新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策

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  • 事業継続 / BCP
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リスクマネジメント最前線

2020/2/27

目次

  1. 新型コロナウイルス感染症の様相
  2. 感染予防策 ~社員を感染させないための方策~
  3. 拡大防止策 ~社内での感染を拡大させないための方策~
  4. 事業継続策(BCP)
  5. その他、留意事項

新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策- リスクマネジメント最前線(769.2KB)PDF

執筆コンサルタント

青島 健二
ビジネスリスク本部 主席研究員

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月31日に中国湖北省武漢市で病因不明の肺炎の集団発生として報告され、2020年2月25日までに33カ国に感染が拡大し、世界で約8万人が感染、約2,700人が死亡する事態となっている[1]。また日本では、同2月25日までに140人が感染、1人が死亡しており、政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」は2月25日、「感染の流行を早期に終息させるためには、徹底した対策を講じていくべき」との方針を発表した。これらの動向を踏まえ、企業としては行政が打ち出す指示・助言に従い感染予防・拡大防止策を徹底するとともに、必要な業務を継続させるBCPの検討と実行が待ったなしの状況である。本稿では各企業がそれらの対応を検討・実施するにあたり必要となる事項について解説する。

1. 新型コロナウイルス感染症の様相

(1)ウイルスの特徴

哺乳類や鳥類に病気を引き起こすウイルス(virus)は、拡大率の高い電子顕微鏡でないと見ることができない約0.02~0.3μm (ミクロン)の大きさと言われている[2]。 一方で、「サージカルマスク」と言われている一般的な不織布製のマスクの目の細かさは、3μm以上[3]であるため、ウイルスが飛沫(しぶき)に紛れ込んだ場合には感染予防として意味をなすものの、ウイルス単体で空気中を浮遊している場合には感染予防として意味をなさない。

ウイルスは、気温と湿度の条件が変わると、その活動が大きく変化する。湿度50%程度の条件下において、気温が8度程度の環境下では6時間が経過してもウイルスの40%程度が生存するが、気温が22度程度の環境下ではウイルスの生存率は3%程度に低下する。一方、気温22度程度の条件下において、湿度が20%程度の環境下では6時間が経過してもウイルスの65%程度が生存するが、湿度が50%程度の環境下ではウイルスの生存率は3%程度に低下する[4]。つまり、ウイルスは低温・低湿度の冬場において活動を活発化させ、高温・高湿度の夏場において活動を減衰させる。

感染力が高いウイルスは致死率が低く、毒性が強いウイルスは感染力(伝播力)が限定的となる。2012年にサウジアラビアで発生した中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の感染による患者は、2019年11月末までに27カ国で2,494人の感染者、858人が死亡している(致死率34.4%)。一方で、2009年に発生したブタ由来の新型インフルエンザH1N1は弱毒性のまま感染力が変化したために世界的な流行(パンデミック)をもたらし、2010年4月までに214の国と地域で少なくとも400万人が感染し、17,798人が死亡した(致死率0.44%)。

新型ウイルスは、ワクチンが存在せずヒトが抗体を持たないために容易に感染が拡大する傾向にある。またウイルスは、遺伝子変異を伴いながら伝播することがあり、その場合は発生当初に認識された感染力、毒性が変化するため注意が必要である。2003年に発生し2005年に拡大したトリ由来の新型インフルエンザH5N1はその典型例であり、インドネシアでは135人が感染、うち110人が死亡する事態となった(致死率81.5%)。遺伝子変異により毒性が強毒化したものとみられている。

(2)コロナウイルスの特徴

コロナウイルス(coronavirus)は多くのウイルスのうちの1つである。トリには上気道疾患、ウシやブタには下痢、ヒトでは、風邪を含む呼吸器感染症などを引き起こす。「コロナウイルス」という名前は、ウイルス粒子の特徴的な外観(王冠または太陽コロナを連想させる周縁)から由来する。コロナウイルスの種特異性(ある種は共通にもっているが、他の種には認められない特色)は高く、種の壁を越えて他の動物に感染することはほとんどない。

