自動運転実証実験の最新動向

  • 交通リスク

リスクマネジメント最前線

2021/10/8

目次

  1. 自動運転とは何か
  2. 海外における動向
  3. 実証実験の最新動向
  4. 実証実験における今後の展望

自動運転実証実験の最新動向- リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

鈴木 悠太
運輸・モビリティ本部 第二ユニット  研究員
専門分野:交通リスク

 

近年、自動運転を社会で実現させるべく、壮大なプロジェクトが世界中で行われている。この実現のためには、自動運転技術の発展だけでなく、交通インフラや法律、保険制度の整備、国際間でのルール策定、社会的受容性の醸成など、さまざまな取り組みが必要である。そうした課題を解決すべく、仮説と検証を繰り返す実証実験が国内外で多数行われている。日本では2020年4月より、道路交通法が改正され、レベル3相当の車両が公道で走行可能となった。またドイツでは2021年5月、レベル4相当の車両が公道で走行可能となる法案が可決された。現在、世界中で自動運転を巡る状況が目まぐるしく変化している。本稿では、現時点における自動車を対象とした自動運転実証実験の最新動向について解説する。

1. 自動運転とは何か

(1) 自動運転のレベル分け

自動運転とは、「人工知能などのシステムが周囲の状況を適切に判断し、自律的かつ安全に自動車を運転すること」(デジタル大辞泉)である。運転の対象は、本来広義には自動車や船舶、航空機、列車などを含んでいるが、本稿では対象を自動車に限る。自動車の運転は、一般に、認知・判断・操作を繰り返すことによって行われるとされる。自動運転では、認知・判断・操作を、人間に代わってシステムが行う。

自動で運転が行われる自動運転車は古くから開発が進められており、1925年には無線機で操縦された「アメリカンワンダー」が走行している[1]。自動運転と聞けば、あらゆる運転操作をシステムが行うように感じられるが、その水準は様々である。現在、運転自動化のレベルにはいくつか定義があるが、本稿ではSAE InternationalのJ3016[2] 及びその日本語参考訳であるJASO TP180048[3] の定義を採用する(表1)。

表1 自動運転レベルの定義

レベル 概要 運転主体
0 運転者がすべての車両制御を実施 運転者
1 システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施(フットフリー)
2 システムが前後及び左右の車両制御を実施(ハンズフリー)
3 特定条件下においてシステムが運転を実施(アイズフリー)
(当該条件を外れる等、作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に対して
ドライバーが適切に対応することが必要)
システム
4 特定条件下においてシステムが運転を実施(ブレインフリー)
(作動継続が困難な場合もシステムが対応)
5 常にシステムが運転を実施(ドライバーズフリー)

出典:IT総合戦略本部「官民ITS構想・ロードマップ2020」を元に作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20200715/2020_roadmap.pdf

レベル0~2までは、運転主体が運転者であり、運転者は運転への注意を欠くことができず、システムはあくまで運転者を補助するまでにとどまる。レベル3からは運転主体がシステムとなり、運転者は緊急時以外では運転に注意を払う必要がなくなる。2021年3月には、本田技研工業より世界初となるレベル3を含む技術[4]が搭載された車両が販売された(図1)。

図1 レジェンド(レベル3相当「トラフィックジャムパイロット」を含む技術『Honda SENSING Elite』を搭載)
出典:本田技研工業 HP より引用 https://www.honda.co.jp/LEGEND/

(2) 自動運転の目的と課題

自動運転を実現することの目的は主に「交通事故の削減」「渋滞や環境負荷の緩和」「高齢者の移動手段の確保」「ドライバー不足の解消」「移動の利便性・快適性向上」の5つがあり(表2)、課題としては主に「自動運転技術の向上」「法・責任の問題」「社会的受容性」「サイバーに関するリスク」の4つがある(表3)。

