必要になるが、災害発生直後も勤務しなければならない保護者のニーズにいかに応えていくべきかについては、保育所としても自治体とあらかじめ調整の上、対応の流れを検討しておくことが重要である。

(2) 3フェーズに分けた対応の整理

保育所においては、災害発生直後~復旧までの期間を大きく3つのフェーズに分けることができる。

図表2 保育所におけるBCPの3 フェーズ

図表2 保育所におけるBCPの3フェーズ

出典:弊社作成

1つ目のフェーズは、「災害発生~園児の引き渡し完了まで」である。大都市圏においては、災害発生後は混乱回避のために、一斉帰宅が抑制され、3日間程度安全な場所に留まることが求められる。保護者が職場にとどまらざるを得ず保育所に子供を迎えに行けない場合、保育所は園児の引き渡しが完了するまで、保育業務を継続しなければならない。仮に施設の安全性が保たれない場合は、園児を連れて避難する必要がある。また、津波浸水エリア等で施設の周囲や園児の自宅等が危険な場合は、仮に保護者が迎えに来たとしても、そのまま引き渡して帰すのではなく、保護者・園児を安全な場所に留まらせる等の配慮も重要である。

2つ目のフェーズは、「園児の引き渡し完了後~再開まで」である。園児の引き渡しが完了すれば、一旦保育業務を停止し、復旧に向けた活動を行うことになる。施設の片づけや復旧、保育士の勤務可否情報収集、行政との再開に向けた調整等を実施するフェーズである。

3つ目のフェーズは、「再開~通常保育まで」である。再開時期にもよるが、再開直後は、インフラの停止、保育士の不足等で、通常の預かり体制での保育が困難となり、部分再開となることが想定される。その場合は、給食メニューの簡素化や、早朝・延長保育の停止、揺れが続いている場合はお散歩を取りやめる等、状況に応じた再開を行うことで、部分的であったとしても保育の受け皿を提供する。BCPを策定する際には、この3つのフェーズを意識し、それぞれのフェーズで実施すべきこととそれに必要な準備を取りまとめていくことが重要である。

(3) 延長・土曜保育時の対応

保育所によって開園時間の違いはあるが、早朝・夜間の延長時間帯、土曜日にも保育を行っている施設が多い。当然保育士配置基準に従って預かる園児の数に応じた人員を配置しているものの、施設長や主任保育士、看護職員、調理職員が不在になるなど、災害発生時の意思決定や負傷者発生時の対応、食事の提供等が必要になった場合に、手薄になる可能性が高い。また、複数の保育所を経営・統括する法人傘下の保育所の場合、法人本部自体も手薄な時間帯となり、本部との連携が図りづらくなる可能性がある。そのため、延長・土曜時間帯の施設長・主任保育士や法人本部責任者への緊急連絡体制を整備し、必要に応じて緊急参集させることや、看護職員・調理職員不在時にも対応できるよう、全ての保育士が怪我の応急処置や備蓄食の提供等を適切に実施できるよう、平時からの教育訓練が必要である。

(4) 施設外保育中の対応

大半の保育所では、天候が良ければ公園等にお散歩に出かけ、また、季節行事の開催や、幼児クラスになれば遠足のような園外保育を実施しているため、施設外で被災した時の対応を整理しておくことも重要になる。頻繁に行く公園等であれば、交通事故等のリスクを踏まえた移動経路を定める際に、地震等災害時にどのような危険があるのか(倒壊しそうなブロック塀や耐震性の低い建物等)、公園で地震が発生した際に安全確保する場所(固定遊具等から離れた開けた場所)等も併せて確認しておくことが望ましい。 

(5) 保護者との連携

災害発生後、施設の状況(負傷等の有無、建屋の安全性、避難する場合は避難先等)を保護者に通知し、経路及び各自宅の安全性が確保され次第、早急に引き渡しを行うことが望ましい。その際の通知方法の確保が必要であるが、携帯電話等はつながりにくくなることが想定され、メールも遅延する可能性がある。昨今ではアプリ等を使用して緊急連絡ができる保育支援システムが導入されている保育所もあるように、できる限り複数の連絡手段を確保しておくことが望ましい。また、あらかじめ、災害発生時の緊急連絡手段や、安全が確保され次第早急にお迎えに来てほしい等の保護者に対応してほしい事項について、事前の周知が必要である。