ヒトに日常的に感染する4種類のコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)は、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1である。風邪の10~15%(流行期35%)はこれら4種のコロナウイルスを原因とする。冬季に流行のピークが見られ、ほとんどの子供は6歳までに感染を経験する。多くの感染者は軽症だが、高熱を引き起こすこともある。

2002年に中国広東省で発生し、8,069人の感染者、775人の死亡者(致死率9.6%)を出した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は、コウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられている。ヒトからヒトへの伝播が市中において咳や飛沫を介して起こり、また、医療従事者への感染も頻繁に見られた。死亡した人の多くは高齢者や、心臓病、糖尿病等の基礎疾患をもともと患っていた人であった。子どもにはほとんど感染せず、感染した例では軽症の呼吸器症状を示すのみであった。

(3)新型コロナウイルス感染症の様相

2019年12月31日に中国湖北省武漢市で病因不明の肺炎の集団発生が報告されて以降、世界的な感染の広がりをみせている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、コウモリないしはヘビのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられている[5]。2020年2月25日時点の世界保健機構(WHO)の報告によると、感染国は33カ国、感染者は80,239人、2,666人の死亡が確認されている(致死率3.3%)。致死率は1月末日時点での致死率(2.0%)より上昇をみせているが、この理由としては感染拡大の防止が功を奏しているものの、抗ウイルス薬が存在しない[6]等の理由により感染者の重症化に歯止めがかかっていないこと、感染者を把握しきれていないため致死率の母数が実際よりも少なく報告されていること、ウイルスが変異してその様相が変化したこと等が考えられる。

新型コロナウイルス感染症の感染経路は、日常的に感染する4種類のコロナウイルスと同様に咳、飛沫、接触による感染、それに加えSARSやMERSと同様に便による経口感染(糞口感染)も確認されている[7]

潜伏期間は1日から12.5日とされている。発症早期で肺炎を合併することもあるが、ほとんどは発熱・鼻汁・喉の痛み・咳といった一般的な上気道炎の症状のため、それが新型コロナウイルス感染症であるか否かを即時に判別するのが困難である。そのため、診断はPCR検査[8]によってなされる[9]

2. 感染予防策 ~社員を感染させないための方策~

(1)企業としての感染予防策

社内で感染者が確認されていない状況下においては、感染者をオフィスにいれないための「水際対策」が極めて重要である。また、万が一感染者がオフィスに入ってしまったとしても他人に感染させない対策を講じることが求められる。以下に、企業としての感染予防策について列挙・解説する。

□館内への入場口、オフィス内への入り口

  • サーモグラフィを設置し、発熱者を入館させない仕組みを作る。新型コロナウイルス感染症においては全ての感染者に発熱症状がある訳ではないが、感染者の入館リスクを低減させる有効な手段となる(シンガポールでは既に、当然の対策としてほとんどのビルで実施されている)。
  • マスクの着用を義務付け、発熱症状のない感染者が入場したとしても館内で他人に感染をさせない仕組みを作る[10]。先述の通り、マスクにはウイルスからの感染を防御する効果は必ずしもないが、感染者が飛沫を飛ばすことで他人を感染させることを防ぐ効果は期待できる。
  • ウイルス消毒に効果のあるアルコール製剤の消毒薬ディスペンサーを設置し、自覚症状のない感染者が入場したとしても館内で接触感染によって他人へ感染させない仕組みを作る。なお、ポンプ使用時の接触感染を予防するため、自動吐出式や、足踏式の採用が望ましい。
  • ドアノブは、定期的に消毒する。先述の通り、気温22度、湿度50%の環境下では6時間はウイルスが生存するので、出来れば1時間に一度程度の頻度で消毒を実施する。

□オフィス内

  • 温度を22度以上、湿度を50%以上に保ち、ウイルスが長時間生存できないような環境を作る。
  • 従業員等には、執務中のマスク着用を義務付けるか、従業員の間隔を2m以上確保したオフィスレイアウトに変更する(くしゃみをした場合の飛沫は、2m程度の飛散距離があると言われている)。
  • 従業員以外の入場者を極力制限する。会議は対面ではなく、遠隔での会議とするよう社内に指示する。また、どうしても入場が必要な派遣労働者、清掃委託者等には自社員と同様の対策を講じるよう、派遣元、委託元に依頼する。
  • 在宅等で勤務できる社員には、在宅勤務を推奨する。
  • トイレのハンドドライヤーは、付着しているウイルスを乾燥させたうえで飛散させるので感染予防対策としては逆効果である。使用を中止することが望まれる(社員等には、ハンドタオル等の持参と使用を呼び掛ける)。

