新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策 ~テレワークの現行課題と、持続可能な態勢構築に向けた対策~

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リスクマネジメント最前線

2020/4/24

目次

  1. 日本におけるテレワークの現状
  2. 今次感染症対応において発生している問題点
  3. 持続可能なワークスタイルに向けた取り組み
  4. おわりに

新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策 ~テレワークの現行課題と、持続可能な態勢構築に向けた対策~ リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

青島 健二
ビジネスリスク本部 主席研究員

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下「今次感染症」)の蔓延により、202047日に政府より「緊急事態宣言」が発令され、以降国民と企業は、人の動きを劇的に抑制することが強く求められている。企業においては、従事者が事業場へ出社することなく事業・業務を実行することができるよう「在宅勤務」といったテレワークへの移行を急遽余儀なくされている訳であるが、諸々の準備が必ずしも十分ではなかったために様々な課題が発生している。一方で、一部の企業ではこのワークスタイル移行を一時的なものとせず、「働き方改革」の1丁目1番地として持続的に活用するための検討の動きが生まれている。

本稿では、いわゆるテレワークの現状と今次感染症対応において発生している問題点を紹介したで、企業におけるテレワーク移行へのあるべき道筋と、具体的な取り組み内容について解説する。

1. 日本におけるテレワークの現状

テレワークとは、「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義される[1]。総務省「平成30年通信利用動向調査」によると、日本企業におけるテレワーク導入割合は徐々に増加しているが、2018年時点では全体の約2割にとどまっている。また、テレワーク導入企業のうち、約3分の2は営業活動などで外出中に作業する「モバイルワーク」であり、会社に出社せず自宅等で作業する「在宅勤務」や、事業場から離れた所に設置されたオフィス等で作業する「サテライトオフィス勤務」の形態でテレワークを実施している企業は少数にとどまる。

図1 企業におけるテレワーク導入率の推移とその内訳
(出所:総務省「平成30年通信利用動向調査」)

従業員規模別にみると、従業員数 2,000 人以上の比較的規模の大きい企業では半数近くがテレワークを導入しているのに対し、従業員数 100~299人の比較的規模の小さい企業では2 割にも満たない。このことから、テレワーク化に必要となる IT 投資の余力がある、または、規模の経済によって一人当たりの導入コストが小さくなる大企業ほどテレワークを導入しやすく、逆に投資余力が限られる中小企業ではテレワークの導入に二の足を踏んでいることが推察される。さらに業種別でみると、情報通信業、及び金融・保険業では導入率が 4 割近くに達しているものの、製造業では 2 割程度にとどまり、運輸・郵便業では 1 割にも満たない。このことから、情報通信業や金融・保険業といった事務所等での業務より、運輸・郵便業やサービス業といった現場での業務ウエイトが高い業種では、テレワークの導入が進んでいない現状が垣間見られる(但し、現場業務においてテレワークを導入していない企業が皆無という訳ではない)。

図2 テレワーク導入状況
(出所:総務省「平成30年通信利用動向調査」)

2. 今次感染症対応において発生している問題点

今次感染症の蔓延を受け、先行してロックダウン[2]を開始した中国・イタリアなどの各国・各都市では、行政が主導する形で2020年3月頃から在宅勤務などのテレワークが励行されている。日本においては、事業場や通勤途上での感染防止のため、大手企業を中心にテレワークへの移行が先行的に実施されてきたが、2020年4月7日に内閣総理大臣が「緊急事態宣言」を発令し、東京都知事などがテレワーク方式での業務継続を具体的に推奨して以降、可能な限りテレワークへ移行することは、もはや企業が果たすべき社会的責任になっている。一方で、移行準備に要する時間的な猶予がないまま、テレワークによる業務形態へ移行した企業の多くは様々な課題に直面している。国土交通省が2020年3月に実施した「令和元年度テレワーク人口実態調査」によると、今次感染症対応として在宅勤務に移行した人が、在宅勤務において感じた問題は表1の通りであった。

表1 今次感染症対応として在宅勤務を実施した際の問題

分類 在宅勤務における問題 回答割合
◼IT 環境 会社でないと閲覧・参照できない資料やデータなどがあった 26.8%
情報セキュリティ対策に不安があった 3.1%
◼作業環境 自宅に仕事に専念できる物理的環境(個室・間仕切りによるスペースや椅子・机など)がなく、仕事に集中できなかった 7.0%
自宅で仕事に専念できる状況になく(家事や育児を優先)、仕事に集中できなかった 4.8%
◼意思疎通 営業・取引先等との外部連絡・意思疎通に苦労した 9.2%
同僚や上司などとの社内連絡・意思疎通に苦労した 9.7%
◼制度 会社のテレワーク制度が明確ではない(自己判断による実施)ため、やりづらかった 9.6%