(6) 多様な園児・家族への対応

保育所では様々な園児・家族への対応が求められるが、食物アレルギーへの対応や外国人園児とその家族への対応等、昨今より幅広くなっている。当然、食物アレルギーがある園児や宗教上の理由等で食べ物の制限がある園児がいれば、アレルギー食やハラル食等、備蓄食への配慮が必要であり、日本語への理解が不十分で日本の災害知識が乏しい外国人園児とその家族に対しては、災害時の対応について、ひらがなや翻訳ツールを用いて外国語で案内する等、丁寧な理解促進が必要である。平時から保育で行っている個別対応を、災害時においても継続できるようにあらかじめ準備しておくことが求められる。

さらに、保育所においては、災害後のメンタルケアも重要である。子供たちは、災害後には地震ごっこ、津波ごっこをして遊ぶことで、ストレスやトラウマを受容していくと言われているが、ストレスの現れ方は様々であり、逆に地震ごっこを怖がる子供等も出てくるであろう。保育再開後は、災害によって受けたストレスが園児にどのように影響しているのかを見極め、それぞれに合ったきめ細やかなメンタルケアを行うことも不可欠である。

3.保育所における災害BCPの策定

保育所における災害BCPの策定に当たっては、平時に行う準備を示すことと、先述した3つのフェーズに沿って、実施すべき事項とその手順等を記載していくことが必要である。それぞれについて、検討・記載すべき事項をまとめる。 

(1) 平時の準備 

平時の準備としてまず必要なのは、施設における災害リスクを認識しておくことである。自治体等が発表している地域防災計画やハザードマップを踏まえ、自施設にどのような災害が起こり得るのかを把握する。仮に津波や水害による浸水が想定されているのであれば、確実な避難のための体制を組んでおく。また、被害想定に基づき、自施設の確認を行い、災害発生時に危険な箇所があれば、予め対策を取っておく。以下は保育所施設の確認箇所の例であるが、昨今は様々な施設・設備を有する保育所があるため、自施設が有する特殊な施設・設備があれば、適宜確認項目に加えてほしい。 

図表3 保育所施設の確認箇所の例

     
確認箇所 確認内容
建物 耐震性
  • 耐震性は十分か。(新耐震または耐震補強を行っているか)
出入口
  • 避難経路は複数確保されているか。
  • 出入口のセキュリティは停電時に開けることができるか。(パニックオープン等)
施設設備 エレベーター
  • 地震時管制運転装置がついているか。
  • 閉じ込めがあった場合の対処法を把握しているか。
事務所
  • 棚の転倒防止策、ガラスの飛散防止策等が取られているか。
  • パソコンやサーバー等の落下・転倒防止策が取られているか。
保育室
  • 棚の転倒防止策、ガラスの飛散防止策等が取られているか。
調理室
  • 冷蔵庫や食器棚の転倒防止策、ガラスの飛散防止策、食器や調理用具を収納した扉の開閉防止策等が取られているか。
ホール・遊戯室
  • ピアノ等の転倒・移動防止策、ガラスの飛散防止策等が取られているか。
屋外 園庭
  • 固定遊具の安全性は確保されているか。
  • 室外機、倉庫等の転倒・移動防止策は取られているか。
ベビーカー・カート置き場
  • 整理整頓がされているか。避難経路をふさぐことがないか。
駐輪場
  • 整理整頓がされているか。避難経路をふさぐことがないか。