□通勤、出張、外出

  • 通勤は、時差通勤を許可し、ピークアワーに公共交通機関を使用しないよう社員に指示する(よって会社内での会議を行う場合も、ピークアワーを避けた設定とする)。
  • 全ての国外、国内出張について、不急の出張を禁止とする。現在、全ての国・地域、国内の都道府県で感染者が出ているわけではないが、いずれどの地域にも感染が広がることを前提とすべきである。
  • 近傍の外出についても不要不急の外出を禁止とする。「ルートセールス」等も一時的に中止する。

(2)社員に徹底してもらうべき予防策[11]

「水際対策」においては、社員が感染しているか否かを自らが確認し、感染疑いがある場合は会社に出社しないこと、また感染していない社員については、今後も感染しないよう一人一人が注意して生活することが重要である。以下に、社員に徹底してもらうべき感染予防策について列挙・解説する。

  • 毎朝の健康確認と検温の実施を義務付ける。その結果、37.5度以上の発熱症状が認められる場合は、会社を休み外出を控える。また、鼻汁・喉の痛み・咳の症状が認められる場合は、出社前に会社(人事部門または上司)に連絡の上、その原因が不明である場合はまず病院(かかりつけ医)に行く[12]
  • 以下の場合は、帰国者・接触者相談センター[13]に相談する。
    • 風邪の症状や5度以上の発熱が4日以上続く場合、またはだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
    • 高齢者や、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等)の基礎疾患がある人、透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている人で、風邪の症状や5度以上の発熱が2日程度続く場合
    • 妊娠中、または妊娠の可能性がある人で、風邪の症状や5度以上の発熱が続く場合
  • 通勤時は、時差出勤を実施する。また、公共交通機関を利用する際はマスクを着用し、ウイルスが付着している可能性のある手すりやつり革には極力触れない。
  • 出社時、帰宅時等は必ず消毒液、石けんによる手洗いを実施し、それまでに付着した可能性のあるウイルスを除去する。
  • 睡眠を十分にとって体力を維持する。万が一、ウイルスが体内に侵入した場合、血液中の白血球(リンパ球)が体内におけるウイルスを駆除する役割(免疫反応)を担うが、体力が衰えている状況下においては、免疫力が衰えウイルスを駆除できなくなる[14]
  • 同居している家族等にも上記と同様の対策を働きかける(例:子供が学校に通学している場合で、37.5度以上の発熱症状が認められる場合は、学校を休み外出を控える)。

3. 拡大防止策 ~社内での感染を拡大させないための方策~

万が一、社員等のオフィス勤務者の中から感染者が発生した場合は、社内での感染を拡大させないよう以下の対応を取る。[15]

  • 感染者本人には医師の許可が出るまでの間、自宅待機を命じる。
  • 感染者本人の机など、接触していたと思われる場所の消毒を行い、生存している可能性のあるウイルスを除去する。
  • 先述の通り、新型コロナウイルス感染症の潜伏期間は最大で14日間程度と言われている。従って、直近14日間の行動について感染者本人から聞き取り、以下の者を「濃厚接触者」として即時在宅勤務とする。
    • 直近14日間に、新型コロナウイルス感染症が疑われる者と同居あるいは長時間の接触があった者(オフィスにおける座席の両隣・前後や車内、航空機内等で隣にいた者など)
    • 直近14日間に、マスク等の着用なしに感染者本人と2m以内の距離で対面した者
    • 直近14日間に、感染者の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者(清掃従事者など)
  • 社内で感染者が発生した事実について、社内に周知する。プライバシーの観点で開示が躊躇される場合でも、他の社員を過度の不安に陥れないため感染者の勤務地・職場、感染が発覚した日については最低限明らかにする。
  • オフィスに出入りしている派遣勤務者の所属会社や業務委託会社に対し、自社内で感染者が発生した事実を連絡する。