(出所:国土交通省「令和元年度テレワーク人口実態調査」(2020年3月))

この結果について、弊社では以下の通り考察する。

■ IT環境の課題

  • 在宅勤務上の問題として最も回答が多かったのは「会社でないと閲覧・参照できない資料やデータなどがあった」(回答割合:26.8%)であった。この背景としては、ペーパーレス化が進んでいないため、業務遂行上紙媒体の資料を参照せざるを得ないことや、会社から従業員個人にノートパソコンなどの持ち運び可能な端末が支給されていないこと、社内システムに接続するためのネットワーク環境が整備されていないこと等が考えられる。今次感染症対応では時間的な猶予が十分でなかったために、IT化が遅れていた企業は特に業務対応に苦労されているものと思われる。
  • 情報セキュリティの不安(同3.1%)について、在宅勤務の場合は同居者にパソコンのモニターを閲覧されることや、電話の内容を聞かれてしまうことがあるため、そこから情報流出が起きる可能性が懸念される(シェアオフィス等でのテレワークでも同様の問題がある)。また、会社からノートパソコンを支給されていない個人が、サイバー攻撃対策が不十分な個人所有のパソコンを使用することで、ハッキングに遭いパソコン内の情報が流出する懸念もある。

■ 作業環境の課題

「自宅に仕事に専念できる物理的環境(個室・間仕切りによるスペースや椅子・机など)がなく、仕事に集中できなかった」という問題(同7.0%)については、業務上必要なリソースの購入費用を誰が負担するのか整理ができていないまま在宅勤務に移行したために残存している課題といえる。

■ 意思疎通の課題

  • 「同僚や上司などとの連絡・意思疎通に苦労した」(同9.7%)については、同僚や上司が実際に身近にいないことや、対面で紙の資料を示しながら会話を行うことができないこと等が、意思疎通を困難にしているものと考えられる。一方で、オンライン会議システムの中には事前契約が不要でインストール後すぐに使用できるもの[3]もあり、急速に普及が進んでいるが、今次感染症対応では在宅勤務者が急激に増加したため、ネットワーク回線が逼迫し、音声が途切れ途切れになる、画面で共有する資料などがはっきり表示されない等の問題が発生している。

■ 制度上の課題

  • 事業場にて業務遂行上の問題が生じた場合、部下は都度上司に判断を求めながら業務を遂行することができるが、テレワーク移行後は遠隔にいる上司に対して、どのように判断を求めていけばよいのかが不明瞭であると感じている社員が多いものと考える。また、勤怠管理や業績評価について、顔の見えない部下に対して上司が適切に遂行できるのかといった不安も、「やりづらかった」(同9.6%)という結果に反映されているものと考える。

3. 持続可能なワークスタイルに向けた取り組み

(1)理想的な業務再設計の手順

テレワークを導入するにあたっては、以下の手順で検討を進めることが理想的である。

(2)業務再設計の各工程における取組概要

① テレワークが可能な業務の洗い出し

業務従事者及び業務の遂行に必要なリソース(原材料・部品・資材、設備や機械、情報)が移動可能であることが、テレワークの基本的な実現要件である。以下に、既存業務におけるテレワークの適応可否を検討するでの考え方を示す。

■ 原材料・部品・資材

  • 製造業の場合、人手による部品の組み立て作業などは、部品を持ち出すことができればテレワークが可能である。一方で、原材料の持ち出しは可能であるものの、原材料の加工等にあたり持ち出しができない設備を必要とする場合は、テレワークが不可である。
  • 書類の作成・承認・押印作業は、該当書類や印鑑を社外に持ち出すことができればテレワークが可能である。一方で、書類の作成作業はテレワーク先で可能であるものの、承認・押印に必要な印鑑を事業場外に持ち出すことが許されていない場合は、業務全体がテレワーク可能業務とはならず、一部業務のみテレワークが可能である。

■ 設備や機械

  • 製造業の場合で、設備や機械を使用することが業務上不可欠であるものの、その資産を移動させることが困難な場合は、テレワークが不可である。概して、製造業においてはこの点がテレワーク移行におけるネックとなることが多い。但し、製造業においても、パソコンやプリンター等の汎用的な設備を使用する業務(例えば、画面上で作業を行い出力した紙で内容を確認するような設計業務)については、この限りではなくテレワークが可能である。
  • 非製造業においては、「端末(パソコン)」、「社内システムへの接続ネットワーク」、「通信機器」の3点が業務遂行上必要となる主要なリソースとして挙げられる。端末は移動が可能、または自宅等で既に保持されていることが多く、大きな問題とはならない。一方で、VPN[4]等の仮想的な組織内ネットワークにより、外部から社内ネットワークへ接続する環境を構築されていない企業は依然として多いものと思料する。