なお、本項に挙げた目的の達成、および課題の解決を目指して、自動運転の実証実験が国内各地で行われており、そうした実証実験の詳細については3章にて記載する。 

表2 自動運転の目的

1 交通事故の削減 交通事故の原因は一般に、運転の基本要素である、認知・判断・操作のエラーによるもの、
いわゆるヒューマンエラーがほとんどだとされている。完全な自動運転になれば、
ヒューマンエラーが激減し、大幅な事故削減が期待できる。
2 渋滞や環境負荷の緩和 遠隔通信などによって、自動運転車の速度や道路面積当たりの台数などを管理することに
より、渋滞や環境負荷の緩和につながる。
3 高齢者の移動手段の確保 運転をする人間を必要としないため、運転が困難な高齢者の移動手段も確保できる。
4 ドライバー不足の解消 地方などで問題となっている運送事業者のドライバー不足の解決にもつながる。
5 移動の利便性・快適性向上 MaaSとの組み合わせに成功すれば移動にかかるコストが減り、長時間運転による
疲労からも脱却できる。

出典:IT総合戦略本部「官民ITS構想・ロードマップ2020」を元に作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20200715/2020_roadmap.pdf

表3 自動運転の課題

1 自動運転技術の向上 自動運転では人間に代わって認知・判断・操作をシステムが行う。そのためには、センサーを用いて道路状況を認識する必要があるが、取得できる情報には限りがあるために、状況を適切に把握できない場合がある。
2 法・責任の問題 レベル3では、危険な状態が発生した時にドライバーに運転を切り替える仕組みとなっているが、急に運転を任されたドライバーがうまく事故を避けられる保証はどこにもない。危険な状態に陥ったときに、システムの責任とするかドライバーの責任とするかについての法整備に関しても、議論の余地がある。
3 社会的受容性 完全に自律して運転を実行できる完全自動運転車が完成したとしても、完全自動運転車と人間が運転する従来の車が同時に道路に存在することになり、完全自動運転車は異質な存在としてかえって不調和を起こすのではないかと懸念されている。また公共サービスにおいて、無人の自動運転車に乗ることに対する市民の不安もある。
4 サイバーに関するリスク 自動運転車はその性質上、いくつかのシステムを構成に含むことによって成り立っており、各システム間で通信を行うことになる。具体的には、ワイヤレスキー、スマートフォン、ETC、GPS、テレマティクス などである。こうした通信やシステムに対して、サイバー攻撃を仕掛けられるというセキュリティ面におけるリスクも潜在している。

出典:IT総合戦略本部「官民ITS構想・ロードマップ2020」を元に作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20200715/2020_roadmap.pdf

2. 海外における動向

1章2節 で見た自動運転の目的および課題は、世界各国においても概ね共通しているが、そのアプローチには地域によって違いが見られる[6] [7]。米国では各企業が主導権争いを加速させつつ自動運転技術発展の牽引役を務めている。Alphabet傘下のWaymoによる無人自動運転タクシーのほか、GMやUber、Teslaといった日本でもよく名前を耳にする企業による開発が盛んである。

一方、欧州ではEU主導の共通戦略として欧州統一の枠組みを作ろうという動きが活発である。2016年にEU加盟国間で調印したアムステルダム宣言において自動運転車両の実用化が盛り込まれて以降、2018年にはEUの執行機関である欧州委員会が2030年代に完全自動運転の実現までのロードマップを示した。また、EUの統一的な研究開発の枠組みであるHORIZON 2020においても、自動運転車両に関連した研究に多くの資金が投じられた。

日本では、官民が連携しつつ種々の実証実験に取り組んでおり、内閣府にSIP[8]が設置されるなど、国全体で実証実験に取り組んでいる。

国際基準についても各国間で協議されている。最近では2020年、WP29[9]において、高速道路におけるレベル3の自動運転の安全基準、全レベルにおけるサイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートの基準が策定された。今後、さらに高度な自動運転システムに関して議論が進められていくと考えられる[10]