出典:弊社作成

通信手段の確保や、備蓄も平時から実施しておくべき事項である。災害発生時には、保護者、自治体、(ある場合は)法人本部に施設の被災状況等を連絡する必要がある。固定電話、携帯電話がつながりにくくなった場合にどのように連絡するのか、予め複数の手段を整理しておくことが望ましい。また、小規模な施設においては、本格的な非常用発電機を用意することは難しいと考えられる。その場合は、停電、断水した状態で、保護者への引き渡しまで最低限の保育を継続しなければならないことを想定した上で、十分な備蓄を実施しなければならない。園児を優先するあまりつい忘れがちであるが、職員の分の備蓄も必要である。宿泊が必要になった場合、園児はお昼寝布団を利用できるが職員の分は別途必要になり、飲食料や簡易トイレも当然職員分が必要である。最低3日分(可能なら1週間分)の備蓄が望ましいとされている。

図表4 備蓄品の例
カテゴリ 備蓄品 留意点
飲食料 飲料水 粉ミルクに使用する場合は軟水を備蓄。
食料(おやつ含む) 幼児・乳児がそれぞれ食べられるもの。アレルギー等、特別な事情へ配慮が必要。
ミルク インフラ停止時の哺乳瓶の消毒方法に留意(消毒液を使う等)。液体ミルクや使い捨て哺乳瓶も選択肢。
衛生用品 簡易トイレ 大人用の簡易トイレ便座ではサイズが大きい場合、幼児用にはごみ袋と凝固剤を通常の幼児トイレで使用することも選択肢。
オムツ  
おしりふき  
トイレットペーパー、ティッシュペーパー  
ごみ袋  
消毒液  
調理 カセットコンロ、ガスボンベ  
ラップ お皿に巻いて使用すれば食器洗い不要となり水を節約できる。
紙皿、使い捨てカトラリー  
防寒・防暑対策 瞬間冷却剤 発熱時、負傷時等にも使用可能。
カイロ 園児に使用する場合は低温やけどに注意。
毛布・ブランケット  
停電対策 懐中電灯  
ランタン 園児が暗闇で怖がらないよう十分な数を備蓄。
ラジオ  
乾電池  
自家発電機・燃料、蓄電池 スマートフォンの充電等、最低限の電力が確保できることが望ましい。

出典:弊社作成

(2) フェーズ1: 災害発生~園児の引き渡し完了まで

このフェーズは保育所にとって最も過酷なフェーズである。先述の平時の準備を行い、「園児と職員の安全を守る」ことを第一に考え、十分に備えておくことが必要である。なお職員も、家庭の事情で園児の引き渡しが終わる前の帰宅を希望する場合もあるだろう。保育所の状況や、自宅までの経路の安全性等にもよるが、平時より職員の自宅住所や家庭の状況(乳幼児がいる、要介護者がいる等)を把握し、災害時の勤務可否を想定しておくと良い。これは緊急参集が必要になった際にも役に立つ。 

安全確保、被害状況の確認 

地震が発生したら、まずは園児と共に、保育室であれば部屋の中心等できる限り安全な場所に集まって、声を掛け合いながら身を守る。揺れが収まったら、負傷者がいないか、施設内に被害がないか確認する。棚の転倒やガラスの飛散等、何らかの被害が出ている場合には、立ち入り禁止措置を取る等の二次災害防止対策を行う。

なお、風水害の場合は、予知された段階で安全な場所に留まる、または事前避難することが基本である。自治体から「警戒レベル3:高齢者等避難」が発出されると、子供や高齢者等避難に時間を要する人は避難を開始することが必要になる。通常の「警戒レベル4:避難指示」よりも早い段階での避難が求められるため、災害が予知されている場合には、定期的な情報収集を行い、早めの行動をとることが重要である。なお、施設の浸水リスクが高い等、前日までに危険が分かっている場合には、自治体と調整の上、休園判断を行うことも選択肢である。 

負傷者対応

施設に看護職員がいる場合は看護職員が中心、看護職員が不在の場合は保育士等職員が中心となって、救急セットを使用し応急処置を行う。重傷の場合には救急車を要請するが、救急車が来ない場合は自力搬送を試みる。また、負傷者対応について園医に判断を仰ぐことができる場合は、協力を要請することも一案である。園児が負傷し重篤な場合には、保護者への緊急連絡を行う。