4. 事業継続策(BCP)

(1)「地震BCP」と「新型感染症BCP」の違い

多くの日本企業で構築が進んでいる、地震を想定したBCP(地震BCP)と、今回の新型コロナウイルスのような感染症を想定したBCP(新型感染症BCP)とはいくつかの点で考え方が異なる。地震では、地震発生地域周辺に限定してその影響が起きるため、代替地での事業継続が可能な場合があるが、感染症は全世界に影響が広がることから、どこを代替地とするのかを決めることが困難である。また、地震の発生期間は数秒~数分程度であり、発生後は代替または復旧に向けた取り組みに移行がなされるが、感染症においては発生期間が数カ月程度の長期間に及ぶため、長期的な業務継続体制を検討する必要がある。

また、感染症はヒトとヒトとの接触を回避することでそのリスクを低減できることから、地震BCPのように「出社して頑張る」のではなく「できるだけ出社をせず業務を続ける」事がポイントである。

表1 「地震 BCP」と「新型感染症 BCP」の違い

表1 「地震 BCP」と「新型感染症 BCP」の違い

(弊社作成)

(2)「新型感染症 BCP」の概要

□新型感染症 BCP のイメージ

各企業、各部門・事業や各業務においてはそれぞれ、「最低限の活動を行う上で必要な要員体制」「通常と同様の活動を行う上で必要な要員体制」があるはずである。これをまず決め、BCPの発動・解除条件[16]とする。以下に、「新型感染症BCPの進行イメージ」および「製造業における、欠勤率に応じた事業活動の継続方針例」を記載する。

図1 新型感染症BCPの進行イメージ

図1 新型感染症BCPの進行イメージ
(弊社作成)

表2 製造業における、欠勤率に応じた事業活動の継続方針例
欠勤率 方針 影響
10%未満 通常通り事業活動を実施 特になし

10%以上

20%未満
各部・ライン単位で事業を縮小・停止 事業所として部・ライン単位で操業の可否が異なるため、一部の製品が出荷出来なくなる等の影響が発生
20%以上 部門・事業所単位でのBCP移行 非重要業務の停止や勤務体制の変更(交代制の中止等)を実施するため、出荷を停止する製品群が発生するが、重要製品は出荷を継続できる。

(弊社作成)

□事業継続管理の体制

欠勤率をトリガー(発動要件)として事業継続方法を決定する方法を採用する場合、最も重要なことは、「欠勤率のモニタリング」と「事業継続方法の周知手段」である。欠勤率のモニタリングについて、単一事業所の企業においては比較的把握は容易であるが、拠点が複数ある場合や、他社に常駐している社員が多い場合は容易ではない。また会社に来ていない社員は、「シフト休(交替制の勤務体制における通常の休日)」であるのか「有給休暇」であるのか「欠勤」であるのかを、会社全体として把握することも容易ではない。

2009年に発生した新型インフルエンザの感染拡大段階において、一部の企業では地震発生時に使用する安否確認システムをカスタマイズして、以下のような質問項目を設定し全ての社員に出勤前の報告を求めた。安否確認システムは、社員からの報告を効率的に集約する機能の他に、社員の私有スマホや携帯電話への一斉連絡を行う機能も有していることから、事業継続方法が変更された場合の周知手段としても有効である。

表3 「安否確認システム」質問項目の例

表3 「安否確認システム」質問項目の例

□事業継続の方法

政府はテレワーク(在宅勤務)を推奨しているが、多くの企業ではテレワークの実施に必要となるIT環境が整備されていない、またはテレワークの実施に必要なIT環境の整備はなされているが、その環境を使用できる社員が限定的であるのが現状である。また、先に説明した製造業などでは、業務の遂行に必要な設備が現場から動かせないため、オンサイト(現地)で業務を実施せざるを得ない。また、電力、交通、物流、金融、医療など、社会・経済機能の維持に必要不可欠な業種についても、製造業と同様にオンサイトでの業務遂行が不可欠である。そのため、各業種・企業においては自らの業務特性や社会的な位置づけを考慮の上、最適な事業継続方法を選択することが求められる。以下は、新型感染症蔓延時において採用を検討すべき事業継続方法である。