3. 実証実験の最新動向

実証実験とは、新しい技術やサービスに対して、企業や自治体、研究機関等が連携し、社会での実用に向けて課題等を検証することである。各国では、それぞれの方針のもと、自動運転を実現するために、大きな目標を細かなステップに分けて実証実験が行われている。

日本国内においても実証実験は多数行われており、本章ではいくつかの事例を記載する。なお、それぞれの事例は便宜上、国が主導して行った複数のプロジェクトをまとめて記載している。

(1) ラストマイル自動走行プロジェクト

ラストマイルとは、公共交通機関の提供可能範囲から最終目的地までの距離のことを指し、郊外などではこのラストマイルの移動手段がしばしば問題となる。ラストマイル自動走行とは、ラストマイルを自動運転によって移動するサービスの実現を目指すことである。ラストマイルを無人かつ自動で走行できるようになることで、人件費削減やドライバー不足を解消することが目的である。国土交通省は経済産業省と連携し、観光地や市街地、過疎地などをモデルとして想定し、それぞれに適した土地で2016年度より実験を進めてきた。過疎地モデルの福井県永平寺町では、2021年3月より国内初のレベル3遠隔型自動運転システムによる無人自動運転移動サービスの本格運行が開始された。今後は2022年度内にレベル4を目指している。ラストマイル自動走行に関しては、ガイドラインが2020年7月に制定されている[11]

表4 ラストマイル自動走行

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
経済産業省・国土交通省
(自動車局)
・無人自動走行による人件費の削減
・ドライバー不足の解消
福井県永平寺町、
沖縄県北谷町
(2018~)
産総研、
ヤマハ等
①遠隔監視での無人自動走行の扱いの整理
②専用空間の要件の緩和
③遠隔型車両の性能等の確認

出典:日本経済再生本部「自動走行に係る官民協議会(第9回)参考資料4」より作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai9/index.html

図3 ラストマイル自動走行(福井県永平寺町)
出典:国土交通省 報道発表資料より引用
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000357.html

(2) 中山間地域における自動運転移動サービス

これは主に人流や物流の確保のためのものである。中山間地域では、全国平均に比べ高齢化率が高く、公共交通の衰退やドライバー不足により、人流や物流が困難に陥っている。本実証実験は、「道の駅」等を拠点として行われている。2019年11月より、道の駅「かみこあに」(秋田県)を拠点として、全国で初めて自動運転サービスの社会実装が開始された。利用者数は2020年4月頃まで増加基調であったが、新型コロナウイルス感染症における緊急事態宣言により減少した[12]。2021年7月からは、福岡県みやま市において自動運転移動サービスの提供が開始された。

表5 中山間地域における自動運転移動サービス

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
内閣府(科技)
・国土交通省
(道路局)
高齢化が進行する中山間地域における人流
・物流の確保等
福岡県みやま市、
長野県伊那市(2018)、
秋田県北秋田郡上小阿仁村、
熊本県葦北郡芦北町、
北海道広尾郡大樹町、
茨城県常陸太田市
(2019-)
各市区町村、
ヤマハ、
先進モビリティ等
①自動運転に対応した道路空間の基準等の整備
②地域の特性に応じた運行管理システムの構築
③将来の事業運営体制を想定した実証実験の実施
④地域の多様な取組と連携し、自動運転サービスを地域全体で支援
⑤利用者から燃料代を徴収してサービスを提供(採算性・持続可能性の検証)

出典:日本経済再生本部「自動走行に係る官民協議会(第9回)参考資料4」より作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai9/index.html

図4 中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス 概念図
出典:国土交通省 中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスのしくみより引用
https://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/automated-driving-FOT/drive01.html#hows

(3) ニュータウンにおける自動運転移動サービス

多くのニュータウンは、特定の年齢構成の人々が開発当初に一斉に入居したために高齢化が進んでいる。また、急勾配が多い丘陵地での立地ということもあり、移動手段の確保が喫緊の課題となっている。ニュータウンにおける実証実験は、2019年2月に東京都多摩市や兵庫県三木市で実施されている。移動サービスのみでは十分な収益をあげられないため、他のサービスの提供も併せて検討されている。