(必要に応じ)避難

施設内外の安全な避難場所を把握し、状況に応じて避難を行う。施設の一部でガラス飛散や棚の転倒等の被害が発生している場合には、ホール等できるだけ倒れそうなものがなく広い場所や、園庭・駐車場等を利用する。建物に倒壊の危険性がある場合、津波等による浸水が想定されている場合、近隣で火災等が発生し施設全体に危険が迫っている場合等には、近隣の公的避難場所へ避難を行う。おんぶ紐、お散歩用のカートを活用したり、園児に歩かせる場合は保育士を先頭と最後尾に配置し安全なルートで避難する。また、保育継続のために必要な備品類は持ち出す。

保育の継続

散歩、プール、行事等はすべて中止し、安全なスペースで保育を継続する。インフラが停止した場合は、通常の給食やおやつ提供は中止し、備蓄飲食料を使用する。乳児には液体ミルクや使い捨て哺乳瓶等を活用し、冷凍母乳の提供は中止する。それぞれ、温めが必要な場合はカセットコンロを使用する。トイレは簡易トイレを使用する。夜間になっても引き渡しができない場合には、お昼寝布団を利用して宿泊させる。

保護者への連絡・園児の引き渡し

予め整備した連絡手段を用い、保護者へ被害状況の報告や引き渡しに関し連絡を行う。保護者が迎えに来たら、帰宅ルートの安全性等を確認の上、問題がなければ園児を引き渡す。 

(3) フェーズ2:園児の引き渡し完了後~再開まで 

園児の引き渡しが完了したら、再開に向けた復旧業務を行っていく。職員は帰宅ルートの安全性確認を行った上で一旦帰宅させる。それぞれの自宅の被災状況等を踏まえ、問題ない場合は参集し、復旧業務に当たる。

施設被害への対応

なんらかの施設被害が出ている場合には、業者へ復旧工事の発注を行う。並行して、室内の片づけを行う。

職員の勤務可否確認

職員の自宅の被災状況等を踏まえ、勤務可否を確認する。保育の再開に当たって、必要な保育士数が確保できるか確認を行う。

行政との連携

施設の被害状況や職員の勤務可否を行政へ報告し、行政と再開時期について調整を行う。災害時の特例措置等が行政から出される可能性があるため、情報を収集する。

保護者との連携

施設の被害状況や再開見込み等を連絡する。また、災害発生当日お休みの園児がいた場合には、安否確認も併せて実施する。

業者との連携

給食の食材発注等、業者の業務継続状況を確認する。 

(4) フェーズ3:再開~通常保育まで

施設の状況等を踏まえ、行政と調整の上施設を再開する。ただし、時期によってはインフラの復旧が完了していない場合も想定される。その場合は、保育を制限しつつ、部分再開する。その後、インフラの復旧や職員の復帰状況を踏まえながら、徐々に通常保育に戻していく。

保育の再開

地震が続いている、周辺道路の安全性が担保できない等の状況があれば、お散歩は中止し、室内の安全な場所での保育を行う。ガス・水道が復旧していない場合は、弁当持参の協力を依頼するか、備蓄食で給食・おやつ提供を行う。冷凍母乳提供もインフラが復旧するまでは停止する。また、物流や業者の状況によって食材の仕入れが不安定な場合は、柔軟に献立の変更を行う。災害を経験し、精神的に不安定になっている園児に対して、しっかりと寄り添うことが求められる。

職員の被災状況に合わせたシフト調整 

職員の自宅が被災した、または要介護者がいる等家庭の事情で、勤務ができない職員が出る可能性もある。その場合は勤務可能な職員でのシフト調整を行う。また、どうしても十分な職員が確保できない場合には、早朝・夜間の延長保育や土曜保育を中止し、預かり時間を制限することも取り得る対策の一つである。いずれにせよ職員の疲労や精神的な不安は保育中の事故につながる可能性があるため、無理なシフトを強要することなく、適切な休憩・休暇を取らせることが必要である。また、被災した職員への支援も忘れてはならない。