A. 体制の変更を伴う事業継続方法
 名称

概要・採用するケース

 a.スプリットチーム制(部内で感染者が発生した場合に部全体の業務が停止しないように、各部を原則2チームに編成する予防的な交代勤務) 新型感染症の発生場所、感染状況、感染力、他社動向などを勘案して業務継続しつつも予防対策を検討する場合。部内周辺に感染者がまだ発生していない、もしくは発生していたとしても、感染力や感染者との接触度合い等から周囲の従業員を休ませる必要が無いと判断される場合で予防的対応を検討する場合。
 b.他拠点支援体制 全社的または広域な事業閉鎖をするまでの事態ではないが、特定部店において周辺の感染状況、所属員(家族を含む)の感染状況、特定エリアの社会情勢を勘案して一部拠点のみ閉鎖を検討する場合。また、上記スプリットチームの双方でキーパーソンや決裁権者が出社不能となり、チームの維持が不可能となった場合。
 c.他拠点勤務(サテライトオフィス、コーポレートを想定) 同一オフィス内で勤務する他部で感染者が発生し濃厚接触者として自宅待機を余儀なくされる事態を回避するため、全部員が別の場所(オフィス)で業務を遂行する体制。
 d.他部署からの応援受入れ 自部門の必須業務の継続が困難、もしくは能力低下が顕著もしくは危惧される場合で、他部門に当該業務の遂行が可能な人員を受け入れる体制。
 e.関連会社支援 関連会社の業務継続のための応援体制。
 f.在宅での処理(在宅勤務/テレワーク) 事業所閉鎖や感染予防のために外出すべきでないと判断され、最低限の対応は必要と判断される場合。在宅勤務でも品質が維持されるような業務であり、部内周辺に感染者がまだ発生しておらず、予防的対応を検討する場合。
g.半籠城勤務(原則として右の状況にあり、かつ他の対策の採用が出来ない場合の措置。継続的な処理が必要な業務を想定) 事業継続上の影響が大きく、かつ代替要員が他に見当たらず当該業務に従事する要員の感染が許されないと判断される場合。通勤が困難、または感染状況から通勤時の感染リスクを回避する必要があると判断される場合。
B. 業務処理方法の変更を伴う事業継続方法
名称 概要
a.期中繰上げ処理 パンデミック等を懸念し、前倒しで処理するために締め日のコントロール等を行う処理。また、特定の時期(季節、月、曜日等)に負荷が集中する業務において、締め日のコントロールまたは支払日の分散により業務量の平準化を図る処理。
b.プロセスの一部省略/変更

業務フローの一部省略(免除)や変更を行うことで業務量の削減を図る処理。また、他部の業務縮小/停止に伴う自部の業務停止を、業務フローの一部省略(免除)や変更を行うことで回避できる場合の処理。

(例)課長と部長の2つの決裁が必要な業務を、課長決裁のみに変更 等
c.取扱い業務の絞込み

業務フローの一部省略(免除)や変更を行うことで業務量の削減を図る処理。また、他部の業務縮小/停止に伴う自部の業務停止を、業務フローの一部省略(免除)や変更を行うことで回避できる場合の処理。

(例)社内預金受付業務の停止 等
d.委託業務における代替業者確保 委託業者における感染状況等により委託業務の遂行が期待できない場合の処理(代替業者がいることが前提)。
e.見込払いの実施 滞納が許されない支払い業務に於いて、当該業務要員の減少等により支払処理が滞る危険があると判断される場合の処理(過去のデータに基づく将来の支払額がある程度予測できる場合が望ましい)。
f.代替手段による実行 本来の処理方法では実行が困難となった業務について処理手段を変更することで業務を継続する処理。
(例)小切手や手形などの発行機を設置しているオフィスが閉鎖される場合の現金払いへの変更 等