表6 ニュータウンにおける自動運転移動サービス

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
内閣府(科技)
・国土交通省
(都市局)
ニュータウンにおける自動運転を活用した公共交通サービスの導入に向けたビジネスモデル
・事業性の検証
東京都多摩市(多摩ニュータウン(諏訪・永山団地))、
兵庫県三木市(緑が丘ネオポリス・松が丘ネオポリス(緑が丘・青山地区))(2019)
日本総合研究所、
京王電鉄バス、
日本工営、
大和ハウス工業
①ニュータウン自動走行技術の確立、普及等
②地域公共交通としてのビジネスモデルの確立

出典:日本経済再生本部「自動走行に係る官民協議会(第9回)参考資料4」より作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai9/index.html

(4) 空港制限区域内における自動走行に係る実証実験

空港制限区域とは、滑走路その他の離着陸区域、誘導路、エプロン、管制塔、格納庫、その他空港事務所長が標示する制限区域のことを指し、このことは空港管理規則により定められている。人流手段としてのランプバス、物流手段としてのトーイングトラクターの自動走行について実証実験が行われている。2025年にレベル4相当を導入することを目標に、2021年度にレベル4の車両で実証実験が計画されている。

表7 空港制限区域内における自動走行に係る実証実験

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
国土交通省
(航空局)
・空港における地上支援
業務の労働不足解消
・人の輸送
・物の輸送
仙台空港、中部空港、羽田空港、成田空港
(2018年12月~)
成田空港、中部空港、関西空港、佐賀空港
(2019年8月~)
豊田通商、アイサンテクノロジー、ダイナミックマップ基盤、SBドライブ、愛知製鋼、先進モビリティ、NIPPO、日本電気、鴻池運輸、ZMP、AIRO
(2018年12月~)、
全日本空輸、日本航空、AIRO
(2019年8月~)
①空港制限区域内における自動走行に関するルール整理
②空港制限区域内における施設整備項目の整理

出典:日本経済再生本部「自動走行に係る官民協議会(第9回)参考資料4」より作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai9/index.html

(5) 東京臨海部実証実験

本実験は、2019年10月から臨海副都心地域、首都高速道路および羽田空港地域において行われている実証実験である。実交通環境下で実車両を利用した実走評価やデータ収集と分析による実用化の見極め、標準仕様化に係る合意形成・交通インフラ整備の考え方整理を主な目的としており、3地域それぞれにおいて検証内容が異なっている。臨海副都心地域では高精度な3Dデジタル地図情報と信号の現示及び切替タイミング情報による一般道での高度な自動運転、首都高速道路では高精度な3Dデジタル地図情報やETCゲート情報と本線側車両情報による高速道での高度な自動運転、羽田空港地域では自動運転技術の活用とインフラ協調システムによる混流交通下での次世代都市交通システムを試みている。2021年度には、V2N[13]を利用した交通環境情報を整備し、実証実験が行われる。

表8 東京臨海部実証実験

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
内閣府
(科技)
・自動運転の実現に必要な協調領域における基盤技術の検証
・社会的受容性の醸成
臨海副都心地域(一般道)、羽田空港地域(一般道)、羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路(一般道を含む)
(2019年秋~2022年度末)
NEDO、
自動車メーカー等
①信号情報配信による交差点走行支援
②自動車専用道における路車連携による走行支援と交通環境情報配信
③バス、少人数輸送車等のインフラ協調型の自動運転制御による移動サービス等の実証等

出典:日本経済再生本部「自動走行に係る官民協議会(第9回)参考資料4」より作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai9/index.html