■ 情報

  • 製造業の場合で、発注情報や生産指図情報等が事業場の中でのみ閲覧可能な環境にある場合(例:構内LAN[5]のみで繋がっている、工場独自の生産管理システム等)は、テレワークが不可である。一方で、当該情報を紙やExcel、CSVファイル等のデータとして出力することのできる場合は、テレワークが可能である。
  • 顧客に関する機微な情報(銀行口座や与信評価、経営者に関する個人的な趣味・嗜好に関する情報等)については、事業場内のファイルサーバーに保管、若しくは記録された紙がファイルに綴じられた状態で事業場内に保管されている。これらについて、会社の情報管理規定により持ち出しを制限されている場合は、テレワーク不可である。また、営業会議などで上記の機微情報が口頭により共有され、それを所与として行動を起こすことが求められる業務の場合も、テレワークが不可となる。

② 業務改善を行えば、テレワークが可能な業務の洗い出し

現状の業務遂行方法ではテレワークが不可であるが、業務遂行方法の改善を実施することによりテレワークが可能となることもある。以下は、テレワーク化に向けた典型的な業務改善例である。

■ 承認プロセスの改善

  • 先述の書類の記入・確認・押印作業については、印鑑の押印作業があるが故に業務フロー全てがテレワークで完結できない。この場合、法的に押印が必要なもの[6]を除く全ては、会社の承認規定を変更し、電子的な承認フローへ移行することにより業務全体がテレワークで完結する。

■ 共有方法の改善

  • 事業場内において現在、紙の回覧により複数者間での業務連携を実現している場合は、紙をPDF等の電子データに変えた上で、電子メールに該当する電子データを添付することで業務連携を行う方法や、インターネット上に業務従事者が作成した電子データをアップロードする仕組み(Webアップローダー[7])を採用することにより、業務全体がテレワークで完結する。

■ 対面営業からリモート営業への変革

  • 訪問による対面営業活動は、十分な説明機会を営業側に与えることでお客様からの信頼感を醸成し、またお客様側に対面時間以外の手間をかけさせないことから有効な活動である。但し、電子メールやオンライン会議システム等を有効に活用することで、対面によるベネフィットの低下を最小限に抑えることも可能である。さらに、従来の対面営業において客先への移動に要する時間や、必要となる交通費などを商品・サービス提供価格の低減に繋げることさえすれば、お客様側に多少の手間が増えたとしても理解は得られるものと考える。

■ 情報システム利用可能範囲の変更

  • VPN 等により外部から社内ネットワークへ接続する環境を構築し、どこからでもアクセス可能な環境を構築する。現在、事業場内にあるメインサーバーにて情報システムを運用しているような企業では、当該情報システムをクラウド方式[8]に移行する必要があり、費用・手間双方の面で負担は小さくはない。但し、市販されているクラウド方式の業務アプリケーションを採用し移行することによって、初期投資を抑えた形での移行が可能である(但し、月額費用は増大する可能性がある)。

③ [生産性視点] テレワークに適した業務プロセスの再設計

上記①②の取り組みにより洗い出したテレワーク可能業務については、テレワーク移行後の新しい業務フローを作成し、それが生産性を毀損しない業務フローであることを検証する必要がある。以下例示の通り、事業場内での業務実施時は効率的であっても、テレワーク環境においては非効率なものとなる場合もある。

▼事業場内では効率的だがテレワーク環境下では非効率な作業と、業務プロセス再設計の例

(ア) Aさんが資料を作成後、Aさんに依頼されたBさんが紙を出力し、Aさんの押印、管理職であるCさんの押印を取り付けるオフィスでの業務は、それぞれが身近な場所にいるために円滑な業務として成立している。しかしながら、これをテレワーク環境に移行すると、多大なやり取りが発生し、非効率なものになってしまう。従って、テレワーク環境では、電子押印の方法へ切り替えた上で、Aさんが資料作成、(PDF等での)出力と管理職Cさんへの送付、押印の取り付け全てをAさん自身が行うことが望ましい。

図3 事業場での従来業務から、テレワーク環境における業務フローへの変革イメージ
(出所:弊社作成)