行政との連携

保育の再開状況を適宜報告する。状況を踏まえつつ、行政と適宜連携しながら、通常保育に向けて取り組む。 

保護者との連携

部分保育になる場合は、保護者に変更点と事情を説明し、理解・協力を求める。 

4..事業継続マネジメントに向けて

事業継続マネジメント(Business Continuity Management:BCM)とは、BCPを作成し、教育訓練等を経てその見直し・改善活動を行う、PDCAサイクルを回していく行為自体を呼ぶ。BCPは一度作って終わりではなく、教育訓練を行う等して定期的に見直していくことが不可欠である。定期的な教育訓練及びBCPの見直しは、今回の努力義務化の中でも求められている要素である。

(1) 実効性を高める教育訓練

保育所においては、法令で定められた避難訓練を毎月実施しており、また保護者への園児引き渡し訓練等を実施している施設も多いと推察する。引き渡し訓練の実施により、保護者に対して園の防災対策やBCPの理解促進を図ることは意義がある。単に園児を引き渡して終了するだけではなく、メールや保育システム・アプリ、災害伝言ダイヤルを活用した緊急連絡訓練を交える、保護者と施設外の避難場所の確認を行う等の取り組みを合わせて実施するとなお効果が高い。

園児に対しても、例えば避難訓練の際に、災害や防災に関する絵本や紙芝居を読み聞かせる等によって、災害発生時の対応を教育することも取り組みの一つである。また、備蓄食の賞味期限が近付いた際に、園児に食べさせてみることで備蓄食に舌を慣らしたり、簡易トイレを使わせてみたりすることも、理解を促進する効果があるだろう。

さらに、保育士等職員に対する教育訓練は最も重要な取り組みである。避難訓練のような身を守る訓練だけでなく、インフラが制限された中でどのように保育を継続するかについて、職員同士でBCPの読み合わせを行う、シミュレーションをして意見交換を行う等も十分効果的な教育訓練である。職員の入れ替わりで、災害対応や防災のノウハウが流出していくことも多いため、「毎年●月に1回訓練を実施する」「新入職員には着任時に防災研修を行う」等、取り組みはBCPの中にも明記した上で、実行していくことが重要である。

(2) BCPの定期的な見直し

BCPは教育訓練、職員や園児の入れ替わり、さらには実際の災害経験等を踏まえ、定期的に見直す必要がある。基本的に保育所は4月の入園・入職・人事異動時に体制が大きく変化することが多いため、4月または5月頃と時期を定めた上、担当を決めて見直しを実施し、改定した BCPについて全職員に周知することが必要である。

5.おわりに

本稿では、保育所における自然災害を想定した BCP策定のポイントについて解説した。行政の努力義務化に応えることはもちろん重要な要素ではあるが、今後ますます進む少子化により厳しい経営環境が想定される中で、「選ばれ続ける保育所」であり続けるためには、充実した施設や保育内容だけではなく、リスクマネジメントや危機対応が不可欠であり、その中でも突発的に発生する自然災害に対応したBCPの策定は優先順位が高い取り組みの一つである。これまでも実施されてきたであろう保育中の園児の事故を防ぐための取り組みや、法令に基づく避難訓練等のみならず、自然災害発生時の事業継続という対応について改めて考え、施設全体で取り組む機会としていただきたい。

本稿が、保育所におけるBCP策定・BCM推進の一助になれば幸いである。

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執筆コンサルタント

野村 幸代
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専門分野:リスクマネジメント・危機管理、災害・事故対応、事業継続、コンプライアンス

事業継続 / BCM・BCP

脚注

[1] 厚生労働省「「保育所等関連状況取りまとめ(令和4年4月1日)」を公表します」(2022年8月30日)
[2] 前掲注1
[3] 厚生労働省事務連絡「社会福祉施設等の耐震化状況調査結果の公表及び耐震化の推進について」(2021年10月27 日)

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