(6) 高速道路におけるトラックの隊列走行

物流業におけるドライバー不足の解消および幹線輸送の効率化を目的とした実証実験である。隊列走行とは、複数のトラックが互いの走行状況を通信し、自動で車間距離を保持しながら走行することである。こうした複数台のトラックの制御は電子連結技術によって行われており、先頭車両は有人、後続車両は無人での隊列走行について検討が進められている。2019年1月の世界初後続車有人システムの公道実証に始まる一連の実証実験の成果をもとに、2021年2月に、新東名高速道路の遠州森町PA~浜松SA(約15km)において、後続車の運転席を無人とした状態でのトラックの後続車無人隊列走行技術が実現した。

表9 高速道路におけるトラックの隊列走行

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
経済産業省
・国土交通省
(自動車局)
・物流業における
ドライバー不足の
解消
・幹線輸送の効率化
新東名高速(浜松いなさIC-長泉沼津IC)
(2019- 2021)、
常盤自動車道
(2021)
豊田通商、
先進モビリティ等
①無人で自動走行する後続車両の法的要件の整理
②電子牽引のルール整備
③車車間通信のルール整備
④隊列走行用の特別交通ルールの設定
⑤隊列形成/分離拠点等のインフラ面の検討体制の確立
⑥社会受容性向上や事業化に向けた実証(夜間走行時における大型車流入実証等)

出典:日本経済再生本部「自動走行に係る官民協議会(第9回)参考資料4」より作成
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai9/index.html

図5 トラック隊列走行
出典:国土交通省 報道発表資料より引用
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000306.html

(7) 中型自動運転バスの実証実験

地域内交通の確保や自動運転バスの社会実装、持続的な交通サービスなどを目的とした実証実験である。2018年度まで小型自動運転バスの実証を実施していたが、事業性を向上させるため、2020年から中型自動運転バスについて実証実験を行うこととなった。

表10 中型自動運転バス

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等 主な課題
経済産業省
・国土交通省
(自動車局)
・地域内交通の確保
・自動運転バスの社会実装
・持続的な交通サービス
滋賀県大津市・兵庫県三田市・福岡県北九州市苅田町・茨城県日立市・神奈川県横浜市
(2020-2021)
大津市・京阪バス、神姫バス、西日本鉄道、茨城交通、神奈川中央交通 ①自動運転車両の走行性能を踏まえた運行計画の策定
②バス停に乗降客がいない場合の通過判断等

出典: 自動走行ビジネス検討会「自動走行の実現及び普及に向けた取組報告と方針」Version 5.0より作成
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jido_soko/20210430_report.html

(8) 東広島市Autono-MaaS実証実験

トヨタが提唱する、Autonomous Vehicle(自動運転車)とMaaSを組み合わせたAutono-MaaSの一環として、広島大学や、ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社であるMONET Technologiesが主導となって2020年より実証実験を行っている。本実験には東京海上グループもリスクアセスメントのために参加している。これまでは大学構内の循環バスの自動運転であったが、2021年以降は、それに加え、貨客混載のバスの自動運転などを検証していく。

表11 東広島市Autono-MaaS

事業主体 目的 場所・実施年 委託先等
広島大学、イズミ、MONET Technologies、May Mobility等 ・送迎と商品の宅配の同時サービス
・持続的な交通サービス
東広島市
(2020-)
芸陽バス、中国ジェイアールバス、広島県タクシー協会、
広島トヨペット、東京海上日動火災保険

出典:東広島市HPを元に作成
https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/chiikishinko/1/1_1/21634.html

4. 実証実験における今後の展望

前章においてさまざまな実証実験を紹介してきた。ここで、1章でまとめた自動運転の課題の観点から、2021年7月以降に、国土交通省や経済産業省、内閣府が中心となって国内で実施する実証実験において、目的、検証内容、課題を表12に再度整理する[14][15]