(イ) 製品の設計業務を行うAさんは、作成したCAD (computer-aided design)データを一旦印刷し、目視で詳細を確認した上でより良い設計図面となるよう、改定作業を行っている。しかしながら、これをテレワーク環境に移行すると、プリンターが自宅にない場合はネットワークプリントの出力が可能なサテライトオフィスやコンビニエンスストアへ足を運ばなくてはならず、非効率なものとなってしまう。従って、テレワーク環境では、自宅などのテレワーク場所に大きめのディスプレイ[9]を導入し、画面上で業務を完結させることが望ましい。

④ [働き方改革] 人事制度、労務管理方法、福利厚生制度の見直し

テレワークへの移行に伴い、社内諸制度についても働き方の改革に見合った見直しが求められる。以下は、テレワーク化に伴う見直しのポイントである。

表2 テレワーク化に伴う働き方改革(制度・方法見直し)のポイント

検討の観点 検討すべき具体的な内容
人事制度 事業場内では、上司が部下の業務への取り組み姿勢を目視で確認することができるため、評定上の評価項目が定性的なものに偏っていたとしてもある程度の客観性、公平性は確保されている。一方で、テレワーク環境下では上司は目視で部下の仕事ぶりを確認することができないため、評定上の評価項目が定性的なものに偏っていると評価自体が正確にできない。よって、定量的な評価項目のウエイトを高め、業務成果に基づいて評価を行う評定方法への変革が求められる。
勤務時間については、テレワーク環境における情報ネットワーク及び情報システムへの同時接続負荷を低減する取り組みが求められていることからも、フレックスタイム制[10]への移行が求められる。また、事業場内で導入されているフレックスタイム制では、通勤時間を考慮したコアタイム(出勤義務のある時間。多くは「10時~15時」などと設定)が設定されていることが多いが、テレワーク環境においては通勤時間を考慮する必要がなく、またオンライン会議などによる打ち合わせ時間は当事者間で設定することになるので、就業時間と同様の幅で「8時~17時」などとしても良い。
労務管理方法 事業場内における現在の勤怠管理について、パソコン内のログ情報(ログイン・ログアウト情報)を用いている場合で、テレワーク環境においても同様にログ情報を取得できる場合は、現状の勤怠管理方法を変更する必要はない。一方で、テレワーク環境ではログ情報が取得できない場合や、事業場内においては入退場時にタイムカードによる勤怠管理を採用している場合、社員の自己申告をベースとしつつ現場で監督する上司が申告を精査・承認しているような企業では別途管理方法を検討する必要がある。追加的な投資や費用を要しない勤怠管理の方法として、社員が業務を開始する時点、及び業務を終了する時点でその旨を上司に電子メールを用いて伝える方法はある。
テレワーク環境においては、特に社員の健康管理に留意する必要がある。上司・部下が長期にわたって対面の機会が確保できない場合は、上司は定期的(少なくとも週 1 回)にオンライン会議等による面談を設定の上、面談時には顔色や声色、態度を観察し、メンタル面、健康面で問題がないことを確認する必要がある。また、会社としては健康確認のアンケート[11]を取るなどして、社員のモニタリングに努める必要もある。
福利厚生制度 通勤にかかる費用を手当てとして支給する「通勤手当」の代わりに、テレワーク環境の整備にかかる社員の金銭的な負担を「テレワーク手当」として支給することが求められる。具体的には、パソコン、ディスプレイ、ウイルス対策ソフトや作業机・椅子の購入費用に充当される「一時金」と、毎月のネットワーク回線費用や増大する電気代等に充当される「月次手当」[12]に大別される。

⑤ [危機対応視点] コンティンジェンシープランの策定

新たな方法を用いて業務を実施する場合は、少なからず業務が停止する「危機」が発生しうる。予想される危機への対応として、「コンティンジェンシープラン」(危機管理マニュアル)を整備しておくことにより業務停止を回避できることから策定を推奨したい。以下に、発生しうる主な危機と、それに対する危機回避の方法を例示する。

■ 情報システムの停止

非製造業でテレワークを採用する業務においては、情報システムの中断は業務の中断に直結する。想定される危機、及び危機回避の方法としては以下が挙げられる。

  • (情報システム部門が取り組むべき事項)情報システム上のデータを保存する、クラウドサーバーの更新頻度を高める。万が一、業務に使用している情報システムが停止した場合、更新したデータが直近の保存時点までの内容に戻ってしまうが、バックアップの更新頻度を高めることにより、その影響を最小限に抑えることができる。
  • (各社員が取り組むべき事項)オフライン環境でも作業ができる場合は、作業は基本的にオフライン環境で行い、作業終了後に完成データを情報システム上に保存する方法を採用する。これにより、クラウド型の情報システムが停止しても影響を受けることがなく、業務に取り組むことが可能となる。また、情報システムにかかる負荷を軽減し、各人の(情報システムへの接続の遅さに起因する)ストレスを軽減することにも繋がる。