5. その他、留意事項

以上の通り、新型コロナ感染症対策については平時とは異なる労務的な措置を講じざるを得ない場合があるが、その際には労務管理や給与支払い、休暇の扱いについて注意する必要がある。また、社内で感染者が発生した場合の情報開示の在り方についても注意が必要であり、それらについて以下に整理・解説する。

(1)法的側面[17]

□在宅勤務時

  • 在宅勤務時にも、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用される。
  • 労働者がテレワークを行うことを予定している場合、テレワークを行うことが可能である就業の場所を明示することが望ましい。また、テレワークの実施とあわせて、始業および終業の時刻の変更等を可能とする場合は、就業規則に記載するとともに、その旨を明示しなければならない。
  • 労働時間を記録する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によること等を採用することが望ましい。

□感染による休業時

  • 新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられ、休業手当を支払う必要はない。

□BCPの発動により休ませる場合

  • 賃金の支払いの必要性の有無などについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきであるが、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由[18]による休業の場合には、使用者は休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとしている。

(2)情報管理側面

□社員が感染した場合の情報公開

  • 感染した社員における14日間の行動履歴を調査した結果、数多くの他社に出入りしていた、または大規模なイベントに参加していたことが明らかになれば、濃厚接触者となる方への注意喚起という意味で、感染の事実を社外にも公開すべきである。その方法は、自社のホームページでの発表が適当である。

□自社のオフィスに出入りしていた人が感染した場合の情報公開

  • 自社のオフィスに出入りしていた人が感染した場合は、派遣元会社や委託元会社とも相談の上、濃厚接触者となる方への注意喚起という意味で、感染の事実を社外にも公開すべきであると考える。またその方法も、自社のホームページでの発表が適当である。
  • また、自社のオフィスに出入りしていた人が感染したという事実は、自社の社員にも公開すべきである。

[2020年2月27日発行]

参考情報

執筆コンサルタント

青島 健二
ビジネスリスク本部 主席研究員

脚注

[1] WHO Coronavirus disease 2019 (COVID-19)Situation Report –35
[2] 日本食品分析センター「ウイルスについて」https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_vol3_no19.pdf
[3] サンドラッググループ「マスクの付け方・選び方」https://cs.sundrug.co.jp/cs/column/health201601-01-2/
[4] G. J. Harper 「Airborne micro-organisms: survival tests with four viruses」
[5] 中国科学院(Chinese Academy of Sciences)が出資する学術誌『中国科学:生命科学(Science China Life Sciences)』に発表された研究では、武漢(Wuhan)で見つかった新型ウイルスを既知のウイルスと比較した結果、新型ウイルスはコウモリの保有するコロナウイルスの近縁種だと分かったという。コウモリが新型の「自然宿主」だったと考えるのが「合理的で妥当」だと、中国の研究チームは述べている。一方、ウイルス学の専門誌『ジャーナル・オブ・メディカル・バイロロジー(Journal of Medical Virology)』に発表された研究論文は、ヘビが感染源となった可能性を指摘した。
[6] WHOの事務局長は2月20日、2種類の抗エイズウイルス(HIV)薬を組み合わせたものと、別の抗ウイルス薬を使った2つの治療方法を、WHOとして試験中だと述べた。
[7] ニューズウイーク https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/post-92466.php
[8] Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)検査。病原体のDNAを増幅させることによって、顕微鏡では見ることのできない病原体の有無を調べる検査。
[9] 日本感染症学会 https://www.kansensho.or.jp/ref/d77.html
[10] マスクが無い場合は、ティッシュ、ハンカチ、袖を使って、咳やくしゃみをする際には口や鼻をおさえる。
[11] 参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」
[12] 5月上旬まではアレルギー性鼻炎(花粉症)の症状である可能性も高いため、毎年花粉症を発症する者は必ずしも通院する必要は無い。
[13] 各地の「新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター」については、以下を参照されたい。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html
[14] 細菌とウイルスは違うって知っていますか? https://www.asahi.com/articles/ASJD1541DJD1UBQU005.html
[15] 参考:国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(暫定版)
[16] なお、地域の保健所より事業の中止について命令を受ける可能性もあり、これもBCPの発動条件になる。
[17] 参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
[18] 不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はない。但し、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがある。

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