表12 自動運転実証実験の課題

目的 主な検証内容 今後の課題
①車両性能の検証 ・1対3の遠隔型自動運転システムの確立
・車内事故防止システムの実証
・トラックの隊列走行システムの実証
・停留所からの発進や追い越し時等におけるドライバー操作を必要としない運用に向けた技術開発
・隊列走行システムの高度化(車間距離制御性能の向上等)
②気候条件による
車両性能への影響の検証
・路面積雪時において、電磁誘導線の読み取りによる円滑な自動運転の確認
・濃霧など気象変化時にセンサー性能が低下することの確認
・悪天候時等におけるセンサー性能向上に向けた技術開発
・磁気マーカーや電磁誘導線等の施設に関する制度や基準等の整備
③自動運転を構成する
技術課題の検証
・高精度3Dデジタル地図を用いた規定ルートの走行
・高速道路における高精度3Dデジタル地図の整備
・車両側における信号の現示及び切替タイミングの情報を活用した走行の有効性の確認
・GPS等による自己位置推定に係る車両位置の測位精度の検証
・信号情報提供技術等の検証
・高速道路への合流支援に係る情報提供技術の検証
・高精度3Dデジタル地図データ作成・更新の効率化、低コスト化
・GPS等の測位精度低下時における自己位置情報の把握
・信号情報提供の有効性の検証、標準仕様の確定
・高速道路への合流支援に係る情報提供技術の実装へ向けた検討
・公衆広域ネットワークを活用した交通環境情報の配信技術の実装と仕組みの検討
・V2Nによる信号情報提供技術の有効性の検証と課題の明確化
④道路および周辺設備の
検証
・走行空間に対する検証
・交通インフラ設備の効果調査研究
・一般交通との混在空間における走行空間の確保
・自動運転に対応した道路空間の整備や管理の基準等の整備
・SA/PA内での歩行者、合流部での一般車との錯綜への対応
・車両による検知が困難な走行エリア特有の事象への対応
・交通インフラの設置条件の見極め、優先順位付け
⑤サービス内容の検証 ・貨客混載等による配送サービスの利用意志の確認
・スマホ等を活用した予約・決済システムによる利便性向上の確認
・ユースケースと実証に基づく地理系データに係るアーキテクチャの構築
・輸送や送迎サービス等の利便性の確保
・予約・決済システムの更なる開発 ・MaaSの普及
⑥サービスの運用検証 ・コストや将来需要を踏まえた採算性の検証
・地元の有償ボランティア起用によるコスト削減効果の確認
・地元の運送事業者によるサービス実証
・地理系データ等の交通環境情報の流通を促進する
・運賃以外の収入源の検討、他の交通と連携したビジネスモデルの構築
・実用化に向けた運営主体・運用スキームの構築
・地理系データ等の交通環境情報の流通促進
⑦社会的受容性の検証 ・自動運転技術への信頼性に関する調査
・自動運転の社会実装へ向けた社会的受容性等に関する調査、イベント等
・自動運転車への試乗による自動運転技術への不安の解消
・自動運転車が走行する空間であることの路面標示等による周知
・更なる社会的受容性の醸成の促進
・自動運転車が走行することを明示する路面標示の図柄の統一、
整備の促進

出典:IT総合戦略本部「官民ITS構想・ロードマップ2020官民ITS構想・ロードマップ2020」[14]より引用したものを一部改変

今後、これらの課題に基づき、さらなる高度化をはかるためにいくつかのテーマが検討されている。主要なものには、「2022年度に限定エリア・車両での遠隔監視のみ(レベル4)で自動運転サービスの実現に向けた取組」(表12  ①②④⑤⑥⑦に対応、以下同様)、「さらに、対象エリア、車両を拡大するとともに、事業性を向上するための取組」(①②④⑤⑥⑦)、「高速道路における隊列走行を含む高性能トラックの実用化に向けた取組」(①②④⑦)、「混在空間でレベル4を展開するためのインフラ協調や車車間・歩車間の連携などの取組」(①②④⑤⑥⑦)などがある[14]。③については、3章で紹介した東京臨海部実証実験や中型自動運転バスなどによって検証が重ねられていく予定である。