■ 情報の漏洩

事業場で業務を遂行しないことにより、様々な情報漏洩のリスクが想定される。想定される危機、及び危機回避の方法としては以下が挙げられる。

  • (自宅等から会社や取引先に連絡をした内容が、家族等を経由して外部に漏洩する危機への対処)テレワークを開始する際には、家族等に対して「今から仕事を始めます」などと宣言するとともに、パソコンの画面を見られたり、話の内容を聞かれたりしないよう、のぞき見防止フィルター等も利用して、情報の流出を未然に防ぐ。
  • (テレワーク場所に持ち帰った資料が、紛失する危機への対処)極力紙などの資料は持ち帰らず、パソコンに格納した画面にて確認するようにする。
  • (自宅のパソコンを業務で使用したために、サイバーテロに遭い情報が流出する危険への対処)自宅のパソコンにはウイルス対策ソフトを必ずインストールし、最新のセキュリティバッチがパソコン内で自動反映される仕組みとしておく。
  • (会社のデータが格納されたパソコンの紛失による、情報流出の危険への対処)テレワーク場所はなるべく自宅とし、やむを得ずシェアオフィス[13]などをテレワーク場所とする場合は、執務中のパソコンをワイヤー錠等で施錠し、一時離籍した際に盗難に遭わないように注意する。

■ 社員の健康問題

健康相談のためのホットラインを設置する。日頃より産業医が事業場に常駐している企業においては、産業医がホットライン先として役割を果たすことができ、産業医が常駐されていない企業においては、日頃より健康相談の外部委託を受けている健康関連サービス事業者[14]の契約等により設置することが可能となる。

4. おわりに

今次感染症の蔓延により急遽テレワークへの移行を余儀なくされ企業においては、試行錯誤を重ねながらその運用に苦労されているものと思料する。今後、持続的なテレワークのあり方を検討されるにあたり、本稿を参考にしていただければ幸甚である。

以上

[2020年424日発行]

参考情報

執筆コンサルタント

青島 健二
ビジネスリスク本部 主席研究員

脚注

[1] 総務省ウェブサイトによる。(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/, 2020.04.23.10:00 最終閲覧)
[2] 「安全確保の手段として設けられた、隔離の状態や立ち入りの制限」(a state of isolation or restricted access instituted as a security measure)
[3] 代表的なオンライン会議システムのアプリケーションとしては、Zoom ビデオコミュニケーションズ社が提供する「Zoom」、マイクロソフト社が提供する「Skype」等が挙げられる。
[4] 通信事業者の公衆回線を経由して構築された仮想的な組織内ネットワーク。また、そのようなネットワークを構築できる通信サービス。企業内ネットワークの拠点間接続などに使われ、あたかも自社ネットワーク内部の通信のように遠隔地の拠点との通信が行える。(出所:IT 用語辞典 http://e-words.jp/w/VPN.html
[5] ローカルエリアネットワーク。限られた範囲内にあるコンピュータや通信機器、情報機器などをケーブルや無線電波などで接続し、相互にデータ通信できるようにしたネットワークを指す。
[6] 会社法で定められた定款や取締役会議事録、重要な契約書や登記申請書類など
[7] 一般に使用可能な Web アップローダーの例としては、Google Drive、Dropbox、Microsoft OneDrive などが挙げられる。
[8] ソフトウェアやハードウェアの利用権などをネットワーク越しにサービスとして利用者に提供する方式。データセンターや、その中で運用されているサーバー群のことをクラウドという。
[9] 最近のテレビ、パソコンには HDMI(High-Definition Multimedia Interface)ポート等の接続端子があるので、パソコンとテレビ を HDMI ケーブル 1 本でつなぐことで、映像と音声の両方を送ることが可能。
[10] 社員が始業及び終業の時刻を決定することができる制度
[11] 既に実行している企業の多くは、地震災害時に立ち上げる安否確認の一斉発信・集計システムである「安否確認システム」の質問事項を健康管理用の質問事項(体温や体調等を確認する質問)に変更し活用し、週 1 回などの頻度で定期確認を行っている。
[12] テレワークを行うことによって生じる費用については、労使のどちらが負担するか、また、使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。特に、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第89条第5号)。
[13] 同じスペースを複数の利用者によって共有するオフィス。パーティションや簡易的な壁によって各オフィスは区切られている。
[14] 例えば、東京海上日動メディカルサービス株式会社では「電話医療健康相談」サービスを提供しており、医師や看護師・臨床心理士・薬剤師など医療のスペシャリストが年中無休で医療健康相談を受けている。

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