自動運転を社会で実現していくには、産学官の連携はもちろんのこと、自動運転技術や関連サービスを受け入れ、使いこなすようになるなど、市民の協力が必要不可欠である。そのためには、産学官が一体となり、自動運転に関する市民の理解を促進し、社会的な受容を醸成していくことが必要である。これは、今後市民が自動運転車を利用することになるときにも役立つものと考えられる。

本稿では自動運転の実証実験の最新動向について述べた。完全自動運転社会の実現には4章で述べた通り複数の課題が残っているが、一つ一つ検証し解決していくことが実証実験の意義である。

本稿が自動運転の実証実験を実施していくため、市民の理解を深めるための一助となれば幸いである。

[2021年10月8日発行]

参考情報

執筆コンサルタント

鈴木 悠太
運輸・モビリティ本部 第二ユニット  研究員
専門分野:交通リスク

脚注

[1] TIME “Science: Radio Auto” (1925)
http://content.time.com/time/subscriber/article/0,33009,720720,00.html
[2] SAE International J3016 “Taxonomy and Definitions for Terms Related to Driving Automation Systems for On-Road Motor  Vehicles”(2016)
https://www.sae.org/standards/content/j3016_202104/
[3] 公益社団法人 自動車技術会「自動車用運転自動化システムのレベル分類及び定義」(2018)
https://www.jsae.or.jp/08std/data/DrivingAutomation/jaso_tp18004-18.pdf
[4] 本田技研工業が提供する安全運転支援装置「Honda SENSING Elite」のうち、「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」(高速道路での低速走行時、前走車の車速変化に合わせて車間距離を保ち、車線中央付近を走行するようにステアリング操作を支援し、ドライバーの運転負荷を軽減する機能)が該当する。
本田技研工業HPより https://www.honda.co.jp/hondasensing/feature/tja/
[5] ITを駆使した自動車向け情報サービス。テレコミュニケーション(遠距離通信)とインフォマティクス(情報工学)からの造語。カーナビゲーションシステムなどの車載端末と無線による双方向通信を行い、リアルタイムで道路・渋滞情報、周辺情報を提供する。主に自動車会社が独自のサービスを行っている。テレマティックサービス。(デジタル大辞泉)
[6] 警察庁「自動運転の実現に向けた調査研究報告書」より
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/jidounten/R02nendo/R02report.pdf
[7] 自動走行ビジネス検討会「自動走行の実現及び普及に向けた取組報告と方針」Version 5.0より
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jido_soko/20210430_report.html
[8] SIPとは、戦略的イノベーション創造プログラムの略で、「内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト」のこと。
内閣府HPより https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sympo1412/about/index.html
[9] WP29 とは、自動車基準調和世界フォーラムのこと。安全で環境性能の高い自動車を容易に普及させる観点から、自動車の安全・環境基準を国際的に調和することや、政府による自動車の認証の国際的な相互承認を推進することを目的としている。
https://www.mlit.go.jp/common/000036077.pdf
[10] 国土交通省自動車局「自動運転車の国内基準・国際基準について」
http://www.coi.nagoya-u.ac.jp/html/coiura/20210521_LegalSystem_symp/material1-1_Naono(MLIT)_20210521LegalSystem-Symposium.pdf
[11] 国土交通省自動車局先進安全自動車推進検討会「ラストマイル自動運転車両システム基本設計書」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001354517.pdf
[12] 西川 昌宏「中山間地域における自動運転サービス」
https://www.sip-adus.go.jp/evt/workshop2020/file/jg/08JG_05J_Nishikawa.pdf
[13] V2Nとは公衆広域ネットワークのことで、基地局から配信された情報ネットワークを用いて車両と通信を行う。
[14] IT総合戦略本部「官民ITS構想・ロードマップ2020官民ITS構想・ロードマップ2020」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20200715/2020_roadmap.pdf
[15] IT総合戦略本部「官民 ITS 構想・ロードマップ これまでの取組と今後の ITS 構想の基本的考え方」(2021)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20210615/roadmap.pdf

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